男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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まずは謝罪を。こうして時間を開けてしまったこと申し訳なく思います。
色々とやることが詰まっており、中々書く時間が取れなかったのもありますが、これからも出来るだけ毎日投稿をやっていきたいと思っています。

たまに1日2日空くかもしれませんが……寛大な心で許してくれるとありがたいです。
それでは、本編どうぞ。


第20話 貴方達の命など

 □【魅売(チャーム・バイヤー)】ラトラナジュ

 

 派手にやってるわねー、二人とも。

 砂漠を見渡せるように設けた日差し避けのテントの中で、手にした水晶玉に送られてくる、ヤヨイ君とカグラ君の戦闘映像。系統は違えど、ド派手な戦闘であることは間違いない。特にカグラ君は超スローモーションを適応してなおこれだもの、見てるだけでも面白い。

 

「……とは行っても、私も暇じゃあないんだけどね」

 

 ギルドに依頼を出した私の元に集った<マスター>は、数十名。

 

 彼らを使って避難し損ねた商人たちや、乱入しようとするモンスターを間引く。それが私の仕事だ。

 正直、これはメルクであっても可能なことだ。しかし、メルクは一般に目立つのを嫌う。理由は「そういうの、謎の科学者っぽくて良くない?」という子供らしいものなのだけれど、だからこそ私はこの役目を引き受けた。

 

 理由は単純、人を指揮する——将来的に人の上に立つ立場を望む私の、良い経験値になると思ったからだ。

 リアルでもこちらでも、私は個人営業で社会を生き抜いてきた。けれど、ヤヨイ君の友人として成り上がった時、人に指示する経験が足りなかったら舐められる。

 

 だからメルクから、遠い場所も確認可能なホムンクルスを借りて色々とやっている、のだけれど。

 

「……予想以上に、疲れるわ」

 

 まさか云十人程度の人数を管理するのが、これだけ大変だとは思わなかった。ヤヨイ君とかなんか当たり前のように電話一本で色々やってたけど、あの子やっぱり処理能力が頭おかしくないかしら? 

 

 やることがありすぎて嫌になる。個人営業の時にはぜったいに味合わなかったはずの苦しみだ。

 

 でも、今後上に上がるためには必要なもの……が、我慢よ、我慢して学ぶのよラトラナジュ……! 

 

「あとでリアルでハウツー本を買って……ああヤヨイ君に教えてもらおうかしら、この世のどんな家庭教師より彼の方が実践的だものね」

 

 自分は恵まれている環境にいるのだから、それを活かす他ない。あとは時間の限り研鑽を積む……かぁ。

 

 少し陰鬱なため息が漏れる。気分を直すために、側に置いてあった果実水を飲もうとして——

 

 

「……あら?」

 

 

 ——監視領域の中で、怪しい振る舞いをする輩を発見した。

 

「へぇ……ふぅん……なるほどね……」

 

 いや、想定してはいたけれどもう出ちゃったか。馬鹿としか言いようがないけれど、もしかして目の前の利益に目が眩んじゃったのかしら。まあどうでも良いけどね。

 

「さて、急ぐわよ。頑張ってねー」

 

 取引で手に入れた<遺跡>で出土した煌玉馬のレプリカに跨り、砂漠を駆ける。マイさんによって性能が引き上げられていて、この程度の悪路なら簡単に進むことができる。

 

 距離は……あと少しね。

 

 

 /

 

 

【舞神】カグラと【砂猿王 モナブリム】との戦闘が行われている、ドラグノマドより少し離れた砂漠の大地。

 それを呆けた様子で見つめる猿の一団に、密かに近づかんとする者がいた。

 

「明らかに【魅了】されてる。今なら、あいつらを倒すこともできるはずだ」

 

<エンブリオ>であろう双眼鏡を覗き込みつつ、男が言う。

 

「へへっ、ようやく俺たちにもツキが回ってきたってわけだ……よぅし行くぞ野朗ども、あのいけすかない女の依頼でようやく近くに来れたんだ、こいつら全員俺たち<負け犬同盟>の糧にしてやろうぜぇ!」

 

 無論、彼らはカグラが、今怪物と戦っている何者かの力の秘密が視線であることも知らない。

 知らないがゆえに、今戦っているのは<超級>であろうと思い込み、【魅了】されている格上のモンスターを倒すことで経験値にしようとするという暴挙をしでかそうとしていた。

 

 

 だが、彼らは忘れていた。

 今彼らがこの地に近づけたの存在そのものが……超級職の<マスター>という、彼ら自身の『格上』であることに。

 

 

「残念だけどそれは無理ね。だって、私がさせないもの」

 

 

 その声とともに、何者かが彼らの近くに降り立った。

 一斉にそちらを振り向くと、そこには彼らが依頼を受けた超級職の女——ラトラナジュが佇んでいた。

 

「……えーっと……<負け犬同盟>……ひっどい名前……の、皆さん?」

 

「てめえナチュラルに馬鹿にすんじゃねえよぉ!」

 

「事実だからしょうがないでしょう。だったらもっとマシな名前にすれば良いでしょうに……まあ、良いわ。それは今の要件じゃないもの」

 

 ラトラナジュは一息置くと、厳しい目つきで彼らを見た。

 

「貴方達に任せた場所はここではないわ。そしてここから先は、手出し禁止だと言ったはずよ。踏み入れば死ぬ」

 

「……はっ、知るかよそんなこと! 俺たちは、前衛職の第五形態だ! あんな棒立ちの猿どもくらい倒せるってんだよ!」

 

 そうじゃないわよこの馬鹿、と心の中で吐き捨てて、代わりに大げさにため息を吐いた。

 

「……第五形態で、そんなに吠えられてもね」

 

 私だって第六形態だし、もっと言えばメルクは第七。<超級>だ。

 ヤヨイ君とカグラ君は第五だけど、どっちもちょっとありえないくらいの特異性を秘めている。目の前の相手がいくら吠え散らかそうと、あの二人のような性質は見受けられない——そこまで考えて、改めて鼻で笑った。

 

 それを目にした男たちは、一瞬でブチ切れる。

 所詮こいつは非戦闘系の超級職、自分たちが囲んで叩けば耐えられない。今ここで殺してしまえば文句を言う奴もいなくなると、剣を構えて取り囲む。

 

 だがラトラナジュは、窮地に陥ったように見えて相も変わらず冷静なままだ。

 それにますますプライドを刺激された彼らは、一斉に魔法や剣による攻撃を仕掛ける。

 

「死ね!」

 

「超級職なんざ取れる奴は死んでしまえば良い!」

 

「俺たちは運がないだけなんだ! お前らがいるせいで!」

 

 そうして攻撃されたラトラナジュは、しかし笑みを崩さない。

 

 何故なら——彼女のHPが、まったく減っていないからだ。

 

 

 それに気づいたらしく、不審に思った幾人かが攻撃をやめる。それをきっかけとして、やがて全員の攻撃が止む。

 そして、彼女を改めて観察した時——先ほどまで落ちていなかった、何か、小石のようなものが無数に落ちていることに気づいた。

 

 あれは——宝石? 

 

 

「あら、もう終わり? つまらないわ、エンチャントの足しにもならないじゃないの」

 

 

「……おまえ、何を、したんだ?」

 

 

 声が震える。こんなの、あの噂に聞く<超級>——マニゴルドのような、何か。

 

 

「説明する義理はない、と言いたいところだけど、まあ簡単に説明してあげましょうか。

 貴方たちの意思はどうあれ、今貴方たちは私に雇われている。だから当然、貴方たちは私の所有物といってもいい。

 

 ほら——貴方たちの攻撃も、全て私のリソースと同義でしょう? だから私は、必殺スキルの《燃える乱心の玉石(カーバンクル)》を使って、私への攻撃を丸ごと宝石へと変換したのよ」

 

 

 何を言っているのだ、と、最初は思った。自分たちの攻撃がリソースなんて、そんなのありえない、と。

 しかし、その言葉の意味を理解すると同時に、ある恐ろしい可能性に思い至る。

 

 所有物。攻撃などという不確かなものがリソースにされるのならば——命は? 

 

「あは、勘がいいのね。嫌いじゃないけど、私の命令を違反するような馬鹿はいらないわ。いつもならこんなに早計じゃないんだけど、見せしめも兼ねて、というわけでね——」

 

 ラトラナジュが男たちを指差し、空を切る。

 それは『クビ』という意味のスラングを表す動作だったが……それによって、男たちは一瞬で掻き消えた。

 

 後に残ったのは、装備のドロップ品と、女の手に握られる真紅の宝石のみ。

 

「しけてるわね。まあ、あの程度ならこれくらいしかないのも納得だけれど」

 

 そう言ってラトラナジュは、指を鳴らす。

 刹那、彼女の足元に転がっていた小粒の宝石が光の粒子へと還り……手に持つ真紅の宝石に取り込まれ、また別の形になる。

 

「んー……これだけ集めてもこの程度か。ま、あとは私の腕の見せ所ってカンジね」

 

 艶やかな赤い舌で、ちろちろと舐める。その仕草は艶めかしく……そして、色気に満ちていた。

 

 

 ——【魅売(チャーム・バイヤー)】ラトラナジュ。

 のちに“万価等玉”と呼ばれる彼女は、己が異質な法則(Another rule)を存分に利用していた。




—情報開示—
【美玉乱心 カーバンクル】
TYPE:ルール・ガードナー(アナザールール・ガードナー、と言っ方が正しい)
能力特性:宝石の完全管理・宝石への特殊効果付与・宝石関係に限るリソースのやり繰り
到達段階:Ⅵ
紋章:宝石で戯れる愛玩動物
固有スキル:《ジュエル・ボックス》・《ジュエル・エンチャント》
必殺スキル:《燃える乱心の玉石(カーバンクル)

燃える乱心の玉石(カーバンクル)
必殺スキル。カーバンクルが(アナザー)ルールたる所以。
“自身の所有下にある物質をリソース変換を経由して宝石に変える”ことと、“選択した宝石類をリソースへと還元する”ことが可能。
この能力によって、自分が雇っている、所有している物体からの攻撃は効かない。マニゴルドの【ジパング】と同質の防御能力だが、裏切りなどが予防できるだけで正面切って戦うことはできない。
リソースに変換した宝石は、他の分のリソースと統合することでひとまとめにして質の高い宝石にすることが可能。その様は手品のように見えるので、これによって好奇心の高い老獪な爺様たちの協力を勝ち取った。
なお、物質変換は宝石への一方通行で他に利用できないが、宝石を変換したリソースは貯蓄できる他、純粋なエネルギーとして放出したりできる。こちらも同じくマニゴルドの《金銀財砲》に似ているが、あちらと比べて効率が非常に劣悪。
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