自分達の町に帰るなり、3人はさっそくタタミの家へ。
部屋で、今日の戦利品を広げる。
メインデイッシュはやはり、買ってきたガンプラだ。
「ねぇ、接着剤とかないけど、いいの?」
「ガンプラは使わねぇんだよ。パーツ同士をハメこむだけでOKだぜ。
ただ組み立てるだけで異常な完成度だって、世界中で評判のシロモノだ」
「しかも、シリーズを重ねる度に進化している。
その中でも組み立てやすいHGシリーズは、
初心者でも、説明書を読めば難しくは無い作りやすさがウリだ」
MGの初期はきつかった。ver1のZなんてパズルだぜ。
と、そんな思い出話に華を咲かせながら、コウタとガクも作り始め。
タタミは、説明書とランナーを見比べながら、ニッパーで丁寧に作業をし、
やがて、周りの音も聞こえないほど没頭していく。
パワード・ジムというMSは、ジム改をベースに、試験用として改造された機体。
ところどころアンバランスなデザインが大きな特徴で、
ずんぐりイメージの大型ボディに、膝が大型化された脚部。
反面、腕は細長く、四肢はシンプルで貧弱さを感じさせる。
それも、大型のシールドと長大なバズーカがつくことで、
驚くほど全体のマッチしたシルエットを作り出した。
最後に、一目見て惹かれた、ゴーグルと称される頭部をカチリとはめ込み。
「できた! 僕のガンプラ!」
タタミの手の中、生まれたばかりの新しいガンプラ。
いわゆるただの素組みというモノだが。
ガンプラを組み立てた人なら、誰もが感じている不思議な感動。
「やっぱ、0083のジムのデザインは力はいってんなー」
「量産機愛に溢れてたな、あれは」
出来上がったパワード・ジムの完成度に、舌鼓を打つ二人。
ゲートのあと処理など、タタミの作り方はやはり不慣れだが、
初めて作ったガンプラにしては、かなりよく組みあがっている。
「これ、色塗ったり、いじったりしないとダメなの?」
二人が以前見せてくれたガンプラは、色も塗ってあったし、改造してあったらしい。
これで終わりでいいのかなと、不安がるタタミに二人は。
「いや、素組みコレクターもかなり多いのがガンプラ。
というか、下手を加えるとおかしくなるレベルなんだよなぁ」
「完成度が高すぎるというのは、モデラーコメントでよく見るな」
友人の言葉に、良かったとパワード・ジムを抱きしめるタタミ。
気に入ったものを抱きしめる癖があるようで、
その光景は、彼を女の子とよく間違えさせる可愛らしさがあった。
今度はヨダレを我慢し、無表情を貫くガク。
その隣のコウタは、よぅし!と立ち上がり。
「んじゃ! さっそくプラモ屋行こうぜ!」
「え? もう新しいの買ってくるの?」
「ちげぇよ。組み立てたガンプラで、バトルできるんだぜ!
その名も、ガンプラバトル!」
コウタに連れられ、やってきたのは近所のプラモショップ『ゼブラゾーン』。
メイン商材はガンプラだ! と言わんばかりに大きく張られたタペストリーに。
棚に収まりきらない量の新作ガンプラが溢れ、入り口に積み重なっている。
それを取り囲むのは、いろいろな世代のガンプラファン達。
各々がガンプラの入ったカバンやケースを持ち、店内は活気付いていた。
「あんれぇ、今日なんかイベントやってたっけか?」
はて? とそれに疑問を感じたのはコウタ。
ガンプラショップとしてはこの街で最大規模の店だが。
普通の日とは思えないほどの客の量である。
その理由は、入り口に立てかけられていた看板にあった。
「あっちゃー! しまった! 今日は大会の日じゃねぇか!」
「本当か?」
「マジだよ、しかも2on2かよぉ!」
なんてタイミングが悪いと、頭を抱えるコウタとガク。
なにが? なんなの? と疑問符を浮かべるタタミ。
ヒントはないかと、店の中へと視線を向けると、そこでは・・・。
大きなドーム型の筐体に入る、宇宙服みたいな格好の人々。
その手には、十人十色のガンプラが握られ。
筐体の横の大型スクリーンには、
ガンプラが走り、飛び、戦っているではないか。
「ガンプラが、動いてる!?」
自分のパワード・ジムと、モニターの中のガンプラを見比べ、驚くタタミ。
「自分の作ったガンプラを、自分が操縦して戦う。
それがガンプラバトルっていうゲームなんだぜ!」
ビシィっ! 自分の口で効果音をつけるコウタ。
といっても、今日そのデビューをさせてやる予定だったのだが。
その目論見が意外なところで外れてしまった。
本来、ガンプラバトルは3:3が基本となっており、
タタミがガンプラデビューしたとあれば、フルメンバーでチームが組める。
その練習に来たつもりが、大会が開催されているとあれば空いている筐体は一つもない。
しかも一人あたりの役割負担の増える2on2ルールでは、練習する余裕はないだろう。
大会のトーナメント表を確認しているガクの背中に声をかけるコウタ。
「なぁどーすんだよ? ガク?」
「どうするもなにも・・・な」
「ん? あんだよ?」
「みろよ、コレ」
ガクが親指でクイッと、示した先の名前は・・・。
『第38チーム:コウタ&ガク』
なぜか、二人の名前が記載されている。
「ちょっ! なんで俺達の名前が書いてあんだよ!?」
「お前じゃないのか? また勝手にエントリーしたとか―」
「今日ガンダム見に行くって約束してんのに、するわけねーだろ!」
負けるの承知で、大会でガンプラバトルデビューをさせようと思っていたのだが、
両方ともコンビでエントリーされていてはそれもできない。
いったい誰が勝手にと、言い争う二人に声をかける人物。
「ガク、コウタ」
ボサボサの髪に、無精ひげを生やしたおじさん。
もはや第一印象で誰でもピンとくる、このプラモショップの店長だ。
「まさか、エントリーさせたのって」
「2on2はお前達いつも参加してたのに、今日に限って名前が無かったからな。
てっきり忘れてるんじゃないかと思って登録しといたんだが・・・」
どうやら、余計なお世話だったかと、素組みのガンプラを持つタタミを見る店長。
「君は初めてのお客さんだね。
この店の店長をやっている、オオシマだ」
「はじめまして、タタミです」
「すまない、せっかくのガンプラバトルデビューのつもりだったようだが、
今日は生憎と大会をやっていてね」
エントリー枠は余っているが、今日ばかりは、タタミはプレイしないほうがいい。
「明日は通常営業だ、今日は見学でもしていってくれ」
あえて野良で参加しろと言わないのは、店長の優しさ。
野良に初心者が混ざる事を嫌う連中は多い。
それが一度もゲームをプレイしていない者とあれば、まず歓迎はされないだろう。
初プレイで嫌な思いをしてもらうわけにはいかないと、それには友人二人も同感だった。
「わりぃ、予定ちゃんと見ときゃよかった」
「ううん、今日は二人の応援をするよ。がんばって!」
本心は、皆がガンプラを動かしているのを見て、自分もやりたくてたまらなかった。
けど、そこを我慢できないほど、タタミは幼くは無い。
二人を困らせないように笑顔で、試合の準備に向かった二人を見送る。
明日、朝一番でお店に来よう、それで、僕のガンプラを―。
「・・・あの」
少しだけ哀愁を漂わせるタタミの背中に、澄んだ声がかけられた。
え? と振り向くと、そこに居たのは、同い歳ぐらいの少女。
長い黒髪をなびくように腰まで伸ばし、物腰は気品にあふれた、お嬢様といった雰囲気。
誰だろう? 知り合いでは、無い。
「えっと、その・・・お話が聞こえたものですから・・・。
一緒に出場する方が、いらっしゃらないのですか?」
オドオドと、気弱な性格ながらも声を絞り出す少女。
人見知りなのだろう。
タタミは人付き合いが苦手ではなく、むしろ好きなほうで、
これは僕のほうから会話をリードしていかないといけなさそうだと判断をする。
「うん、そうだけど」
「あ、あの、実は私も、一緒に出場する人がいなくて・・・。
よ、よろしければ・・・、私と、チームを組んで頂けませんか?」
「え・・・、でも僕、まだプレイした事なくて、初心者どころじゃないけど、いいの?」
「だ、大丈夫です。私が、お教えします。
試合開始までまだ時間がありますし、マニュアルも用意してありますから」
さっきの店長の話だと、野良という形でチームは組めるはずだ。
それをせず、未プレイで初対面のタタミにそういう話を持ちかける。
なにか理由がありそうだ。
そしてそれはきっと、悪い理由じゃない。
彼女の目は、必死だけど、澄んでいたから。
「えっと、それじゃあ、僕でよかったら」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
うん、やっぱりこの人は悪い人じゃないと、タタミは思う。
彼女の笑顔は、まるでひまわりのように咲き誇っていたから。