男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□【
——退屈で、刺激的。
一見矛盾した感想に見えるそれが、このお茶会の評価だった。
商人系の超級職の<マスター>との会談は、一部を除いて退屈に過ぎるわ。
おそらくは<エンブリオ>の能力でここまで成り上がったのだろう。私も似たようなものだけれど、リアルでこのような職業の経験があるかないかで圧倒的な差が開く。
「先代にはお世話になりまして……貴女とも、仲良くさせていただきたいですな。公私共々」
ああ、気色が悪い——自分の身体に無遠慮な男の視線が突き刺さるのを感じながら、それらを一切おくびにも出さずに笑顔で対応する。
……自分の肉体が恵まれているのは自覚しているけれど、こうもメルクと差があるのは何故でしょうね。メルクも二人きりの時結構視線が刺さるんだけど、あっちはなんというか心地いい刺さり方と言うか。
もしかして、これが東方のイディオムで言う惚れた弱みってやつなのかしら。
まあそれはともかく、刺激的なのはこちらの方。
寄ってくる<マスター>をするりと抜けて、本業の……魑魅魍魎の渦巻くカルディナで、商人系や生産系の超級職となったティアンの方々と話をするのが、非常に有意義でかつ刺激的だ。
特にこの隙あらば情報を絞り出そうとしてくるのがいいわね!
それを躱してカウンターすると嬉しそうに、憎たらしそうにさらに追い詰めてくるからたまらない。この緊張感こそ格上の相手との舌戦の醍醐味よ……!
「——ふ。<マスター>の青二才と思えば、中々やりおるわ。のう、【
「ええ、もちろん。私は、先代爺様の元で働いていましたから」
「そうか、ならばこの強かさにも納得よな。あるいは向こう側で同じような経験があるのかもしれんが……まあ、いい」
……改めて見るとこのお爺様方怖いわ。なんでこれだけのやり取りでこっちの経歴まで探り当てられるのかしら。
「
「いいえ、それだけで済ませるつもりはないわよ、お爺様方。私は、あの人の教えを私のものとして、その先へと進む。継ぐだけで終わるなんて、そんなのつまらないし……何より、私自身が許さないもの」
私の……ラトラナジュとしての、ヴィクトリア・アッドマンとしての誇りにかけて。
「カカ。なるほど、自分自身が許せんか。うむ、良き心構えじゃ——己が生粋の美人なのを理解しているのも、好印象じゃて」
「あら、<マスター>は好きなように容姿を変えられるのよ? それを信用してもいいのかしら?」
「向こうで恵まれぬ容姿なのであろう者のことなど、すぐにわかる。お主はおそらく、向こう側でも男に好まれる容姿をしているのだろうな。下卑た目付きに向ける瞳に、諦観と怒りと誇りの色が混ざっておったぞ」
「……さすが」
人物眼も、私とは比べ物にならない。商人として格上の存在。だからこそ学ぶものは多い。
あくまでも父の会社は、それなりに大きいだけだ。だからこういうパーティーに出席する機会は少なかった。けれどこちらの世界では私は【魅売】、宝石商の頂点。
だからこそ、私はこちらの世界で経験を磨き、リアルでヤヨイ君の……SNKグループという、今までなら手の届かなかった世界でも、通用するようになってみせる。
何より、彼の顔に泥を塗りたくはないし……それなりに大きい程度では、メルクに見合わないものね。
「今後とも、ご教授をお願いするわね」
「儂らが無償でするとでも?」
「まさか。最大限、便宜を図らせてもらいますとも」
パフォーマンスの意味を込めて、そうね。
他から見えない位置ということを確認……ついでに《看破》などで隠れているものがないか確認する。
よし、っと。
机の上に手を置き、《ジュエル・ボックス》から最低品質の小粒の宝石を広げる。
不可解そうな目でこちらを見る御老公にウィンクして……準備完了。
「《
——この日。
私は、カルディナの有力な商会の会長との、確かなツテを得たのだった。
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それで、私は家に戻った、のだけれど。
「うぷ……もう飲めない……むり……」
「おい待てそろそろメルクが死ぬ、俺が付き合うから待てやめろぉー!」
「あはー、まだ行けるでしょほらほらほらぁ!」
「がぽぽぽ」
「メルクが酒で溺れてるーっ!? あっ、ちょうど良かったラトラナジュ、メルクを引き離して介抱してやってくれ!」
……なにこの地獄絵図?
とりあえずメルクを引き離して甘やかしたけれど……あの、何か一人増えてない?
まだ秘密。