約束といっても、最近では日課の土日の過ごし方。
いつものプラモ屋「ゼブラゾーン」へやってきたタタミ達。
4人で2対2をしたり、3人で誰かと対戦したりが最近の遊び方。
その合間に店頭のプラモを眺め、欲しい物があれば買って帰る。
タタミは、今日はRGのZガンダムを購入予定らしい。
昨日みたZの活躍に心奪われ、RGシリーズ初挑戦だ。
予定を立てつつ、4人でプラモ屋を扉の前に来ると、なにやら人だかり。
なんだろう? 今日は大会の日ではないしと、群集の隙間から覗き込む。
「はーい! 今日はこの街最大級のガンプラショップ。
ゼブラゾーンに来ています!
よろしくお願いしますね、店長さん」
「・・・この街ではなく、世界一だ」
「あ、ごめんなさい!
では、店長さんの誇る世界一のガンプラショップを、
いっぱいいっぱい、紹介しちゃいます♪」
ブロンドのポニーテールを揺らす美少女に、その近辺をカメラとレフ版で覆う大人達。
おそらく100人中99人が、テレビ撮影と断定しよう光景。
アイドルです! と自己主張する少女が店長にインタビューしており。
その姿に、黄色い声を上げるコウタ、ほうと関心のガク。
「ひゅう! ”クーミ”ちゃんじゃん!!
実物でもかわええのぉ!!」
「ガンプラショップの紹介コーナーが始まったのは知っているが。
ゼブラゾーンに来るとはな」
毎週月曜日の25:30分から30分放送しているガンプラ情報番組。
その新企画でやってきたのかと、納得する二人。
反対に、キョトンとしているのは、タタミとユリカ。
「・・・誰だろう?」
「いえ、私も知りません」
「いやいや! あの番組のレギュラーじゃん!
なんで知らねぇのさ二人とも!?」
「す、すみません。私、その時間は夢の中です・・・」
「え~っと、あっ、あの番組!?
うん! 一番気持ちよく眠れる時間だよね!」
お前ら本当に仲いいよな・・・。
まぁ、知らないなら説明しよう、コホンと前置きし、コウタの説明タイム。
「彼女は”タカイ クミ”。愛称は”クーミ”。
ガンプラアイドルとして名を馳せる、14歳の中学二年生!」
「わぁ、同い年なんだ」
「・・・ひとつ下・・・」
「なんつっても、形だけのアイドルじゃなくてな、
かなりディープなガンダムファンでもあんだよ。
この前のラジオでも、一時間延々とユニコーンの話してたしな」
「それと、高レベルのガンプラビルダーでもある。
UC系をメインに、フリルをあしらった改造が特徴だ」
あ、俺が説明しようと思ってたのに!と騒ぐコウタを無視するガク。
彼女の詳細はわかったが、収録中となるとガンプラバトルはできそうにない。
他の野次馬に混ざって見学するか、喫茶店あたりで時間をつぶすか。
などと思っていたら、店長がタタミを見つけ、手招き。
収録中なのになんで?と思いつつひょこひょこと招かれるまま向かうタタミ。
「タタミ君、来てくれてよかった」
「なんですか店長?」
テレビカメラなど意に介さず、いつもの調子でやってくるタタミ。
画面映りの良い容姿に、スタッフ達がなにやらうなづいている。
「番組の企画で対戦相手を募集しているそうだ。
君に、ウチの店の代表を頼みたい」
「え? 僕がですか?」
ガンプラビルダーとしては超がつくほどド素人のタタミ。
使っているガンプラも素組みのパワード・ジムなわけで、
ガンプラショップを代表としてはどうかと思うタタミ。
「ウチの店は、実力で言えばすごいのは居るが、
テレビ的な意味で向いた人材に乏しい。
その点、君なら、ルックスも実力も性格も申し分ない」
先日の入店禁止しかけた親子や、
勝つのにこだわっていた三人組の事件以来、
店長はタタミをかなり気に入っていた。
本人は知らないが、素組みであそこまで戦うビルダーとして、
店内ではちょっとした有名人。
他の常連も、タタミならば異存などない。
「う~ん。よくわからないけど、僕でよかったら」
ルックスや性格といわれても、ピンとこないが、
求められているのに拒否をする理由はない。
タタミの承諾に礼を言い、話をすすめる店長。
「この店のエース。キドウ・タタミ君だ」
「・・・えーっと、よろしくお願いします」
とりあえず、へこっと頭を下げて挨拶するタタミ。
・・・沈黙。カンペがアイドルのクーミへと向けられる。
タタミの顔を見つめたまま、ボーッと頬を染めているアイドル様。
「・・・はっ! す、すみません!
お、男の子にしては可愛いい人だなって」
あははは、と、見惚れていた自分を誤魔化す笑いを浮かべ。
「今日の対戦、よろしくね、キドウ君」
「よろしくお願いします、タカイさん」
「やだ、クーミでいいよ♪」
必殺のアイドルスマイル。
遠くで興奮して服を脱ぎだすコウタが、ガクにチョップをもらっている。
「あ、手加減なんてしちゃだめだからね!
ガンプラバトルはいつも全力! なんだから!」
グッと両こぶしを握り締め、やる気を見せるクーミ。
ここでカットの声が入り、場所を変える準備が始まった。
ノーマルスーツに着替えるため、ロケバスへと戻っていくクーミを見送り。
自分も着替えてこないとと思ったタタミへ近づいてくるプロデューサー。
「君、ちょっとお願いがあるんだけど」
「はい、なんですか?」
「悪いんだけど、この試合、負けてくれないかなぁ。
ほら、番組構成っていうか、前回放送分とのバランスってやつなんだけど。
そういうテレビの事情なんだよ、お願いできないかなぁ」
なるほど、つまり八百長しろということか。
わざわざ代表を頼んだのにと、店長が顔をしかめる。
タタミは、そんな店長の顔を伺い、プロデューサーへと向き。
「わかりました」
あっさり承諾。
いやぁ、助かったと、ロケバスへ戻っていくプロデューサー。
撮影スタッフの耳が無いことを確認し、タタミは店長に頭を下げる。
「ごめんなさい、店長」
「いや、むしろ私が謝らなければいけないのだが・・・。
君はいいのか?」
「僕は大丈夫です。だって、テレビは面白くないとだめだから」
なんとも、この場で最適な選択をしてくれる少年だ。
これがタタミ以外なら、まちがいなく怒っていただろうに。
「すまない、後で好きなガンプラをあげよう」
「ホント!? わーい!」
リップサービスではない、あらゆる意味でこの店のエースだなと。
喜ぶタタミを眺めながら、店長はそう思った。
対戦は、1対1の特殊ルール無し。
武装制限を設けないデスマッチだ。
てっきり色々とルールを縛ってくると思っていたが、
あのクーミというアイドルの意向らしい。
キャッキャウフフな外見からは想像できない骨太思考だ。
ハロスキャナにパワード・ジムを読み込ませ、今日のステージを確認。
『インダストリアル7』コロニー内戦闘か。
円筒型のコロニーは、内壁に重力があり、中心は無重力。
従って、搭乗するガンプラのタイプによって得意フィールドが変わるので、
いかに相手を自分の得意な場所に引きずりこむかが重要なステージだ。
続いてフライングアーマーを読み込ませていると、ボイスチャットの着信。
『タタミ、聞こえているか?』
「ガク君? どうしたの?」
『お前のオペレートの許可をとってきた。
クーミのガンプラを、知らないだろ?』
ガクの性格からして、テレビに出たかったわけではあるまい。
強敵と対する友人へのサポートを申し出る、義理堅さ故の申し出か。
『フライングアーマーは?』
「うん、とりあえず空中戦がいいと思うんだけど」
『ああ、下には絶対降りるな』
「・・・わかった」
つまり、降りるとかなり不利な相手という事か。
読み込み完了、相手の準備もすでに完了しているようだ。
ディスプレイに、コロニーのエアロックが映し出される。
カタパルト発進ではなく、進入シチュエーションの再現。
「キドウ・タタミ。パワード・ジム、行きます!」
タタミの合図と共に、フライングアーマーに乗るパワード・ジムがコロニーに進入。
夜間のため、暗いコロニー内の無重力帯。
相手ももう出撃しているはずだ、遮蔽物の無い空中では、敵の位置はすぐわかる。
前方距離3000。暗闇に目立つ、桜色のガンプラ。
かなり大きいボディに、さらに開かれた4枚のバインダーがサイズを増して見せる。
遠目から見るとまるで一輪の花。
フリルドレスの装飾があしらわれた様は、まるで花嫁のブーケ。
「すごい、綺麗だ・・・」
おもわずポツリと口をついたのも束の間。
『タタミ! 来るぞ!』
「え?」
ガクに言われなければたぶん直撃していた。
敵は正面、されどビーム弾は上下から。
慌ててフライングアーマーを加速させて回避。
これは、ビット兵器。それも、射撃特化タイプ。
「見惚れてくれるのは嬉しいけど、
ボーッとしてると、落としちゃうゾ?」
アイドル・クーミからの通信。
さらに上下左右から降り注ぐビームの嵐。
数が多すぎる、目算で10は軽く超えているではないか。
『クシャトリヤ。ファンネルとメガ粒子砲で武装を固めた、
大型のパワータイプだ。
4枚羽と呼ばれるバインダーで、機動、装甲、火力も高い』
「このファンネルの数は何個あるかわかる?」
『ノーマルキットなら24。それより少ないとは思えん』
「多い、近づくのも簡単じゃ―」
「ほーら! まだまだいくよ!!」
おしゃべりしている余裕も無い。
加速をやめればファンネルはこちらを取り囲み、蜂の巣のできあがりだ。
幸いというべきか、ビット兵器は基本的にMSの加速を超えはしない。
動き回りさえすれば、最悪の状況は逃れられるが、先延ばしにするだけだ。
エネルギー切れを待つにしても、撃ちつくしたファンネルは親へと戻り、
チャージ中は待機していたファンネルが向かってくるため、
事実上弾切れはありえない。
もちろん交代するタイミングは火力が落ちるはずだが、
あのアイドル、その誤魔化しがかなり上手い。
このままではジリ貧だ、何か仕掛けなければ、勝機は無い。
『バズーカではファンネルは落とせん。どうする?』
せめてビームライフルでもあれば撃ち落せるが、
今の装備はハイパーバズーカ、ファンネルに当てられる武器ではない。
相性はかなり悪い試合、その状況にタタミは。
「大丈夫、次の交代タイミングでいけるよ」
タタミは何かつかんだようだ。
さきほどから計測していた、ファンネルの速度、残弾、動きのクセ。
集中するタタミ、脳内では激しい演算が行われているのだろう。
撃ちつくしたファンネルが戻り、新たなファンネルが来るタイミング。
待っていた瞬間だ、フライングアーマーを最大加速で突っ込ませる。
「やっぱりきた、けど甘いんだから!」
あちらもバカではない、タタミの攻めるタイミングは予測済み。
パワード・ジムへ踊りかかる、18基もの砲門。
クーミはここで決めるつもりだ。
「―いけるっ! 跳ぶよパワード!」
それこそまさに、いま計算した結果と完全一致。
発射と回収のサイクルで、2機の間にはファンネルの道ができている。
最大加速のフライングアーマーから飛び出し、さらにフルスロットル。
狙っていたファンネルを踏みつけ、もう一度飛び出す。
例えるならば、ドラム缶に放り投げたゴムボール。
18のファンネルを壁にし、跳ねる、パワード・ジムのダッシュ。
「・・・は?」
一瞬でクロスレンジに入り込まれた。
理解が追いつくはずも無い、常軌を逸した動きだ。
ツインビームスピアがバインダーを一枚切り落としたところで、ようやく気づけた。
「どんな曲芸よ!? ・・・なのソレぇ!?」
思わず素のでかかったアイドルの驚愕。
さらにもう一枚、前面に展開するバインダーはこれで切り落とした。
花びらの下に現れたのは、ウェディングドレスを纏ったガンプラ。
見れば見るほど綺麗な作品だ、無骨なガンプラによくここまで飾り付けた。
さらに追撃と放った斬撃は、クシャトリヤのビームサーベルで防がれる。
「素組みでエースなんて、何の冗談かと思ってたけど。
ふふ・・・納得ね!」
アイドルの声音が、キラキラしたものから、ギラギラと熱を帯びてきた。
互いの全バーニアを動員してのつばぜり合い。
グルグルと回転しながら、無重力帯を動き回る2機。
やがて体格差からのパワーの違いが如実に現れ始めた。
このままではマズイと、離脱するパワード・ジム。
あらかじめ足元に来るように呼び出しておいたフライングアーマーに着地。
一時的に中距離を保つ位置から体勢を立て直すタタミに対して、
アイドルのほうは、ファンネルを使う気配は無い。
あんなサーカス紛いの真似をされて、用心しているのか。
互いに、小細工を弄せる距離では無い。
突撃するパワード・ジムを、両手にビームサーベルを構えて迎えるクシャトリヤ。
のるかそるかの大一番、勝つか負けるか二つに一つ。
ツインビームスピアを大上段に構えるパワード・ジム。
「残念・・・」
タタミは少し後悔。
パワード・ジムがツインビームスピアを振り下ろすより速く、
クシャトリヤのビームサーベルが、コクピットのスクリーンを光に染め上げた。
「・・・え?」
なんで? そんなアイドルの拍子抜けな声。
試合終了、勝者、クシャトリヤ。
筐体の外から響いてくる、惜しみない拍手と喝采。
勝ったのはアイドルだが、店を代表したタタミは、すさまじい芸当を見せてくれた。
どっちが勝ってもおかしくない、白熱のバトル。
TVのプロデューサーも、良い画が撮れたとご満悦のようだ。
誰もが手に汗握った試合。
筐体から出てきたタタミとクーミに、惜しみない賛辞。
はずかしいなぁと、照れくさそうなタタミに、
満面の笑みを浮かべ近づいてくるアイドル。
「とってもいい試合だったね! 今回は私が勝ったけど、
どっちが勝ってもおかしくなかったよ!」
「ううん、僕の負けだよ。すっごく強かった」
互いの健闘を称えあう、良くある光景。
けれど、タタミ以外、他の誰にも見えない角度。
アイドルの笑顔が、豹変した。
「・・・いけしゃあしゃあと、ほざいてくれるわね?」
戦闘中に少しだけ見せた、鋭い声と同じ音。
タタミにだけ聞こえる声で、ハッキリとした怒り。
「・・・明日の昼一時、この店に来なさい。
逃げんじゃないわよ?」
他は騙せても、彼女だけには気づかれてしまったようだ。
わずかに、一瞬だけ、ツインビームスピアを振り遅らせた事に。