男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□【
轟々と、唸る拳が空を割く。
大質量の鉄塊が、燦々と照らす太陽光を反射して、その威容を演出する。
対して、あちらはその背に背負った土塊……と言っても圧縮された鉄にも劣らぬ強度と大きさを持つソレを飛ばし、スキルによる防御とアルマによる回避を行なってもなお確実にこちらの体積を削りにくる。
その都度《リワインド・メタル》を使っているけれど……んぐんぐ、かぁー! ポーションが身体中に行き渡るぜぇー!
「ふんっ」
【ブラック・デンドロン】の操作と連動した鉱脈巨兵の拳は、内部を流動して操作性を高める役割のアルマの質量分を乗せて、非常に硬くそして重い。
大概の相手ならこの一撃で粉砕できるだろうけど、あちらはあちらで重いしデカイしクソ硬い。隙を見て顎に蹴りを叩き込んでいるけれど、外殻にヒビが入る程度で脳震盪なんざ起こせやしない。
俺たちの一挙一動で大気が大きく動き、遠くでも聞こえるであろう轟音が響く。
大規模な土煙とともに発生した衝撃波は、俺たちの身体を揺らすこともできずに通り過ぎる。
『マスター、損傷率10%』
「おう、《リワインド・メタル》!」
正直、堂々巡りと言える。
これでもっとステータスが高ければいいんだろうが……生憎と、デカさゆえの認識速度以外、俺のステータスは関与してない。
でも、わかった点がある。
向こう側の竜王、ただクソデカくて硬くて重いだけ——つまり、あの巨体を支える最低限のステータスはあれど、音速機動を可能にするほどステータスは高くねえ。
……ソレはソレで、純粋性能型から多重技巧型まで警戒範囲が広がったってことなんだけども。これでめちゃくちゃ強いスキルでも持ってたらどうにもならんぞ。
それに……俺のこれは、今はポーションガブ飲みでカバーできているけれど時間制限がある。
このまま殴り続けることは、できない。必ずどこかで勝機を見つけなきゃいけない。
ちくしょ、いつかは耐久戦やりたいなぁ……!
『ハッハ!! いてぇのう! なんぞハリボテかと思えば、なかなかどうして骨がある!!』
「なら早々に倒れてくれませんかねえお爺様ァ!」
『それは無理じゃな!』
楽しいようで何よりですねクソッタレがぁ!
『ほれ、ほれ、ほれ! 気ィ抜けばぶち抜くぞ!』
尻尾ぶん回しによって、地上にあった大岩などが打ち上げられて飛んでくる。なんか狩りゲーで似たような攻撃見たことあるんですけどー!
一応俺も鉱脈だからってはぁ!?
『マスター! 明らかに岩石が重くなってる!』
「Why!?」
こっちの硬さを貫通してめり込んだ……おい明らかに外見と重さが見合ってねえぞ!
でもとりあえずぶん殴る!
ドゴス、と竜王の顔に拳がめり込む。ハリボテだから俺のHPには影響しないし、多少何かがめり込もうと操作には支障ないんだよざまあみろ!
『カハ……く、ハハハ……ハハ……クハハハハッッッ! 良き拳じゃ、良き判断じゃ、良き身体じゃ! それでこそ我が前に立ちはだかるに値する!』
「この道楽爺が……!」
だが、さっきの重さを増したカラクリは理解できた。これはこいつのスキルだ。
そしておそらく、重さだけじゃなく……密度まで操作できる!
「ふん、ぬぁ!」
刺さっていた岩石を引き抜き、竜王にぶん投げる。しかしそれは竜王に当たると、たやすく砕けてしまった。明らかに重さが足りていない。俺とほぼ同程度の硬さで、《竜王気》があるとはいえこの結果は本来ありえない。
そして、先程から飛ばされていたこいつの背負う岩石。それも明らかに重かったし、掴んで砕こうとしても縮まりもしない。
そこから導き出される結果はただ一つ。
「竜王……お前、物質の重さと密度、操作可能なんだよなァ……!」
先の岩飛ばしは、重さを操作。
背負う岩石は、おそらく本来ならもっとデカイ、それこそ山くらいにはあっただろうものを小山程度まで圧縮し、その分の重さをさらに増加させたもの。背負う時は軽くしているのかもしれない。
多分元の密度に応じて重量操作の範囲は変わるんだろうが、こいつにかかればただの岩だろうとこっちの身体を撃ち抜く砲弾と同義になる。正直普通の<UBM>が持ってたらそこまで強くはない。いや、強いといえば強いが一般的な体躯のモンスターであればそこまで厄介ではないだろう。
だが、こいつの場合、山に匹敵する体躯とそれを支えるステータスが絶妙にいやらしく作用している。
デカイものは小さくして初見殺しとし、普通なら持ち上げられないものであろうとポンポン飛ばして砲弾にする。こりゃ余計なステータスはいらないよな、デカさは強いって理論をそのまま実行してるんだから。
多重技巧型とは呼べないだろう。それなりに強い能力が、一つあるだけなのだから。
純粋性能型とは呼べないだろう。自己を支える程度の身体能力しかないからだ。
——だが、その二つが組み合わされば、純粋な強さという面においてこいつは完成している。
【クロマドーラ】も【ラッダリト】も、状況という面においては完結していた。しかしこいつの場合、あらゆる場面でどんな形でも強さを発揮できる、完成された存在だ。
言わば、純粋技巧型。
一見粗暴なように見えて、その実自らの力を深く理解し、それによって完成したもの。
【山竜王 ドラグベルグ】は……そういう存在だった。
『ほう? 我が力の絡繰を解いたか……だが、甘い!』
竜王はそう叫ぶと……嗤う。
『物質にしか作用できぬと……誰が言ったァ!
わしの力は、奴に比べて単純ゆえに強大! 兄や弟はつまらぬものと定義したが……これほどわしに似合う力はないじゃろう!』
それは、永い時を生き、研磨に捧げた老練なる王の力。
『死してくれるな、わしは今とても楽しい! お主になら切り札を切ってもいいかもしれぬと——後に控える猿との戦いを鑑みてもなお、揺らいでおる!
そして何より! お主を今ここで倒さねば、わしは胸を張って猿と戦えん! それはどうしようもなく嫌じゃからのぉ——いっちょ、わしの切り札が相応しいかどうか、試すとしようかァ!』
……はっ。
「上等だよ竜爺……俺も今、楽しいから……あんたを殺すと、そう、決めたから……!」
この戦いは、今までのような……決死の殺意を以って切り開くものじゃない。
あの鋼の人形のような、俺の根底に関わるものでもなく。
あの風の秘石のような、俺の怒りに関わるものでもない。
ただ、楽しいと。
この、どうしようもなくバトルジャンキーな爺様と戦うのが……純粋の楽しいのだ。
そしてその上で、負けたくないのだ。
男として、浪漫の末に勝ちたい。勝って、俺は凄いんだと……年甲斐もなく、あいつらに自慢できるように勝ちたい。俺の誇らしい友人達に、胸を張って威張れるような、そんな勝ち方を。
だから——受け止める。
「来い、竜王!! あんたの試しを乗り越えて——俺は必ずお前に勝つ!」
『よく言った小僧ォ! ならば試しじゃ、死んだらもう一度殺してやるからなァ!
——《
重量増加を、自身へと。
多大な負担をかけるそれは、切り札には行かずとも、早々使ってしまっていいものじゃない。
『受け止めるがいい! ふんッ!』
ガッシリと大地を踏みしめ、そのモーニングスターの如き尻尾を振る。
全体重が乗せられたそれに対して、俺は——
『アルマ! 操作切断——俺のMPのありったけ、全部使え!』
『——! ん! 液状体の切り離しを実行——
面に現出したアルマが、造形した自己の身体を切り離し、操作権を切り離す。そして俺のMPを消費して元の体積に戻ったアルマが、元から生み出されていた鉄を操作し——大きな防壁を作りあげる。
これこそが俺たちの現状最強の防壁。
かつて銃弾として散布した時から思いついて——そしてその状況を整えることの余りの難しさに挫折した浪漫技。
だが、今の条件でなら扱える!
「うおおおおおおああああああ!!!」
MPポーションをガブ飲みしつつ——アルマ! 踏ん張れよ!
『言われなくとも——!』
やがて、遠心力とともに超絶的な重量の塊である尻尾が振り回され——
——前方に一瞬で展開された防壁にぶつかり、鼓膜が破れるほどの轟音を立てた。
/
所変わって、とあるレストラン。
「ふん。それで、俺たちも行くのか?」
元は美形だったのだろうと推し量れる顔と、横に非常に伸びた肉体が同居している不思議な男が、そう呟く。
彼はマニゴルド。ほとんどが<超級>で構成された世界最強のクラン<セフィロト>に所属する<超級>である。
「でも今すっごい派手に頑張ってる子がいるよ? それを邪魔しちゃうのは、ちょっと気が乗らないかな」
対して、それに返すのは同じく<セフィロト>所属の<超級>、“蒼穹歌姫”【撃墜王】AR・I・CA。
<超級>の中でも特殊な未来予測を可能とする<エンブリオ>の持ち主である彼女は、遠方で巨兵を乗りこなして竜王と戦う光景を眺めつつそう口にした。
「だが、それが俺たちの仕事だ」
「……確かに、気は乗りませんけど。もしもあの竜王が、大規模な破壊を可能とする攻撃手段を持っていたのなら……彼がそれで死亡し、受け切れるものでなかったら」
例えばであるが、ブレス。
竜種の、それも神話級<UBM>である竜王のブレスが、こちらまで届くものだとしたら。それは見過ごせない、まぎれもない脅威である。
それを未然に防ぐためには、あの竜王があの巨兵に釘付けになっている間に、どうにかしてしまえばいい。
こちらにはそれができる人間がいる。
【地神】ファトゥム。
“魔法最強”の称号を持つ、彼ならば。
それに反論できず、口を閉じるアリカ。他の<超級>も、元々無口な者もいれば、今の言葉で口を噤んだ者もいる。
やがてファトゥムらが動こうとした時——
「それは、やめておいた方がよろしいかと」
——そんな言葉が、彼らの死界から聞こえた。
「……誰だ?」
「申し遅れました。わたしは、MASTERより遣わされたメッセンジャーです」
その美しい声が響くところは、空白。
やがてその周囲の空間がわずかに揺らぎ、そこから二枚の天使の羽を広げた美しい女性が現れた。
「……もしや、メルクからですか?」
「YES、ファトゥム様。我が主人、ヴィクター・F・メルクリウス様からの伝言を伝えに参りました。この言葉は、カルディナの議会や有力者にも伝えられる予定です」
一息。
「——“あそこで猿と竜と戦っているのは、僕の友人だ。君たちには悪いけれど、手出しするのはやめてほしい。
もしも手出しをした場合、突発的にどこかの街でテロが発生するかもしれないね。僕は関係ないけれど、そう。自爆テロがひと月ほど、議会や君たち個人に突然襲来するかもね。僕は関係ないけど。
だから手出しはしないように。君たちと僕の友情を信じています。手出ししなかったら、そうだね。いつでも使える労働力を、ある程度プレゼントしてあげよう”」
明らかに脅迫であった。
「“ついでに、このメッセンジャーは僕が全霊を込めて設計した子だ。可愛いだろう、美人だろう? でも手を出したら自爆する設定になっていて、それがこっちにもわかるようになっています。自爆させたら……わかってるね?
再三言うけど、僕は君たちを信じています。信頼を裏切ることは僕、大嫌いだから。これからも良い関係を保っていけるよう、頑張ろうね。特にマニゴルドと色情魔と、あと議会の爺様方は気をつけてね。
ヴィクター・F・メルクリウスより”」
さらなる脅迫であった。
「……MASTERは、ご友人らの戦いをとても楽しそうに眺めております。邪魔した場合、<マスター>はログインする度の死、ティアンならば全治数ヶ月ほどの怪我を負う……かも、しれません」
「……えーっと、ご丁寧にどうも? っていうか、ナチュラルに私のこと色情魔って言わなかった?」
アリカの言葉
音もなく何処かへ消えたレストランに残されたのは、微妙な雰囲気のみ。
「……とりあえず、手出しするのはやめましょうか」
「賛成だな」
メルクの人柄を知っているために他の人間よりも早く復活した二人の言葉をシメとして、その日の会合は終了した。
ちなみにメッセンジャーの自爆設定はメッセンジャーの子らの任意解除です。
口調が違うかもしれませんが、アリカとかすごい難しかったのでご勘弁を……。
皆、勇気を出して感想を書くのだ……モチベーションがもりもり湧くのだ……一言二言でもとても嬉しいのです……他の方の作品にも書くとその方も嬉しいので一石二鳥(錯乱)