いやはや、ひどい目にあったと、
ヨロヨロした足取りで店にやってきたのはコウタ。
幼子達に壊されぬよう、大事なガンプラを倉庫にしまい。
囮として以前から用意してあった、懐かしのシリーズ。
MSinアクションシリーズ(ジャンク品)をいとこ達の玩具として提供。
頑丈さと手軽さに定評のあるシリーズだけあり、玩具としては抜群だ。
さぁ好きなだけいじりたまへ、と差し出したのはいいのだが。
子供達が以前遊んだ覚えのあった、
HGデンドロビウムを所望しだしたものだからさぁ大変。
出してあげたらという、価格を知らない母親に絶対拒否を言い放ち。
やだやだと泣き喚く幼子達を気合でなだめるコウタお兄さん。
最終的にはHGガンダム・Gファイターの変形ギミックで我慢してもらったが。
悲しいかな、あのガンダムは今頃、四肢がボッキリ折れていることだろう。
まぁ、それはあとで直せばいいかと涙を呑みつつガンプラバトルコーナーに入る。
トーナメント大会も第二回戦が始まり、実力者達の白熱のバトルが繰り広げられていた。
さて、タタミ達はどこにと探していると、見知った人物が居た。
「ようガク、もう手伝いはいいのか?」
「ああ、予想以上に人が集まってな、あっさり終わった」
さすがあの先輩の人脈とつけたすガクは、
コウタをちらりと見やっただけ。
真剣な眼差しを向けるモニターには、
カタパルトから発進する、見知った素組みのパワード・ジムと黒いアルケー。
一回戦は勝ち抜いたかと、どこか誇らしげな気分。
あと一人のお仲間は誰かなーと、今出撃をするガンプラを確認。
「お、ガンダムエックスのフル装備か。
ウェザリングがいい味だしてんじゃん」
サテライトキャノンとディバイダー、ガンプラならではの完全装備。
いい趣味だとうなづいているコウタの横。
「なっ!? マサヒコ! なんで私のザクを使わないんだ!
言うとおりにしなさいと何度言えば!」
耳障りなほどでかい声を上げる、中年のおじさん。
その顔、コウタも見覚えがあり、苦い表情を浮かべる。
店長が、あまり気乗りしないが店への出入り禁止も検討と言っていた人だ。
金きり声をあげて、どこかへいこうとするおじさん。
おそらく、選手のところへ行こうとしているのだろう。
それを、腕だけを伸ばして制止するのはガク。
「もう試合は始まっている、邪魔をするのはマナー違反だ」
「なにかね、失礼な! 君には関係な―」
腕を押しのけようとするも、ピクリとも動かない引き締まった腕。
ギンッとガクのひと睨みで、途端に萎縮するおじさん。
「え、ええい! 誰も彼も、年長者を敬うことを知らんのかね!」
そら、敬うに値する人だったらな、とコウタは心の中で答え。
宇宙空間ステージに踊りだす3機のガンプラを見守る姿勢に入った。
カタパルトから打ち出され、無重力空間へと飛び出したタタミ達。
ステージは宇宙空間、宙域名はア・バオア・クー。
地球からよりも遥かに近くにある月を眺めながら、ユリカがいつものように解説してくれる。
「この宙域なら月も近いので、サテライトキャノンが使いやすいですね」
「サテライトキャノンっていうのは、月がないと撃てないんだ」
「はい、さきほどマサヒコ君が言っていた通り、
月面のマイクロウェーブ送信基地からエネルギーを受信することで、
膨大なエネルギーを照射することが可能な武器です。
その威力はコロニーを破壊するほど、
なまじ威力が大きすぎて汎用性の無い欠点があります。
サテライトキャノンの射線には、絶対に入らないでください」
念を押すように言うユリカ。
それほどまでに強力な武器なのだろう。
アルケーを先頭にし、パワード・ジム、エックスの並びで宇宙を駆ける。
タタミも宇宙空間での戦いは初めてではなく、
本来は地上用のパワード・ジムでも、
ガンプラバトルでは戦うことが可能なのは体験済み。
操作に若干のコツはいるが、それもしばらくすれば慣れることができた。
前後左右上下、すべての方位から敵が来る可能性があり、
索敵の遅れが生死を分ける、まずは敵を見つけることが大事。
幸い宇宙空間ではレーダーが広がり、索敵はまだ楽ではあるが、
それでも、死角から攻撃をされればひとたまりも無く。
身を隠す残骸もないこのフィールドでは、射撃機体が有利か。
「っ! タタミ兄ちゃん、ユリカ姉ちゃん、左上!」
先に、敵に感づいたのはマサヒコ。
狙撃能力が高いのは先ほどの戦いでわかっていたが、
遠距離戦闘のセンスは抜きんでているようだ。
まだ光点にようにしか見えないが、2つの反応。
相手チームの3機編成のはずだ、どこかに伏兵がいるのか?
こちらが気がつくとほぼ同じタイミングで、向こうも気づいたようだ。
2つのうち1つの敵影が迫る。
前衛を張るにしても、3機相手に1機で突っ込んでくる?
無謀というわけではないだろう、一回戦を勝ち残っているのだから。
近づいてくるそれは、輝く弾を周囲に展開しはじめた。
あの武器は、タタミも見覚えがある。
つい先日テレビアニメが最終回を迎えた、100年のガンダム物語。
そのヴェイガンの作った、白いガンダム。
「ガンダムレギルスのレギルスビットですね。
けど一機では・・・、一機じゃない?」
漆黒の宇宙空間において視認し辛い黒い機体。
レギルスを上に乗せ、高速で飛翔する、レギルスのライバル機。
「ガンダムAGE2・ダークハウンドですね。
レギルスを乗せて戦うなんて」
「原作で敵同士だった2機なのに。
ガンプラならではの協力プレイだね」
光点がひとつだったのではない、2つが重なっていたのだ。
遠目から見ても、良い仕上がりのガンプラなのがわかる。
もともとAGEキットは完成度の高さに定評があるシリーズだ。
素組みでもある程度の性能が約束されている。
まずは牽制、
アルケーのGNバスターソード、パワード・ジムのバズーカ、
エックスのツインビームマシンガンの連射による弾幕。
それを避けようともせず、展開する光の玉、
レギルス・ビットが2機を包み込み、すべてを射撃を防ぐ盾となる。
そしてダークハウンドとレギルスの2機によるビームの反撃。
これは厄介な戦術できたと、ユリカの渋る声。
「レギルス・ビットの全方位防御ですね・・・」
「簡単な射撃じゃ破れないね、あれ」
小さい射撃ではビクともしそうにない、
接近して突き破るか、大出力の大型兵装を用いるしかない。
「大丈夫、僕のディバイダーなら!」
マサヒコのエックスが、盾を突き出す。
さきほどタタミに見せた正面装甲が開くギミック。
現れたのは、ハーモニカのように並ぶ砲門。
「ハモニカ砲! いけぇ!」
ザクスナイパーを使っていた時は一度も言わなかったような、
楽しそうな、ヒーロー台詞を放つマサヒコ。
グレープフルーツ色の18本のビームが宙を奔り、2機を狙う。
ハモニカ砲の直撃はビットのシールドでは防げない、
ダークハウンドはレギルスを乗せたまま、回避運動に入る。
エックスならダメージを与えられる、
タタミとユリカの役割は、2機の動きを妨害すること。
いや、ひとつ忘れている。
敵は、あと1機いる!
そう気づくのがあと少しでも遅ければ、直撃を受けていた。
タタミとユリカは同時に気づき、すぐさま回避運動に入る。
ハモニカ砲のビームよりも数倍太い、オレンジ色の巨光が一拍の後に奔り、
直撃をしていない、傍を通っただけなのに。
パワード・ジムの持っているハイパーバズーカが、飴細工のように溶けていく。
「この出力・・・!?」
レギルスとダークハウンドを囮にし、大出力のビーム砲で狙撃する作戦。
その狙撃を担当するのは、遥か彼方に見える敵。
長大な二門のバスターライフルを両手で構える、翼のガンダム。
「ウイングゼロ!? タタミさん、あのバスターライフルは脅威です!」
「すごいビーム・・・、かすっただけでバズーカが無くなったよ」
この状態はマズイ、ダークハウンドとレギルスのコンビネーションは、
撃破よりも生存を重視した動きをしており、落とすのは至難の技だ。
かといってこれを放置してウイングゼロを倒しにいけるほど、
ダークハウンドの加速は遅くない、背中を見せれば一瞬で落とされる。
だが、この距離からウイングゼロを狙える武器は、アルケーにもパワードにも無い。
ウイングゼロの狙撃がこちらに当たるよりも早く、あの2機を落とせば・・・。
タタミが頭の中で作戦を考えていると。
「タタミ兄ちゃん、コレ使って」
マサヒコから渡されたのは、さっき紹介してもらったディバイダー。
持ち手のサイズが少し小さかったが、パワードでもなんとか装備はできた。
使用方法を頭に入れながら、タタミが理由を聞く。
「マサヒコ君、どうするの?」
「ウイングゼロは、僕が落とすから」
勇ましい声。有無も言わせぬほど、信頼に値するモノだった。
「ではマサヒコ君、よろしくお願いします。
あのウイングゼロ、かなりの強敵ですからね」
「うん!」
タタミとユリカの元から離れ、後方に下がるマサヒコのエックス。
ビームマシンガンを投げ捨てる。
どうせウイングゼロに届く射程は無い武器だ。
相手のバスターライフルだけが、一方的にこちらを狙えるこの状況。
打開できるとすれば、バスターライフルを超える、
ガンダムエックスの持つ最強の兵器。
マサヒコが筐体グリップの特殊兵装スイッチを弾くと、
背負っていたL字のバインダーが回転、展開。
さらに全長に等しいサイズの砲身が右肩へと移動し、
バインダーが反転し、銀色に輝くリフレクターが、Xを描く。
それを待っていたように、月から届く青い光。
胸部のクリアパーツへ溶け込む、受信用の指向性レーザー。
青い光は道となり、行き先を告げられたマイクロウェーブがXを包み込む。
エックスのリフレクター、各部センサーが発光。
漆黒の宇宙、月光に輝き、放たれるのは。
「サテライト・キャノン!」
青に光る奔流が、砲身の何十倍も大きく膨らみ、広がる巨光。
ツインバスターライフルの比ではない、極太のエネルギー。
ウイングゼロを狙い、照射される月光。
延々に続くと思われた光の一撃はやがて晴れ。
マサヒコはすぐさま回避行動。
サテライトキャノンに比べれば細いが、しかし強烈なビームが傍を通り抜けた。
「避けられた・・・!」
一筋縄ではいかない相手だ。
サテライトキャノンは連射ができない。
冷却時間を知らせるカウントダウンが始まった。