男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第4話 仲間はずれ

 □【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

「指名手配……!?」

 

 唐突に告白された物騒な単語に、カグラが咄嗟に武器を構える。

 俺が静止しようと声を出そうとした瞬間、カグラがくらり、と体勢を崩して──

 

「おい!?」

 

 地面に崩折れる寸前に、カグラを腕で抱き止める。

 そしてそれをやったであろう眼前の道化師を睨みつける。

 

 ……カグラはリアルでイカレじみた修練を積んでいるだけあって、体幹諸々が非常に強い。

 そんなカグラの体勢を崩すなんて、一体何をしたんだ? 

 

「おや、私の力を受けて体勢を崩すだけで済むとは……そちらの方、なかなか鍛えているようですね。さすがは【舞神(ザ・ダンス)】と言ったところでしょうか?」

 

「今、何をした?」

 

 端的な俺の問いかけに、ジェスター翁は大袈裟に首を傾げた。

 さっきから、いちいち反応が大袈裟だ。

 だがその所作には老人らしさが滲んでいる……ロールしている、か。

 

「異なことを仰いますね。こちらはただ──」

 

「ああ、カグラが武器を構えたから迎撃……警告した、というのはわかっている。そしてそう誤魔化すってことは、つまり答える気がないってことだな?」

 

「……話が早すぎて、いささか困りますね。頭の回転が早すぎるのでは?」

 

「よく言われる」

 

 今のは皮肉だ。頭が回りすぎて、巡らせてはいけないところまで巡らせているのではないか? と突っついてきている。

 端的に言うと妄想乙、である。それに対する返しも、お前程度の皮肉は今まで何度も聞いてきた、というありふれたものだ。

 

 向こうもそれを理解したのか、少し笑みを深くして──

 

「はいはい、舌戦のやりすぎは良くないわよ。本題が控えてるんだから、印象を悪くするのは良くないわ。あとカグラ君、とっくに動けるくせにヒロインみたいに寝たふりしない」

 

 ラトラナジュの手打ちの乾いた音で、睨み合いは終わりを告げた。

 カグラは支えていた俺の手から抜け出し、素知らぬ顔で後頭部に手を回す。俺もジェスター翁と目を合わせると、息を吐いてアルマをメイデン体に戻した。

 

「ちぇ、せっかくヤヨイと触れ合えるチャンスだったのになー」

 

「妙なこと言わないの。ヤヨイ君とジェスターさんの睨み合いが楽しかっただけでしょう?」

 

「あ、バレちゃった? いやあ、ラトラナジュも察しが随分良くなったね。僕は嬉しいよ」

 

 べ、とあざとく舌を出したカグラの腹を殴り、俺もラトラナジュに頭を下げる。

 

「悪い、ちょっとやりすぎたな。仲裁助かる」

 

「ほとんど遊び半分だったのに、よく言うわね。この後詫びる気持ちがあるなら、きちんと商談頑張りなさいよ」

 

「おう」

 

 ……成長したなあ、ラトラナジュ。肝が据わってら。

 ともかく、ラトラナジュの言葉の通り、これで睨み合いは終わりだ。

 

「で、カグラをああしたスキルについては教える気はないんですね?」

 

「残念ですが、その通りです。しかし勘違いしないでもらいたいのですが、それは“今”教える気がないというだけですよ」

 

「そ。じゃあ指名手配についても、同様と受け取っていいかな?」

 

「ええ。同様に、私が提示する条件をクリアすれば、ね」

 

 提示する条件。

 この老人を見るに、まともな条件ではなさそうだが。

 

 ラトラナジュ、カグラと目を通わせ、頷く。

 

「その条件はなんです? よほど無体なものでなければ、こちらも準備がありますよ」

 

「ああ、金銭や特定のアイテムなどではありませんよ。それでは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「趣味、ですか?」

 

「ええ」

 

 鷹揚に頷いたジェスター翁は、店内のテーブルに並べられた品々に目を向ける。

 そう、所狭しと並べられた……()()()()に。

 

「お客様方には、これから簡単なクイズをしてもらいます」

 

「クイズ……」

 

「ええ、簡単なクイズですよ。これに正解すれば、私の店で好きなものを購入することができます。ただし!」

 

 ぴ、と指を立てた老人の顔は、喜悦に歪んでいる。

 ラトラナジュが表情こそ変えないものの、ちょっと引いているのがわかる。

 

「もしも間違えれば、一発で退場。次のクイズは一年後! 

 ──つまり今後一年、店での購入権は得られません!」

 

「……なるほど」

 

 それは大層、悪趣味だ。

 金やアイテムなら事前の準備、あるいは聞いたものを取りに行くだけでなんとでもなる。

 だがクイズ。テンプレ化しているものならともかく、オリジナルとなると正真正銘の一発勝負だ。

 それで客を弾くとなると……それほど自分のクイズに自信があるのか、あるいはもっと別の要因があるのか、それともただの運任せか。

 

 グランヴィルが正解した、という点で、クイズの種類に関してはある程度絞り込めているが……。

 

「ああ、それと注意事項ですが、チーム全体で一人購入権を得れば全員が入店できる、というワケではありません。入店及び購入の権限があるのはクイズに正解した人のみですので、きちんと一人一問、クイズに答えていただきます。

 もちろん【テレパシーカフス】などの使用は厳禁、見つかり次第全員クイズで間違ったものとして扱いますのでご承知ください」

 

「……わかりました、受けましょう」

 

 元より受けないという選択肢はない。

 もし運任せだったとしても、こっちは三人いる。そうそう外れることはない。

 ……もし全滅したらメルクに平謝りしよう、そう決意する俺を横目に、ジェスター翁が声を張り上げる。

 

「それでは、クイズの内容を提示させていただきます! 

 クイズ内容は──」

 

 ジェスター翁は、くるり、と店内すべてを指し示すように両腕を広げる。

 その満面の笑みから、果たしてどんな難問が繰り出されるのか──少し楽しみになる自分がいた。

 

 

「──この店の中で、()()()()()()()()()()()()()()()、でございます!」

 

 

 …………へぇ? 

 これは、あれだな。

 

 

「メルクいなくてよかったかも……」

 

「そうだね」

 

「そ、そうね……」

 

 ラトラナジュの、“ちょっと可哀想だけど商人的見地から見ると同意せざるを得ない”と言わんばかりの躊躇いを込めた言葉に、ジェスター翁が首を傾げるのだった。




メルクがいなくてよかった(色々な意味)
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