男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
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カグラと猿王の決着がついたものの、迎えも来ないので一人砂漠で「もしかしてこのまま放置……?」と密かに戦慄していると、船を持って飛んできたホムンクルスらに迎えられた。
そのまま、現在は残党狩りを終えたと思しきカグラを迎えに空の旅である。
「MPポーション買い込まないとな……」
……あと、戦闘中は気付かなかったんだけど、わりと竜王戦の出費が重い。
飲みまくったMPポーション、ぶっ壊れた【救命のブローチ】、【ブラック・デンドロン】の再生した時の修繕費などその他諸々、物価が高いカルディナだとかなりでかい出費になる。
そりゃ、アクセサリーで儲けてるけどさ。結構吹っ飛ぶぞコレ。
ちなみに今、必殺スキルの反動が来たのかアルマは紋章の中で爆睡中。竜王との対話の時も我慢していたらしいので、まあ、良く休んでくれって感じ。
あ、カグラが回収されてきた。
「お疲れさまー」
「んー。カグラも勝ったんだな、おめでと。……それが特典武具?」
「そだよー」
にへらと笑って倒れこむカグラ。おい、神話級の服着てるんだから気を付けろよ。
「あー、つかれたー……最後の一匹はもう強化がほぼなかったから泥試合だったよ……」
「ほんとピーキーというか……」
「だから勝てたんだけどねー……あ、それが君の特典武具? 似合ってるじゃん」
「俺もそう思う」
「さすがナルシ……」
失敬な、自分の容姿を自覚しているだけだぞ。俺とて合わない服装はあるし。
カグラがごろん、と寝返りを打ち、空を見上げる。俺もつられて上を見上げるが、何もない。ただ、晴れやかな晴天が広がっているだけだった。
「……勝ったね」
「おー……」
言葉はなく。ただ、強敵を倒した感慨だけを胸に秘めて。
疲労の中で清々しく輝く心を誇りに思いながら、俺たちは笑い合った。
——竜は鋼と覇を謳い、猿は天孫と踊りを舞った。
本来ならあり得べからざる舞踏は、なれど一つの演目として此処に成立した。
その名、《猛き双王、神話の激突》。
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——歓声に包まれながら街を行く。
そりゃ、あれだけやれば目立つよな。甘んじて歓声を受けつつ、内心辟易しながらメルクとラトラナジュの待つバーに直行する。
もちろんというか内部は貸切で、カグラの歓迎会を行った店は俺たちの相手を弁えたかのように静かで、とてもありがたい。
それで現在、白衣を脱いでラフな格好をしたメルクに抱きしめられています。おめーイギリス人だろ、それともアメリカに
「わかった……わかったから一旦はーなーれーろー、俺はそっちの趣味はないの!」
「凄かった、凄かったよヤヨイくーん! 胸がドキドキして楽しかった、ほんとーに君は凄いなあ友人として誇らしいよぅ!」
「はいはいメルク、ヤヨイ君が困ってるでしょー」
STRではラトラナジュと大差ないメルクを強引に引き剥がす。それでも興奮冷めやらぬようで、マスターに居酒屋で飲んでる客みたいなテンションでオレンジジュースを注文した。うん、酒を頼むほど我を失っていなかったか。
「ふぅ……マスター、ハイボールお願い」
「僕は日本酒があったらそれがいーなー。なかったらなんかオススメの酒精薄いやつで」
「私も……少し訓練したから、それなりの酒精のをお願いするわ」
「ごく……落ち着いた。んー、僕もお酒飲んでみたいなー。オレンジジュース美味しいけど」
子供舌が生意気言うんじゃあない。
「ま、少しずつ酒精入りの飴とかで慣れさせて行けばいいと思うよ。仕事終わりの酒はサイコーだぜ」
「僕も15時間くらい舞った後に日本酒飲むのがたまらないんだよねぇ……演目で酒飲むのもあるけどさー」
「私は遺伝でお酒に代々弱いからね。少しずつ訓練しているけど、ヤヨイ君レベルにはなれる気がしないわ」
言っちゃなんだけど、俺酒には相当強いからな。ほろ酔いにもなんないし皆が苦しむ二日酔いもなったことないから、少し憧れていたりする。
「……そーいえば僕以外みんな仕事してるのか……ちくしょー、なんか僕だけ出遅れてる気がするー……マスターおかわりー」
「学歴で言えばメルクがトップだけどなー」
俺はメルクとほぼ同格の大学だったけど、大学院には行かずにそのまま歩く東京本社ルートだったし、カグラは大学には行ったけどそんなに真剣に通ってなかったらしい。ラトラナジュもお嬢様校出身だけどそこそこの宝石商専攻の大学だったし、まともに進学したメルクが一番学歴が良かったりする。
「んなこと言って、君も大概じゃないかヤヨイ君。少し調べたらわんさか出てきたよ、大学時代の君の功績。国際音楽コンクールバイオリン部門最優秀賞受賞とか頭おかしいの?」
「そうそれ、私も調べたらビックリしたわよ。それで優勝したらインタビューで『手慰みは終わり』なんて同級生が憤死しそうなこと呟いて歩いて行ったって……かなりロックよね、あなた」
「あ、あははー……」
これでも音楽、特にバイオリンとピアノ関連の家庭教師は大学時代も雇っていたから……子供の頃から超一流の音楽に触れ続け、バイオリンは今もリハビリしているし、何だかんだ年季があるからね。
「なつかしーね、ヤヨイの音楽……そういえばヤヨイの実家に専用の練習小屋あったよね?」
「あるねぇ。誕生日プレゼント、って言って1億円くらいで創設されたの。最近は充分に身体も動くし、暇な時はあそこに篭ってピアノとかバイオリン弾いてるなー」
「それよりも一億ポンと出せるヤヨイ君の家族が怖いわ」
別に珍しいもんでもないよなー。TVで出てる芸能人も1億くらいかけて子供のために色々造ってるし、真木だけじゃないさ。……まあ内部に置いてる楽器は10億じゃ済まないけども!
……あー、思い出したら弾きたくなってきた。
「アイテムボックス、っと……よしあった」
「おー?」
追悼の念とか、まあ、そんなしみったれたものではなく。
ただ楽しむ為だけの演奏で、仲間と心地よく過ごす為の演奏で。
「それじゃ、弾かせてもらいますか」
バーの雰囲気に合う曲で行こう。静かで、落ち着けて、それでも気分が高揚するような、そんな曲が良い。
——なら、あれだ。
「BWV147、カンタータ。伴奏はないけど、そこは脳内で保管してくれると助かるよ」
「——『
彼らに会えたことを。
竜王と戦えたことを。
——最期に、絆を結べたことを。
その全てに感謝して。
この世界に——電脳の神がいると、知っていても。
俺はその巡り合いに、感謝を捧げたいのだ。
浪漫を追い求め、健常を探求し、友情を模索する。
リアルではできなかったこと、リアルでは叶わなかったこと、その全てをこの世界は叶えてくれた。
運命だとか、そんな陳腐な言葉でも良い。
俺の感謝が伝わるならば、それで良い。
——カグラが舞う時と同じように、俺は、俺の意識が乖離する。
手だけは動かして、意識だけは別物で。結局のところ、こんなものは異質なのだろう。
感情がどれだけ揺れ動いでも、俺自身のやることには何も変わりがない。ゆえに、カグラのようにテンションに任せてコンディションが上がることもなく、ただただ自分にできるものを、今自分ができる最高の出来で、常に、いつも、やり遂げる。
ヒトとして理想的。
——けれど人としては、異常だ。
俺が、感情がどれだけ揺れ動こうとも、俺の身体はそれを反映してくれない。
疲労しても、我慢しても、悲観しても、何をしても何を感じても何をやり遂げても、俺は、俺の身体は常に“最高”を叩き出す。
失敗することなど、才能が関わるのならばひとつもない。あるとしたらそれは、俺の精神という、俺が人間らしくいられる最後の予防線によるものだ。
リアルで、何をしても、俺は常に他者の期待に応え続けた。
万能の才能を磨く不断の努力。それができるのだから。そしてハードルが上がっても、俺の才能は凌駕する。そんな自分を誇らしく思いつつも、それでも多分、俺はリアルに飽きていたのだ。
感情の乖離、その極地。道を極め続けた者の末路。
満足感はひとつもなく。俺にできることは何でもできてしまうから、傲慢にも思えるほどの退屈感。
——それをデンドロは払ってくれた。
壁を作り、乗り越えるための力を授け、どうにもならない状況を打開する切り札がある。
そして、システムというどうにもならない法則の中では、いくら俺でもやれることには限度があった。俺の全てを叶える才能は、この世界でだけは全てを叶えることはできなかった。
それでいて、俺が一番欲しかった健常という切望を、あっさりと叶えてくれたんだ。
その中で、俺に期待しない——期待しすぎない、ただの友人として付き合ってくれる、カグラと、メルクと、ラトラナジュ。
俺の全てを信じてくれて、付き従ってくれるアルマ。
彼らがいたから、俺は、この世界で自分らしく生きることができた。万能だったはずの俺にできないことをしてくれる彼らは、俺の中では正しく救いだったから。
なぁ——みんな。
俺は、さ。こんなことを言うのは、恥ずかしいけれど。
とても、君たちに感謝している。
しても、しても、し足りない。この世界と、君たちへの感謝だけで……俺は、心の中が一杯なんだよ。
激闘という『苦戦』を味あわせてくれた竜の王も。
無敵という『不条理』を味あわせてくれた風の石も。
——浪漫という『願望』を味あわせてくれた鋼の夢も。
この世界の全てが、愛おしくてたまらない。
俺を楽しませて、救って、俺がただのヒトとして生きることのできるこの世界は、正しく俺の理想郷だ。
だから、神への感謝を歌うこの曲が相応しい。
高揚と、静寂。相反するその二つを表現してくれるこれこそが、俺にとって一番相応しいと……そう思えたから。
——やがて、完璧に曲を弾き終えた俺の元に、カグラと、メルクがやってくる。
「ブラボー。うん、素晴らしい演奏だった」
「昔聞いた時よりも洗練されてて……うん、凄かった」
「……ありがとな、二人とも。ラトラナジュも、さ」
「……今なら抱き締められるんじゃないメルク?」
「あ、そだねー。いやあ凄いよヤヨイ君! 君が友達で僕は誇らしいし楽しいし……とりあえずヤヨイ君ハグしちゃうー!」
「僕もやるー」
「……私も。マスターの、ぎゅー」
「うわ、アルマ起きたのかって、ちょ待ってって——ああ、もう!」
本当に——楽しいなぁ!
第4章完結。いやあ、書いた書いた。
ハイエンドって、やっぱりどこか歪みがあるんですよね。クラウディアはもちろん、シュウも歪みを秘めているような感じがありますし。
ヤヨイ……正弥は、本当に全方面に才能があるけれど、一番欲しい健常者の身体がなかった。
周囲から求められる才能を全て持ち、それをさらに努力で磨き上げて……そうして何でもできるようになって。
でもデンドロでは、システムという万能を許さない法則があった。
だから正弥は「ヤヨイ・ベルダーウッド」として、ただの<マスター>として振る舞うことができた。そして大切な友人ができて、彼らは自分にできないことができたから、ヤヨイは「自分」として振る舞えた。
かつて精神が疲労してもなおアルマを完璧に操作してアクセサリーを作った時も、そんな状態だったのです。
だからこの世界と友人たちが、ヤヨイは大好きなのです。