男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□首都ヴァンデルヘイム中央広場 ヤヨイ・ベルダーウッド
「ないわ、ありえねぇわ」
いきなり空から放り出すとか何考えてやがる。何事もなく着地できたから良かったものの、凄い驚いたぞ。
初っ端スカイダイビングをかまされたせいで荒れた息を整えて、周囲を見渡す。
「……ここが“ドライフ皇国”、首都ヴァンデルヘイム」
通称“皇都”。
説明文にあった通り、十九世記欧州の近代都市でありながら、現実世界でも実現できていないロマン溢れる機械工学が発達している都市。
……明らかにオーパーツというか、目立つところにそんなものが置かれているのに基本が近代の欧州というのは、多分それらがロストテクノロジー化しているからなのだろう。
「ま、こっちの世界に来て考古学やるつもりはないけど」
一時期興味を惹かれたので齧ったことがあるが、一ヶ月程度で飽きてしまった。本業の方々に言わせれば色々と見所はあるようなのだが、まあそれは別にいいとして。
「ステータス、か」
ヤヨイ・ベルダーウッド
レベル:0(合計レベル:0)
職業:なし
HP(体力):100
MP(魔力):14
SP(技力):25
STR(筋力):9
END(耐久力):15
DEX(器用):15
AGI(速度):13
LUC(幸運):20
弱い。
そもそもレベル0が強いはずがないが……職業?
「……あぁ、なるほど。職業に就いたらレベルが上がるのか」
そして合計レベル、ということは、どこかでレベル表記が1に戻るということだろう。ならばそれが転職で、いずれ頭打ち……カンストが発生するはず。
当面はそれが目標だろうか。いや、カンストが存在するかも知らないけれど。
でもまあ、まずは、そうだな。
ロボットを探そう。うん。
結局はその思考に至ると、俺と同じくドライフ皇国を選択したと思しき周囲の同期の初心者たちを横目に、ロボットが売ってあるところはどこかなと街に向かって駆け出すのだった。
/
……結論から言ってしまうと。
ロボットを売っているところは、あった。どうやら<叡智の三角>というプレイヤー集団——クランが製造しているらしく、人に聞けば簡単に発見できた、のだけれど。
「足りない……」
そう。
単純に、お金が足りない。提示されている金額(2000万リル)に対して、俺の全財産(5000リル)のなんと貧弱なことか。
「リアルならはした金なのに……っ」
1リル=10円、つまり2000万リル=二億円。
二億円ならポケットマネー少し切り崩せば払える金額だ。
リアルブルジョワジーを舐めるんじゃない、
まあそれ導入したら人生が破綻する人多そうだからね。特にデンドロというVRゲームが出た今だと、こちらでの生活に全てを注ぎ込む人とかいそうだし。
……仕方ない。リアルとは完璧に切り離して考えよう。
いずれはこれを——<マーシャルⅡ>を手に入れられるくらい、こちらの世界でも稼げるようになればいい。
初めての挫折、というやつだ。まさかゲームを始めて数十分で経験することになるとは思わなかったけれど。
「道のりは遠いが……ハハ、それも楽しいなあ」
思わず笑ってしまう。逆境、いいじゃないか。なにせリアルではほとんど動けなかったのだ。
ネット上で取引などは行えていたものの、運動、移動などとは縁がなかった。
それなのに今、俺は自分の足でしっかりと立って、歩き、走れて、叫べている。過程を楽しむ余裕もあり、結果を掴みとろうとする気力もリアル以上にあふれている。
俺は逆境というものを知らない。
恵まれた生まれと、頭脳。動けないことを受け入れてしまえば、俺にどうにかできないものはなかった。世の中金があれば大概のことはなんとかなるからだ。
だが今、俺は金がない。生まれて初めての事態だ。
だからこそ——そうだ、だからこそ、面白い!
「これでこそ無限の可能性ってやつかな」
まずは金を稼ごう。
情報を調べて、金を稼ぐのだ。
「……改めて考えると勢いのまま突貫したから情報何もないな」
世界を制するのは情報だというのに、ちょっと浮かれすぎてしまった。
とりあえず一旦ログアウトして、情報を調べるか。具体的な行動はその後に練ろう。
「いずれ天を衝いでやるぜ」
そう思いつつログアウトを開始しようとして——
「君、ロボットに興味あるの?」
後ろから急に声をかけられたので、とりあえず後ろを蹴り飛ばしてみた。が、所詮レベル0のクソ雑魚キックである。相手に普通に受け止められてしまった。
「ちょ、いきなり後ろ蹴らないでよもぅ」
「ごめん、ちょっとびっくりしちゃって」
「まあ、別にいいけどね。ダメージ0だし」
こ、こいつ、わりと煽りよるわ……!
……とは言うものの、よく考えずともこの程度の煽り屁でもない。
改めて後ろを振り返る。
そこにいたのは——なんか変なキツネの着ぐるみを着た変人だった。
What?
/
その着ぐるみは、自分のことをメルクと名乗った。
「え? つまりメルクさんは、<叡智の三角>所属の<マスター>なのか?」
「うん。まあただの【
その代わりに色々作らせてもらってるよ、と笑う。いやぬいぐるみなので笑っているような気がした、というのが正しいのだが。
それにしても、そうか。<叡智の三角>に所属してるのか。
「というか、なんでそんな人が俺みたいなルーキーに?」
「あはは……いや、ルーキーの中にもさ、やっぱりこの<マーシャルⅡ>を求める人は多いんだ。けど君、さっき天を衝くって言ってたじゃない?
それ、あのアニメだよね?」
——彼が言うには、ドライフでロボットを求める俺のような人は多いが、そんなレトロなアニメを見ている人は少ないらしい。
気合いと根性で全てを解決するロボアニメ。どうやらメルクさんもあのアニメのファンらしく、俺の「天を衝く」発言を聞いて思わず声をかけてしまったようなのだ。
「うちのクランメンバーには布教できてるんだけど、元からの同好の士がいないんだなーこれが」
「わかります。いいですよね……ドリル」
「いいよね、ドリル……」
……見た目変人だけど、凄く気が合う気がしてきた。
「……君どういうロボットまで行ける?」
「大体は行けます。リアル志向ならあの鉄臭いのがたまりませんし、ファンタジーならイミフエネルギーで動くロボットは非常に美しい……」
「合格だ……付いてきなさい」
なんか昔見た秘密組織みたいだなと思いつつ、子供の頃は勉強漬けだったので体験できなかった種類のワクワクを楽しみながら、俺はキツネの着ぐるみに付いていくのだった。