男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□【
やってるねぇ、ヤヨイ。派手で楽しそうだ。
——っと。
「見えた」
目視できる距離まで近づいてきた敵影。
あれが猿王——【砂猿王 モナブリム】と、その配下100の猿。どうやら猿山にある程度残してきたみたいだね。メルクによるとあと数百は猿山で待機しているようだし。
気付いてくれるといいんだけどなー。《踊り子の誘惑》が効くかどうかが最初の関門。
果たしてその賭けは、近づいてきた猿たちが僕から目を離せなくなった時点で僕の勝ちと決定した。100匹全部勘定に入れると……うん、良い感じになりそう。
土煙を立てながらの進軍を中断したらしい猿たちは、何か困惑の表情で僕を見る。
そりゃあ、脆弱な人間がこんな堂々と立ち塞がってたら気にもなるよね。教えてやんないけど。
……出てきた。あれが猿王か。
大きさは5メテルほど、全身に効率的に絞られた筋肉をはち切れんばかりにまとっており、その丸太のような手足が僕の身体に触れれば、貧弱なHPを全て消し飛ばすだろう。
『——何用だ、弱きもの。そのような妙な気配を漂わせて、挑発しているつもりか?』
「んー、まあそんなところかなー?」
変な気配ってどんな気配だろうねー。色気だったら笑えるんだけどな、まあ冗談通じる雰囲気じゃないか。
「簡単に言っちゃうと、キミたちをぶち殺しにきました」
ざわり、と配下の猿が喚く。しかし知性を感じさせる赤い瞳を持つ王は、その言葉にも一切揺らがなかった。
『やれると思っているのか。我は今、かの竜王との戦いに赴く途中なのだ。ゆえに少々、気が立っている』
「ああ、その竜王は僕の友達がぶち殺すから。キミも安心して死ぬといい」
ヤヨイならば倒すだろう。彼はそういう男だと、僕は誰よりも知っている。
そしてその友である僕は、この大役を完全にこなすのみ。
——ああそうだとも。これくらいの窮地、乗り越えてこその
《瞬間装備》で袴の上を外す。袴は天地出身の職人に作ってもらった、僕専用の演舞を前提とするものだ。良い素材を使っているから天狗討伐の報酬が五割消し飛んだけど、それに値する性能はある。
僕が服を脱いだことでスキルのトリガーが引かれ、【奉納神楽殿 アメノウズメ】の三つのスキルが発動する。
【アメノウズメ】のスキルは、全てが肌の露出度によって発動が決まる。
ゆえに装備による防御力の補正は期待できず、スキルによる加算も一切ない。彼どころか配下の猿の攻撃を食らっただけでも死ぬだろう。
——まあ、そのために第一スキルが……《
『グ』
ああ、判定が来たみたいだね。猿王自身は問題なくレジストしたみたいだけど、配下の猿は今の判定で13体は【魅了】できた。ずっとこちらを惚けるように見ている。
これだ。この視線。良いね、良いね、この肌を這い回るような視線。
嫌悪と疼きと、そして自分は見られているのだという自覚から生まれる興奮。本来好ましくないはずの感触が、何故か僕には昔から心地良いものに感じられた。
多分、天孫だとか——女神の末裔だとか、そんな風に言い伝えられてきたからだろう。
間違いなく変人奇人の類。僕自身それを自覚していて、だからこそ僕は躊躇わない。
『なるほどな。汝は、我が最後の決戦に赴く前の最後の試練ということか』
「そうだとしたら?」
はは、ああ、ええ、わかるとも。
『ならば我は、それを乗り越えるのみぞ……!』
全身の筋肉が膨張し、何らかの固有スキルを使ったらしい。全身から漲り、こちらに伝わっている威圧感が激増する。周囲の猿も手出しできず、こちらを睨みつけるのみだ。追加で何人か【魅了】を食らってるけども。
「勘違いしないで欲しいけど、僕はあくまで挑戦者の立場だ。キミが圧倒的強者ってことは、変わらない」
合計ステータスで言えば、神話級最上位の猿王に僕が勝てる道理はない。<UBM>としての能力も未知数だし、その力のロジックも徐々に解き明かしていくしかないだろう。
「——だから、僕もキミも試練として振る舞おう。そしてその果てで、どちらかが死ぬまで殺り合おうじゃないか……!」
これは宣誓だ。
猿王を倒す誓いの言葉。乗り越える『演目』のあらすじだ。
「さあ、さあ、さあ、紳士淑女の皆様方。これより始まりますは猿と人との神楽舞」
『汝が何者か、我は知らぬ。だが倒さねばならぬ敵とはわかる』
「僕は天孫、女神の仔——」
僕たちはお互いを見ていない。
お互いの、その先を見ている。
奴は竜王を。
僕は
いずれにしろぶつかり合うことが定められていて、ゆえに僕は言の葉を紡ぐ。
「我が名はカグラ。神条院流神楽舞の後継者にして、歴代随一の
『我が道を塞ぐもの、竜王への試練となれば——』
『「いざいざ——」』
尋常に!
『「勝負ゥ!」』
/
【奉納神楽殿 アメノウズメ】には、三つのスキルがある。
第一に、自身を視認した敵対対象に【魅了】判定を仕掛ける《
第二に、肌の露出度が一定ラインを超えることで発動し、舞踏系スキルが常時発動できるようになる《常在舞台の心得》。
そして第三にして必殺スキル、《
言うまでもなく【舞神】との相性は非常に良く、本来【舞神】は後衛支援系なのにも関わらずカグラが前線で刀を使って戦えているのも、それぞれのジョブスキルと<エンブリオ>のスキルを組み合わせているからである。
その中でもカグラの頼りないステータスを支える《
その強化率、STR・AGIに限り、1体につき20%。ただしSTRだけは攻撃力として加算される。
そしてその効果範囲人数に限りはない。
——現状、この場にいる知的生命体は101体。
無論カグラを除いた数であり、【砂猿王 モナブリム】も含めた数の補正がかかる。
ゆえに。
本来なら貧弱なステータスしか持ち得ないカグラでも——
「《神条院神楽舞・
『ぬぅっ!』
——こうして、神話級に対抗することができる。
飛び抜けた技量を以って【舞神】のスキルとして登録された剣技を使い、超音速の領域に達したカグラの刀が残像を残して唸る。
それは周囲の風を巻き込んで乾いた砂諸共に砂塵を巻き起こし、拳を構えて防御した猿王……の腕の隙間に精密に刀を叩きつけ、膨大なENDを《剣速徹し》でぶち抜いて極大の攻撃力を相手に叩きつけた。
それで止まることなく、カグラは踊るように軽やかに下駄で歩を踏む。
『小癪ッ!』
「《神条院神楽舞・
カウンターとして飛んできた拳を流れるようにいなし、一撃の威力は弱いものの連続で太刀を叩き込む。一瞬怯んだその隙に、その技を起点としてさらに連撃を繋げ、カグラの速度によって巻き起こった土煙に紛れて
「《神条院神楽舞・
そのままガラ空きの胸元に全力に突きを放ち——それを意に介さずに叩き込まれんとした拳を紙一重で躱し、また大気を蹴って後退する。
『……汝は、何者だ。その、力。その、技術。どれも、尋常ではない』
「そういうそちらは、大きい相手とばかり戦いすぎて少々脇が甘いようだね。人と戦うのは久しぶりかな?」
もっとも、おそらくは猿王の生の中で、相対する相手を上回る相手は存在しなかっただろうが。カグラもそれを読み取って、不敵で、妖艶な笑みを浮かべた。
——カグラのSTR・AGIステータスは、それぞれバフや特典武具を含めて4000と1万程度。
その20%×101の補正を乗せると——
現在、カグラは……敵や味方が多い状況に限り。
並大抵の<超級>を凌ぐ、火力と速度を持つのだ。
さらにその上から味方に対するバフ、敵に対するデバフと【魅了】判定、リアルで磨き天地の修羅にも引けを取らない舞と刀の技術を合わせれば、その力は集団戦で言えば最強格と言えるだろう。
これこそがカグラの力。
『多数有利』……
はい、というわけで特定状況下ならカグラが四人の中で最強です。タイマンだと一番ウザくて弱いですけど、味方が多いか敵が多ければ一気に最強格に踊り出ます。一撃食らったら死ぬけれど。
あと四人の中で一番変態です。こうなった理由? ヤヨイと出生だよ。
ちなみになんだかんだ個人戦闘型なので広域制圧型には不利……と思いきや、10秒間隔の【魅了】判定によって敵軍たくさん寝返らせたりできるので一概に不利とも限らない。
今回魅了した相手をどうにもしなかったのは、どうにかしたらこっちのステータスが減っちゃうためです。
ちなみにお猿さんは全ステータスが獣王には及ばないけれど非常に高い。STRは9万だし、AGIだってカグラよりは低いけど15万は超えてる。ただ戦闘技術の差とEND削り取ってくる《剣速徹し》のコンボでENDに関わらず大火力を叩き込まれてるだけです。
本編でも言ってる通り、カグラは猿王の拳が当たったら即死するんですけど……「当たらなければいいじゃない」理論でテンションマックスで殺しにかかってます。わりとリスクジャンキーなのでコンディションが上がる上がる。猿王からしたらたまったもんじゃないけどな!