男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第5話 遊戯的世界派

 □【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

 ジェスター翁のクイズ。

 この店で価値あるものを見つけ出せ、という……簡単に言えば宝探しだ。

 この()()()()の山からだ。

 

 なるほど、なかなか趣味が悪いが……合理的な問題だ。

 人はそれほど目が良くない。視力視界の問題ではなく、物の良し悪しを見抜く目は……どうしても今まで生きてきた環境や感性に依る。

 

 そういった意味で、自分好みの人間を見分けるには、確かに最適な問題だ。

 最適であるが、本人の性格など関係なく、生まれだのに左右される問題というのは趣味が悪い。

 

 

 

 

 ──だが、あえて言おう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ラトラナジュ」

 

「ええ、もちろん」

 

「カグラ」

 

「わかってるよ。被らないように、だね?」

 

 お互いに目配せをして、息を合わせる。

 

 心のうちを知る由はなく、けれど俺たちは全員確信を抱いている。

 万が一にも、失敗するはずがない。

 

 ──俺たちの才能と経験が、こんなチャチな悪戯で誤魔化されるはずがないのだと。

 そう、俺の才能が訴えてくるのだ。

 

 この、ガラクタの数々から感じるかすかな違和感を──見逃すなと。

 

「どうやらもう答えは出たようですね? それでは、“これだ! ”と思うものを、人差し指で差してください」

 

 ジェスター翁の笑みの裏にあるのは、果たして期待か狂喜の熱か。

 それがどちらであるにせよ、やるべきことは変わらない。

 

「宝物は」

 

 気分はさながら名探偵。

 ほんの少しだけワクワクしながら、左腕を振り上げる。

 

「「「これだ」」」

 

 ぴっ、と大仰に、俺たち全員が異なるものを指し示す。

 

 ラトラナジュは薄汚れた小石の数々を。

 カグラはほつれ切った織物を。

 

 ──俺は、古びた腕輪を指差して、ジェスター翁に会心の笑みを向けた。

 

 それぞれの指先と、視線が指し示すものを確認したジェスター翁は……嘆息した。

 

「いやはや、本当に逸材ばかりのようで。困ってしまいますね」

 

「……そう言いながら満面の笑みじゃねえか。まったく困ってるふうに見えないぜ」

 

「おや? ワタクシとしたことが……フフ……」

 

 不気味な含み笑いを漏らして、ジェスター翁は派手に指を鳴らす。

 その瞬間──店内に並べられていた()()()()が、

 

 

「あら、怪しいと思ったけどかなり上等な宝石じゃない」

 

「うわぁ……こんな上品な織物をあんなボロ切れに見せかけてたのか……」

 

「色んな意味で趣味悪いぜ」

 

 

 一斉に、輝きを取り戻す。

 

 川辺で拾ったとしか思えなかった小石の数々が、ラトラナジュが誇る最高品質にも劣らぬほどの宝石に。

 ほつれに色褪せ、どうしようもないと思っていた織物が、美しい紅染の生布へと変わる。

 俺が示した腕輪は、白を基調として質素ながらも清潔な輝きを放つ。

 

 見れば店内に並べられているどれもが、それらと同じかそれ以上に劇的な変化を遂げている。

 入った時は特徴のないモダンとしか思えなかった店内が、売り物の輝きに充てられて魅力的に見えてくる。それほどまでの輝きだった。

 

 その悪趣味さと絢爛たる輝きのギャップで息を呑む俺たちの前で、ジェスター翁はもう堪えきれないとばかりに笑い始めた。

 

「フフフフ、ハハハハハッ!! お見事、お見事でしたよ御三方!! これでもワタクシ、幻術にはなかなか自信があったのですが!! まさか明確な確信を持って三人にも見抜かれるとは思いませんでした!!」

 

「……まあ、実際あんたの幻術はすごいと思うよ。俺の《心眼》じゃあ見抜けなかったからな」

 

 所詮は汎用スキル、と侮れないことは、【鉄人王】の奥義が証明している。

 

「つってもま、それはスキルによる看破だからな。それができなくても、直感として違和感はあった」

 

()()()()。何度も強調してしまうほど、この店のそれには違和感が溢れている。

 上から極めて薄い透明の布をかぶせているような……文字にしてしまえばそれだけだが、それだけゆえに気付くのは難しい。

 

「僕はリアルで色々見てるからねー。そこに関してはヤヨイ以上と自負しているよ」

 

「なるほど、お二人は天性の感覚に加え経験によるものだ、と。ではそちらの御婦人は……」

 

「悔しいけど、私はジョブスキルの補正が大きいわね。とはいえ私は【魅売】だもの、宝石商のトップとして、宝石に関しての幻術を見抜けたことには安堵してるわ」

 

 流石に【魅売(ジュエル・バイヤー)】の固有スキルである《宝石審美》を誤魔化せなかったか。

 まあ、その地位を得るに至った努力と才能は本物なのだから、誇っても良いとは思うけどね。

 

 

 ……というわけで、メルクがいなくてよかった、とは……つまりこういうことだ。

 生来の貧乏人であり、芸術鑑賞などろくに経験がなく、同時にほとほと興味もないあいつにとってはこのクイズは鬼門だろう。

 俺たちが全員正解してメルクだけ店から放り出されたら悲惨に過ぎる。ネタにできないくらいに。

 

 

 そんな俺たちの心境をしってか知らずか、ふむふむ、と幾度も頷きながら、ジェスター翁は笑う。

 

 しきりに拍手し、やかましいほどに手の甲に刻まれた“人”の紋章を──<エンブリオ>? 

 

 そういえば、彼の<エンブリオ>はなんなのだろう。

 武器──は持っていない。服──でもなさそうだ。

【道化王】は確か、幻術師系統道化師派生超級職、だったはず。今までの言動を見るに、彼は幻術に特化しているのだろう。

 であれば<エンブリオ>もそれと少なからずシナジーがあるはず。

 

 ということは、ジェスター翁の<エンブリオ>はテリトリー型と考えていい。

 もしくはこの店そのものが<エンブリオ>であることを考慮すれば、キャッスルってのもアリか。

 

 ジェスター翁のやかましい声を聞き流しながらの考察を終え……そろそろいいだろうと彼に声をかけようとしたその時。

 

「いやしかし、お見事。手段や経緯はどうあれ、皆様はこのワタクシ、【道化王(キング・オブ・クラウン)】と──

 

 

 

「「── 【欺瞞姫 ハーレクイン】の合同幻術を見抜いたのですから!」」

 

 

 

 彼の隣に、同じカラーリングのド派手な少女が現れた。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ……………………メイデン? 

 

 正体不明の指名手配を喰らって、違法ゾーンを攻めるこの老人が? 

 

「ま、マスター……!」

 

「お、おう、急にどうしたアルマ」

 

 おや、そちらもメイデンなのですね? 仲良くしましょうそうしましょうっ!  などと騒ぐ二人から目を逸らして、何やら切羽詰まっている様子のアルマに意識を傾ける。

 

「危険。とても、危険! あれは、質量兵器!!」

 

「危険、危険って何が……少なくとも俺のスキルにはなんの反応も」

 

「マスターのにぶちん!! あれを見て!!!」

 

 アルマの触腕で頭を叩かれたので、仕方なくアルマが促す方……今も騒いでいる、新たなメイデンらしき少女に目を向ける。

 

 ……カラーリングはジェスター翁の燕尾服と同じ、というよりはメイデンの方に寄せたのだろうか? 

 それに反して、顔は化粧っ気がない。メイデンは例外なく美女美少女なのですっぴんでも全然通用するが、そこは少し奇妙だ。

 大ぶりなツインテールが揺れている。赤と緑、道化師カラーが入り混じった彼女の髪は服装に違わずド派手である。

 

「……」

 

 ここまではアルマがあれほど慌てる理由はない。

 なので、服装や顔立ちというより、全体的なシルエット……に……。

 

「……なるほど」

 

「わかった? マスター……あの質量兵器を……!!」

 

「ああ……ついでにアルマがすげー危機感抱いてたのも理解したよ……」

 

 ジェスター翁とともにギャアギャアと喚き、跳ね回っているメイデン……ハーレクイン。

 

 彼女の胸元は、豊満であった。

 同じメイデンであるアルマの胸元とは、比べものにならないほどに。

 

 ……これを見たらそりゃ敗北感も覚えよう。

 今まで自分達以外のメイデンは見たことないから、そもそも貧乳がテンプレートなのかは知らないが。

 

「そしてあんな巨乳ピエロメイデンが生まれるジェスター翁のパーソナルとは一体……あっ」

 

「なんか胸元から飛んでいって……あっ」

 

「あれは……間違いない、僕も付けたことがあるからわかる。あれは……パッ」

 

「やめなさいカグラ君!! 女装癖の発露はいいけどこれ以上この場を混沌にしないで!! あと女性の尊厳を破壊するのもやめなさい!!」

 

 ……俺が言えたことじゃねえけどもうめちゃくちゃだよ! 

 

「てへっ」

 

「元はと言えば君が大きな要因なんですがね」




カグラって良いところで状況を混沌としてくれるから助かりますね……。
ちなみに女装して動画を撮ったとき、テンション上がってパッが吹っ飛んだ結果コメント欄がお祭り状態になりました。
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