男のロマン、それはロボット —<Infinite Dendrogram>— 作:クーボー
□2043年アメリカ ルイス・テレジア・フォーサイス
「これほどの素材を、もったいない」
なんか黒服のおやじさんが僕を見て呟く。
「はーい髪セットしましょうねー。……わぁ、すごいツヤツヤ」
なんか黒服のオカマが僕の髪に触れて呟く。
「ふむ、ふむふむふむ! 貴方にはこんな服が合う気がしますよォ!」
なんか黒服のコーディネーターみたいな男の人が、僕に服を被せて吟味している。
現在僕は、拉致られた末に車の中で服を吟味されています。怖いよ、てかなんでみんな黒服なのさ。
「正弥様が目をかけるのも頷ける。素晴らしい逸材だ」
「このくすんだ銀色の髪と翡翠色の目が調和して……あぁ、素晴らしいわね。どんなアクセサリーにも親和性があるわよ」
「やはりカジュアル系でいきましょうかねェ?」
「馬鹿ね、カジュアル系はあのお店には合わないわよ。シックが良いと思うわ」
「では髪を梳かしましょう。動かないでくださいよ」
あー! あーっ!
状況が飲み込めないし変人ばっかだしいつのまにか半裸に剥かれてるし髪は梳かされて後ろでマッサージ師が手をワキワキさせながら控えててやーだー!
/
「……なんだか面白そうな気配がするわね」
「ヴィクトリア様、これどうします?」
「あら、可愛いわね。でもちょっと趣味に合わないかなー……奥の方はどんなのが?」
「大人の落ち着いた雰囲気と、色気を醸し出せる服装が置いてあるエリアとなっております」
「……いいじゃない。案内してくれる?」
「勿論ですとも。いやあ、仕え甲斐のあるお方だ」
/
そんなこんなで、全て彼らに任せること数時間。
初めて着るような……それこそこれだけで100万は吹っ飛びそうなくらいのコートやアクセサリーを着けさせられて、恐縮している最中である。
ついでに髪もきちんと整えられて、触れたら崩してしまいそうだから気をつけている。
「服に着られてないかなぁ……」
「ルイス様が自信を持って歩いていれば、そのような印象は抱かれませんよ」
つまりもっと自信を持てと。簡単に言うねぇ……。
まあ、そうだね。ヤヨイ君はどんな服を着ても自信満々に振る舞ってたから似合ってて、それを真似ろと言うことか。
……うん。簡単じゃないけど、あんまり難しく捉えるのもダメな気がする。身近にお手本がいるから助かった。
大きく息を吐き、深呼吸。僕は彼に招待されたんだ、それ相応の振る舞いをしろ。
「……大丈夫です。落ち着きました」
「それはそれは……末恐ろしいお方だ」
最後にぼそりと呟かれた言葉は、よく聞こえなかった。
やがて車が止まり、ドアが先に出ていた黒服の人に開けられる。
そこは料亭のような雰囲気を漂わせる、間違いなく高級だとわかる料理店の門前だった。高級料理店に来た経験はほとんどないものの、外観からでも窺いしれる厳かな雰囲気に、知らず識らずのうちにごくりと唾を飲み込んだ。
「少々、お待ちください。主人に招かれたお客様は、もう一人いらっしゃいます」
もう一人。
僕が知っていて、そして彼が知っている相手?
「……まさか」
その人物の名を口に出そうとした時、すでに去っていたらしい僕が乗っていた高級車が停めていた場所に、もう一つの黒塗りの高級車が停まった。
そして僕と同じように、黒服にドアが開けられて——
——輝くようなプラチナブロンドの長髪に、自身の美貌を際立たせる最小限のメイクが施されただけの、ひどく美しいかんばせ。
神の采配の如く整えられたその容姿は、翡翠色の瞳もあってとても神秘的なように思えた。
そのわりに落ち着いた雰囲気を醸し出す白と黒を基調としたその服は、自らのプロポーションを誇示するかのようにほのかな色気を漂わせている。
有り体に、言えば。
僕は今日、完全に見惚れてしまったのだと思う。
「……え、っと。もしかしなくても、メルクよね?」
「あ、っとと……うん、僕がメルク。リアルでの名前は、ルイス・テレジア・フォーサイス」
「ルイス……良い名前ね」
……笑わないでよ眩しいから。
「私はラトラナジュ。リアルでは、ヴィクトリア。ヴィクトリア・アッドマン。その、仲良くしましょうね?」
「……うん。よろしく、ヴィクトリア。とても、綺麗だ」
そう言ったら、何故か顔を逸らされた。
あと黒服がなんか生暖かい目で見てくるんだけど、怖いからやめてね?
「……ごほん。さて、それでは案内させていただきます」
「あ、はい。それじゃ行こうか」
ヴィクトリアの手を引いて、案内係の黒服の後ろを着いていく。エスコートは久しぶりだから不安だったけど、抵抗する様子はないのでそのまま先導し、一緒に付いていく。
途中何か言いたそうなヴィクトリアだったけど、僕が振り返ると硬直してしまうので、結局案内の人がとある襖の前で止まるまで一緒に手を繋いでいたままだった。
それで手を離すとほんのり残念そうな顔をするので、顔がにやけるのを必至で抑える。ホント殺しに来てるよね、最高だけど……最高だけど手加減してくれないと死ぬ!
「正弥様、お二人がいらっしゃいました」
『わかった、入ってきて』
その声が聞こえて、奇妙な緊張感に襲われる。あちらとは、随分と違う声だ。テンションというか、秘める性質が違うというか、とにかくそういう優しげなんだけど威厳のある声で、一瞬ヤヨイ君の声だと認識できなかった。
これは……厳しいかもしれないぞ。
襖が開かれ、暗かった廊下がほんのりとした暖かい光に照らされる。
そこにいたのは——
「やあ、昨日ぶりだね、メルク……いや、ルイス・テレジア・フォーサイス君。それとそちらは、ヴィクトリア・アッドマンさんだね」
「……君が、ヤヨイ君?」
……改めて見ると、本当に凄まじい。
茶髪に茶目でどことなく高貴な雰囲気を持ち、痩せているとは言えそれすらも美貌の翳りとして完成している。生まれながらの天上人とは、まさにこのことなのだろう。
生粋の高貴な一族が、同じく高貴な一族と混じり合った末に生まれた究極の美貌。ヴィクトリアとは別ベクトルだけれど、それでも深窓の美女と言っても差し支えない。正直、男としてわずかばかりの敗北感も覚える。
そして脇でお茶請けを食べているのは、まさか。
「ああ、そうだとも。
さて、改めて自己紹介と行こうか。俺は真木正弥。この料亭のオーナーをしている、SNKグループの歩く東京本社だなんて呼ばれている男だ。初顔合わせだけど、仲良く行こう」
「……そうだね。よろしく頼むよ」
「私も、よろしくお願いするわ」
柔和な笑み。落ち着いた声のトーンと合わさって、緊張がほぐれていく。それを見計らったのか、脇で今か今かと待ち兼ねていたらしい少女が立ち上がった。
……ん?
「じゃあ、僕も自己紹介だね!
僕は神条院巫楽、あっちではカグラって名乗ってる。今回は正弥のお仕事に便乗させてもらってアメリカに来たんだ。よろしくね!」
「……その服は?」
「僕の趣味!」
その髪に付けたピンと全体的にボーイッシュな「少女」のように感じるコーディネート、明らかに狙ってるよねぇ!?
——こうして、波乱の食事会は幕を開けたのだった。
今回は区切り良かったのでここで。
ちなみにルイスの無意識紳士スタイルのせいで油断してたヴィクトリアは完全にやられました。あと黒服が頑張った結果のコーディネートもガン決まりで、お互いに乙女心に一撃食らった形です。
いやあ、美男美女の容姿を描写するのは楽しいなあ!
あと、ルイスもヴィクトリアと正弥に横に並ぶくらいの美貌の持ち主(落ち着いた正弥と比べるとふんわりとしたゆるい感じ)であり、最後ギャグみたいに流されてますけどカグラも間違いなく最上位の美男子に分類されるので、この場にはAPP10代後半が複数集まっていることに……。
うーん眼福!