男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第11話 進化・歪みの音

 □【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

「ありがとな、ラトラナジュ。早く呼んでくれて」

 

 アルマが入った紋章を撫でる。まさかこんな突然来るとはな。

 

「私にはそれしかできなかったからね……それで、こうなったってことは」

 

「進化だろうな」

 

「メイデンは難儀ね、進化の時に体調不良みたいな症状が出るなんて」

 

 おそらくはアルマを心配しているのだろう、俺の腕に引っ付いてくるカーバンクルにクッキーをやりながら頷いた。

 

「まあ、それもアルマは受け入れているだろう。俺もどうにかできるならしてやりたいが」

 

 でもメイデンの体調不良なんて聞いたことがない。だから、そもそもそれを治す方法も開発されていない。錬金術師で薬もある程度使えるメルクにも頼んでみたが……。

 

「鎮痛剤も効き目なし、色々と手を施しても頭痛はずっと続いている、と。調合した薬も飲ませてみたけど、効果がないね」

 

 と、こんな感じだった。つまりアルマは耐えるしかなく、俺たちは見守るしかないのだ。

 

「……アルマは気にしてない風だけど、なんでそんなのになったんだろうなぁ」

 

 改めて考えると妙だ。俺に頭痛の持病はないし、病弱だからと言ってそうなるものか? 

 デンドロのシステムはわからないことだらけだ。思えばスパコンを弾くセキュリティAIが存在する時点でおかしいのに、こんなAIが頭痛なんていうものを発症するのがおかしい。

 

 演算能力の暴走? 進化の負担がアルマの演算能力を超えるレベルにまで大きいのか? 

 それとも何か——俺の認知できない理由があるのか? 

 

「……これは、仮説だけど」

 

 ……ん? 

 

「ヤヨイ君は、リアルで虚弱なんだよね」

 

「……ああ」

 

「で、デンドロではそれを克服し、病に絶対に罹らないためにENDを上げていると。

 ……僕の知り合いに、いるんだよね。本来<エンブリオ>は所有者の願望を叶えるために生まれてくる。けど、デンドロのシステムだけでそれを解決してしまった場合、<エンブリオ>が捻れて生まれてくるっていうのが」

 

 捻れて、生まれる? 

 つまり——

 

「本来なら——」

 

「——本来なら生まれてくる形ではなく、捻れた結果が今のアルマ……と?」

 

「うん。察しが良いのは好きだよ、僕は」

 

 だけど——

 

「でも、それじゃあアルマちゃんの進化の予兆がこうなった理由にはならないわよ。アルマちゃんのルーツは知ることができたとしても、それは今の話には繋がらないわ」

 

「違うよラトラナジュ。確かに直結はせずとも、間接的には繋がっているんだ。

 おそらくだけど……アルマちゃんは、無理に<エンブリオ>が本来の形、察するに病原体をどうにかするのだろう形から無理に今に変えたせいで、フィードバックが来てるんじゃないだろうか」

 

 フィードバック。跳ね返り。

 つまり、なんだ。アルマの頭痛は、

 

「……俺が原因ってことか」

 

「あくまで仮説さ。もしかしたら理由なんてないのかもしれないし、他の理由があるのかもしれない。どちらにせよ僕らにはどうすることもできない、文字通り管理AI()の領域の話だ。

 僕が言いたいのは、気にするなってことだよヤヨイ君。君の今の在り方を他ならぬアルマちゃんと君自身が定めた以上、それは避けられぬデメリット……すなわち代償だ」

 

 俺を諭すように、メルクは言う。

 

「アルマちゃんだって君のことは恨んじゃいない。と言うか、君の<エンブリオ>だからと誇りにすら思っているようだった。まあ頭痛そのものは嫌らしいけど、見当違いの自責に苛まれるのも良くないぜ、君」

 

 ……こういうところはさすが年上って感じなのかなあ。俺も結構な社会の荒波に揉まれてるけど、近しい人の闇に呑まれてるのがメルクで、親しい人間に対してはメルクの方が一日の長がある。

 ラトラナジュも、おそらく親族関係で嫌なこと背負ってるみたいだけど……これに関しては、純粋な頭の回転と、精神が脆かった状態から叩き上げられたメルクの方が詳しいらしい。

 

「……OK。俺もしっかり受け止めるさ」

 

それならよろしい(That's fine)

 

 あっ、こいつ俺の真似したな。こんにゃろう。

 

「……ホント、メルクは凄いわね。私は何もできなかったわー」

 

「こればっかりは人生経験がモノを言うからね。社会に揉まれてても家族から愛されてたヤヨイ君、社会を生き抜けても……あー、片割れの愛情を受けていないラトラナジュ、そしてヤヨイ君と親友であってもおそらくは社会でも家族でも苦労していないであろうカグラ君。

 僕はまあ、色んな事情があって、その上で本人じゃなかったからこう言えただけさ。これでも医者の卵だから、人の気持ちを察するのは得意なの」

 

 その割には側にいる肉食系の捕食本能を察せられずにいるけどな。

 けど、まあ……そうだ。

 

 俺は、友人に恵まれた。それも、一生を共にしても良いとさえ思えるほどの親友たち。

 

 今回は役に立たなかったけど、カグラ。

 

 俺をデンドロでのロボットの道を知らせてくれて、打算もなしに付き合ってくれるお人好し……メルク。

 

 打算も腹芸もあるけれど、誠実で、お人好しで、何より逆境であろうとも笑って進める強い人、ラトラナジュ。

 

 彼らに報いるためならば、俺はどこまでだって進んでいける。

 

「ありがとう、二人とも」

 

 アルマの歪みも、俺の歪みも、全て受け入れ先に進もう。

 

 それこそが、俺にできる、彼らへの酬だから。

 

 

 /

 

 

 翌日。

 

 アルマは、第五形態に進化した。

 特別なスキルも何もない。ただ単純な力の増強。

 

 硬さと、質量と、重さを大きく増幅させて……アルマは目覚めた。

 

「アルマ」

 

「……ん?」

 

 ベッドの中で、まだ微睡みの中にいるらしい彼女の頭を撫でて、俺は新たに誓いを立てる。

 

「早く<超級>になろう。そうすれば、もうこんな頭痛、経験しなくていいだろう?」

 

「……ん。わたしとますたーなら、どこまでも……すぅ」

 

 ……寝ちゃった。

 でも、アルマに告げたこの誓いは、確かに彼女と俺自身に刻まれている。

 

 あとはそれを、果たすだけだ。

 そのためならば——どんな壁でも乗り越えよう。

 

 誰であれ、……何であれ、全てを。




明日……正確には今日ですが、投稿できないかもしれません。

あと、カグラの印象がまだ薄いと思いますが、もちろんそこも補う予定ですのでご心配なく。
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