男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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遅れて申し訳ない、今日は一日車の中だったんだ……。


第15話 会敵・根回し・金巡り

 ——広大な砂漠を、竜は征く。

 ジャバウォックとの契約により、時計の針が二周する寸前に目覚めた竜王は、周辺の大地を盛り上げて地上へと出現した。

 

 そうして、契約によって誰かを殺すために一番大きな街へと進行しているのだが。

 

『なんじゃこいつら……数百年前とは、えらい違いだのう』

 

 大地を踏みしめ地鳴りを起こす竜王の足。それを攻撃する者たち——<マスター>の力を、竜王は何の痛痒も感じずとも脅威には感じていた。

 数百年前なら、選ばれた存在しか辿り着けない領域のはずのその力。それがこれだけの数いて、そしてもっと強い存在がいることを竜王の歴戦の勘は訴えかけていた。

 

『……これが<マスター>というやつか。これほどの力を持つ者たちが跋扈する……こりゃ、眠りすぎたかのー』

 

 呑気な声を出しながら、しかし全身に《竜王気》を漲らせ、あらゆる攻撃をシャットアウトしつつ進んでいく。

 凡百な<マスター>は、《竜王気》によってコーティングされた巨大な足が大地を踏みしめることによって発生した衝撃波に巻き込まれ、塵芥のように散っていく。

 

 竜王はそれを気にかけることなく、ドラグノマドへと歩を進める。

 

『母はピンピンしとるようじゃの。ま、戻る気はないが』

 

【山竜王 ドラグベルグ】は、【地竜王 マザードラグランド】の子である。だが彼自身は、母から見て自分は不良息子であることを自覚していた。

 地竜種最強である母に近しい存在として生まれ、力を磨き、そして神話級<UBM>となった。そして宿敵と出会い、母の言葉にも耳を貸さず、猿との戦いに明け暮れた。

 正直、母からしてみれば自分は一発ぶん殴られても仕方ないだろう。自分が出陣しなかった戦いで、同じ母より生まれし同格の<UBM>【金竜王 ドラグメタル】が死亡したことを鑑みれば。

 

(ま、あの戦いにわしが出たところで奴と同じく一撃で殺されただけじゃろうな。あのガーゴイルは、間違いなく母と同格)

 

 あの熱線。兄弟を容易く砕いた想像を絶する強度。どれも自分の身体を焼却し、(リソース)へと還すことも容易だろう。あの後何者かに回収された……おそらくはあのジャバウォックによるものだろうが、いずれにせよあの力は世界には重すぎる。

 

 もしも宿敵——【砂猿王 モナブリム】を打倒すれば、自分もその域に至れるのだろうか。竜王はらしくない夢想に身を任せ、数百年ぶりの砂漠を走破していくが——

 

 

『あー、テステス。聞こえてますかー?』

 

 

 ——なんかアホそうな声が聞こえてきた。

 

『……なんじゃ?』

 

『ん、喋れるのか。なら好都合、はい、首を下に向けてー……いやホントデカイなぁ!』

 

 言われた通り首を下に向けて、目を細める。

 今の声の主人はなんだと、そう砂漠を見渡して……少し、それこそ足を踏み出せば踏み潰せそうなくらいの大きさの何か黒いものがこちらを見ていることに気付いた。

 

『わしは、急いでおるんだがの。何用じゃ』

 

『……なんて言えばいいのかな。んー……あぁ、まぁ、これで行こう』

 

 その黒いもの——【ブラック・デンドロン】に乗り込んでいるヤヨイは、《天属性付与》の遠隔音響によって、遥か格上にふざけた口調でこう告げた。

 

 

『簡単に行こうか。

 てめえをぶっ殺す、そのために俺は此処に来た!』

 

 

 /

 

 

「……まったく。ヤヨイ君は正々堂々が好きなのかなあ?」

 

 ホムンクルスとの視覚同調で、ヤヨイ君の喧嘩を売る様子を見た僕は、呆れ混じりにそう言葉が漏れた。

 まあ、それも彼の美徳なんだろうけどね。こうやってふざけたように話しているうちに何やら仕込んでいるようだし。聞いてもはぐらかされたけども。

 

「さて、それじゃあ僕は、彼らが全力で戦えるように根回しするとしますか」

 

 カグラ君も、もう少しで例の猿軍団と接触する。それまでにファトゥムやらに沈められないようにするしかない。まあ竜王に比べれば良くも悪くもインパクトは薄いけれども……。

 

 周辺環境はラトラナジュが任せてほしいって申し出てきたし、そっちは彼女に任せよう。

 

「——聞いたかい、僕の可愛い娘たち(メッセンジャー)

 

「「「YES。聞き届けました、MASTER」」」

 

 見た目もこだわり、声もこだわり、即座に殺されないよう特殊なスキルを積んで量産体制を整えた。

 僕の仕事は見守ること。別にもう特典武具は欲しくないし、彼らにあげちゃってもいいと思うのだ。

 

 彼らが死ぬならそれでいい。それならそれで育つだろうし。

 だけどその邪魔をするのは許さない。僕の友達の邪魔なんてさせるものか。

 

「さ、行きなさい。僕の声を届けてくれ。僕の意思を伝えるために」

 

 そう言って窓から羽ばたくメッセンジャーたち。天使型にしたのは正解だったかな、見栄えが良いものね。

 

 もうこれで僕の仕事は終わった。あとは彼らの結果を待つだけだ。

 

「頑張ってね、ヤヨイ君、カグラ君」

 

 

 /

 

 

 眼前の不動産屋の爺が狼狽えるのを、少し楽しげに見つめる。

 

「ほ、本当に、この金額で買い取ってくれるんですかい」

 

「ええ。あの土地を手放せるのなら本望でしょう?」

 

 なにせ何の得もない土地ですものね。

 神話級<UBM>が眠っていた、凶暴な猿の群生する土地なんて。

 

 ヤヨイ君製のアクセサリーによって私には金がある。……もちろん宝石単品のやりとりもするわよ? どっちも私の金稼ぎの重要なファクターを占めているわ。

 

 ……話を戻すけれど、あの土地は本当に所有者に対して得がない。凶暴な猿が群生し、今は迷惑どころか利益をもたらしてくれるけれどそれもいつ反転するかわからないし、その場合誹りの槍玉にあげられるのは間違いなくこの土地を所有する不動産屋だ。

 それで私は、総資産の一割を切ってこの土地を不動産屋から購入した。あのオアシスの立地からして本来なら私の総資産の10倍以上の価値があるから、ある意味得だったと言えるかしら。

 

「あ、ありがとうごぜえます。助かりやした」

 

「いえ、こちらも良い取引でしたわ。これからも良い関係を、ね?」

 

 わずかに微笑んでウィンクをすると、もう60近いはずの爺が顔を赤らめるのが見えた。お盛んねー、私は抱かれる気はまったくないけど。

 

 土地の所有権が記された本物の権利書をもらい、盗難対策の施されたアイテムボックスに入れて上機嫌で店を出る。これでカグラ君が負けたりしたら残念だけど、まあ彼も彼で規格外だから大丈夫でしょう。いざという時はメルクに<セフィロト>やらが出るでしょうし。

 

 ……そう。本来なら、この土地はこのまま持っていれば大きな利益を生み出す夢の場所となれた。

 でも【山竜王】の出現により、大きさという意味でインパクトに欠けている【砂猿王】が目覚めて猿を率いて土地を出たのを、土地を管理する手段もない不動産屋の爺は気付かなかった。

 

 いわば情報弱者。私はメルクのおかげで気付けて大急ぎで向かったことで買うことができたけど、もう少し遅れていたら不動産屋の爺も気付いてたかもしれないわね。もう手遅れだけど。

 多分【山竜王】が目覚めた時には大商会の老獪な翁も気付いていたと思うけど、フットワークが軽い分私が一歩早かったってわけ。

 

「これで未来展望の足掛けはゲット、と。あとは邪魔者が入らないように手配するだけね」

 

 こういうビッグイベントの時は、大概大きな金が動く。

 そして私はその流れに乗って金を儲ける。そうね、ヤヨイ君が勝ったら彼のアクセサリーを神話級撃破の英雄印で売り出そうかしら。きっと売れるわよ、彼、顔はすごく良いし。

 

 私はただの宝石商として終わるつもりはない。

 自らの分を弁えつつ、時折静かに大胆に、この世界で商売を学び上へと上がっていく。私にはその力がある。

 ……ヤヨイ君に「欲張りすぎると破産するぞー」と冗談混じりに、けれど半分は本気で警告されたから気をつけるけどね。

 

「依頼は『神話級激闘の場に乱入するモンスターの討伐』っと。報酬は……狩ったモンスターの素材全提供と多額の金銭。依頼主は【魅売(チャーム・バイヤー)】ラトラナジュ」

 

 もちろんこれで馬鹿が湧くことも想定済み。そうでなければつまらないもの。

 それで、想定通り馬鹿が湧いたら——そうね。

 

「必殺スキルの錆にしてやろうかしら、ふふふ」

 

 仕事も義務もこなした後に趣味の利益を求めてこそ、一流の商人ですものね? 

 

 

 /

 

 

「ふぅ……もう少しで開戦かな、遠くで土煙が舞ってるし」

 

 アレが例の【砂猿王】の大群かな。僕が一番乗りってやつ? なんだかちょっと嬉しいな。

 

 さてさてさーて、こんな大役自分から申し出た以上、期待を超えるっきゃないよねぇ! 

 

「あ、ちゃんと撮ってねー」

 

 空を飛ぶ動画撮影用のホムンクルスたちに呼びかけて、手を振る。僕こういうパフォーマンス大好き。

 

 だって、そうだろ? 

 

「——人に見られてこそ、超一流のパフォーマーってね」

 

 さあ、来るがいい。

 僕がもっと輝くために——正弥と誓った約束を守るために。

 

 君たちには悪いけど、僕の刀の錆となってもらおうか!

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