男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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再開。
でもちょっと間が開くかもしれません。勉強で時間が取れなくて……。


第7章 妖精郷で休息を
第1話 かっぽーん、と気が抜ける


「くはぁぁ……」

 

 気が抜けて、そんな声が漏れる。それを恥ずかしいと思う気持ちも、温かな湯気に解けていく。

 湯気で遮られて朧げで、しかし柔らかくも優しい光が、木製の浴槽とそれに漬かる俺の身体を、優しく包み込んでいる。

 

「これも<エンブリオ>か……オンリーワンにもほどがあるっての……さいっこー」

 

 リアルではいつもホテルで、旅館にはあまり行ったことがないから新鮮だ。温泉事業は真木の管轄外だけど、少し手を出してみるのもいいかもしれない。

 そんな馬鹿なことを思ってしまうくらい、温泉の魔力にやられていた。

 

「いやでも………別荘みたいな感じなら……あー」

 

 今はあまり、難しいことを考えたくはない。メモとして脳裏に貼り付けつつ、首までを湯に沈めた。

 

「マスター、すごい気持ち良さそう」

 

 脱衣所の方から、そんな声がかけられる。

 嬉しげで、ついでに羞恥をほんのり含ませた、愛らしい声だ。

 

「まぁ、な。そら、恥ずかしがってないでアルマも来いって。結構広いから二人で入っても大丈夫だぞ」

 

「……でも……」

 

「タオル巻いてるから見えないって。別に変なことするわけでもなし——まあ、してほしいなら別だけど?」

 

 そう言うと、どんがらがしゃんと何かを落としたような音がする。

 それにくすりと笑みが溢れる。湯に沈めた身体が心地良くて、ほぅと息を吐いた。

 

 拝啓、現実世界の父へ。

 

 不遜な放蕩息子(わたし)は今、電脳世界(デンドロ)で温泉旅館に来ています。

 

 事の経緯は、以下のように——

 

 

 /

 

 

 レジェンダリア。

 妖精郷と呼ばれる、デンドロにおけるプレイヤーが属する七大国家の一つ。

 

 多種多様な亜人種と、その頂点に君臨する【妖精女王】と宰相が統治するというかの地は、ある種俺にとっての憧れだった。

 

 現実では絶対に味わえない、天然イオン溢れる自然豊かな大地。

 都会の喧騒に揉まれ続けた俺にとって、それは焦がれるに値するものだった。

 

 もしチュートリアルの時に、皇国で<マジンギア>を見ていなかったらここを選んでいただろうと、そう思えるくらいには。

 

「うーん、久しぶりだねレジェンダリア。【禁忌王】継承の時以来かなァ」

 

 アムニールまで直行した船から降りて、メルクが着ぐるみ姿で大きく伸びる。それに釣られて俺もぐぐと腕を伸ばした。

 

「西方三国って括りだから、それなりには行きやすいものね。今は別だけど、サービス開始初期は簡単に歩いていけたそうよ」

 

 優雅に地面に降りたラトラナジュがそう補足する。ラトラナジュ自身はずっとカルディナで研鑽を積んでいたらしいから他の国の情報には詳しくないが、一応情報収集はしているようで。

 

 メルクは一応全国家に行ったことがあるらしく、その際にいろいろな<マスター>、それも<超級>と知己を得たのだそうだ。

 

「なるほど、ねっ。……にしてもすごいな、ユグドラシルじゃんか」

 

 カグラの言う通り、文字通り天まで聳え立つ巨木——この国の象徴であり、守護神であり、<UBM>でもある霊樹アムニールの威容は凄まじい。

 でもまあ、確かに。これだけの化け物がいるならば、大概の相手はどうとでもなるか。

 

「空気も美味いし……いいねレジェンダリア、最高だ」

 

「ん!」

 

 紋章から出てきたアルマもご機嫌のようで。

 

「ヤヨイ君も大概変人だからここにも適応できるんじゃないかなー?」

 

「俺別に変態ってわけじゃ」

 

 

「おお、また新しきメイデンが……」

 

「今度は銀髪銀目のロリ美少女か……」

 

「素晴らしい……だが触ることは許されぬ……」

 

「「「我々にできるのは……こうして遠くから、美しい花を愛でるように……ただ眺め続けることのみよ……」」」

 

 

 ……あの、あそこにいるペストマスクをかぶったタイツの集団はなんなんでしょう。

 

「あれは……レジェンダリアのクランランキング一位、<YLNT(いえすろりしょたのーたっち)倶楽部>だね。相変わらず変態のようで何よりだ」

 

「センスありすぎて気持ち悪いな」

 

 それをクラン名にするセンス。そしてそんなのがランキング一位ということは、相当数の変態が在籍しているわけで……。

 

 

「美男美女の集団……はすはす」

 

「着ぐるみもアリか?」

 

「うむ……まあいいんじゃないかな」

 

「金髪巨乳美女だと……踏んでくれっ」

 

「黙れ特定個人に目に見えるところで趣向を向けるなっ」

 

「そういうのは後で聴いてやるから今は黙っとけ」

 

 

 なんかこう……ね。

 

「レジェンダリアってアングラに好かれるよね」

 

「ぼかさなくていいよ、正直に吐露しなよ……この国は変態ばっかかってさ」

 

 いやでも、それも多様性を受け入れる素晴らしい国だと思えば……。

 実際多種多様な人種と多種多様な性癖が両立しているのは素晴らしいことだと思う。それはその国が自由であると言っているに等しいのだから。

 

 ただちょっとは隠せって、そう思ってしまうのもおかしくないと思う。

 

「でも、あそこの変態もわりとマシなんだよね。本当にヤバいやつは……」

 

 

『む、そこにいる着ぐるみは……おお、お久しぶりですなメルク殿』

 

 

 なんかガスマスクかぶったさっきのペストマスク集団の親玉みたいのが来たぁー!? 

 

「ほぅら来たよヤヨイくーん!!?」

 

『なにをそんな幽霊に遭遇したみたいな声を』

 

「幽霊よりもっと性質悪いでしょーが! 半径5メテル以内に近付かないで!!」

 

『逆に言えば半径5メテル1センチならセーフというわけですな!』

 

 逆にも何もなんで目算で1センチの差が把握できんだよ! 俺もできるけどさあ!! 

 

「こわい」

 

『ほほう、そちらのメイデンのお嬢様は守備範囲内で実年齢も一年以内故ですな? 素晴らしいですぞ!!』

 

「アルマ戻れ!!」

 

「ん!」

 

 穢れる! 物理的な距離があっても何か精神的なものが穢される気配がする! 

 アルマはこう、もっと清らかなものなんだ! 俺がやるのはいいけど変態に穢されるのは嫌! 

 

『そちらのお兄さんもちょっと同族の気配がしますな。なにやら屈折して複雑な性癖を抱えている気配がしますぞ』

 

「少なくとも俺はそんな変態的なファッションは嫌だね!!」

 

『それは残念ですな。こいつは特別製で、隠蔽を全てカットできる上にロリショタ周辺の空気で穢れた大気から呼吸器を守れるというのに』

 

『ひっ』

 

 別に個人の趣向の口を出す気はないけどさあ! ちょっとは隠してくれませんかねぇっ!! 

 

「っていうか誰なのこの人、明らかに普通の<マスター>じゃないよね?」

 

『そちらの人は女装趣味ですかな? 中々に良いご趣味のようで』

 

「ん、ありがと。そっちも結構個性的なファッションだけど似合ってると思うよ?」

 

 カグラはカグラで変態なので向こうの趣味にも理解がある……それはそれとして怖いんだよこっちは。特にアルマっていう獲物がいるから……。

 

『おっと、そういえば名乗るのを忘れておりましたな。俺はLS・エルゴ・スム、あっちで先ほどまでお兄さんのメイデンを見つめていたペストマスクの集団のクランリーダーを務めておりますぞ』

 

「……クランランキング一位の、クランリーダー」

 

 困ったな……クランランキング一位はどこもおかしいのか……? 

 

「まあ、つまり。そういうわけだよ。こいつは<超級>……レジェンダリアを代表する<マスター>の一人さ」

 

『同じ<超級>に言われると何か妙な感覚ですなー』

 

 ……そういえばこれで俺が会う<超級>は三人目か。フランクリンさんも含めて。

 なんかちょっと微妙な気分。

 

 そんなことを思いつつ、俺たちはレジェンダリアで、LSさん(<超級>)と出会った。

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