男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第5話 【高位金物職人】への転職

 □【金物職人(ハードウェアマイスター)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

 ジョブクエスト用の金物細工を納品し、ギルドから出る。

 今回も結構好評で、アルマを使って隅々まで細工したのが顧客の琴線に触れたらしい。これだけの仕事をしてくれるのなら今後もよろしく頼むよ、としたり顔で言われたので、なるほどこれが現場労働かと理解できた。

 

 俺もリアルだとあんな感じに見えてんのかな……少し気になるぞ。アメリカで宝石商(ジュエラー)やってる友人はいつもあんな感じだけどさ。

 

「マスターの交友関係がよくわからない……」

 

 まあ職業柄色々縁ができるからねえ。パーティーに出る時なんかは舐められないように最高級品誂えなきゃいけないし、よく良い感じのを用意してもらったものだ。

 

 ……ってことは、この世界でももしかしてそういうツテが大事……? 

 

「【宝石商(ジュエラー)】系統のジョブもあったし、いずれコンタクトでも取るか。高級アクセサリーには宝石も重要だしねー」

 

 あとは単純に物価が高いので金が入ってくること、だな。

 俺に宝石商の経験はないし、やりたいことを増やしすぎても何もできなくなるのでやらないが、そういうツテは絶対にいつか必要になる。

 カルディナには鉱物資源も多いらしいので、それを仕入れるという意味で。

 

「<エンブリオ>は千差万別。もしかしたら宝石に特化した<エンブリオ>も存在するかもしれない」

 

「確かにそうかも」

 

 そう考えると、特定のジョブが天職って人もいるのかもな。そういう<エンブリオ>ほど、超級職を取られるとキツそうだが。

 

 

 そんな感じで沢山のジョブクエストを消化し、ギルドからの信用を高めた頃。

 

 俺は、【高位金物職人(ハイ・ハードウェアマイスター)】となった。

 ……もう2個目の上級職だけど、こんなんでいいのかなぁ? 

 

 

 /

 

 

「まあ、君のやりたいようにやればいいと思うよ。この世界じゃ誰でも自由だし、ガチ戦闘構成やる人もいればエンジョイ構成の人もいる。そんなもんさ」

 

 自室にて、仕入れを終えてフラスコに色々とぶち込んでいるメルクからの言葉に、俺も金属を加工しながら返事をする。

 しっかしよく考えてみると、野郎二人が同じ部屋で危ない実験を行なっているというちょっとアレな光景だな。別に俺たち以外に人いないからいいんだけども。

 

「そんなもんなのかなー」

 

「そんなもんだよ。僕だって【禁忌王】取ってからはそれ一本に絞ってるけど、下級はそれなりにバラけてるし。ホムンクルスの生産に必要な【錬金術師】と【禁術師(タブー・マンサー)】以外はわりと趣味に突っ走ってるからね」

 

《看破》とかもその産物らしい。

 

「と、いうかだね。デンドロにおいて、僕ら<マスター>にはジョブ構成議論は基本意味がないよ」

 

「そうなの?」

 

「だってジョブ構成考えるよりも超級職、もっと言えば<超級エンブリオ>があった方が大雑把に強いんだもん」

 

「あー……」

 

 メルクの【禁忌王】を見ればわかるように、超級職はその系統で一人しか就けないだけあって性能が非常に高い。

 その超級職がその人間に合ってなかったりすると話は別だが、<エンブリオ>と多少シナジーがあればそれだけでも他を圧倒する力を得る。それこそ上級までの枠で必死になってジョブを練ったところで、第六形態+超級職に蹴散らされるのがオチだ。

 

 そしてその超級職と<エンブリオ>のシナジーが最高だった場合、もれなくバランスブレイカーと化す。

 特に<超級エンブリオ>を持つ<超級>ならば尚更だ。

 

 目の前もメルクも物量戦なら非常に高い戦力を誇るし、なんなら下手な<超級>でも殺せると言っている通り強力な単騎をも隠し持っている。

 それらを考えれば、ジョブ構成議論が廃れるのも当たり前ってことか。

 

「その点で言えば、現時点で間違いなく就いている人はおらず、その先に超級職があるであろうジョブを確保しているヤヨイ君は運が良い。それにヤヨイ君のログイン時間と才能の暴力なら、就いている人が少ない【金物職人】の競争を乗り越えて<マスター>でも数少ない超級職複数持ちになれるかもね」

 

 その場合、俺は戦闘系と生産系の超級職二つ持ちになれるわけか。夢が膨らむし実用性もありそうだ……っと、完成。

 あとは細部を削り抜いて納品しよっと。

 

「俺の場合、アルマがいるおかげで普通の【金物職人】とは生産ペースがまるで違うからな。その分ジョブクエストを数こなせるし、レベルの上がりも早い」

 

 そしてそれは、【高位金物職人】になった今でも同じ。

 センススキルの補佐は時折付けている程度で、【金物職人】の時とあまり違いはない。造れる物のレベルが上がったりしているから厳密には変わってるんだけど、ルーティーンそのものは変わってないのだ。

 

「普通そういうのって師匠に習ったり仲間と鍛錬して研鑽するんだけど……君には必要なさそうだね」

 

「何言ってんだよ、いるだろここに最高の師匠が」

 

 俺の師匠はシステムだぜ。おっとその苦笑いは心がえぐれる。

 

 いやでも実際、理想的な動きをいつでもしてくれるスキルの補佐って最高の師匠だろう。動きをトレースするだけでもタメになるのに。

 ……そう言ってみたら、「そんなことができるのは君だけだよ」と生暖かさ半分、呆れ半分に言われてしまった。

 

「まあ、ある程度才能あるならそれを十全に発揮できる相棒がいれば成長するのは道理……か。ヤヨイ君の場合、数ある才能のうちの一つに偶然細工の才能があっただけだけど。才能っていうのはゲームでもリアルでも変わらないんだねぇ……」

 

「それ、多分大多数の人があんたに言われたくないと思いまーす」

 

 リアルでは超一流大学卒の(苦)大学院生、デンドロでも1%以下の<超級>であるメルク。

 

 あんたが才能を悲観したら世の中の大多数の人間が首吊りしかねんぞ。しかもイケメンのくせに。

 

『マスターがかっこいいのは道理だけど。

 ……それ、マスターが言うと嫌味にしか聞こえない。気をつけた方がいいと思う』

 

 うぐ、アルマに言われるとキツイなあ。

 ……けど、そうかもしれない。気をつけよう。

 

 ありがとね、アルマ。

 

『ん』

 

 アルマからのお叱りを受けて反省したところで、最終工程が完了。

 

 よし、それじゃあ納品しに行こうか、アルマ。

 

「いってらー」

 

 なんか随分軽い感じで言われて、苦笑いしつつ部屋を出る。

 

 その後扉から一歩離れて——

 

 

 ——どっぱぁん! 

 

 

「うわあああああ失敗したああああああ!!」

 

 

「……」

 

 ……なんか雰囲気が台無しだぜこんちくしょう! 

 あと大丈夫? 部屋が飛び散ったもので汚れてない? 俺掃除するのヤダよ?


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