男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第1話 キャラメイク

 不思議な感覚とともに、どこか変な……真っ白な、何もない空間へと放り出される。

 

「ぐぉぇ」

 

 変な声が出た、と認識すると同時に、眼前になんかモンスターっぽい男がいたので、とりあえずころころと後ろに転がって逃げた。

 

「……癖が強いな」

 

 なんか失礼なこと言われた気がしたけど、まあいい。

 静かに、何事もなかったかのように立ち上がってぱんぱんと服を叩く。

 

「あー……言葉通じますか?」

 

「もちろん通じるとも」

 

「ああ良かった。大概の言葉は話せますけど、ゲーム特有言語とか持ち出されたらどうにもなりませんからね、っと」

 

 周囲を見渡す。

 ……殺風景。ゲームを始めるのに支障ないのなら別にどうでもいいのだが。

 

「で……ここで俺は、何をすればいいんでしょうか。キャラメイクですか? それと、あなたは誰でしょうか?」

 

「そうだな。まずは私から名乗ろう」

 

 男はなんでもないようにこう言う。

 

「私は管理AI4号、ジャバウォック。君を<Infinite Dendrogram>の世界に導く、いわば案内人と言ったところだ」

 

 ジャバウォック。アリス・イン・ワンダーランドに登場する敵。見た目からして爬虫類だが、名前もその通りのようだ。

 だが俺は、ジャバウォックが口にしたある言葉に非常に危機感を抱いていた。

 

「ああ、なるほど。管理AI……あー」

 

 ……ついさっきうちのがやらかしてるよな。

 

「もしかして俺がリアルでどこの誰かってバレてます?」

 

「もちろんだとも。SNKグループを率いる真木一族の長男、真木正弥君。そして君のところの諜報が、私たちにスパコンまで使ってクラッキングを仕掛けてきたことも、全て承知している」

 

「あー……」

 

 これはもしかして、だが。

 

「ログイン拒否、って事態は……」

 

「ない」

 

 ……ふむ、断言された。

 

「我々は新たな〈マスター〉を歓迎する。たとえそれがクラッキングを仕掛けてきた相手を擁するのだとしても、正規のログインを行ってくれるなら拒絶する道理はない」

 

 随分と寛大だな。何かしらペナルティはあるものと覚悟していたんだが。

 まあ、ないと言うなら下手に何か言うこともないだろう。俺はゲームをするだけだ。

 

「了解。ってことは、ここで色々と設定をするんですか?」

 

「そうだとも。君に設定してもらいたいのは、以下の六つ」

 

 そう言って、男は指を立てた。

 

「一つ、描画選択。現実に近いものから選べる、これからサンプル画像を流すので」

 

「現実と同じで」

 

 とりあえず即答する。それで無理に変な描画選んで混乱したら意味ないからね。

 仏頂面の男の顔は変わらないが、眼鏡をかちゃりと上にあげた。説明を遮ったのは悪いと思うが、正直先に進みたいのだ早く。

 

「ならば現実と同じで決定する。判断が早くて助かるよ。

 さて、では次だ。二つ目、プレイヤーネームだ。決まっているか?」

 

「ん。……そうだな」

 

 まあ、難しく考えるもんでもないか。

 

「ヤヨイ。ヤヨイ・ベルダーウッド」

 

「ヤヨイ・ベルダーウッド。それでいいのか?」

 

「ええ」

 

 単純に真木を真の木に分解してベルダーウッド、正弥を逆にして弥正……正と生は読みが同じなので生に変え、弥生。つまりヤヨイ。別にリアルそのままじゃないしこれで充分でしょう。

 

「次。三つ目はアバターのデザインだ。

 色々と設定できるが……リアル基準にするかね?」

 

「お願いします」

 

 目の前に、まさに自分そのものなアバターが現れる。

 だが痩せ細っているし、見るからに不健康そうだ。正直このままというのはかなり躊躇われるし、ゲームなのだからせめて……と願っても仕方ないであろう。

 

「俺が健康になった場合の姿は、できますか?」

 

「もちろん」

 

 ジャバウォックが指をひょいっと動かすと、俺の不健康そうなアバターが、優良健康児そのものな、適度に肉が付き肌も病的に白くない理想的なアバターとなった。

 

 ここからさらに弄るわけだが……そうだな。

 別に人前に出るわけじゃないし、少し弄るだけで済まそう。

 

 まず、髪の色は黒色っぽく変えてみる。リアルだと茶髪なので、黒というのは正直憧れていたからだ。大体ロボアニメの主人公は黒髪だしね。

 目の色は……リアルの茶目も少し変えて、黒に青かかった色にする。

 

 この時点でかなり印象は変わった。身長に関しては……まあ、リアル時点で180あるから弄らなくていいか。

 体格も変えずに、よし、まあこれでいいかな。

 

「終わったかね?」

 

「はい。では次は?」

 

「では次は、アイテムを配布する」

 

 ぽんと、上から何か降ってきた。

 それをキャッチしてみると、なにか……カバンのようなものだとわかる。

 

「それはアイテムボックス。1tまでなら自由に出し入れが可能なアイテムだ。他者のアイテムを入れることはできず、入れられるのは君のものだけとなる?」

 

「ふぅん……盗まれたりは?」

 

「する。アイテムボックスそのものは盗まれないが、PKに遭った際にランダムドロップで中のアイテムが紛失したり、その類のジョブに盗まれたりな。

 また、耐久値が全損した際には中身が解放されるため、その時には買い換えておく方がいいだろう」

 

 つまり、盗みに関しては対策しようがないと。後者はなんとかできるかもしれないが、初心者がどうにかできることではないだろうし。

 破損は……まあ、気をつけろよ! しか言えないな。

 

「次に初心者装備だが……」

 

「スタンダードなやつで」

 

「であればこれか?」

 

「ならこれで」

 

 即決。そこに時間をかける必要はない。

 

「初期武器はどうする?」

 

「杖で」

 

「了解した」

 

 突けば槍、払えば薙刀だからな。武器はおいおい選んで行こう。

 

「そして、これは初期資金だ」

 

 そう言ってまた空から降ってきたのをキャッチすると、それはジャラジャラと鳴る袋だった。なるほど、この中に入ってるのか。

 

「量とレートは?」

 

「この世界では、金銭はリルと呼ばれる。その中に入っているのは5000リルだ。レートは1リル=10円程度と考えてくれて相違ない」

 

「充分」

 

 尽きる前に稼げってことだね。わかるとも。

 それにしても話が進む。やはり相手の対応が速いと非常に楽だ。日本の企業は対応速度がゴミクズだからね、何度煮え湯を飲まされたことか……。

 

 まあそれはいい。忘れよう。

 

「最後に、〈エンブリオ〉を移植する」

 

「〈エンブリオ〉?」

 

 事前知識入れる前にログインしたから全然知らないや。

 

「説明、お願いします」

 

「了解した。〈エンブリオ〉とは、端的に言えば〈マスター〉一人一人で姿形が違う、そう例えるなら相棒というところだ。誰一人として同じ造形は存在せず、その系統樹に果てはない」

 

「……なるほど、それは凄いですね」

 

 改めてオーバーテクノロジーの塊じゃないか。なんなのだろうかこのゲーム。

 

「そして〈エンブリオ〉には、0を含めずに七つの形態と大まかに分けて五つのカテゴリーが存在する。

 〈エンブリオ〉は、まず〈マスター〉を観察してその力の方向性を高める第0形態、そしてそこから観察を終えてカタチとなった第一形態がある。第一形態になればあとはもう上がっていくだけだ。

 また、第三形態までを〈下級エンブリオ〉。

 第四形態から第六形態までを〈上級エンブリオ〉。

 そして第七段階へと到達すれば〈超級(スペリオル)エンブリオ〉となり、その度に飛躍的にリソースが増加し強化される。能力は千差万別だ」

 

 ……確か<Infinite Dendrogram>、長いからデンドロはサービスを開始して一年半ちょいだったか。

 それだけの時間があれば、その〈超級エンブリオ〉に到達したプレイヤーもいるだろう。というか、まず間違いなくあのリアルチートは到達している。彼が足踏みするところなど想像できないからだ。

 

「そして、エンブリオの五つのカテゴリーについてだが、大まかに分けて、

 プレイヤーが装備する武器や防具、道具型のTYPE:アームズ、

 プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPE:ガードナー、

 プレイヤーが搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ、

 プレイヤーが居住できる建物型のTYPE:キャッスル、

 プレイヤーが展開する結界型のTYPE:テリトリー、

 となる。他にもレアカテゴリーは存在するため、探せば他にも三つ程度は出てくるだろう」

 

「なるほど」

 

 使いやすいのはアームズかな。テリトリーとかはピーキーな性能が多そうだ。

 

「さて、話している間にすでに移植は完了した」

 

「うわ、マジか」

 

 いつの間にか、俺の左手の甲に輝く宝石が埋め込まれていた。

 これが〈エンブリオ〉。俺の、相棒。

 

 優しく撫でると、意識をジャバウォックに戻す。まだ説明は終わってないからね。

 

「最後だ。君の所属する国家を選んでくれ」

 

 これまた空から巻物が落ちてきて、俺の目の前で広がる。

 完璧に広がり終えると、地図の七ヶ所から光の柱が立ち上った。こいつらから選べ、ってことかな。

 

「国についても、説明を」

 

「うむ。国は七ヶ国存在し、光があるのはその国の首都だ。そこに説明が表示されている」

 

 そうしてポイントを見ていく、と……。

 

 ……ッ!? 

 

「ジャ、ジャバウォックさん……これ……」

 

「ああ、ドライフ皇国だな。無数の工場から立ち上る黒煙が雲となって空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市——がキャッチコピーだったか。機械の街で、多種多様な機械が」

 

「決めました俺ドライフにします」

 

 なにせ、見た。見えてしまったのだ。

 ——首都を、悠々とロボットが歩いているのを……! 

 

 ならば俺はそこに決めた。そこ以外に行くところなし。

 

「まあ、反対はしないがね。さて、それではこれで君の設定は完了した」

 

「……」

 

「——君たちがこのゲームを楽しむならば、私たちはそれに全力を尽くすことを誓おう」

 

 俺の沈黙をどう受け取ったのか、ジャバウォックは眼鏡をあげてさらにこう続けた。

 

「この世界では、誰もが自由だ。誰にも縛られず、ただ悠々と生きていけばいい。

 英雄でも、魔王でも、村人Aでも、化け物でも。たとえどんな生き方を望もうと、君たちにはそれを叶える権利がある」

 

「その〈エンブリオ〉と同じだ。君には、無限の可能性が待っている。

 ……特に、君のようなハイエンドならばね」

 

 後半は囁くようで、一言も聞き取れなかったけれど。

 それでもその心は確かに、俺の心に伝わった。

 

「<Infinite Dendrogram>へようこそ。“我ら”は君の来訪を歓迎する」

 

「——はい!」

 

 俺はそう叫んで、ジャバウォックさんに背を向ける。

 

 

 そして——俺は、先ほど見た世界地図を見下ろす大空に放り出されていた。

 

「いや、ちょっと待って、さすがにこれはぁぁぁぁ……」

 

 抗議の声は、空に遠く。

 俺のデンドロでの生活は、パラシュートなしでのスカイダイビングから始まったのだった。




主人公……ヤヨイとジャバウォックの会話リズムが噛み合った!
どっちも物事は早く済まそうとするので相性はわりと良い。
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