試合の行われる筐体ルームとは別の部屋。
ライブモニターに映るタタミ達の戦いは、
第三者の目から見ても、かなり不利とみてとれる。
「ちっ、サテライトの狙いどころはかなりよかったのにな。
あのウイングゼロ、よく避けたもんだぜ」
マサヒコという少年、遠距離の射撃能力はかなり高い。
当たったと思ったのに、そう漏らすコウタの隣で、ガクは分析する。
「いや、ウイングゼロは、サテライトキャノンを撃つ前に回避に入っていた」
「見切ってたってコトか?」
「サテライトキャノンの最大の欠点は、マイクロウェーブの受信が必要な点だ。
あんな目立つ青い光が月から届けば、誰だって気づく」
砲撃機体を扱うガクならではの鋭い見方。
いくら長大な武器があっても、当たらなければ意味が無い。
さらにマイクロウェーブを受け取る際に、相手に位置はバレ、
発射するタイミングの合図にもなってしまう。
サテライトキャノンは戦略兵器であって、戦術兵器ではないのだ。
「だから私のザクを使えばよかったんだ!
あんな玩具みたいなガンプラなど、ええい!」
息子の苦戦に、ギャアギャアとわめきっぱなしのおじさん。
自分の思ったとおりにモノが動かないことが、よほど気に入らないのか。
「あの二人は君達の友人かね!?
いつまであんなガンプラに手こずっている!
早く息子の支援に回りたまえ!」
「んなコト、俺らに言われてもなぁ」
コウタの言葉が通じるはずもなく。
「さっきから君達は、目上の人間に対する礼儀が無い!
いったい親からどんな教育を受けていたのかね!?
ああもう、最近の若い子は―」
ついには、コウタとガクに八つ当たりを始める。
勘弁してくれよと、コウタがそろそろ我慢できなくなってきた時だった。
「・・・いい加減にしろよ?」
先にキレたのは、やはりというか、コウタよりも先に試合観戦をしていたガク。
「な、何だね? 子供が大人に―」
「子供大人以前に、マトモな頭の無い男を無条件に敬うヤツがどこにいる?
大人の威厳ってやつか? テメぇからそんなもん感じねぇんだよ!」
「失礼な! 侮辱罪で訴え―」
「ガキの言い分ぐらい言いくるめてみせろよ!
訴える? 子供を説教すんのに他人の力借りるやつが、
大人のフリしてんじゃねぇ!」
「ぐっ・・・」
言いよどむおじさん。正論に感情で反論しない理性はあるようだ。
だったら。ガクは一旦呼吸を整えて、気持ちを落ち着けてもう一度口を開く。
「オレは、あんたの息子が負けるなんて言ってない。
まだ状況は五分だ」
「どういう事かね?」
「一回戦は途中からしか見ていなかったが、
ザクに乗っていた時よりエックスの動きはいい。
おっさんも一度、色眼鏡はずして見てみろよ」
そう言われ、しばらくエックスの動きを観察するおじさん。
言われてみれば、先の試合のように感情に流されることも無く、
冷静に状況を把握しているようだ。
そう認識できるまで待ってから、ガクが言う。
「あの子は、エックスが好きなんだろ?
親だったら、息子の好きなもん否定してやるなよ・・・。
それにオレはあんな事言ったが、あんたの息子さんは、
少しぐらいおっさんを尊敬してるみたいだしな」
「なぜわかる?」
「・・・。あのエックスのウェザリング見てみろよ。
つやけし吹いて、見よう見真似でやったんだろ?
さっき使ってたザクスナにそっくりだ」
本当に気づいてなかったらしい。
それっきり黙って、戦いを見守るおじさん。
話をわかってくれる人で助かった。
おそらく、息子の試合に浮かれていただけだったのだろう。
やれやれと肩をすくめ、自分もライブモニターを見つめるガク。
その横のコウタは、内心ヒヤヒヤものだったが、
丸く収まったことにホッと一息。
「(お節介だよなぁ、タタミも、コイツも)」
そんな友人が、少しだけ誇らしかった。
ウイングゼロとエックスの長距離射撃戦は、
ガクの分析通り、ウイングゼロに分があった。
一発ごとにマイクロウェーブの受信が必須なエックスと違い、
ウイングゼロのバスターライフルはチャージを必要としない。
連射が可能で、この威力という、
ガンプラの携行装備の中では破格の性能と言えるだろう。
さらにエックスはマイクロウェーブ受信レーザーを毎回接続するため、
位置、発射タイミングがバレてしまうという最大の欠点を抱えていた。
それをウイングゼロも承知しており、
ダークハウンドとレギルスのサポートをしつつ、
エックスがマイクロウェーブを受信したら牽制するという、
片手間で二つの作業をこなす余裕すらある状態だった。
この状況を打破する方法を、マサヒコは必死に考える。
エックスを使う機会をくれたタタミとユリカ。
あの二人と共に戦う以上、なんとしても勝ちたい。
三発目のサテライトキャノンも回避され、
マサヒコに次第に焦りが生まれてくる。
「さっきは、僕のせいで負けそうだったんだ。
なんとかするんだ、僕が!」
ウイングゼロのバスターライフルが二人に当たる前に、
砲身の冷却を待つ間、じれったさがマサヒコを煽る。
このまま外し続ければ、ウイングゼロの砲撃は確実に二人を貫く。
あとは数的不利で押し込まれ、各個撃破されて終了だ。
残り時間のカウントダウンは、まだしばらく時間がかかる。
まだかまだかと焦れるマサヒコに、ユリカから通信が入った。
「マサヒコ君、策はありますか?」
ダークハンドとレギルスを相手にしつつ、ユリカの口調は冷静だ。
話によればガンプラバトルの経験はかなり長いらしく、
第一回戦も、この冷静さに助けられた。
「・・・ううん、あのウイングゼロ、僕が思っていたよりもすごくて」
「はい、遠目から見ても完成度の高さが伺えます。
おそらく、いえ、まちがいなくマサヒコ君のエックスは性能面で不利です」
「・・・うん」
現実をハッキリつきつけられても、受け入れるマサヒコ。
我の強い父親の影響だろうか、だが、今はこの性格がありがたい。
「性能は不利ですが・・・。これはマサヒコ君次第です。
マサヒコ君は、そのガンプラが好きですか?」
突然何を言い出すのだろう? キョトンとするマサヒコに、もう一度。
「そのエックスは、マサヒコ君にとって、最高のガンプラですか?」
「うん! 僕のエックスは、最強だよ!」
自信をもって言える、このエックスは、自分にとって最高のパートナーだと。
なら、ユリカは考えた作戦を伝える。
「―大事なのは、反応速度です。そのエックスと、心をひとつにすれば・・・」
「心を、ひとつに・・・」
「そうすれば、ガンプラは作り手の願いに答えてくれますから」
ユリカの策は、この状況を打破する最善の策。
決めれば一瞬で勝負がつく。
砲身冷却完了。サテライトキャノン、発射可能。
「・・・エックス、やるよ」
マサヒコの呼びかけに、樹脂の塊であるガンプラが、答えてくれた気がした。
照準用レーザー、進路クリア。
4度目の光の道が、月とエックスを結ぶ。
マイクロウェーブ、レーザー方向に照射。
4枚のリフレクターが眩い輝きを放つ。
ウイングゼロは、それを待っていたように、
バスターライフルの照準を向けてきた。
相手は、もうこれで決めるつもりだ。
発射はウイングゼロのほうが速い、放たれる光の渦。
それは真っ直ぐエックスを穿つ軌跡を辿り。
・・・ジャストタイミング!
「いっけぇ! サテライト・キャノン!!」
単純な策と言えばそれまでだ。
ツインバスターライフルの出力を渦とするならば、
だったら、サテライトキャノンの大渦で飲み込めばいい!
タイミングが早すぎれば気づかれる、遅ければ間に合わない。
だが、ガンプラと心をひとつにしたビルダーにとって、
その瞬間をつかむ事など、造作も無かった。
サテライトキャノンの奔流は、ツインバスターライフルのエネルギーをかき消し。
その先のウイングゼロを飲み込み、蒸発させた。
情けないかもしれないけれど、霧消に嬉しくて。
「・・・やった、やったよ! エックス!」
少し涙ぐみながら、マサヒコは相棒と勝利を分かち合った。