男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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注意ですけど、この小説にBの文字は存在しません。
……それっぽくなったけど、アレだ。マダラみたいな感じだ!


第18話 神条院巫楽という男

 ディペンデント。

 サービスが開始して1年半の時を経て尚、カグラしか存在しない特殊かつ例外的な冠詞。テリトリー系列には特殊な冠詞が付くことがたまにあるとは言え、それを踏まえても『他者に自己性能が依存する』などというものが発現したのは、カグラ自身のパーソナルが異常だということを指し示している。

 

 

 /

 

 

 意識が、飛ぶ。

 いわゆるトリップ状態のようなもので、この状態の僕は、僕でないような感覚に陥る。わりと舞の時には陥ることがあって、テンションとコンディションが完璧に調和している状態だとこうなることが多い。

 

 熱に浮かされ、確かに猿王の拳を刀で逸らし、脇腹に掌底を叩き込む。“僕自身がやっている”感覚はあれど、まるで別人のように冷静な部分が乖離して、僕自身を見つめているような——そんな感覚。よくわからないけれど。

 

 そう言えば、ヤヨイも戦闘中に感情の乖離が発生することがあるって言ってたな。

 ……はは、同じみたいで、少し、嬉しいや。

 

 

 /

 

 

 ヤヨイもハイエンドであり、それゆえの異常性も確かに持っているが……それは先天的な異常性であり、カグラの場合は、出生により歪み、それがヤヨイの干渉によってさらに捻れた後天的な歪みなのだ。

 

 

 /

 

 

 それで、こういう時は決まって、昔のことを夢に見る。

 走馬灯みたいな、映画のようなソレは、僕自身の根源を忘れるなとばかりに見せてくるようで。

 

 

 /

 

 

 事の始まりは、カグラとヤヨイが出会った日まで遡る。

 

 

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 忘れるものか。

 ……何度だって、夢に見るんだ。

 

 正弥と過ごした、あの日々の記憶を。

 

 ……

 

 ………

 

 …………

 

 

【舞神】カグラ——神条院巫楽は、古きより続く由緒正しき御神楽を継ぐ家系に生まれた。

 祖は天鈿女(アメノウズメ)とされ、皇家とも強い繋がりを持ち、幾度もの断絶の危機を乗り越えて、一度も途絶えさせることなく完璧に受け継がされてきた始まりの神楽。

 

 必然、その宗家として生まれた巫楽()は、皆の期待を一身に背負って舞を学んだ。

 

 

 自己感情を抑制し。

 

 自己主張を抑制し。

 

 自己願望を抑制し。

 

 自己肯定を抑制し。

 

 自己否定を抑制し。

 

 

 全ての『自己』を封じ込め、唯その生を舞へと注ぐ。

 おそらくはそれが一族の望んだ理想の後継者であり、それを感じ取ってしまった巫楽()は、なまじ頭が良かったばかりにその全てを完璧に写し取り、歴代随一の神籬(どうぐ)となったのだ。

 

 神籬は、神が宿るに値する存在の総称。神を宿し、人としての己を滅して舞うことこそが天孫たる一族の理想。

 

 だから巫楽()は、自己存在を静視する。

 それが自分の存在意義だと、思考停止した頭で結論付けていたからだ。

 

 

 ——そんな灰色の日々が変わったのは、中学一年生の頃。

 長年の舞の鍛錬が身を結び、僕のお披露目と評しての大きなパーティーが催された。実際にはその数年以上前からお披露目の基準は満たしていたんだけれど、当時は国内屈指のお金持ち……言ってしまえば正弥が海外にいたから、彼が帰ってきたのを好機として開かれたのだ。

 

 そのパーティーの主役は、僕。

 中央の奉納殿で一心不乱に舞い続け、皆が食事を持って笑いながらこちらを見るのを、無感動的に受け止める。能面を被っていたから気付かれなかっただろうけど、素顔で待っていたらつまらなそうな顔をしていただろうね。

 

 それで、お披露目会が終了し、皆がお世辞を言いに来る。

 中には本当に感動してくれた人もいたけれど、皆端的に褒め称える言葉を吐き、巫楽()や一族におべっかを使う。その一族も、巫楽()のことを普段から褒め称えていたので、正直言って何も感じなかった。

 

 ただ、一人を除いては。

 

 その子は皆が帰ったあと、わざわざ撤収寸前で、巫楽()が一人だった頃に来た。

 なんだまたお世辞かと思った瞬間……ひどいんだよ、あいつ。突然巫楽()に思いっっ切り嫌味を吐いたのさ。

 

 それで、不思議なことにその言葉に、巫楽()はカチンと来た。普段なら何も感じなかったはずなのに、何故かいつもと違う言葉にものすごいカチンと来た。

 今ならそれがプライドだってわかるけど、まあ、当時はそんなのも知らなかったから仕方ない。

 

 で、そのまま流れるように舌戦へと突入。でも舞に全てを注ぎ込んでいた巫楽()の語彙力は貧弱なもんで、普通に言い負かされて涙目になった僕は、余裕そうにこちらを見る少年——正弥に、こう叫んだのだ。

 

『ぐすっ、あ、明日からっ、ずっとキミの家に行って嫌になるまで舞ってやるからなああああ!』

 

『はっ、絶対褒め称えないから安心しなよホラこれ家への地図』

 

 それが、巫楽の——僕の、正弥との最初の出会いだった。

 

 

 それから毎日、毎日。

 鍛錬を駆け足で終えて、電車に乗って正弥の家に。めちゃくちゃ洋風で面喰らった覚えがあるけど、それも数日のうちに慣れ、喧嘩しながら僕が舞う。

 

 ある時、幾度目かの舞を終えた後、正弥がこう聞いてきた。

 

『……君ってさあ、踊るの嫌いなの?』

 

 当時の僕は、“義務だから”、と答えた。

 

『いや、そうじゃなくて。君、踊ってる時笑ってないじゃん』

 

 ……わからない。そう言うと、正弥は変な顔をした。

 

『あと、そんなにいつも踊ってたら疲れるでしょう。少しは遊んだら?』

 

 いらない、と言ったけど、正弥はその押しの強さで強引に僕を遊びに巻き込んだ。

 

 身体が弱いから家の中での遊びだけだったけど、それはずっと鍛錬しているだけだった僕には、とても楽しいものに思えた。それで思いっきり遊んで……なんだか、楽しくなって、舞を舞った。

 

『はは、あははははっ』

 

 技巧はない。理由はない。

 ただ熱に浮かされて、だからこそ舞える単純な踊り。人に見られているという実感が、僕のパフォーマンスを引き上げた、

 

 それが終わった後。

 

『うん、楽しそうだった。やっぱり巫楽は、人に見られるのが——舞うのが、楽しいんだね』

 

 曰く、以前の舞台では、僕はつまらなそうに舞っていたらしい。それが読み取れた正弥は、なんだか無性に苛立って、あんな嫌味をぶちまけてしまったのだという。

 

 結構、というかわりとひどい理由だけど、まあ、僕もそれに呆れつつ好きなように舞を舞った。

 

『ねえねえ正弥! 今度はこれやってみたいな!』

 

『面白そうだね。教材でも取り寄せる?』

 

『うん! 全力で踊っちゃうよー!』

 

 悪食なんて呼ばれるくらい、たくさんの踊りを知った。

 それを踊って、撮影して、何度も舞って練習する。それを動画投稿サイトに上げてみて、ちょこっとだけ反応が返ってきて嬉しくなる。

 

『わ、コメントが来た。ええっと……うわわ、恥ずかしいけど嬉しい!』

 

『俺も見たけど、いつのまにかヒップホップでこんな神業を……』

 

 今はそれなりに見てくれる人がいるし、変な理論を振りかざす人もいるけれど、そういう人も人気の理由と思えば気にならない。顔見せは、うん、ちょっとアウトだからやれないけどね。

 

 そんな、当たり前みたいな楽しい日々を、僕は正弥に巻き込まれることで知ったんだ。

 それから僕と正弥は友達になった。正弥が海外の大学に行った時は寂しかったけど、週末には必ず電話した。

 ……初めての友達で限度がわからなかったのもあるけれど、ちょっとアレだよね。でもそれに正弥が丁寧に(たまに親愛を込めて雑に)返信してくれるから、僕も一層舞に精を出せた。

 

 僕は何度も舞台に上がった。

 

 

 なんども。

 

 なんども。

 

 何度も何度も舞台に上がり、奉納殿にて神楽を舞う。

 

 その中で、僕は自分が様々な視線を集めることに気づいた。気色悪いものも、心地いいものもたくさんある。その視線を受けると、僕は自分の動きが格段に良くなるのを理解した。

 

 それで、僕は気付いたんだ。

 パフォーマーは、人の視線が——見る人が、知る人がいなければ全力は発揮できないし、価値もない。

 

 僕を含めた動きで人を魅了する人たちは、独りよがりのパフォーマンスでは三流にも劣る。

 人の視線を理解し、集め、動き、自分の力を理解して人を酔わせる。それこそが踊り子の本懐。他者がいなければどうにもならない。

 

 

 ——だからこそ、僕の<エンブリオ>は……【奉納神楽殿 アメノウズメ】は、人がいなければ無意味に等しい。

 自分だけでは非力で弱い。でも、自分を見てくれる観客がいるならば、それに応えて舞を踊ろう。

 

 それこそが、僕の根源。

 正弥が僕を振り回したことで得た、僕自身の思想。

 

 正弥が病気で倒れた時は目の前が真っ暗になったし、目覚めたと聞いた時は会いに行こうと思っても海外で国賓として舞っていたから会えなかった。だからデンドロで再会できた時は、文句を言いつつなんだかんだすごく嬉しかったんだ。

 

 ああ、そうだとも。

 正弥は僕の憧れだ。親友で、なんでもできる彼は、しかし生まれつきのハンデのせいでその才能を活かすことができなかった。

 

 けれどこの世界では、正弥は本当に楽しそうに日々を過ごしている。

 新たに出来たという友人のメルクとラトラナジュも、裏表ありつつ非常に好感の持てる人物で、ああ、今後も彼は付き合っていくんだろうなとたやすく理解できるほど。

 

 いつか僕もおじいちゃんになったら、彼らと一緒に過ごせるのだろうか。

 

 そんなことを夢に見る。

 

 

 ——そして、だからこそ目の前の猿は必ず殺す。

 今楽しそうにしている正弥(ヤヨイ)の邪魔なんてさせるものか。

 

 お前が雑魚だとは言わない。価値がないなんて言わないさ。お前たちにも意味があり、あの竜王と戦うために僕を殺そうとしているんだろう。

 

 それでもいいさ。所詮僕らは不倶戴天、わかり合うなんてできやしない。それができるのは、ヤヨイとか、そこら辺の王の素養を持つ者だけだ。僕にそんな素質はないし、欲しいと思ったこともない。

 

 だから、お互いの事情なんて、勘定に入れる必要はない。

 

 

 ——感情の乖離が戻る。

 時間は有限、一撃当たれば死の状況。クソゲーみたいな世界の中で、僕は遥かな友へとエールを叫ぶ。

 

「心行くまで殺し合おう、猿王! 僕の親友が、キミの友を殺すまで——!」

 

 だから! 

 必ず倒せよっ、ヤヨイ! 

 

 僕がこんなに頑張ってるんだ、それ以上の力で頑張らないと、ぜーったい、許さないからなぁっ!




戦闘中など、極度の昂りの中、冷静な自分と熱い自分に分離する。その感情の乖離が、ヤヨイのハイエンド特有の欠陥であり、カグラにとっても歪みでもあります。

それを文章として表現してみたけれど……うん、難しいネ!
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