男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>—   作:クーボー

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第22話 螺旋ト息吹

 □【鉄人王(キング・オブ・アイアン)】ヤヨイ・ベルダーウッド

 

 腕に集中させたアルマを、瞬間的にドリルに成形する。その大きさは、100メテルにも及ぶ超巨大なドリルだ。

 それを回転させて、前方へと突き出そうとするが——

 

 

 ——眼前より迫り来るソレを見て。

 

 

 俺は——

 

 

 /

 

 

 鉱脈巨兵に、大穴が開く。

 中心部分……胸の部分がまるごと消え去り、その背後に在る街を消さんと貫通する。

 周囲の山を余波の暴威が削り取り、大地をその摩擦熱で融解させ、砂漠の世界を突き進む。

 

 竜王の大息吹は、体内で限界まで圧縮した数多の鉱物を融合させ、《竜王気》と魔力を混ぜ込んだものとともに体外へと放出する技だ。

 竜王が体内で、その生涯において溜め込み続けた鉱物を放出する。ゆえに生涯一度の切り札である。

 

 その力は射程・火力・範囲の全てに絶大。

 竜王が自負する通り、直撃すれば<イレギュラー>でも屠るであろう。

 

(嗚呼……やはり、使うべきではなかったか。まだ楽しめた戦いが、もう終わってしまった)

 

 放出している間は口内が焼けていくために喋ることはできないが、その程度生涯を戦いに捧げた竜王にとっては些細なこと。

 それよりも、猿以外に好敵手と認めた勇者との、英雄との戦いがもう終わってしまったことに、深い悲しみに包まれて——

 

 

『『——まだ、終わってない!』』

 

 

『!!』

 

 虚空より聞こえしあの声。目だけを動かし頭上を見ると——そこには。

 

 初めて見る、あの巨兵に比べれば小さく、脆そうで、それこそ息を吐きかければ消えてしまう程度の大きさの、ソレ。

 だが、その腕には、先の巨兵が装着していたはずの巨大で、苛烈な光を反射する削岩機の姿が在った。

 

(——ならばァッ!)

 

 尻尾を動かし、大地に叩きつけてある程度の岩石を掘り起こす。

 ——ズタボロだが、この程度の負傷、猿との戦いで何度も負った。息吹は途中では止められない、ならば他の手段で仕留めるだけのこと! 

 

 楽しげに、そしてその眼光に闘志を滲ませ、それを器用に尻尾で上に弾くと、絶妙なコントロールでソレに向けてかっ飛ばした。

 

『『!!』』

 

 超音速で迫る岩石に気付いたのは流石としか言えなかったが、それでも空中にいて、構えている以上どうすることもできない。

 

 岩石がソレを完璧に粉砕し——

 

 ——それでもなお、あの削岩機は消えていない! 

 

 

「まだ、だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

(——おぉ)

 

 それは、小さい。

 人にしては長身であるものの、竜王からすれば先の騎乗していたものよりもなお小さい。薄緑色の翼を背負い、大空を滑空するソレ。

 

 本来なら、道端で潰れた果実のように、竜王にとっては取るに足らない、それこそ塵のような存在。

 しかし、竜王は……初めて見るヤヨイの姿に、賞賛と——英雄の姿を、垣間見た。

 

 

「うおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!」

 

 

 その気迫。その意思。その力。

 その全てが英雄に相応しく——嗚呼、そうか。

 

(わしは、この男に会うために——この男の運命を彩るために、生きてきたのだ)

 

 不思議と、それは納得できるものだった。

 無論、猿との戦いは楽しかった。猿との日々が、無価値だったとは言わない。むしろそんなことを言ったら、自分の人生も、相手の覚悟も無駄にしてしまう。

 

 だが、その全ては今に帰結するのだと、そう理解した。この益荒男の、眼前に迫る英雄の素養を開花させた覇王の道を拒み、塞ぎ、打破され、その糧となる。

 道行く全てを巻き込み、味方には数多の恩恵を、敵には幾多の破滅を与えるその在り方。

 

 ——ああ、今後も見ていたいと、思わせるには充分だった。

 

 

 刹那、装甲が剥がされていた部位に削岩機が接触し——

 

 ——その威容に違わず、竜王の肉体を抉り、そのHPを傷痍系状態異常によって消し飛ばされたのだった。

 

 

 全てを吹き飛ばす大息吹が止まり、竜王の四足が力を失い、地響きを立てて地に沈む。

 ヤヨイは【天界飛翔 ラッダリト】の効果で未だ飛翔しているものの、集中が切れたせいで疲れが襲ってきている。まずい、このままだと墜落するぞと、うつらうつらとしながら冷や汗を流す。

 

 そこに、血と砂にまみれたもの……尻尾が、差し出された。

 

 その意味を察し、ヤヨイは静かにそこに着地する。ふわり、と風が揺れて、エメラルドグリーンの翼が粒子となって消え失せた。

 

『……のう、ヤヨイ』

 

「……なんだよ」

 

『……楽し、かったか』

 

 途切れ途切れで、もはや虫の息。何より彼は<UBM>、質問に答える必要などないし、今この瞬間にも、ヤヨイの命を奪うことも容易である。

 しかしヤヨイは、警戒することなく、単純に、軽快に答えた。

 

「楽しかったさ。ありがとう、ドラグベルグ。お前は、猿王と戦えなくて残念だろうけど」

 

『……いいや、わしも、楽しかったとも。猿と戦えなかったのは、まあ、確かに残念じゃったが……生きることは、ままならぬこともあれば、その結果妙ちきりんでも楽しく感じることもある。此度は、そういうものなのだ』

 

「……そっか。まあ、そういうもんか」

 

 そう答えた瞬間、砂埃が巻き起こり、ヤヨイが咄嗟に目を抑える。

 小さな足が、砂埃に紛れて尻尾の上に降り立った。

 

「……私は、あなたのこと、結構、好印象。マスターも、どっちも……とても、楽しそうだった」

 

『そうかい。そりゃあ、嬉しいなあ、アルマよ。お主も、頑張れよ。色々と、なぁ』

 

「……ん」

 

「んぐぐ……あー、ようやっと砂が取れた。……ん、何の話?」

 

「なんでもない」

 

 ヤヨイの頭上にクエスチョンマークが浮かぶが、アルマは微笑み、竜王は笑うだけで何も答えない。それにヤヨイが頬を膨らませると、ぽふっとアルマが頬を叩いてしぼませた。

 

『カハ、ハ。……あ、あ。もう、時間、かぁ』

 

「……逝くのか」

 

 一転、ヤヨイが悟ったような表情で呟く。

 そもそも、HPが全損したのにここまで話せていることそのものが奇跡なのだ。いずれ消え去る、儚い例外に過ぎない。

 

『ヤヨイも、アルマ、も、そのような顔、を、するな。勝者は、勝ち誇っていれば、良い。それだけ、で、良いのだ』

 

「……」

 

『だが、そうだ、なあ。

 

 ……わがままを、言うならば。共に、お主の配下として……歩むことも、したかった、なあ』

 

「……そうだな。

 俺も、あんたとわちゃわちゃやれてたら、楽しかっただろうな。もしも、叶うのならば」

 

 ヤヨイは、精一杯の笑顔を作る。

 竜王も、顔は見えずとも笑ったような気がして——

 

 

【<UBM>【山竜王 ドラグベルグ】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ヤヨイ・ベルダーウッド】がMVPに選出されました】

【【ヤヨイ・ベルダーウッド】にMVP特典【山竜宝飾 ドラグベルグ】を贈与します】

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