パワード・ジムとジャスティスが戦いを繰り広げるのと同じ頃。
アルケーとフリーダムの戦いも、激しさを増していた。
『フリーダムガンダム』ガンダムSEEDに登場した主役機。
背中に広がる、青い巨大な翼のシルエットはヒーロー的で、
劇中での活躍から、高い人気を誇る、近年を象徴するガンダムだ。
ユリカが対峙するのは、そのハイクオリティガンプラ。
高機動を可能とするハイマットモードに、
両腰のレールガン、両翼のビーム砲による大火力。
速と攻を両立する、約束された強ガンプラというべきか。
特に、いま目の前にいるフリーダムは工作精度も高く、
RGシリーズの欠点であるパーツの保持力不足も解消されている。
今大会における数多いガンプラの中でも、仕上がりはトップクラスと言えよう。
だが、何かおかしい? ユリカはタタミと同じように、引っかかるものを感じていた。
ファングを展開しつつ、フリーダムに踊りかかるアルケー。
相手の装備は対多数を想定しており、
タタミの分析通り、相性はアルケーに分がある。
フリーダムの射角の外に回りこみつつ、GNバスターソードで斬りかかるユリカ。
グニィッと、間接を無理やりひねり、ビームライフルで迎撃。
やはりだ、違和感を感じざるおえない。
翼のビーム砲を、キットとして曲がらない方向に動かして撃とうとしている。
自分のガンプラの可動範囲を理解していない? いや、そもそも根本的におかしい。
なぎ払うGNバスターソードでシールドを真一文字に斬り捨て、ユリカは相手に通信を送る。
「・・・そのガンプラ、御自分で作ったものではありませんね?」
予感じゃない、確信だ。
クロスレンジで尚も攻め入るアルケーに対処するフリーダムのパイロット。
あざ笑うような声が返ってきた。
「う~わ、ガンプラは自分で作ってこそとか、
マジで言ってるタイプ? キッモ!」
「否定もしないんですね」
「だってする意味ねぇじゃん?
このゲーム、すげぇガンプラ使えば勝てるゲームだし。
自分で作るのだって金かかるし、
手汚れるしさ、くっだらねーことしてる時間ねーし」
試合開始前には良く居るタイプかと思っていたが、違う。
コレは、ガンプラビルダーと相反する人間。
「だから、売ってるヤツ買ったんだよ。
すげぇだろ、ジャスティスとセットで5万もしたんだぜ?」
今度は、自分で作ってもいないガンプラの自慢。
「恥ずかしげもなく、よく口にできますね?」
「いや、恥ずかしいのソッチだし。
売ってるやつが居るから買うやつがいんの、
ほら、シャカイってそーいうもんだろ?
オレお前みたいにガキじゃねーからさ。
わかる? やらなきゃいけないこといっぱいあんの。
コレが、オトナのやり方ってヤツなんだよ」
もういい、これ以上話を聞いていると頭がおかしくなりそうだ。
サイドア-マー内のファングをすべて射出。
跡形もなく、木っ端微塵に切り刻んで終わらせる。
そう決め、アルケーを攻撃姿勢にもっていった時だった。
パンパパンパンッ!
「きゃっ!?」
筐体の外から、何かの破裂音。
スピーカーから流れるサウンドとは明らかに違う、耳をつく音に驚くユリカ。
フリーダムのパイロットは驚いていない、それがすべてを物語っていた。
スキをついたフリーダムのビームライフルが、アルケーのボディを貫き、
ユリカの筐体のモニターがブラックアウト、正面には、「フリーダムに撃破されました」の文字。
『おいガキ!なにしてやがる!』
『逃げやがった! 追っかけろ!』
筐体の外のざわめきが大きい。
男子は三人組、出場していないうち一人が仕掛けた、爆竹だ。
「な、なんて卑怯な事を!!」
「バーカ、女ってのはすぐビビるよな。
卑怯? キコエマセンネー?
勝ちゃいいんだよ!」
さすがのユリカも、怒りが収まらない。
筐体から飛び出し、直接抗議に行こうとしたユリカのヘッドセットに、声が聞こえた。
「・・・パワード」
ボソリと、しかしハッキリと聞こえた、タタミの声。
いままでユリカが聞いたことの無い、殺意にも似た怒りの声。
ライブモードへと切り替わった筐体のモニターに、再び戦場が映る。
もう少し駆けつけるのが早ければ、いや、今更悔やんでも仕方ない。
フライングアーマーに乗るパワード・ジムから放たれる、異質なオーラ。
「あんだよアイツ、あんなザコにやられたのかよ!?
まじつっかえねぇ、せっかくジャスティス使わせてやったのによ!」
片や、劇中で無双の活躍を見せた白いガンダム。
片や、劇中で瞬殺されたやられ役のジム。
フライングアーマー最大加速、ただ愚直なまでに突き進む。
距離は遠い、しかしフリーダムの強力な武装の射程内。
ビーム砲、レールガン、ビームライフルによるフルバースト射撃。
圧倒的な弾幕は、劇中で何百の敵を倒した恐ろしい命中率を誇っていた。
・・・当たらない。
「・・・なんだぁ?」
狙いは完璧だ、弾幕は回避する隙間など作ってもいない。
当たらない。
かすりもしない。
命中する気がしない。
パワード・ジムから発せられる念が、光の弾丸を捻じ曲げている。
そんな錯覚すらも抱かせるほど、畏怖の気配。
「・・・ふざけんなよ!
こっちはフリーダムだぞ!?
SEEDで最強のガンダムなんだぞ!?」
速い、流星と見間違えそうな速度で迫るパワード・ジム。
タタミは口を開かない、何も言わず、ただペダルを踏み込む。
パワード・ジムが近づく、さすがにこの距離で外しはしない。
しっかり狙いを定めて放ったビームの一斉発射。
フライングアーマーを盾のようにして防ごうとするパワード・ジムだが、
フリーダムの火力を持ってすれば、あんな薄い板、貫通する事は容易。
爆発、巨大な閃光がパワード・ジムの居た場所に燃え上がった。
「は・・・、ははっ! あんだよ驚かせやがって!
あんなへぼいガンプラに負けるわけが―」
変だ、爆発したのに、なんでモニターに試合終了の文字がでてこない?
敵の接近を知らせるアラートが、下方で鳴り響く。
閃光は、ハイパーバズーカに残っていた残弾の爆発。
いつの間にか下に回りこんでいた、白とオレンジのガンプラ。
・・・わけがわからなかった。
下の敵へ向けてフリーダムが砲門を向けた瞬間、そこには何も居なくて。
レールガン、ビーム砲、ビームライフルのすべてが斬り落とされているではないか。
下から上へ、すれ違いざまの斬撃で射撃武器のすべてを封じられた。
さらに頭上から迫るパワード・ジム。
フリーダムは腰からビームサーベルを取り出して応戦。
「わかってんのかよ!? オレのガンプラはフリーダムなんだよ!!」
瞬速で振り下ろされるツインビームスピアを受け止めて見せた。
ぶつかり合い、弾かれ、体勢を立て直し、もう一度斬りかかるフリーダム。
さらに理解できない現象が、フリーダムの腕を切り裂いた
ツインビームスピアの先端についた二本のビームサーベル。
その一本を引き抜き、左に逆手で構え、振り払ったパワード・ジム。
「最強なんだ、負けるはずがねぇんだ―」
タタミは何も言わない、語らない。
だから、パワード・ジムのバーニアがうなりを上げる。
所有者の怒りを代わりに現すような、激しい雄叫び。
「こんな・・・、こんな・・・」
腕が、脚が、体が、頭が、切り裂かれていく、自由の翼。
「こんな、名前もわかんねぇザコガンプラなんかにっ!!」
モニターは、ブラックアウト。
『試合終了 パワード・ジム に撃破されました』