男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
雑誌の表紙を見て「あれこいつなんか……」
□2043年日本
——デンドロを終えて、器具を外す。
最近は1日15時間程度にログイン時間を抑えるようにしている。色々とやることがあるし。
「……いつの間にか、トーマに並んじゃったなあ」
トーマは今、ログイン時間の関係で第四形態らしい。<エンブリオ>は彼らしい安定感のあるやつで、持ち前のリーダシップを活かして低年齢プレイヤーで構成されたクランのオーナーをしているようだ。
あの年頃でネットマナーに関してトーマの右に出るものはいないから、良い判断だろう。初心者がPKに遭う確率も減ったらしいしね。
うんうん、自慢の甥だとも。
「お帰りなさいませ、正弥様」
「ああ、ただいま。早速だけれど軽い食事を用意してもらえるかな」
「承知しました」
メイドが部屋から出ていくのを見て、PCを起動する。
デンドロwikiを眺めるというのもあるが、一番の目的は色々と届いている面会申請とかを捌くことだ。俺ももう普通に体力は戻ってきているので、そりゃあもう色々な企業のお偉方から色々と届く。
……あと一年くらい経ったら復業しないとダメかなあ。もう一生遊べるくらいのお金はあるんだけどなあ……。
まあ復帰するにしても、以前ほど全力で働くつもりはないけどね。緩くいくさ。
「……ん?」
これ……確かアメリカに本社がある雑誌の大手出版社だよな。
何々、俺をインタビューしたいと……へぇ。
「条件付けさせてもらえるならやっても良いよ、と」
実際にはもっと丁寧な言い方だけどねー。ん、返信来た。早いな随分と。
ふむ、ではこうしようか。
「雑誌の販売はアメリカ全域だけ、ってね」
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□2043年アメリカ ルイス・テレジア・フォーサイス
「ルイス、今日合コン行かない?」
「ごめん、今日バイトだから」
「ねーねールイス、私と一緒にあそぼーよー」
「ごめんね今日バイトだから」
「ルイス……この前の夜、覚えてない?」
「覚えてないし知らないからあと今日バイト」
「ルイス」
「バイトぉ!」
何回言えばいいんだ、と思いながら、僕は講義室を出た。
「大体合コンとか、また出たら恨むだろうし……」
昔興味本位で誘われた合コンに出たんだけど、恐ろしい目にあったんだよねぇ……。まとわりつかれるは睡眠薬飲まされそうになるわ参加した男からは恨まれるわ友達はひっそりと消えるわ……。
まあ、側から見ると、僕は非常に魅力的らしい。
家族が地雷だから寄ってきた女性のほとんどは離れてったけどねぇ。そうですよ童貞ですけど何かぁ!?
「……早く帰ってデンドロしよう……」
実は今日バイト休みである。罪悪感? 感じてたら明日はどこぞのベッドの上だよ?
そこら辺はヤヨイ君も苦労してるらしいけど、彼精神強いからなあ……。僕の方が歳上だけど、精神年齢は彼の方が上な気もする。その上戦術眼なんかは数で圧殺が基本戦略な僕の数段上だし。
「いや、やっぱり一回ジム行って鍛えとこ……太りたくないし」
デンドロばっかしてると体型が崩れるからねえ。運動神経はないけど、運動することはできるから。
……今の時間だと親はいるか。バイトくらいできると思うんだけどね……。
と、街を歩いていたのだけれど。
本屋の前を通ろうとした瞬間、視界の中に何かが映り込んだ。
「……んん?」
なんか、見覚えのあるような顔が……うえぇ!?
急いでその雑誌を手に取り、表紙を見る。自分でも表情筋が引きつっているのを感じて、表紙に書かれている言葉に思わず天を仰いだ。
“Exclusive coverage! Masaki Sanaki interview alone! It approaches the private life hidden in the brilliant career! ”
——独占取材! 真木正弥単独インタビュー! その輝かしい経歴に隠された私生活に迫る!
「……Oh」
これ、明らかにヤヨイ君じゃーん……。
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□2043年アメリカ ヴィクトリア・アッドマン
「それでは、ロック殿。次も良き取引を」
「……ええ」
苦虫を噛み潰したような顔(……だったかしら。東方のイディオムは難しいわね)で手を差し出してくる今回の良き交渉相手と、私はにこやかな笑みを浮かべて握手した。
宝石を入れたトランクを持ち、事務所を出る。
「ふふふ、デンドロさまさまね。リアルでも宝石審美の技能が上がったわ」
父さんのツテで常日頃から宝石に囲まれていた私は、それなりに経験もあったし宝石審美の技能はあった。けれどそれ以上にデンドロでは宝石を見る機会に恵まれているから、こうやって良い交渉ができたのよ。
……思えば、リアルでもデンドロでも、私は良い指導者に恵まれたわ。
『いいかいヴィクトリア、宝石というのは、人を虜にするものだ。けれど私達は溺れてはいけない。私達は人を虜にするものを……破滅と等価の幸せを売る商人なのだから』
『儂は<マスター>が出る前から、こうやってカルディナで【魅売】やってんだ。おまえを可愛がってるのは、おまえに期待してるからだぞ、ラトラナジュ』
もちろん、私は応えるわ。期待にも、全てね。
ふと、ショーガラスに映る自分の姿を見る。
女性にしては高身長で、デンドロと同じプラチナブロンドの髪。友人からも羨まれる肌。整った容姿。
——そして、翡翠色の瞳。
私は、この瞳が嫌いだ。
どうせなら、父と同じルビーの瞳が良かった。これは、私にこの恵まれた容姿をくれた、母からの遺伝——
——一時期米国で有名になって、すぐにスキャンダルになってこの世界から消えた、母からの遺伝。
……でも、最近は少し違う。それに、父の言い付けを破ってしまった。
なぜなら、彼の瞳は翡翠色だから。彼の瞳はとても綺麗で……まるで、陰を呑んだ宝石のよう。
私は確かに、彼の瞳に魅せられた。酔った私を介抱してくれた時に、その優しげで、それでいて奥底に闇を秘める瞳を向けられて……私は、人を魅了するモノを売る商売人であるにも関わらず、宝石と相違ない陰のある輝きを放つその瞳に、虜にされてしまった。
多分、リアルも同じ色をしているのでしょうね。
——ヒトの瞳は千変万化だ。汚濁に満ちた瞳もあれば、清純に過ぎる瞳もある。
ヤヨイ君の瞳は、おそらくリアルから変えているのだろう。普段から道化のように振る舞って、それでも隠し切れない奥底には、私達以上に穢れて清きものなど側からいらないと切り捨てた末に辿り着いた瞳がある。それも好ましくはあるけれど、やっぱり、彼の瞳には勝てないかな。
まあ、瞳の他にも、その……色々と、物凄く好みだけど。だって高身長で、物腰柔らかで、それでいて子供っぽさもあるのよ? 高学歴以上にそれが私にはたまらなくドストライクだったわ。本人曰くリアルと同じなんですって。最高ね!
「歳上なのもGOOD……鍛えてるのかモヤシに見えて筋肉質なのも最高……」
特にあの、人に教える時の自慢気に上から覗き込むような目がたまらない。「OK?
「……あら?」
脳内でどうやって彼を仕留めるか計略を巡らせていた頭に、ひとつ、見たことがあるような顔が飛び込んできた。
何かしらと思いつつ、少し視線を動かして——えぇ。
「……これ、は」
“Exclusive coverage! Masaki Sanaki interview alone! It approaches the private life hidden in the brilliant career! ”
——独占取材! 真木正弥単独インタビュー! その輝かしい経歴に隠された私生活に迫る!
「……
ヤヨイ君……あなたまさか、これを狙っていたというの……?
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SNKグループの中核を成す、真木一族。
その中でも現社長の息子であり、トップクラスの地位を持つ真木正弥が、突然今まで拒否してきた雑誌インタビューを快諾し、アメリカ限定で笑顔の彼を表紙にした雑誌が売られることとなる。
その報はアメリカ以外にも駆け抜け——その雑誌は、世界中の富豪たちの目に止まるのであった。
……改めて見るとラトラナジュの乙女回路すごいな!
前半のアホなメルクとの差が激しい。
今回の話で明かされていますが、ラトラナジュのリアルネームはヴィクトリア・アッドマンです。
こっから先はわりと生々しいので見たくない人は上にスクロール!
でもヴィクトリアの根本設定に関わるので耐性がある人は見ておいた方がいいかもしれない。
とある超美人の女優であったヴィクトリア母が調子に乗った末、当時からそれなりの宝石商であったヴィクトリア父を押し倒し、そういうアレを怠っていた末にヴィクトリアを懐妊。
その結果芸能界からバッシングを受け追放され、宗教上の問題で堕ろすことを許されず、片田舎でヴィクトリアを出産。
しかし当時から精神を病んでいた母はヴィクトリアを虐待。その結果母の翡翠色の瞳が、そして自分の翡翠色の瞳が大嫌いになる。
その後手当たり次第に男を漁っていたので性感染症に感染。身体がボロボロになって死亡。一人残されたヴィクトリアにようやく迎えに行けるようになったヴィクトリア父が訪れ、彼女を引き取る。
その後父の家業であった宝石に魅せられ、ヴィクトリアは宝石商となることを決意する。
そして時が流れ、デンドロを始める。
先代【魅売】の爺様に色々と教えられ、元々才能があったラトラナジュは芽吹きかけていたソレを開花。
その後ヤヨイを通して好みドストライクなメルクに出会い、酒の席で介抱してくれたメルクの闇深い翡翠の瞳に完全に虜になる。
交流を通して性格を知り、乙女回路爆発。母譲りの肉食系に進化。でも母の数十倍頭は良いので変なことはやらかさない。