男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第13話 怪物は神の意志のまま

 ——コツ、コツ、コツ。

 暗く、一片の光もない洞窟に、何者かの靴音が反響する。

 

「試練とは、何か」

 

 傍に誰もいないのに、何者かは静かに囁く。

 

「不思議なものだ。まさか、<SUBM>でもないただの神話級<UBM>を、私用で起こすことになるとはな」

 

 そう言った何者か——この世界の管理者であり、あるいは神と呼ばれ、あるいは<無限(インフィニット)エンブリオ>と呼ばれる存在のひとりである管理AI4号・ジャバウォックは、薄く微笑んだ。

 

「いや、ただの<UBM>ではなかったな」

 

 どちらも成長限界である100に到達しており。

 ——あるいは此度の戦で、お互いを倒すことができれば<SUBM>へと至るかもしれない逸材である。

 

 もしもヤヨイや、他の<マスター>が倒すことができずとも、どちらか一方が一方を打破できればそれだけ貴重な<SUBM>が生まれるかもしれない損がない戦いだ。

 

 ……できればヤヨイに倒してもらいたいところであるが。片方は他の<マスター>に任せるとしても。

 

「彼の<エンブリオ>ならば可能性はある。アレは、現在“最強”と呼ばれている<超級エンブリオ>とは別ベクトルで異質なものだからな」

 

 ヤヨイ自身の元天災児(ハイエンド)の才を完璧に活かせる液体金属の、恐ろしいほどの汎用性を持つ肉体。

 そしてそれをヤヨイの発想でおかしな方向へと進化させていく。これほど彼に合った<エンブリオ>もないだろう。彼自身から生まれた<エンブリオ>ゆえ、当然かもしれないが。

 

「もしも他の<超級>が先に倒してしまった場合は、どちらの得にもならないが。それはどうにかするだろう」

 

 そしてヤヨイ自身の気質から言って他人任せにするほど嫌なことはないはずだ。彼ならば自分で倒そうとするだろうし、それを助ける意思のある仲間もいる。

 

 ならばそれに任せる他ないと、ジャバウォックは冷静に考えて、歩みを進めた。

 

 

 ——やがて洞窟の奥、巨大な何かが安置されている場所にたどり着いたジャバウォックは、その異形の手で目前にあるソレをコンコンとノックする。

 

「起きたまえ。仕事が待っているぞ」

 

 ジ、とジャバウォックの手が光に包まれる。途端、小さな揺れが響いた。

 

『……なんじゃあ。わしは、眠っておったはずじゃがのぉ』

 

「それを私が起こしたのだ。身体は動かすなよ、動かせば地上の<マスター>に感づかれる」

 

『……あ? お主は……確か、ジャバウォックとか名乗っておったか』

 

 どうやら面識があるようで、巨大なナニカの瞳が開く。

 刹那、圧倒的な威圧感が撒き散らされるが、ジャバウォックは涼しい顔をしたままだった。それを見て無駄だと悟ったのか、殺気をしまいこむ。

 

『……何の用だ。わしを殺しに来たのか?』

 

「違う。私は君にしてもらいたいことがあるため、足を運んだ」

 

『仕事ォ? わしらが眠る前、わざわざ接触してきて頭おかしいこと嘯いとったお主がかァ?』

 

 曰く、「存分に眠ると良い。君たちはもう成長限界に達しているから、あとは壁を越えれば晴れて<SUBM>だ。頑張ると良い、期待している」などとわざわざ嘯いて去っていったと、ソレは訝しげに言う。

 

 ジャバウォック自身変なことをしていると言う自覚はあるのか、眼鏡を一度かちゃりと上にあげただけで何も言わなかった。

 

「話を戻すが、君にはとある<マスター>……特殊な能力を持つ不死身の存在と、一度全力で戦ってもらいたい」

 

『……なんぞ、猫の何某かのような輩だのぉ。で、わしがそれを受けるメリットは?』

 

「もしもその<マスター>を倒した場合、誰にも邪魔できない決闘場を与える。そこで思う存分、片割れと死合うといいだろう」

 

 ソレは少し考える。これは嘘を吐いている気配はないし、自分は早々負けはしないだろう。切り札も腹の中で完全に練り終わったところだし、前座だと考えれば悪くはない。

 不死身と言うのが引っかかるが、誰にも邪魔できないなら不死であろうと関係ないだろう。

 

『……わかった。受けてやる』

 

「やはり話が通じるタイプは助かるな」

 

『で、期日は?』

 

 ジャバウォックは懐から懐中時計を取り出すと、ソレの前に放り投げる。

 

「その長い方の針が二周した時だ。地上に出て、好きに暴れろ。前に立った者は全て殺して構わない」

 

『おまえさんがわしと戦わせたい輩が、その中に混じっとる場合は?』

 

「その時も報酬は与える。一般<マスター>のようには行かないだろうが」

 

 なるほど大層自信があるようだ、ならば少しは期待できるかもしれないとソレは考える。

 

『ああ、わかったわい。まあまだ寝足りんから期限まで寝させてもらうがのぉ』

 

「……期限は守ってもらいたいものだが、まあ、良い。それではな」

 

 そう言ってジャバウォックは去っていく。

 

 ソレは……伝承に唄われる竜王、【山竜王 ドラグベルグ】は、鼻息を立ててもう一度眠りについた。

 近づく決戦の日に、胸が踊るのを感じながら。

 

 

 /

 

 

 そこは、カルディナでも珍しいある程度の大きさのオアシスと、果物生い茂る木が立ち並ぶ地帯。

 本来ならカルディナの人間によって新たなる都市として開発されてもおかしくない、優良な立地だが……それは、その地に蔓延る猿どもを駆除できればの話である。

 

【ハイエンド・デザート・モンキー】が統率し、その下に【ハイ・デザート・モンキー】と【デザート・モンキー】が彼らの指揮の元群をなし、合計数百体規模の群れとして……しかしティアンらに迷惑をかけることなく、それどころか他のモンスターを狩っていたことから、他の都市の人々からは恐れられつつも討伐依頼を出されることなく存在していた。

 

 しかし彼らはそんな崇高な存在ではなく、今も群れを率い、そして眠っているとある<UBM>の言い付けを守っていただけだった。

 

 ——そして、今。

 その王が、目覚めた。

 

『おお、竜王よ。目覚めたか。おお、なんと良き日か』

 

『王よ』

 

『ああ、そうであるな。奴が動き始めた時こそ、我らも出陣する時である』

 

 その<UBM>の名は、【砂猿王 モナブリム】。

 かの竜王と同じく神話に伝えられる……神話級最上位の、双王の片割れであった。

 

 

 かくして役者は揃った。

 人と竜と猿。三者三様、為れど彼らは皆、神の手の内にて踊る。

 

 しかし、その想定を超えてはならないと言う理屈はない。

 のちに《猛き双王、神話の激突》と伝えられる大事件は、こうして幕を開けた。




皆、好きな作品に感想を送るのだ。
モチベーションが湧いてきてめちゃくちゃ書くようになるぞ……いや、ホント。有難い上にとても嬉しいので、一言だけでも助かるのです。

さて、これで四章最終に入りました。
ヤヨイらがどうやってこの災厄らを払うのか、見ていただけると嬉しいです。
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