男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
——何故爆煙だけに反応し、煙幕には反応しなかったのか。
そしてアイツから見えないであろう場所に隠れても、的確に狙撃されるのは何故なのか。しかも先程から吹き飛ばされている家屋には、絶対に
人がいない家屋は消し飛ばされていない。つまり敵は人間範疇生物《<マスター>・ティアン》だけを目的とし、それを識別する方法を持っているということだ。
<エンブリオ>は、場合による。
先程虎にような姿になった<エンブリオ>を出現させたマスターがいたが、わざわざ虎を消し飛ばしてから<マスター>を殺している。
アルマを通じて情報を収集していると、他の<マスター>の中にもどうにかしようと<エンブリオ>を使う人はいた。そして逆に剣や斧になった<エンブリオ>には、それに反応する様子はなかったし……同じく無機物型の<エンブリオ>には一切反応がなかったのだ。
その極め付けが、先程ばらまいたアルマである。それらに風の弾丸を発射するような真似は一切しなかった。
つまり【天界空破 ラッダリト】は、俺が乗る【ブラック・デンドロン】には反応し、アルマには一切反応していないということになる。
そこら辺を考え、その上で『汚いものが嫌い』なのだろうヤツの行動原理を考えて、ヤツの能力を入れてシミュレートすると、自ずと答えは見えてくる。
『っと』
あぁそうだ、そういえばそうだったな。まだ言ってなかったっけ。
【ブラック・デンドロン】には、一応まだ機能がある。と言っても、兵装の類ではない。
俺が快適に搭乗できるようにと拵えられた——空調機構が、な。
『カザミさん、こもっと、カザンヌさん』
ほぼ確定。魔力感知だったらアルマに反応するし、他にもこれ以上納得できるようなものがないんだよ。
『【天界空破 ラッダリト】がどうやって敵を感知しているのか、推測を行いました』
これは、つまりこういうことだ。
古風に言うならば——
『その結果、敵は、俺たちの呼吸——二酸化炭素を感知していると推測されます』
——汝ら吐息は、穢れ也。
なぁ、天界空破だとか大層な名前を与えられた、エレメンタルモンスターよ。
おまえ——随分と、みみっちいんだな。
/
ヤヨイの真に恐るべきは、その
彼の恐るべきは、どんな状況でも絶対に冷静を失わない己が在り、それを軸として行動し……集めた情報を一瞬で整理、それを基に推理して……正解、あるいは正解に限りなく近い答えを導き出す、その卓越した判断力と精神性である。
【クロマドーラ】の時も、そして今回も。
前回は『限りなく正解に近い答え』であったが、今回の彼の推理は……正解に、辿り着いていた。
【天界空破 ラッダリト】は、典型的な条件特化型の<UBM>である。
同系統の<UBM>である【黒天空亡 モノクローム】に比べ、最終到達高度と攻撃力は劣るものの、大概の相手を粉砕可能な火力を持つ風の弾丸を発射して敵を追い詰めていくスタイルを取っている。
そして風の防壁——
その上で、ジャバウォックより投下された■■■■■を取り込んだことにより目覚めた第三スキル——《
さらに、ヤヨイがまだ切り札を隠しているかもしれないと考えているのも、正解だ。
【ラッダリト】には、まだ使っていない第一スキルが存在する。
その力は——
/
【ラッダリト】は、苛立っていた。
消えない。消えない。消すことができない。
探知範囲にはまだたくさんの反応が蠢いていて、それ以外にも風を放射して消してはいるものの、まだ穢れは消えない。消えてくれない。
嗚呼、アア——なぜおまえたちは生きている。
その口から吐き出す穢れ諸共、疾く死んでしまえばいいのにと、理不尽な怒りを漲らせ、【ラッダリト】は風を唄う。
——もういいや
——もういいや
——すべて、すべて、消してしまおう
その身に在りし三の力、その中でもエレメンタルモンスターが持つ自分と同じ属性を取り込み、放出する力。
その力の極地——輝く絶望の如き、唄う破滅が、憤怒とともに解放される——
/
アルマからその通話が届いたのは、俺たちが奴を撃破する作戦を練り終えた時だった。
『危険! アイツが、周辺空気を急速に吸い込んでいる!』
『嘘だろ、まだ出力が上がるのか!?』
とんだクソモンスじゃねえか、いや予想してたけどさ!
どうせ発狂モードとかハザードモードとかそんなんだろ畜生!
『周辺が真空に……っ、7秒後に極大の竜巻が来る! マスター、あとで回復を!』
『ああ!』
正直そろそろMPが……いや泣き言なんて言ってられないな、アルマが頑張ってるんだから!
正面から受けたら死亡確定とでも思えばいいか? はっ、上等!
『カウント
——ぎゅんぎゅんと、渦巻く音が聞こえてくる。
『四!』
——金切り声のような音が、地上の全てを威嚇した。
『三!』
——音も消え、風も消え、光は静かに逍遥する。
『二!』
——これは、言葉として表すならば。
『一!』
——破滅。
『——《
刹那。
地上100メートルの高度から、
——竜巻が、落ちた。
それを形容するならば、
放出された風の渦が地上の家屋を吹き飛ばし、今まで無視していた家諸共に全てを吹き飛ばしていく。
『う、ぐ、おおおおおおおあああああああああッッッ!』
アルマを鎧として固定し、地面に突き刺してアンカーとする。アルマの一部が吹き飛んで行くのが見えたけど、これは、ちょっと、無理……!
『うおおおおおおおおおおおお!!』
『ほわあああああああああああああああ!!』
『きゃああああああああああ!!』
アルマを通じて悲鳴がぁってうるせぇ!
あとこもっとそれ女としてどうなんだうおおおお死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅうあああああ!
『アルマ状態解除して全力固定!』
『ん!』
制御権がアルマに戻り、俺の方もうずくまって全身を固定する。
すまんカザミさん耐えてくれ、俺はどうにもできない!
——その、10秒後。
竜巻が晴れた時には……もう、何もかもなくなっていた。
家も、人も、何もかも。
一部の<マスター>は残っているが、……ティアンの逃げ遅れた人は皆、千切れて何処かへ飛んで行った。
…………………………………。
『……………マスター』
………………そうだな、アルマ。
これは、怒る……いや、違うか。
これはただの、殺意だ。
『……てめえ、何様のつもりでやりやがった』
そりゃあ、この世界では人の価値は羽毛よりも軽いだろう。容易く潰えて、戻ってこれない。<マスター>とは、違う。
だが、それは潰していいってこととは違う。同義じゃないんだよ。少なくともおまえの怒りなんかで踏み潰していいものじゃない。
……ああ、そうか。
だからこそ、俺は——
『——殺すぞ』
——俺は、アルマの、メイデンの<マスター>なのか。
世界派、遊戯派。それで分けるとか、それ以前の問題で。
俺は、誰かが死ぬのが、殺したくなるほど大っ嫌いなんだよ。
『アルマ、情報は?』
『……ん。
マスター、朗報——とは、言えないけれど……ひとつ、報告がある』
『なんだ?』
『今、アイツの周囲は完全な真空。多分、スキルのデメリットで、周辺が真空で固定されてる。
だから、今は……アイツの、防護壁はない』
……そうかい。
『でもそれも、一時的な話。すでに空気が戻ってきている。だから、切り札を有効に活かすには——』
『もう一発、撃たせればいいんだろう』
ああ、わかった。そんなことは簡単だ。
アイツのクソみたいな性格を考えれば、容易いくらいに理解できる。
今こそ切ろう、切り札を。
この災禍を撒き散らした、その全てのツケを、アイツに取らせるために。
反撃開始。
《
でもこのスキルは、邪魔な障害物を全部破壊した上で、ティアンやマスターを空にカチ上げて墜落させて殺す攻撃です。
なので火力は高くないです。ヤヨイが耐えられたのがその証拠。まさしく破滅。