男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□???
——その日、皇都ヴァンデルヘイムは、混乱の極地にあった。
なにせほど近い平原で古代伝説級の<UBM>が出現したのである。運悪く【獣王】はおらず、【魔将軍】は別世界に飛ばされていて、【大教授】は単体ではゴミゆえに緊急事態に非常に弱い。
「これは、わりと難しいかなー」
<叡智の三角>本拠地にて、ピンク色の着ぐるみを着た<マスター>の一人、メルクがそうぼやく。
緊急事態で功を焦った何人かのマスターが無策で敵に突撃し、そして無様にデスペナに陥ったのは記憶に新しい。彼らはその情報を基に、かの<UBM>——【骸収機兵 クロマドーラ】に対する有力な攻略方法を探っていた。
「相手は全身神話級金属、突っ込んだ馬鹿の機体に同期したところによると物理攻撃は基本無意味みたい」
「魔法も……ヒヒイロカネが相手なら、効果は薄いか」
「っていうか武器使う奴には相性最悪では?」
「武装合併かなぁアレ。最悪の場合<エンブリオ>も取り込まれるかも」
「ンなこたァどうでもいい! あんにゃろうぶっ壊しやがったぞ<マジンギア>を! こうなったらうちの威信にかけて討ち取るしかあるめえよ! 絶対許さんぞぅ私怨にかけてなァ!」
「うっわさすが狂犬」
「これでT大だから始末に負えねえ、つうかロールプレイブレブレじゃねえか」
……なんか変な方向にズレた気がしたが、それは置いておく。
「さてさて、アレをどうにかできる方法はないかなー」
メルクは手の中のフラスコを無造作に玩びながら、モニタを操作する。
「あ、メルクさん、そっちどうにかできるアテはありますか?」
「うーん、難しいねー。うちの【
「んー、じゃあ【
「アンプは今【
「ですよねー」
それに何より、まだ育成段階の彼女らを使う気はないと内心独りごちる。あまり衆目に晒したくはないし。
(……でもまあ、さすがにどうにもならなかったら何体か出すか。それだけなら足止めできるし、
【獣王】として世界から畏れられる友人の名を口にしながら、続けてこう考えた。
(あとは——フランチェスカの改造モンスター? 特典武具使った奴ならどうにかなるかもしれないね。……でも彼女、大体情報収集した後にメタ張るからこういう事態に使えるモンスター残ってるかなー)
【大教授】と呼ばれ、一部の人たちからは蛇蝎のごとく嫌われているヴィランな学者を、アバターの名前ではなく、リアルの名前で呼びながら打開案を考える。
しかし、彼らの努力が実ることはなかった。
突如、探知していた【クロマドーラ】の反応が消失する。
どこに消えた、と探しているうちに……その【クロマドーラ】の反応があった場所に、一人のマスターがいることに気づく。
その名前と顔を見たメルクは——思わず、マジか、と呟いた。
/
□首都ヴァンデルヘイム中央広場 ヤヨイ・ベルダーウッド
絶賛ほかの<マスター>に周囲を包囲されているでござる。
やっぱり【クロマドーラ】に乗りながら街に入ったのがまずかったのか……?
『当然』
「おっと手厳しい」
とりあえず周囲の矢継ぎ早に質問してくる野次馬に向けて、一言。
「【クロマドーラ】は俺が倒した。なんか言いたいことある奴は出てきやがれ」
……二言だったね。
まあそれはともかく、非常に邪魔だ。いっそのことアルマを伸ばして全員下から串刺しにしてやろうか?
『拒否。やるならば骨を折って膝をつかせるべき』
……アルマってわりと俺より物騒だよな。あと俺よりプライド高くない?
『それはない』
断言されてしまったぞぅ。
そんな感じでてんやわんやしているうちに、奥からなんか、目立つもこもこが歩いてきた。
「やーやー、お久しぶりだねヤヨイくん。色々とやらかしてくれたじゃないの」
「アッハッハ、なんのことでしょうか。俺は皇都の危険を脅かすモンスターを、人として! <マスター>として! 倒しただけですが?」
「露骨な誤魔化しと心にも思ってないこと言うのやめい」
むむ、鋭い。磨き上げた俺の腹芸が通じないとは、こいつかなりやりおるな。
「……まあ、そうだね。久しぶり、メルクさん。元気してた?」
「元気だよー。そっちはまあ……聞かなくても元気だねえ」
「ん」
アルマがぴょこっと【クロマドーラ】から離れ、人間体に戻る。
それを見たメルクさんは、わずかに目を見開いた。着ぐるみだからそのような、が正しいんだけどね。
「メイデンとはねえ。そりゃまあ、格上殺しに特化してるから倒せたのも妥当、かな?」
「それもありますけど……一番は、アルマが頑張ってくれたからですよ」
本当、アルマが土壇場で踏ん張ったりしてくれなかったら呆気なく負けてたと思う。俺の力もあったかもしれないが、基本的にはアルマのおかげだ。
アルマがふふんと得意気な顔をする。ない胸を張って「絶許」うわやめろ腕をハンマーにして叩くなァー!
「わかった俺が悪かったから叩くな! っつかそこのやつてめえ何【クロマドーラ】に乗り込もうとしてんだ! 民法206条以下の所有権の記載について読み聞かせされたいの!?」
「随分インテリジェンスな答えだねぇ……おっと残念ながらデンドロでは<マスター>に法律は働かないよ」
「なら私刑。法律が働かないのなら報復も自由」
「うわ適応はやーい、ってもうズレすぎ話題から!」
わりとガチめの叫びだったので、コントはやめて口を閉じる。メルクさんがくいくいと手招いたので、【クロマドーラ】を収納し、周囲に群がる羽虫を退けながら付いていくのだった。
/
裏路地に入ってなんか複雑な道を通った先にあった喫茶店の中で、俺とアルマはメルクさんと一緒にテーブルに座っていた。良い雰囲気だし、道はもう覚えたから今度から来ようかなあ。
……ねえアルマ、なんでさっきから俺が一口食べたものしか食べようとしないの? アイスとかどうするつもりなの?
「まず、<UBM>——【骸収機兵 クロマドーラ】討伐おめでとう。古代伝説級をルーキーがどうやって倒したのか、気になることは無数にあるけど……」
「はぐはぐ」
「……アルマ、空気読んで」
「はぐむぐ、ごくん。良い。続けて。はぐはぐ」
徹底的に雰囲気破壊しといてよく言うぜ。この空気の読めなさは俺譲りですね、ええ。
「……まあ、人型の<エンブリオ>は変な食べ方があるみたいだよ。僕の知ってるメイデンだと、白いものしか食べないって言う子もいた。……そういえばあの子とアルマちゃんは似てるね、色々」
「……アルマちゃんって呼ばれるのはあまり好きじゃない。けど、マスターの友達だから許す」
「それは嬉しいねぇ」
カレーっぽいものが入っていた器にスプーンを戻し、美味しかったと呟くアルマ。
……さっき一口食べたけど、うーん。
やっぱり食材そのものが美味しいからリアルの高級店に追随する出来になってるなぁ。ただもっと活かせるんじゃないかってところが少々……。
「もっとこう、きちんと調理すればリアル以上に美味しくなるはずなんだけど、なんか足りないんだよなあ」
「ちなみに基準は?」
「ホテルエデルマ」
「世界最高峰のホテルの料理と比べちゃダメだよリアルブルジョワジー君」
スイスの学友と会うときはいつも泊まってるから高いって言う感覚なかったわハハッ。
……俺わりと金銭感覚破綻してないかな。
「マスター、リアルブルジョワジーが極まりすぎて世間知らずと化している」
「もしかして良いトコのお坊ちゃん?」
「良いトコってレベルじゃない。傾いたら世界経済に多大な影響を及ぼすレベル」
「……えぇー」
こらそこドン引きするな。えぇい話しを戻す!
「で、どうしたんですメルクさん。俺が<UBM>倒したから、それに対しておめでとうとか言うため……だけじゃないでしょ」
「ま、そうだよー。
……いやまあそれもあるけどさ。別にクランへの勧誘とかじゃないし、警戒はしなくて良い」
いつもの間延びした口調を止め、メルクさんはアイテムボックスから……スーツケースのようなものを取り出した。
「もしも君が<マジンギア>を買えた時のために作っておいたものなんだけど、まあ、あのロボットも誤差みたいなもんだと思うので……」
——パカリ、と開く。
「<魔神機甲グランマーシャル>のパイロットスーツ・ブラックバージョンだ……特典武具には及ばないけれど、ハンドメイド品としては最高クラスの性能を誇る。
今ならあの
「よろしくお願いしまぁす!」
呆気なく負けました。なぜかアルマも頭下げてたけど……。
え? マスターにすごく似合ってる? ありがとう。