男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第13話 道具(兵器)の本懐

『制御権奪取完了。……物質を吸収するだけで、逆に乗っ取られる可能性は考えてなかったみたい。詰めが甘い』

 

 俺の耳元の小さな金属スライムが、そう報告してくる。

 アルマは、どれだけ小さく分離しても意識と感覚は共有している。

 

 なので俺の耳元で報告係として一部残し、移動の役割を持たせた脚のローラー以外は全て腕に纏わせて、相手の攻撃に合わせて固定化を解除。液状になったアルマが<マジンギア>の装甲を潜り抜け、奴の腕の制御権を剥奪したのだ。

 

「このスキル、金属特化だから性能やばいな。……ステータス補正下がったのは誤算だけど」

 

『謝罪』

 

「アルマのせいじゃないだろ。リソースが足りないんだ、仕方ねえ」

 

 今も【クロマドーラ】は、自分の腕から徐々に徐々に這い上がり、自分の制御権を奪おうとしているアルマをどうにかしようとしているが……不可能だ。

 なにせアルマは液状。どんな場所にも潜り込めるし、今は【クロマドーラ】の腕の中だ。外部からはどうにもできないぞ鉄屑野郎。

 

 

 先ほどのあの機能で進化したことで得た新たなスキル——《クラッキング・オブ・メタル》は、相手が金属であるならば問答無用で侵食し、乗っ取るという性質を持つ。

 その代わり色々制約は多いし、ステータス補正が下がったが……それを差し引いても、この状況に完全メタした能力だった。

 

『多分、全部神話級金属(ヒヒイロカネ)。耐久性を高める意味だとすごいと思う……けど、今この状況だと仇になった』

 

 奴は細部に至るまでが、そのヒヒイロカネで造形されている。

 本来ならその大層な名前に違わずクソッタレな耐久と嫌がらせ染みた能力を持つ、古代伝説級<UBM>に相応しい難敵と言えるだろう。

 

 だがな、今のアルマにとっては、そんなものカモネギに等しいんだよ! 

 

 こっからの逆転なんざ起こしはしない、そんなもん俺が許すか! 

 

「アルマ。報告用以外の全質量を、全部あいつにぶち込め」

 

『ん』

 

 ローラーから、腕から、胴体から……<マジンギア>の残骸を覆っていた全てのアルマが、のたうちまわる奴の一部から機内に侵入していく。

 どうやらそこまで優秀なAIじゃなかったみたいだな。本当に頭が良かったら腕を千切ってでもアルマを引き剥がすべきだった。まあその瞬間アルマが腕から胴体に伸縮して移動するけどなあ! 

 

「おまえはもう、八方塞がりなんだよ。隠し球なんていらないから——とっとと、死ね」

 

 機体から降り、次第に動きが鈍くなっていく【クロマドーラ】を見る。

 その時、アルマが何か呟いたような気がしたが……気のせいだと結論付けて、俺は【クロマドーラ】を、油断せずに睨みつけた。

 

 

 /

 

 

『マスター、やっぱり優秀』

 

【クロマドーラ】の内部で絶えずクラッキングを仕掛けながら、アルマはそう独りごちた。

 普通ここまでやったら油断することもあるだろうに、彼女のマスターは決して油断せず、攻撃の手を緩めない。それでいて時に大胆な采配を取ることもあり、まさに【装甲】を纏うに相応しい性格と言えるだろう。

 

 そのような主人に恵まれて、アルマも少し得意気になっていた。

 

 とはいえ、そんなヤヨイから生まれたのだから、アルマも得意気になりつつも冷静に、反撃の余地の残さぬように全身にクラッキングを仕掛ける。

 たまに失敗判定が出るものの、概ね成功し着々と支配権の乗っ取りを行なっていた。

 

『両腕は掌握。脚もあと少し。頭部はAIの抵抗が激しいから後回し』

 

 そうやって全身の支配権を剥奪した頃。

 胸部にあった金属で創られた光るコアを侵食した瞬間、アルマの脳裏にとあるイメージが浮かんだ。

 

『……これは』

 

 文字列とともに、画像が流れる。

 

 それは、ナニカが数多の武器を雨のように降り注がせる光景で、一本一本が自分では遠く及ばないほどのリソースを秘めている——端的に言えば、未知の怪物の蹂躙風景(ジェノサイド)だった。

 

 

 ——“化……反抗……………討滅

 

 

 大部分が文字化けしているものの、どうやらこの機械——【クロマドーラ】は、ソレを討伐するために造られたようだった。だが製造完了時にエラーを発生し、誰の制御も受け付けなくなって……そこで記録は途絶えている。

 

 しかし、この機械は全く損傷していない。アレと戦ったのならば、全身がボロボロでもおかしくはないのに。

 

 そう考えて、アルマは【クロマドーラ】が無事な理由に思い至った。

 

『……これは、本懐を果たせなかった。果たすことが、できなかった』

 

【クロマドーラ】は、あの怪物を討伐するために造られた、いわばそのためだけに生きる存在。

 なれどその怪物の討伐を果たす前に一瞬でどうにかされ……そして、永い時を経て今この世に蘇った。

 

 ソレは道具(兵器)にとっては、ひどく残酷なことだ。

 本懐を果たせない——それは、存在理由の意味がないのと、同じなのだから。

 

『……私の本懐は、マスターの道具であること』

 

 言うまでもなく、アルマはヤヨイのために生まれた道具である。

 今もなおそれを行うことができる……そしてそれは、とても幸福なことなのだろうと、アルマは気付いた。

 

 この上ない最上の主人に仕え、その道具として存在することが許されている【装甲乙女 アルマトゥーラ】。

 仕えるべき主人を殺し、挙句本懐を果たす機会を得ることなく地に埋まった【骸収機兵 クロマドーラ】。

 

 きっとその立場は、表裏一体なのだ。

 

 

『……』

 

 ならば私は、この哀しい機械に何か言えることはないのだろうかと、普段なら考えないことを真剣に考えた。

 

 同じ道具として存在する自分が、何か、言えることは——ああ。

 

 あった。

 

 

『もう、眠っていい。誇り高き先駆者よ。

 たとえ壊れて、自らの製造理由と根底理由が矛盾していたとしても。

 同じ道具(兵器)として、私は貴方を誇りに思う』

 

 

 そう言って、アルマは。

 未だ輝くコアに、自らの身体を伸ばして……ぐしゃり、と握り潰した。

 

 

【<UBM>【骸収機兵 クロマドーラ】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ヤヨイ・ベルダーウッド】がMVPに選出されました】

【【ヤヨイ・ベルダーウッド】にMVP特典【骸収機人 クロマドーラ】を贈与します】




容易くアルマが乗っ取れたのは、賢者たちのセキュリティ意識が足りなかったからです。
内側に侵食されるという可能性を想定していなかった。最初に言っている通り、詰めが甘い。
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