男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
ウォトラ村を買い取った一件については、メルクがウォトラ村壊滅を知った時点で手を打っていたらしい。
メルクは各地に偵察用のホムンクルスを飛ばしている影響で情報の入りがすこぶる早く、俺が帰路についていた頃にはすでにドライフの中枢に働きかけ、ウォトラ村を買い取っていたようだ。
「今後はホムンクルスが定期的に果物を取ってくるからね、ルーキーのヤヨイ君にはいつも買うのは厳しいだろうし、【ブラック・デンドロン】が動く様を見たかったから買いました」
メルクのラボの中で、白衣に着替えた……って、それ面倒くさくない?
「とりあえず借金10億だね、いずれ払うよ」
「別に払わなくてもいいんだけど。デンドロの中だとお金で家建てられるし、フランクリンと違って僕は金欠じゃないから」
「それでも、だ」
お金っていうのはわりと面倒くさいんだ、メルクがそんなこと言う奴じゃないとはわかってるけど、お金貸してるからアレ寄越せとか宣う野郎はどこにでもいるからな。
そうでなくとも10億なんて、普通払うさ。お金の貸し借りは明確にしておけと両親からも口すっぱく言われたし。それも大概貸す側で、借金なんて一度も背負ったことなかったけれど。
でも、それもまた経験だ。非常に面白い。
「そう? なら出世払いで頼むよ、利息はナシで」
「はいはい、っと。
……それで、どうしてここに連れてきたの? メルクの個人ラボなんて、初めて入ったんだけど」
周囲の大きなフラスコの中で、ドクン、ドクンとなにかが息づいている。アニメでよく見るマッドサイエンティストのラボ、みたいな感じだ。
「ああ、それね。ラボの中に君の部屋増設したから。今後君の拠点はここだよ」
「……はい?」
「ん? ……ああ、そういうことか。そういえば言ってなかったね」
そう言ってメルクさんは、コンコンと靴で床を叩いた。
「ここね、僕の<エンブリオ>。【偽創生命 フランケンシュタイン】って、ラボなんだよ。改造可能な」
…………………。
……なんか昨日から驚きの事実多すぎて疲れてきたぞ! 助けてアルマ!
「よしよし」
あの、触腕で頭を撫でられましてもどうしろと?
/
【偽創生命 フランケンシュタイン】。
TYPE:フォートレス・カリキュレーター。
本体——内部に数多のフラスコを備えたラボラトリー。結構デカく、改造可能で、現在移動式セーブポイント機能が追加されたらしい。
メルクの<超級>の力の証。
ホムンクルス作成に特化した<エンブリオ>で、最初の頃は小さなフラスコ一つだけだったそうだ。それが形態を得るごとにどんどんどんどん大きくなっていき、造れるホムンクルスの質も向上。第六形態で【禁忌王】だった頃でも街を壊滅させることくらい容易だったと言う。
……で、俺たちの旅の拠点は今後ココらしい。<エンブリオ>に恨まれないかな、それ。
「大丈夫大丈夫、何も喋らないんだし文句ないんだよ多分」
それって普通に暴論ですよね?
まあ、それが可能なら問題ない……のかな、知らんけど。
元々、俺が上級になるまでは、メルクはドライフから旅立つのは勧めていなかった。
下級の状態では、様々なモンスターの脅威に比べて単純に力が弱く、抗えるだけの力が足りないと考えていたからだ。
だが、アルマの新たな活用法や飛行可能な特典武具などを鑑みて、俺をドライフに縛るよりも各国を旅して様々な経験を積ませる方が得だと考えたらしいのだ。
それにメルクも、カルディナで色々と仕入れたいものがあるらしいし。生産職だからね。
それと、とある区画には立ち入ってはいけないと厳重に、厳重に言われた。入ったらデスペナも覚悟した方がいいってすげえ真剣な顔で言われたよ。頷くしかなかったけどさ。
「とりあえず色々手続きしなきゃいけないから、ヤヨイ君はレベル上げでもしてていいよ。というかむしろ僕の方が面倒だし」
そりゃあ<超級>が旅に出るとか、ドライフからしたら引き止めたいだろうな。俺なんて言ってしまえば幸運で<UBM>二体倒しただけのルーキーだし。
OK、俺はレベル上げに専念しよう。アルマ、行くぞ!
「ん!」
——その後、【銃士】に転職した俺は、とにかく近郊のモンスターを狩りまくった。
DEXが上昇したことで【ブラック・デンドロン】の動作系スキルに良い影響が出たし、銃弾化したアルマを撃ち込んで殺せれば良し・殺せなければ撃ち込んだアルマを体内で動かして即死させる方法でドンドンと経験値を稼いで行った。
ちなみに一応雷属性魔法の【ジェム】も買ってアルマを帯電させ、レールガン化させて攻撃もした。しかしこのレベル帯ではオーバーキルのようで、さっき撃ち込んだモンスターの頭が吹っ飛んだことからもそれが見て取れる。
というか【ジェム】代も割とバカにならないので、もっとモンスターが強くならないと出番はなさそうだ。
そうしてデンドロ内時間で数日——つまりリアル時間で1日と数時間程度で、【銃士】がカンストした。
……言いたいことはわかる。早すぎるだろ? でもな、できないことはないんだよ。
特に俺みたいに、廃人レベルの時間をひたすら狩りに費やしていればな。前にアルマが疲れてバタンキューしたけど、【ブラック・デンドロン】を得たことでアルマを使わずともモンスターを倒せるようになったのでアルマが休憩している間でも俺だけで狩りができたのだ。
それに銃使ってても剣とかのレベルも上がったしな! ……やっぱバグってるだろこれ。
「それじゃあ【盾巨人】に転職でもするかー」
「ん」
あ、でも、一応メルクから借りた【適職診断カタログ】も使ってみようかな。ジョブは全部頭の中に入ってるけど、見落としてるのが入ってるかもしれないし。
そう思いつつ、この前行った喫茶店(アルマがイカスミパスタ食べたところである)の中で、質問に答えてジョブを探した。
その結果は——
「……【鉄人】?」
——俺の記憶にない、おそらくはロストジョブと呼ばれる……上級職だった。
転職クエストもなく、名前からしてENDが上がりそうだったので就いてみて、わかった。
ああ、これは。
——俺以外なら産廃だな、と。
言ってしまえば——これは、なるべくしてロストしたジョブなのだと。
/
<叡智の三角>の皆に別れを告げ、メルクさんのラボに入る。
今日でようやく手続きが終わったらしく、俺も簡単な検査を受けて国を出ることの許可が下りた。これで所属国を変えるとかならもっと面倒なのだろうが、フリーになるだけなのでそこまでではないらしい。
「ヤヨイ君、いける? 忘れ物とかない?」
「大丈夫ですよ。っていうか、どうやって行くんです?」
「ああ、それはね」
ぐらり、と。
ラボ自体が揺れてふらついてしまうが、メルクは平然としている。ってことは……まさか。
「【フランケンシュタイン】は、アームズ派生キャッスル系列とのハイエンド&ハイブリッドカテゴリー。【パンデモニウム】みたいなデカさはないけど……」
「こうやって自分で動く、自律可動式のラボなんだよ。僕にぴったりだろ?」
そう言ってメルクは笑い、こう言った。
「最初の目標はカルディナの街、水と金貨の渦巻く街・コルタナ。とても危険なところだけれど——君、好きだろうそういうの」
「ああ。……ラスベガスで100万スった時のことを思い出すなあ。デンドロではまだそこまで金はありませんけど、いずれそれくらい溶かしてみたい」
【鉄人】のレベル上げもしたいしね。……っていうか、歴代【鉄人】は何を思ってこんな扱いづらい上にそこまで強くないジョブに就いたのやら。俺だからこれは活かせるようなもんだぞ、ホント。
「それじゃあ、【フランケンシュタイン】。前進!」
……あとその、さ。
さっきから周りを男女混合のホムンクルスが飛び回ってるのは、触れちゃいけないやつですか?
——こうして俺たちは、旅に出た。
カルディナで終わるはずもなく、多分黄河やアルター王国にも行くのだろう。
それはとても楽しみで——そしてこの世界は、その程度じゃ収まらないくらいの楽しみをくれるのだろう。
まだまだ秘密は多いけど、俺はこの世界を楽しむだけだ。
頑張ろう、アルマ。俺たちは、どこまでだって行けるのだから!
—情報限定開示—
・ジョブ
闘士・操縦士・銃士複合系上級職【鉄人】
転職条件:【闘士】【操縦士】【銃士】の三つのジョブをカンスト
一定以上のスキルレベルの保有
突如出現したロストジョブ。ヤヨイが「産廃」とか色々ひどいことを言っているが、実態を知るとそうとしか言えなくなるのがひどい。
ちなみにロストした理由は、「使うづらい」「就きづらい」「そもそも【闘士】【操縦士】【銃士】取るやついねえよ(いた)」。
ジョブ特性としては、END・既存能力改善特化型上級職。END以外ほとんど上がらないし、強いて言えばHPが少しだけ上がる。
そのためある程度育った者からすればカモ以外の何者でもない。効率の改善などに関するスキルを有しているが、まあ……。
つまるところ、シュウの【壊屋】系統と同じタイプ。
第2章完結です。
今回の章は、【ブラック・デンドロン】の効率・強化に関する話やアルマの新たな活用法、ヤヨイのジョブについてのお話でした。
これからもヤヨイ君は災難が発生しますし、それに巻き込まれて色々と手に入れることでしょう。
廃人勢ゆえのスピードレベリングと、ハイエンドゆえのメチャクチャなジョブ選択を、今後も楽しんでください。