約束の時間、10分前。
いつものプラモ屋へ行く道で、たまたま鉢合わせたユリカ、ガク、コウタ。
おそらくタタミは先にプラモ屋についているだろう。
昨日も、少し練習したいと言っていたし、
彼の性格なら、女の子を待たせる真似はするまい。
3人で歩く道中、さっきからう~んとうなっているのはガク。
「・・・しかしあのアイドル、昨日の反応が気になるな」
「ん? クーミちゃんか? どうした?」
「ああ、最初にタタミの顔を見て、見惚れていただろう?」
「それは、私も気になりました」
タタミのあの外見、そういう反応をする女子は珍しくはない。
が、ガクの言わんとしている事が、察せられたコウタ。
「クーミちゃんがタタミにちょっかいだすってか?
考えすぎだろ?」
コイツはタタミに過保護すぎんだろ、と思う横で。
「・・・いえ、おかしくはないと思います。
あのアイドルスマイルは、私には偽りに感じますし。
・・・はっ!? あのクシャトリヤのドレスから考えると、
タタミさんを女装させて、何かよからぬ事を―っ!?」
「いやユリカ先輩、飛躍しす―」
「何だと!? うらやま―、非常識な事を、させてたまるか!!」
「私も、全力で阻止してみせます!」
メラメラと、よくわからん盛り上がり方をする友人二人。
せめて自分は冷静でいよう、っていうか俺、こんなキャラだっけ? とコウタ。
急に脚早になった二人の後をついていき、プラモ屋が見えてきた。
・・・なにやら騒がしい。ライブモニターの前に人だかりができている。
「この状況は、クシャに絶対有利だな。
地上のぶつかり合いで、負ける要素ないんだな」
「でもテレビであんな戦い方した事ありませんよね?
こんな野獣みたいなバトルもするんですねぇ」
「カメラないからだYO!
さっきタタミ君と話してたときも、いつもと雰囲気違ったしNE」
ガノタ三人衆もその中に居り、なにやら気になる会話。
約束の時間はまだのはずだが、まさか。
人だかりを抜けて、ライブモニターの見える位置へ。
映っていたのは、やはりパワード・ジムとクシャトリヤ。
開始からすでに3分が経過している。
「もう始まってんじゃねぇかよ!?」
考えてみれば、相手はアイドルを仕事としている。
時間にルーズなわけがないではないか。
コウタの言葉と似たようなセリフをガクも口にして。
ユリカが三人衆に問う。
「どんな状況ですか?」
「無重力帯で、出会いがしらにクシャトリヤが組み付きましてね。
フライングアーマーを破壊され、
タタミ君のパワード・ジムは地上戦を余儀なくされてますねぇ」
「くっ! 地上に降りるなと、昨日言っただろうに!」
昨日のナビの言葉、重力のある場所で戦うなだが、
残念ながら、相手にそうはさせてもらえなかったようだ。
地上に足をつけてのクロスレンジは、どうしたってサイズと質量がモノを言う。
クシャトリヤのサイズは、パワード・ジムの倍近い。
現実に、何度目かの鍔迫り合いの影響か、
パワード・ジムの関節は悲鳴をあげはじめているではないか。
再び無重力帯へ上昇しようにも、ファンネルの天井が邪魔だ。
格闘戦を強要され、逃げることは許されない。
「よくない状況ですね・・・」
これでは、昨日考えた作戦が使えない。
まだビームライフルを失っていないのは幸いだが、
タタミにとって、最悪の戦況だった。
重力帯に叩き落されてから、タタミは冷や汗をかきっぱなしだ。
大人と子供ほどある体格差から振り下ろされるビームの刃。
ツインビームスピアで受け止めるたび、関節がミシリと音を立て。
ついにさきほど、ヒビが奔ったのを確認。
もうこのぶつかりあいは、長く保たない。
だが、上空には逃げ場は無いし、距離をとろうとすれば、
拡散メガ粒子砲で狙われたりと、悲惨な目にあった。
攻めても圧倒的なパワーで押し返され、
いつ頭上のファンネルがビームを降らせてこないか気が気でない。
「このままじゃ、ちょっとマズイかな・・・」
ちょっとどころではないが、そう思っていないと集中力が切れそうだった。
もう3分もこうして斬りあっている。
薄氷を踏むようなタタミの防御に、クーミからの声。
「あんた、本当にそれ素組み!?どんだけ粘るのよ!」
ガンプラビルダーの常識で考えれば、信じ難い。
これほど長時間、素組みのジムが、クシャトリヤのパワーに耐えるなど。
「まぁ、簡単に終わってくれるよりは、遥かにマシだけど」
「だって、昨日の続きだから、僕も負ける気はないよ」
あの戦いに納得してないのはタタミも一緒。
わずかなスキにツインビームスピアを突き入れながら答えると。
「へぇ、コケにしたのはアンタでしょ?
何? アイドルなんて適当に勝たせとけば気分いいと思った?
気を使えば、サインのひとつでも貰えるって?
ふっざけんじゃないわよ!」
互いの言葉が、ビームの刃となって重なっていく。
いつしか流れに身を任せたまま、クーミは語りだす。
「いつもそう! あたしがクーミだからって、
テレビ以外の時でも手抜かれるし・・・。
まともなガンプラバトルなんて、最近した覚えが無い!
久しぶりにマトモなのが来たと思ったら、
いい所で勝手に負けられるし、もううんざりなのよ!!」
アイドルの道を選んだのは確かに自分だ。
それはガンプラが好きだから決めた事なのだけれど、
ガンプラバトルが楽しめなくなってしまった、鬱憤。
「あたしは、ガンプラビルダーだぁ!!」
叫びと共に振り払われるクシャトリヤの刃が、
パワード・ジムを吹っ飛ばす。
ビルに抉りこむように打ち込まれ、アラートが響く筐体の中。
タタミは。
「・・・ごめんね」
「・・・へ?」
「昨日は、ごめんなさい」
ようやく口にできた、謝罪。
しばしの沈黙、2機は動かない。
「・・・何よ、言い訳のひとつでもすればいいじゃない。
怒らないから・・・」
「ううん、君を悲しませたのは僕だから。
・・・ごめんなさい」
わかってた、あのプロデューサーの指示だったろうと、
わかっていたのだ。
けど、納得できなくて。
八つ当たりをしていたのに。
彼は、タタミは受け入れて、そして本気で戦ってくれている。
「・・・あたしこそ、ゴメン」
「どうしてクーミさんが謝るの?」
「い、いろいろよ! いろいろ!
察しなさいよバカ!」
これまで出会った事のないタイプの男子にドギマギしてる。
いまさらではあるが、怒りのあまり素で接していた。
「あたしの素・・・、ドン引きしたでしょ?
アイドル用の演技ばれちゃったし、可愛くないところ見せちゃって・・・。
あ、アンタが好きっていうなら、ちゃんとアイドルするから・・・。
って、あたし、なんで今こんな事言ってんだろ・・・」
これじゃまるで、好きな男に媚びているみたいだ。
しどろもどろのクーミの声。
タタミはパワード・ジムを立ち上がらせながら、首をかしげる。
「どうして?
昨日のクーミさんも今日のクーミさんも、
どっちも可愛いよ」
「なっ―!」
どういう流れで、なんで口説かれているんだろう?
いや、下心がないから余計タチが悪い。
頬が熱くなっているのがわかる。
「あれ、どうしたの、クーミさん?」
戦闘を再開しないのだろうか?
ツインビームスピアをぶんぶん振り回して、やる気を見せるタタミ。
なんか、むかついた。
「こ、こっちの気も知らないでぇ!」
散々人の心をかき乱しておいて、なんで平静なんだと。
これこそまさに、正真正銘の八つ当たり。
クシャトリヤの拡散メガ粒子砲一斉発射。
何発もパワード・ジムの装甲を削り、溶かしていく。
が、ギリギリ致命傷は免れた、まだ動く。
「もう後が無い、パワード! いくよ!」
次の拡散メガ粒子砲のチャージが終わったら、もう耐えられない。
ここで決めると、飛び込む。
クーミも長引かせるつもりはない、がっぷりよつと言ったのは自分だ。
全力で、この憎たらしいぐらいの男を叩き潰す!
「このジゴロを倒せ、ファンネルっ!」
もう温存する必要は無い、上空のファンネル一斉射。
今が、用意していた作戦を使う時だ。
ツインビームスピアのビームサーベルを投擲。
ヒュンヒュンと回転するエネルギーの刃を、ビームライフルで狙う。
「ビーム・コンフューズ!」
劇場版Zで見せた、対ファンネル戦術。
投げたビームサーベルをビームライフルで撃つことでエネルギーを拡散。
擬似ショットガンとも言うべきビームの弾幕が、全てのファンネルを破壊。
「やるわね!? けど―」
パワーではこちらが依然有利。
接近戦で負ける要素は無い、ビームサーベルを両手に振りかぶる。
タタミは受け止めてみせた、が、
ついに限界を超えたパワード・ジムの右肩関節は、
バキンッと鈍い音を立て砕け散る。
残るはビームライフル一丁、この距離で役立ちはしない。
今度はボディを真っ二つに、
ビームサーベルを薙ぎ払うクシャトリヤの両腕が、
何かに、斬り裂かれる。
しまった、アレはただのビームライフルではない。
Zガンダムのビームライフルには・・・。
「もらったよ!」
銃口から形成される、ビームサーベル。
ロングビームサーベルと呼称される銃剣が、
クシャトリヤの腹部から、ザクンと斬り裂いた。
一発逆転、感情を乱され、気を許した自分の所為だ。
スクリーンの映し出された撃墜表示を眺め、はぁとため息。
負けたのに、悔しくない。
勝てなかったのに、それでよかったと思う自分がいる。
「・・・楽しかった」
久しぶりに感情を剥き出しにして戦えたから。
そうさせてくれたあの男の子。
筐体からでたら、どうやって話しかけよう・・・、
それが決まるまで、なかなか扉を開けられないクーミだった。