男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
キツネの着ぐるみマン——メルクさんに付いていった俺が辿り着いたのは、<叡智の三角>の本拠地の中にある創作物陳列用スペースだった。
いや本拠地の中にルーキー入れて良いのかとか、色々とツッコミどころも多いと思うんだけど……それ以上に、そこに置いてあるものに、俺は心底惹かれていた。
「<魔神機甲グランマーシャル>……なんだこのイカしたタイトルは……!」
「ふはは、凄いだろう凄いだろう! これこそが我ら<叡智の三角>が誇る<マーシャルⅡ>が完成した時に一部クランメンバーが悪ノリした結果産み出された奇跡の産物、<魔神機甲グランマーシャル>だ!」
説明ありがとう。いやそれにしても、凄いなこれ。
パラパラと、渡された漫画を読んでみる。……コマ割りもしっかりしていて、作画も綺麗だ。デンドロ内部ゆえの利点かもしれないが、しっかりと手が込んでいる。趣味の一環なのだろうが、普通に連載されていても遜色ないレベルの作品だ。
おまけにロボットオタクが徒党を組んで作っているだけあって、ロボット好きが気になるポイントをほぼ全て抑えているからたまらない。特にこの見開き一ページ丸々使って恐ろしい量の書き込みで表現されたグランマーシャル……素晴らしいとしか言いようがない。
「ちなみに、他にも小説とかイラスト、立体模型にベルドルベル……ああ、うちの食客の人が作ったBGMまであるよ。リアルでもMAD投稿されてるから見てみるといいよー」
「詳しいですねえ」
「僕もだいぶ投稿してるからねー」
衝撃の事実。悪ノリしたのあなただったのね、納得だわ(外見的に)。
まあそれはそれとして、これらの作品が素晴らしいのは事実。BGMがエンゼルバーグ老のような癖があって首を傾げたものの、件のベルドルベルさんが彼のファンだったのだろう。
実際にエンゼルバーグ老の曲は素晴らしいからね。俺も生で聞いたことがあるが、あれは神の名を冠するに値する曲だった。
……それにしてもこのBGM、明らかにリアルでも作曲家をしているであろう人物の創作なのだが……いやいや、まさかあの人がこんなところにいるわけないか。
——話題からズレそうになったので、話を戻す。
既存の漫画を全て読み終え、本拠地から出て近くにあったベンチに座った俺は、満足気に息を吐く。胸の踊る素晴らしい漫画だった。
「これが<叡智の三角>の本気、か。良いものを見た、感謝するよメルクさん」
「いいよいいよー。こっちもロボット談義に花が咲いたしねー」
見た目普通に変人なのだが、恐ろしく気の良い人だ。本拠地にこんな得体も知れないルーキーを招くなんて、中々できることじゃないし。
「……ふぅむ」
「どうしたんです?」
なぜか突然、吟味するようにメルクさんがこちらを見る。見られることには慣れているので別に良いのだが、俺が何かしただろうか。
「ねえ、そういえば君の名前なんて言うんだっけ」
「え? ああ、そういえば……失礼しました。俺はこちらではヤヨイ・ベルダーウッドと名乗っています」
失態だ、浮かれて名前も名乗っていなかったなんてと自分を恥じる。こんなこと一般常識だろうに。
幸いにしてメルクさんは気を悪くした様子もなく、何か考えているようだった。
「そうか、ヤヨイ君か。
……よし」
何か決めたような顔——着ぐるみの上からなので実際にはそんな気配がするだけ——で、そうつぶやくメルクさん。
俺がそれを聞く前に、メルクさんは俺を正面から見て、こう言った。
「ヤヨイ君。キミ、<叡智の三角>に入らない?」
「失礼ながら辞退させていただきます」
「決断早いなキミィ!」
うぉぉい! と叫びながらツッコミを入れられた。
ちなみに勢いではない。デンドロ内部では基本勢いで突っ込んでいる俺だが、断ったのはきちんと理由があるからだ。
「まず、メルクさんが知らない類の理由から話しましょう。
多分メルクさんは気付いてませんが……俺、基本的に誰かに使われる・組織の中に籍を置くのが、大っ嫌いなんですよ」
「おっと予想以上にプライドの高い答えが帰ってきたぞぅ」
「張り倒しますよ?」
自慢だが、俺は真木一族が長子・真木正弥である。
生まれついての上流階級、したがってそれに所以する責任感と、そしてそれ以上に高いプライドを一族総出で育てられてきた。
侮りを許すな。
己の才覚に自覚を持て。誰かの下で働くことに甘んじることは許されない。
そんな教育を受けていたものだから、俺は非常に……非常に、誰かの下にいるのが我慢できない。
究極的なハングリー精神と言えば聞こえはいいが、まあ、わりとロクデナシな類の人間だろう。誰かと対等に接することはできるが、相手が自分を侮った瞬間喉を喰い千切るのも辞さないという、理性と獣性が入り混じったちょっと奇怪な精神を持っているのだから。自分で言うのもなんだけど。
そしてそのプライドに見合った実績を、虚弱の身でありながら積み重ねてきたからこそ、他者に使われるのが我慢ならない。
「リアルの関係で、俺は誰かと友好的な関係を築くことに躊躇いはなくとも、上下関係を基礎とする関係が大っ嫌いで、何よりそれに我慢できない。自分でもダメだとは自覚しているんですけど、子供の頃からの教育なのでもう変えられないから諦めてます」
「たとえそれが、友好的な、同人サークル染みたクランであっても?」
「だからこそ、ですよ」
嗤う。
「クランという括りの中にある以上——俺は、耐えられない」
クランリーダーを、殺してしまいそうになる。
相手が強いのなら……余計にさ。
それを聞いたメルクさんは、何も言わない。
……やはり、引かれてしまったかな。自分でもおかしいと理解しているからこそ、これが常人には理解できないものであると自覚しているがゆえに、俺に友と言える人物は極端に少ない。
家族もこれを理解していて、トーマも俺の性質を理解して付き合ってくれている。
ほかに友人と言えば……ああ、
「まあ……そういうわけなんで、俺は団体行動ができないんですよ。高校の頃も、ほとんど行けなかったのもありますけど団体行動が全然できなくて迷惑を……」
「なーるほーどねー。いや全然大丈夫、ぶっちゃけ僕たちのオーナーもだいぶヤバい人だから、ヤベェやつには耐性があるというか……うん」
「えぇ……」
メルクさんは、なんか、哀愁を漂わせた雰囲気でそう言った。
俺が大丈夫なレベルのヤバい奴ってなんなんだ。ストーカー気質なの?
「ま、とりあえずフレンド登録でもしようか」
「え……あ、うん」
流されるままにフレンド登録を行う。
……画面に映ったメルクの名前に、なぜか、少しだけ嬉しくなった。
「それじゃあ、僕はこれでね。いつかキミが<マーシャルⅡ>を買えたら、その時はキミにグランマーシャルのユニフォームをあげよう」
「まじですか……! ありがとうございます、俺、頑張ります……!」
ふんす、と気合いを入れる。あれを着れるなんて素晴らしいじゃないか。
メルクさんはそう言うと、<叡智の三角>の本拠地の中に戻っていった。
癖の強い人だが、良い人だったな。
「さて……」
俺もそろそろログアウトしよう。情報を調べる他に、色々とやりたいことができた。
皇都に戻り、街角でログアウトを選択。30秒間の硬直を経て、俺はデンドロの世界からログアウトした。
/
「ええーっと……こんな感じ?」
「ゲームとかしたことなかったからわっかんないなあ」
「で、あとはボタン押すだけ、と」
「最初にどこ行こうかなあ。やっぱりその手の職業で、でも内乱は面倒だし」
「——よし」
「黄河帝国にしよう」
フィガロとは違う部類の協調性ゼロタイプ。いやむしろあっちより確実にタチ悪い。