男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□<オルトウテナ平原> ヤヨイ・ベルダーウッド
「よっと」
とりあえず安くて使いやすそうという理由で買ったナイフが、眼前の【リトルゴブリン】の喉を掻っ切った。それで相手のHPは全損したようで、ポリゴンへと還元されて消えていく。
後に残ったのは、少しのドロップアイテムのみ。……こういうところくどいくらいゲームだよな。お金は多分、インフレが起こるから落ちないようにしてるんだろう。昔伝統的なRPGのオンライン版でそこら辺ミスってインフレしたらしいし。
「うーん、快適。身体が動くってこんなに幸せなんだな」
ここがリアルと遜色ないリアリティを持つデンドロ内部だからこその話だろうが、リアルではほとんど経験のない自然的な動きができる。草木の匂い、ドライフで初心者狩場として利用されている<オルトウテナ平原>の土の感触、大地を踏みしめる快感。
どれを取っても最高だ。トーカには感謝しなくちゃね。
(そーいやトーカどこの国にいるんだろ。多分アルター王国だろうけど)
掲示板見る限り「オワコン」とか「先代国王無能過ぎワロタ」など、心ないというか容赦のない回答が大多数を占めていた。なんでそんなことになったんだと調べてみたら、まあ、うん。
ちょっとありえないレベルの不幸に襲われてますね。【グローリア】事件とか。まあそれを言ったら、<SUBM>案件で得したの天地くらいだろうけど。
「つっても戦争に<マスター>動員しなかったのは悪手としか言いようがないけど……っと、来たか死ね!」
落ちたドロップアイテムを回収し、メニューを開く。
「よし、装備変更」
次は長剣だ。俺のHPが五割になるまで、色んな武器使って狩り尽くしてやんよ。
……チキンとか言うなよ。もう一度言うが、安全策で行くんだから。
結局、戦い続けるうちに俺自身のテンションが上がり、技量的な意味とステータス的な意味のパフォーマンスが両方上昇したことで後半はほとんど攻撃を喰らわなくなっていた。相手の目つきだけで、どこ狙ってるかわかるようになったし。これもセンススキルってやつかな?
最終的なHPは六割残り、【リトルゴブリン】と【パシラビット】を各種100匹ほど倒した頃に【尿意】のアナウンスが表示され、狩りは終了となった。
リザルトとしては、【闘士】のレベルが17になり、のちに換金したドロップアイテムを入れるとリルが1000ほど回復。武器種もあらかた……魔法以外のほとんどの戦闘を試せた。
銃とかはまだ使えてないが、俺は近接武器ならば大体使えるようだ。10匹くらい倒せばコツ掴めたし。
ただ少し気になったのは。
装備を変えまくり、それでも一切動きが鈍らない俺を見て、変な顔をしている<マスター>の目だけだった。……いやおまえのエンブリオなんだよ。バレエの白鳥じゃねーか、そういうのはレジェンダリア担当じゃないのかよ。
/
□首都ヴァンデルヘイム中央広場 ヤヨイ・ベルダーウッド
トイレを済ませてレベル上げ。
ディナーを済ませてレベル上げ。
トーカを家庭教師に売ってレベル上げ。
レベル上げ、レベル上げ、レベル上げ。
合計リアルタイムで10時間、デンドロ内時間で30時間。
俺はただひたすらにデンドロでレベル上げに費やした。
ドラマはいらず、堅実に。
ただただ只々レベル上げ。
やっぱりアルター王国だったトーカの「一緒に遊べると思ったのに」というちょっと罪悪感が湧いてくる視線を受けつつレベル上げ。まあ向こうも学友たちと楽しく過ごしているようなので、寂しくはなさそうで安心したが。
そしてその結果。
「立派な廃人じゃねえかハハ」
ヤヨイ・ベルダーウッド
レベル:32(合計レベル:32)
職業:【闘士】
……ちょっとやり過ぎたかもしれん。
「……つうかここまでやってまだ目覚めないのか」
コンコン、とジュエルをつつく。先程武器屋のおっちゃんにも「もうレベル32なのにまだ<エンブリオ>が目覚めてないのか」とか驚かれたし。
相棒とか思ってたけど、もしかしてこいつポンコツなのでは? というか目覚めないと下級職ひとつカンストするんだけど。ティアンの人たちとほとんど変わらないんだけど……!
「……しゃあないか。狩場を変えよう」
そうしたら目覚めるかもしれないしと思いつつ、俺は次のジョブのことを考えていた。
……でも一旦ログアウトしよう。もう疲れた。
俺は周囲に<マスター>がいないのを確認し、ログアウトを選択。
30秒後、俺は無事にデンドロからリアルへと帰還するのだった。
/
その夜、俺はデンドロのwikiを閲覧していたところ……その記述を見つけた。
「——え?」
すなわち。
“ENDは単純な耐久力だけでなく、風邪などのデンドロ内の影響も受けにくくなる”、という記述を——!
ここから主人公の極振りが始まっていく——