男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
エンブリオの名前に聞き覚えがある方、投稿したの僕ですから大丈夫です。
□<コレッタル森林> ???
(な、なんだ、あれ。まさか、<エンブリオ>が……?)
男は混乱の極地にあった。
なにせ、ここまで来れる程度のマスターならばとっくに孵化しているはずの<エンブリオ>が、今この瞬間目の前で孵化したのだから。しかもその姿は、美しい少女の姿をしている。
第三形態に進化したとはいえ、まだ男はルーキーである。
その<エンブリオ>のTYPEと、そしてそのTYPEが得意とすることを知らないのも無理はなかったが……それでもこの場においては、それは悪手である。
「くそっ、とっとと死ね!」
そうだ、相手はまだ目覚めたばかり。第三形態の自分ならば負けることはないと、自らの<エンブリオ>の引き金を引いた。
——彼の<エンブリオ>は、アサルトライフル型のTYPE:アームズである。
ステータス補正は少ないが、代わりにスキルが強力で、今までこのスキルを使って数多の
彼の<エンブリオ>は、防具破壊と行動妨害に特化している。
わずかでも防具に飛び散った散弾が食い込めば、それが連鎖的に爆発して行動を縛り、その上で防具を破壊する。彼の『弱者を嬲りたい』という歪んだパーソナルから生まれたものだが、普通にパーティーを組んでいれば、妨害役として役に立てたかもしれない。
しかし男がパーティーを組むことはなく、ただただ初心者狩りに用いられていた。初心者ならば簡単に防具に食い込むし、それによって連鎖爆破で吹っ飛ばし、嬲り殺せるからだ。
(当たった時点でおまえとその<エンブリオ>は行動を縛られる! そこに何度も打ち込めば終わりだ!)
確かにそれが、並大抵の初心者であればいつも通り殺害できたであろう。
——けれど、彼の眼前にいるのは、ただのルーキーではなかった。
「防げるな?」
「当然」
ごく当たり前のように二人はそう確認し、アルマが一歩前に出る。
そして片手を男に向け、
「《リキッドメタルモード》」
と、そう唱えた。
そしてその瞬間、どろりと輪郭を崩した少女の手がヤヨイと少女の前方を覆う。
円盤型に広がった、金属のようにも見える光を反射する彼女の腕は、散らばった弾丸をひとつも食い込ませることなく全て弾いた。
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を出すが、ヤヨイと少女はそんな男に目もくれず広がった腕を見て何か話している。
「液体金属になれるのか。けど、ぐにゃぐにゃ動いてるのはどうやってんだ?」
「そっちは《メタモルフォーゼ》の効果。《リキッドメタルモード》で金属化できる私の変形・移動・固定を司るスキル。第一形態だから、まだこれだけ。でも、あんまりスキルの数は増えないと思う」
「……なるほど、つまりこういうことか」
次はヤヨイが前に出る。男はすかさず発砲するが——それがヤヨイに着弾する前に、ヤヨイが振るった銀色の大剣で全て弾き飛ばされた。
『《メタモルフォーゼ》で、大剣にカタチを固定した。これで、良い?』
「良いね、俺にピッタリだ。あと、俺の思考に合わせて形を変えられる?」
『可能』
「さすが」
短く会話をすると——ヤヨイが、大剣となった少女を構えてこちらに突っ込んできた。
男は慌てて発砲するが、その全てを大剣、長剣、短剣……様々な形に変わる液体金属に阻まれる。その全てを一瞬で使いこなすヤヨイは、余裕の表情で男に接近した。
「ひ、く、くるなあああああ!!!」
『出鱈目』
盾に変形した少女によって、苦し紛れの発砲も全てが阻まれ……
「悪いけど俺、人を甚振る趣味はないんだ。
——じゃあな」
一振り。
瞬く間に長剣と化した少女使い、ヤヨイは男の首を切り落とす。傷痍系状態異常によって男は即死し……周辺で指名手配されていたために、街に戻ることなく“監獄”へと転送されたのだった。
/
……初めて人を殺したが、爽快感なんて何もないな。
『当たり前』
「簡潔な一言どうも」
さて、<エンブリオ>は目覚めたわけだが……これからどうすれば良いのか。レベリング続行?
いや、その前に自己紹介か。銀色の長剣を地面に突き立て、それが光を発生させながら人型に戻るのを確認して、手を差し出す。
「とりあえず、俺はヤヨイ・ベルダーウッド。今は【闘士】だ」
「知ってる」
少女が自らの手と俺の手を合わせ、握手した。
「私は、アルマトゥーラ。TYPE:メイデンwithチャリオッツの<エンブリオ>、貴方の心から生まれたもの。
……あまり喋るのは、好きじゃない。アルマと呼んで」
それだけ言うと、少女——アルマは、ほんの少しだけ微笑んだ。
そのあと、俺とアルマは確認作業に勤しんだ。
<エンブリオ>補正が入った分のステータスの確認、アルマのスキルの確認、ステータス補正、その他諸々色々と確認した。
ちなみにアルマのステータスはこんな感じだ。
アルマトゥーラ
TYPE:メイデンwithチャリオッツ
到達形態:Ⅰ
装備攻撃力:10
装備防御力:60
ステータス補正
HP補正:C
MP補正:G
SP補正:E
STR補正:D
AGI補正:G
END補正:C
DEX補正:E
LUC補正:F
俺のパーソナルを反映したためか、攻撃力よりも防御力に比重が置かれている。特にステータス補正なんてHPとEND以外ほぼ壊滅的だ。これは第一形態だからかもしれないが、アルマ曰く「<エンブリオ>はステータスかスキルのどちらかに比重が傾いている。私は微妙にスキル方向」とのこと。
何故微妙、というのは、次の項目を見つけて納得した。
『保有スキル』
《リキッドメタルモード》Lv1:
<エンブリオ>の肉体をスライム体の液体金属に置換する。置換した部位を失った場合、<マスター>のMPを消費して再生する。
《物理攻撃無効》、《液状生命体》を複合している。
Lv1だとアルマの体積分の質量・重量の液体金属に置換される。
アクティブスキル
《メタモルフォーゼ》:
液体金属化した肉体を操作する。形状の変化・固定の動作を行える。基本的にどんな形状にも変化が可能だが、質量が足りない場合は変化は不可能。
アクティブスキル
……非常に強い。
俺が頑丈さを求めた上で、俺が多種多様な武器を使うということを踏まえた上でのスキル構成。俺自身の長所を活かし、短所を埋める素晴らしい<エンブリオ>である。ごめんね昔ポンコツとか言って。
「ふふん」
そして、だからこそ微妙と言っていたのだろう。
俺の万能性を再現する上で、下級ではリソースが足りなかった。スキル方面にリソースをつぎ込むことでここまでのスキルを発現させたが、反面ステータス補正は控えめだ。いやむしろ、これだけの万能性を確保した上でまともなステータス補正があることの感謝すべきか。
「これからの生活にもよるけれど、多分、これからはステータスが増えていく。スキルはほとんど増えない……かも」
「断定できないのな」
「当たり前。私はマスターに合わせて無限の可能性を秘めるもの、無数の進化の中から道を断定なんてできるわけない」
そりゃそうか。まあそれはお楽しみに取っておくことにしよう。
だからそう、一先ずは——
「アルマ、いけるか?」
「当然」
俺の手に刻まれた、スライムと戯れる少女のような紋章から目を離し、アルマの変化した双剣を翳す。
迫ってくる【バグイーター】を視界に収めて、景気付けに一発首を切り落とした。
予想外の出来事はあったが、それでも目標は変わらない。
今日中にレベル50、一気に行こう!
なお、アルマは盾にも変形可能だったことをここに記しておく。万能かよ、便利だけど。
——情報掲示——
【装甲乙女 アルマトゥーラ】
TYPE:メイデンwithチャリオッツ
モチーフ:鎧を表すラテン語「アルマトゥーラ」
特性:汎用性特化型
ヤヨイの才能の容量を、全て活かすために生まれた<エンブリオ>。非常に麗しい少女の姿をしているが、喋ることが好きではないため独特な口調で話す。(ヤヨイと話すときはわりと饒舌)
スキルの都合上、《リキッドメタルモード》発動時に体重について考えると殴られる。なおその重量はヤヨイにはほとんど感じさせず敵対対象にのみ効果的に作用する。
「汎用性特化型」という手数に特化した特性を持ち、ありとあらゆる状況に大凡対応できるが、極まった一点特化型には不利を強いられることもある。
ただし数多の引き出しがあるゆえに、それらを組み合わせて予想外の手札を創り出すことも可能。逆に言えばその状況に対応した適切なカードを切らなければならない極度の判断力を必要とするじゃじゃ馬でもある。
総じて手数の多さでヤヨイの才覚に頼り切っており、目立つ特殊能力はない。
……しかし到達段階が上昇するごとに変化できる液体金属の質量・重量ともに増幅するため、将来的にはまた話は別……かもしれない。
メイデンに共通するジャイアントキリングは、アルマの場合は「無数の手札を持つのならば、それすなわちどんな相手の弱点でも突ける=勝てる」という暴論である。
なお、元々はヤヨイの病弱であるパーソナルを解決するために「病の支配(ステータス補正の一切を捨て、ヤヨイが立っているだけで相手の殲滅を可能とし、自分にはウイルスなどが一切効かなくなる。ヤヨイの万能性をある程度歪曲させたもの。キャンディの天敵)」を可能とする<エンブリオ>になる予定だったが、それはENDを上げれば解決できることを知ったために捻れた結果「ヤヨイの耐久ステータスを限界ギリギリまで上げた上で」「ヤヨイの万能性」を再現した<エンブリオ>となった。