男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□???
——嗚呼。
怖い。
大きな力を持つ者が、死んでしまった。一挙に、二体も。
怖い。
怖い。
……怖い。
『いヤだ』
死にたくない。
死にたくない——
黄河帝国南部、カルディナとの国境に位置し、北西に位置する<厳冬山脈>に比肩するとされる大魔境——<神獄山>。
その異質な雰囲気に引き寄せられたモンスターや、数多の<UBM>が互いを貪り合う地獄である。それを恐れてティアンは滅多に近付かず、そして<超級>を代表とする<マスター>は、黄河とカルディナという両大国に挟まれた複雑な地理で、政治的にも難しい立ち位置にあるがゆえに手出し厳禁とされていた。
その<神獄山>の頂上、不自然にぽっかりと空いた
周囲に狂気を振りまきながら……ただ、その小さな身体を震わせて、何者かに怯えている。
いや、もしかしたら、その何者かは、存在しないのかもしれない。その身に秘める異常な力は、この世界の大部分の生物の“格上”として通用するであろう。
それなのに。
それなのに、怪物は恐怖に震え、怯えとともに身体を揺らす。自らを脅かすものなど、もはやいないと理解できない。知性があっても、理性がない。狂気に満ちて、暗きに溺れる。それが怪物の真なる姿であった。
——そうだ、そうだ。
今ならばまだ間に合う。
まだ、まだ。
今、全て殺してしまえば……自分を脅かすものはいなくなる。
怖いものが、消える。怯える必要がなくなる。
なら、なら、なら。
今すぐ、今すぐに——!
まるで癇癪のように、怪物はその手を伸ばす。
そのまま、周囲の山肌に触れようとして……。
「まだ、それは速い」
その前に、かつて語りかけてきた声と同じものが聞こえて、硬直した。
『……』
「まぁ、待て。まだ君は早い。それにだ。今目覚めては、この土地にいる強者を全て敵に回すことになるぞ?」
それは、嫌だった。
目覚めたこの世界は、かつて自分が起きていた頃よりも、力ある者が多すぎる。いにしえの世にて退けたあの竜人に匹敵する気配が、この土地にも……他の国にも、多すぎる。
「話が早いのは助かるな。……ああ、そうだとも。君には、彼とその仲間へと壁となってもらわなければ困るからな」
『……ァ』
自分を保護してくれた、この妙な気配がする男。
強者の気配に、狂気的なまでに敏感な怪物であっても、正体がわからない。絶大な力を持っていることは確かで……しかし、それ以上は何もわからない。
だから怖い。結局、この世界の何もかもが怖いのだと、怪物は
「君は、本質的には誰にも管理することはできない手合いだ。その恐怖と怯えは、この世の全てに向けられている。だからこそ、私たちは君を一時的に管理下に置けているわけだが……」
『……』
「一つ、言っておこう。近いうち、この山のセーフティーを解除する」
ビクリ、と怪物が震えた。
「その時こそが、君と私の契約が果たされる時だ。
私が君の力を求めるまで、君の棲まうこの山に対するセーフティーを掛ける。そういう契約で……それが果たされる時が来たということだ」
『……ィ』
「理解があって助かる。それもまあ、薄氷のものなのだろうが——さて、それでは私は行くとしよう」
男は……ジャバウォックは、眼鏡をかちゃりと上げて、眼前の<UBM>を見る。
「番外の<SUBM>。それでいて制御不能な<イレギュラー>。……やはり、確保しておいて正解だったか」
ジャバウォックは身を翻し、頂上の大穴から去る。
「今はまだ、第五形態。だが、第六となり、経験を積んだ時が……君たちにとっての最大の試練となるだろう」
「——“The Force Superior.Selects.Almighty”」
「アレを倒すのは、彼らだと……私は、期待しているのだ」
“The Force Superior.Selects.Almighty”。
とある番外に与えられたコードネーム。
三番目に与えられた“The Glory Select.Endless.Routine”と、似たようで異なるもの。
——どんな世界でさえも、