休日前の夜、キドウ家。
つい先ほど見終わったZガンダムのDVDをケースにしまうユリカ。
金曜日の夜は彼の家にお邪魔して、一緒にガンダム鑑賞が日課。
実はタタミの両親は長期海外出張らしく、事実上の一人暮らし。
中学生の少年少女にとって、保護者の居ない気ままな空間は極上。
しかし、その反動は大きく。
さすがにいつもお泊りはマズイので、家には帰るユリカには、
この終わってしまう時間が、何よりも惜しまれるのだ。
「・・・帰りたくない」
ポツリと、感情が零れ落ちてしまう一言。
別に家が嫌いなわけではない。
父はしつけは厳しいが、誰よりも尊敬している人。
ただ、タタミと共に過ごす時間が、心地よすぎるだけ。
その彼は、エプロン姿で、テーブルに料理を並べながら。
「だめだよ、おばさんにも、
わがままは言い聞かせてってお願いされてるし」
まさか聞かれているとは思わなかった、
頬を赤らめながら、しどろもどろのユリカ。
「い、いえ、あの―」
「僕もユリカさんと一緒に居たいけどね」
ドスッ! 胸を貫く、そういう類の矢。
天然でこういう事を言うから、ユリカにとってはたまったものではない。
深い意味は無いのはわかっているが、気恥ずかしくなる。
しずしずと椅子に座るユリカの前に置かれた、タタミの手料理。
「今日はビーフシチューとポテトサラダを作ったんだ」
「はぁ、今日もいい匂い・・・」
ガンプラビルダーになる前からの、趣味である料理。
最近はユリカというお客さんのお陰で、腕を振るいっぱなし。
「まぁ! お肉が舌でとろけて・・・、ひょっとして、良い食材を?」
「ううん、近所のスーパーのだけど、一昨日から仕込んでたんだ。
ユリカさん、喜んでくれるかなって」
「嬉しい、はふ・・・、幸せです・・・♪」
ガンダム鑑賞の後のタタミの手料理、至れり尽くせりである。
頭の片隅で、花嫁修業がどうだとか浮かばないわけではないが、
ショタ系イケメンと二人っきりの夕食というのは、字面だけでも天国。
「あ、少し多目に作ったんだけど、タッパに詰める?
この前おばさんからもらったお土産のお返しとしては不足かもしれないけど・・・」
「そんな事無いですよ。
お母様ったら、いつもタタミさんの料理食べたいって言ってるんですから」
ちなみに、ユリカが男友達の家に遊びに行っている事を、父親は知らない。
一時期の外泊の際に、母親に叱られ。
挨拶と偵察もかねてタタミの家にやってきたユリカの母親。
おそらく年頃男女の二人きりをやめさせようと思ったのだろうが、
対面したタタミを女子と見間違えた後、
振舞われた料理を一口食べるなり、交際(勘違い)を許可。
父親には内緒と母親の協力の下、ユリカは親公認でこの家に来ているのだ。
その母親には、毎日のように
”あれだけの物件を逃がしちゃだめ”
”お父さんの居ない時に家に連れてきなさい”
耳にタコができるほど言われているのは、ユリカの秘密。
彼氏のいる同級生など珍しくもない年頃ではあるが、
今は、恋人ではなくて、ガンプラを楽しむ友人関係で居たい。
夕食の後は、少しだべった後、自宅へと帰る。
暗い夜道を、嫌な顔ひとつせず送ってくれるタタミ。
”出来過ぎ”
男子をあまり知らないユリカでも、そう思える魅力的な年下の男の子。
好きになるなというほうがムリだ。
けれど、今はこの距離感で良いと思っている。
こっそり、タタミにもっとも近い異性として優越感を感じながら、
明日、いつのも店でガンプラバトルを楽しむ約束を取り付けた。