男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第3話 恐れを知らぬ道化商

 □【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

 というわけで俺は退散しますぞー、と子供の姿になって駆けて行ったLSさんを複雑な目で見ながら、俺たちは顔を見合わせた。

 

「どうしよう、すげえマトモだぞあの人」

 

「本人の変態性は別として、きちんとした倫理観と観察眼を備えた大人なんだよね……」

 

「今から私たちがやろうとしているのって、かなりまずいことじゃない?」

 

「かなりまずいっていうか、紛れもなくアウトっていうか……」

 

 アルマで防音しつつの会話に、全員の顔が顰められた。

 

 

 ここで、このレジェンダリアという国についておさらいしよう。

 “大魔境”とも呼ばれるレジェンダリアは、さまざまな種族が一つの国として群れを成している。それ自体はいいのだが、肝心なのはその種族にとっての“不文律”が相応の数存在することだ。

 

 事実、サービス開始初期には各地にある禁足地にそうとは知らずに足を踏み入れ、ティアンの手でデスペナルティにまで追い込まれる──あるいは<エンブリオ>の発芽によって撃退し、指名手配された末に“監獄”に叩き込まれる、と言った実害が存在していたらしい。

 

 議会という統治機構によってある程度管理されているものの、土壌そのものがあまり迎合気質ではない、とも言える。

 

 しかし、そんな彼らにとって何よりも優先されることがある。

 それこそが【アムニール】……このレジェンダリアを守護し、“大魔境”と呼ばれる原因でもある世界最大級のモンスターと、それを御する【妖精女王】である。

 

 言うまでもなく、このレジェンダリアでは象徴として有名だ。

 同時にこのレジェンダリアにおける守護神である【アムニール】から産出する素材は、極めて厳重な管理の下、禁制品として指定されている。

 おそらく、個人としてそれを所有しているのは【妖精女王】か、……彼女の信頼を得た<超級>だけだろう。

 先程のLSさんが良い例だ。

 

 

 ──さて、ここでグランヴィルの船を覚えているだろうか。

 彼の船は空戦ができるようにさまざまな改造が施されているが、その素体は『【アムニール】の枝を使った船』。

 

 そして彼はどこの国にも所属せず、空賊として活動している、いわば悪党(ヴィラン)だ。

 そんな彼がレジェンダリアの信頼を得られるか? 

 答えは言わずもがなであり──それは同時に、グランヴィルが【アムニール】の枝という最上級の素材を手に入れる『手段』が、別に存在することを示している。

 

 もちろんそれは合法ではないだろう。

 違法か、あるいは違法に限りなく近いグレーゾーンの所業だ。

 

 だから次善。

 最善は合法的に手に入れること──先程のLSさんに持ちかけた交渉がそれであり、あえなく失敗してしまった最善策。

 

 俺は確かにメイデンの<マスター>だが、さりとて人命を損なうほどの悪事ではない以上、リアルでもやってきたように躊躇いはない。

 

 ない、のだが。

 

「あんだけ色々アドバイスしてもらって、そんで別れた途端に速攻で法を破るってのはちょっとな……」

 

「ん……」

 

 心なしかアルマも悩んでいるようだ。

 アルマは彼の言葉で、何か抱え込んでいたものを割り切れたらしい。未だ形作ることはできていないが……ヒントを与えられた恩がある、というのも間違いないし。

 

「ま、まあ、とりあえず行ってみるだけ行ってみようよ。……僕はちょっと行けないけど」

 

「アクセサリーの判定が明確にわからない以上、それが妥当よね」

 

 残念そうにするメルクには悪いが、全員が同意見だった。

 

 ペナルティで発生する『アクセサリーを付けたホムンクルスごと巻き込んだ幼児化』。

 そしてホムンクルスには幼児期が存在しないという彼の言葉を鑑みるに……おそらく、“フラスコの中で生きるべき状態”にまで幼児化して放り出される、ということだろう。

 それがどういった結果を招くかは……想像に難くない。

 

「LSは僕のホムンクルスがどれだけいても、ネバーランドの固有スキル一つで無力化できるからね……正直なところ、あまり戦いたくない手合いだよ」

 

「……というかさ、LSさん以外の<超級>から枝を譲ってもらう……ってのはできないの?」

 

 カグラの提案に、しかしメルクが首を振る。

 

「無理だよ。レジェンダリアには三人の<超級>が所属してるんだけど、その中で結果的に一番まともなのがLSだからね。バルクは戦闘スタイルの関係上【アムニール】の枝を持っているとは思えないし……もう一人は、関わり合いになりたくない」

 

 最後だけ、本物の嫌悪を滲ませて吐き捨てたメルクの姿に、カグラも納得したようだ。

 ……最後の一人、か。確か、特殊な状態異常を操り、<マスター>でありながら政治に積極的な<超級>がいた。

 

 その名はマイア・ソウティス。

 操る状態異常の効果は……【嫌悪生物化】。

 

 ……メルクが嫌う理由もわかろうというものだ。

 

 

 /

 

 

 そんなこんなでメルクとは一旦別れ、俺、カグラ、ラトラナジュの三人で用事を果たすことにした。

 グランヴィルから伝えられた“店”への道順を思い返しながら、人がいない路地を順々に歩いていく。

 

「まあでも、こういう秘密の通路とかを通るのはワクワクするな」

 

「好奇心というか、そういったものは抑えられないからね。ラトラナジュもちょっと楽しんでるでしょ?」

 

「そうね。リアルじゃこんな体験、どうしてもリスクがよぎるわ……デンドロだからこそ、と言うべきかしら」

 

 カグラとラトラナジュも遊戯派なだけあって、このロマンはわかってくれるらしい。

 基本的に俺は遊戯派寄りの世界派なので、カグラとラトラナジュという世界派寄りの遊戯派の二人とは感性が合いやすい。

 そして遊戯派らしい遊戯派であるメルクも含めてそれほどスタンスに強固じゃないので、こちらに合わせてくれることもある。

 

 ちょっと自慢になるけど、一緒に遊んでいてこれほど居心地の良いパーティーはないだろう。

 

「索敵もヤヨイとアルマちゃんがやってくれてるし……一家に一台あると嬉しいよね!」

 

「俺は物じゃねえんだけど!!」

 

 そうは言いつつ、今も複数の感知系スキルを利用して周りを探っている。

【鉄人王】の奥義である《フルアーツ・パフォーマンス》によってスキルのレベル制限が撤廃された俺は、感知系スキルもそのほとんどが高レベル、中には10に達しているものすらある。

【鑑定士】などの俺にとっては非常に有用なジョブの力もあって、基本的に汎用スキルは大体修めているので、ピーキーなメンツが多い我が《MEX-F(メクシフ)》に足りないものを埋めることができるのだ。

 

 加えて今はアクセサリーとして装備している【溶蛇眼膜 ルマ・ゴーレ】の力もあり、熱源感知によって生者を見逃すことはなく……その汎用性はさらに増していると言って良いだろう。

 ……まあ、隠蔽に特化した<超級>とか、隠れ潜むことを生業とする超級職に尾行されたら見逃すかもしれないけど……そんなのは特例だからどうしようもないとして。

 

 そんなことをつらつらと駄弁りながら、足を進める。

 右、左、左と来て一旦戻り、もう一度左に行ってさらに奥へ……そんな複雑怪奇な路地裏を辿る。

 途中でグランヴィルこれ間違ってないだろうな、と不安に思ったりもして──

 

 

 ──気づけば、俺たちの前に、厳かな扉が現れていた。

 

「ッ」

 

 咄嗟にアルマを展開し、拡散。ステータスの低いカグラとラトラナジュを守るように広げ……特に何もアクションがないのを感じ、防御は緩めないまま警戒を緩めた。

 

「《鑑定眼》……《透視》」

 

 どちらも効果なし、か。

 おそらく高レベルの幻術やら隠蔽がかけられている。汎用スキルでしかない二つでは、いくらレベルが高くとも見通せないだろう。

 

「その様子だと、効果はなかったらしいね。で、どうする? 間違いなく、ここが僕たちの目指すところだけど」

 

「判断は任せるわ、リーダー。それで死んでも、恨みはしない」

 

 ……言ってくれるじゃねえか。

 

「《我は原初の道具に通ず(アルマトゥーラ)》、防御展開」

 

『ん』

 

 質量を増したアルマを《キングス・ウェイト》で圧縮。それを俺たち全員に纏わせ、鎧の形を取る。

 あくまでも鎧だ。武器は作らず、戦闘の意思はないと示す。

 

「さあ、開けるぞ」

 

 扉に手を突き、ぐっと押し込む。

 幸いながらカスSTRの俺でも押せる程度の重さだったらしく、特に重さを感じることなく扉が開かれ──

 

 

 

 

 

「──ようこそ、新たなお客様方」

 

 

 

 

 特徴のない、モダンな内装。

 店内に置かれたテーブルの上には、幾つもの()()()()が乱雑に置かれている。

 

 その奥のカウンターの奥で、ひときわ目立つ一人の男が肘をついていた。

 赤や緑、無数のペンキがぶちまけられたような色合いの燕尾服に、打って変わって一点の染みもない純白のシルクハット。

 そのかんばせは老けこんで、しかしその瞳だけは爛々と輝いている。

 

「……あなたは?」

 

「そういうアナタは、グランヴィル・ガスターニュ様からご紹介の、【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド様ですね?」

 

 問いかけを無視された形だが、今は気にしている場合ではないので、アルマの防御を解いてから頷いた。

 続いて老人は、同じく姿を晒した傍の二人に指を向ける。

 

「そちらの御婦人は【魅売(チャーム・バイヤー)】ラトラナジュ様。残るお一人が【舞神(ザ・ダンス)】カグラ様……いやはや、全員が超級職とは。錚々たる顔ぶれですね」

 

「それほどでもありませんよ。──あなたもでしょう?」

 

 確信を込めて問いかけると、老人は大袈裟に驚くような顔をする。

 そう驚くことでもない。

 

 この老人、さっきからどんな感知系スキルも反応しない──弾かれるのだ。

《看破》も、《心眼》も、《熱源感知眼》も。

 そんなこと、<超級エンブリオ>でなければ不可能だ。

 だが、そのような<超級>はレジェンダリアには存在していない。

 

 だから考えられるのは──

 

「これはこれは、お見それしました。此度のお客様も、中々の逸材のようで何よりです。

 ──いかにも、ワタクシも超級職(スペリオルジョブ)でございます」

 

 老人は一礼し──その姿がかき消え、カウンター前に現れる。

 

「ワタクシの名はジェスター・J・ベルルカン。

道化王(キング・オブ・クラウン)】ジェスター・J・ベルルカンと申します」

 

 そう己と、ジョブの名を告げた後。

 

 

「──この妖精郷、レジェンダリアにおいて……()()()()()()()()()をされている者です」

 

 

 そんな、あまりにも重い言葉を、満面の笑みで言い放ったのだった。

 

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