ガンプラビルダーズ・フレンズ   作:いすた

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それでは、と、彼女は早速、ガンプラバトルのマニュアルをポーチから取り出し、渡してくれた。

操作は決して難しくない、誰でも楽しく遊べるように、練りに練ったシステムだ。

それを頭に入れ、今行われているガンプラバトルと見比べながら、シミュレートしていく。

この手の中のガンプラ、パワード・ジムは、どう動いてくれるんだろう?

僕が作った初めてのガンプラは、どう戦ってくれるのだろうか?

ワクワクが止まらない、ドキドキが鳴り止まない。

そのタタミの、嬉しそうな表情に、彼女もふわりと微笑む。

 

「パワード・ジム。いいガンプラですよね」

「うん! 今日友達と1/1ガンダムを観にいって、

 そこで買ったんだ。僕の初めてのガンプラ」

「私も観にいったんですよ! お台場での展示の時、5回も観にいっちゃいました♪」

「凄かった! 大きくて、かっこよくて!」

「はい! とってもよかったです♪」

 

タタミも、彼女も、純真だった。

最初に感じた親近感はあっという間に混ざり合い、意気投合。

と、そんなタタミを遠方から見つけたのは。

試合用にパイロットスーツに着替えたコウタ。

第一試合を余裕の勝利で終わらせ、観戦しているタタミを探していたのだが。

 

「お~い! タタ・・・ミ・・・?」

 

てっきりタタミだけかと思ったら、その隣に、女の子。

それもかなり可愛い、美少女と断言してもいいだろう。

あんぐり、と口を開けたままのコウタを放置し、ガクは。

 

「よう」

「ガク君! 試合見てたよ! おめでとう!」

「ありがとう」

 

礼をとりあえず程度にし、それよりも気になるのは。

タタミの隣に居る美少女を見やるガク。

緊張がほぐれてきていた彼女だったが、

新たな人物の登場にまたしてもカチコチに。

 

「なんで、タタミが『トウジョウイン』先輩と一緒に居るんだ?」

「え? ガク君、知り合い?」

「いや、そういうわけじゃないが、ウチの学校の3年生で、有名な人だぞ?」

 

知らなかったのか、呆れたため息をつくガク。

トウジョウインと呼ばれた少女はえ? え?と戸惑う。

 

「3年生って、じゃあ先輩なの?」

「あ・・・えっと・・・その・・・」

「タタミィ! おま、お前! 我が校の付き合いたい美少女NO1!

 『トウジョウイン ユリカ』先輩と、そんな、仲むつまじくお話などぉ!?」

 

固まっていたコウタは動き出すなり、タタミの襟を掴み、

トランザムの並の速さでブンブンと振り回し、大騒ぎ。

 

「こ、こ、コウタ君! ちょ、わっ!」

「顔か!? その女みたいな顔か!?

 普通の顔で、イケメンとショタに囲まれた俺は、

 負け組みだっていうのか!?」

 

ひがみ根性丸出しのコウタ、いい加減にしろとガクのチョップが突き刺さり、撃沈。

 

「やれやれ・・・、で、タタミはトウジョウイン先輩と一緒にでるのか?」

「うん、いまマニュアルを覚えるところ」

「・・・そうか」

 

なにやら疑うような視線で、トウジョウインと呼ぶ少女を見るガク。

『トウジョウイン ユリカ』。タタミ達の通う中学の3年生。

その外見的な美しさと、優秀な成績や運動能力。

そしていまどき珍しい、古風な魅力に溢れ、学校でも話題の美少女だ。

風の噂では、彼女、ユリカがガンプラを買っているという事を聞いたことがあったが、

この場所に居る時点で、それは本当なのだろう。

そんな噂などどうでもよく、ガクが気にしているのは彼女の事ではない。

初対面のタタミと、どうして一緒にいるのかという事。

値踏みするようなガクの視線にビクビクと萎縮しながら、えっと、とユリカは。

 

「タ、タタミさん・・・という、のですか?」

「うん」

「も、もしかして・・・、お、男の・・・人?」

「うん、そうだけど・・・?」

 

タタミが肯定するのと同時に、彼女の顔がボンッと爆発するように真っ赤になった。

そしてあたふたと慌しく変わる表情。

 

「そ、そんな! て、てっきり女の子かと思って・・・。

 お、男の人とこんな・・・、し、しかも自分から話しかけるなんて・・・。

 わ、わた・・・わたし・・・」

「わぁ! おち、落ち着いてよトウジョウイン先輩!」

 

どうやら、タタミを同姓と勘違いし、タッグを提案してしまったようだ。

慌てふためくユリカをなんとかなだめ、会話再開。

 

「―なるほど、いつもは別のプラモショップで、ガンプラバトルをしていたわけか」

「はい、いつもと違う場所でと思い、こちらに来たのですが。

 生憎と大会ということで、参加しようにも、臨時チーム希望の方も男性ばかりで・・・」

「で、偶然俺達の話が聞こえて、女子と思ったタタミをチームに誘ったと」

「・・・はい」

 

どっちが上級生かわからない、尋問口調のガクと、されている側のユリカ。

その横で、僕ってそんなに女の子に見えるかなぁ、

自分の顔をペタペタ触って微妙に落ち込むタタミ。

と、チョップで撃沈していたコウタがムクリと起き上がり。

 

「いやぁ! しかし驚きだぜ! 

 あのトウジョウイン先輩がガンプラビルダーだったなんてなぁ!

 高嶺の花とか、そんなイメージだったけど―」

 

あのトウジョウイン先輩が、まさかトウジョウイン先輩が。

そんな言葉を並び立て、次々と口にするコウタ。

それに、ユリカの顔に陰りが見えはじめ・・・。

 

「・・・私、そんなんじゃ・・・」

「・・・へ?」

 

消え入りそうな声、コウタとガクには良く聞こえなかったようだ。

けど、微かな嘆きは、隣に居た相方の耳には届き。

ガシッとユリカの腕を掴み、引っ張るタタミ。

 

「ねぇ、トウジョウイン先輩、作戦とか決めよう!

 せっかくやるなら、僕、勝ちたいし!」

「きゃっ! 手・・・わ、私、男の人に触って・・・」

 

僕達の作戦なんだから、聞いちゃダメだよ、とコウタとガクに伝え、

ユリカの手をひき、去っていくタタミ。

その背中を見送りながら、ガクは、ふぅっとため息を一つ。

 

「あいかわらず、敏感な奴だな」

「ん? ま、それがアイツのいいところだろ?」

「たまに悪いところにもなるがな」

「あ~、本気にさせちゃったりとか、な」

 

まぁ、タタミのあの性格は今に始まった事ではないか。

幼い頃から共にいるコウタとガクは、そんな友人を、誇らしくも思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

最後にエントリーをしたタタミ&ユリカのチームの、ようやくの試合が始まる。

対するのは、同じく現地で組んだ臨時のタッグチーム。

 

「俺、ミーコのためにマジがんばるからさぁ」

「ダーリン素敵! ダーリンのガンプラなら絶対優勝まちがいなしじゃん!

 

あらゆる意味でイタいアベックが居るが、彼氏のほうが対戦相手の一人らしい。

その手の中にガンプラがあるが、彼女のほうには無いため、

相方は別人の野良か。

そのもう一人はそのアベックから距離を取り、

なんでこんなのとペアなんだと頭を抱えている。

その二人と戦う、初めてのガンプラバトル。

白とオレンジのパイロットスーツに着替えたタタミは、

ドーム型の筐体に入り込み、かなり本格的な造りに感動しつつ。

ヘルメットにイヤホンジャックを装着し、

操縦桿の握り具合、ペダルの踏み込み角度を確かめる。

さきほど作ったIDカードを端末に読み込ませると。

ザッ、とスピーカーの音が鳴り、隣の筐体に居るユリカの声が聞こえてきた。

 

『タタミさん。まずはガンプラを、右の緑色のマスコットの中に入れてください』

「うん、これだね? ・・・これマスコットなんだ」

『ガンダムの伝統マスコット、ハロって言うんですよ』

 

何も知らないタタミを、丁寧に案内してくれるユリカ。

愛機パワード・ジムを、赤い目のついたハロの中に入れると、

キュイーンッと軽いスキャン音の後、正面モニターに自分のガンプラのステータスが表示される。

 

素材剛性 C

関節稼動性 B

関節保持力 B

工作精度 E

表面処理精度 F

塗装/印字精度 F

 

疑問に思うまでもない、まさに素組みのステータス。

これがどれだけの数値なのか知らないが、決して高くはないだろう。

そんなタタミの思考を察したように、ユリカの声が届く。

 

『ガンプラバトルに、ステータスはそれほど影響力はありません。

 大切なのは、自分がどれだけ、そのガンプラを好きかなんですから』

「うん、ありがとう」

 

そう礼を言ってから、僚機であるユリカのガンプラのステータスを確認する。

なんだか、彼女にそんな事を言われてもなぁ、なんて思わなくもない。

 

素材剛性 C

関節稼動性 B

関節保持力 B

工作精度 A

表面処理精度 A

塗装/印字精度 A

 

素材剛性が同じなのは、プラスチックだからというのは判るが。

それ以外のステータスがずば抜けて高い。

筐体の後ろにいる観戦者達の、驚きの声が聞こえてきた。

 

「すげぇなヲイ!」「初心者チームかと思いきや、お嬢さんのほうはガチ勢ってところか」

 

やっぱり凄いことらしい、そんな人とチームを組むなんてちょっと恐れ多いな。

などと思っていたら、正面スクリーンに、どこかの格納庫に居ると思わせる光景が映し出される。

ガンダムにおいてもっともスタンダードとされる、カタパルト発進。

ナビゲーターのカウントダウン、3、2、1・・・。

・・・なぜか、タタミのパワード・ジムは発進してくれない。

 

「あ、あれ? おかしいな」

 

ペダルを踏み込んでも、トリガーを引いてもビクともしない。

なんで? と思っているタタミの耳に、クスクスとユリカの笑い声が聞こえてきた。

 

『出撃の掛け声を言わないと、発進しませんよ?』

「掛け声?」

『そうです、自分の名前と、ガンプラの名前を言うんですよ』

 

こんな風に、と、スピーカー越しに、スッとユリカが息を吸い込み。

 

『トウジョウイン・ユリカ、アルケー、行きます!』

 

ドンッ! という音が隣の筐体から響き、

ディスプレイの中で、黒いガンプラが空を飛び立って行く。

ようし、僕も、と、目一杯空気を肺に溜めて。

 

「キドウ・タタミ、パワード・ジム、出ます!」

 

グンッ! と、視界から錯覚的に感じさせる加速感。

カタパルトから打ち出された自分とガンプラは仮想空間の空に放たれ、

風の音すらも感じられそうな、透き通った雲海を突き抜ける。

わぁっ、と歓喜の声を上げるタタミとパワード・ジムの横に、ユリカの黒いガンプラが並び。

 

『この感覚は、どれだけ味わっても飽きることはありません。

 自分のガンプラを駆り、この大空を舞う。

 これは、ガンプラビルダーであることを至福と感じさせてくれる瞬間です』

「・・・うん」

 

それしか言葉がでないほど、同感だった。

トクトクと、自分の鼓動が脈打つのが、パイロットスーツ越しにもハッキリとわかる。

自分の隣を飛ぶ、黒いガンプラ。

他のガンプラに比べて、随分と異質なイメージを受ける機体だ。

手足が異様に長く、それでいて、戦闘機のように飛び出す胸部や頭部も細く。

人の形としては、非常にアンバランス。

どこか邪悪さを感じさせるツインカメラは怪しく光り、

ガンダム特有のブレードアンテナは、まるで獣の耳のよう。

 

「ユリカさんのガンプラって、ガンダムなの?」

『はい、アルケーガンダムと言って、ガンダムOOで、敵としてでてくるMSです。

 すっごい悪役で、すっごく強いんですよ♪』

「へー、悪役なんだぁ」

『ガンダム史上、トップクラスの悪者です!』

 

なるほど、ユリカは悪役趣味というやつらしい。

主人公達が束になっても勝てない最強っぷりがたまらない、だそうな。

ユリカのアルケー素晴らしさ語りを聞きながらの遊覧飛行の後、

眼下に広がる街並みが見えてきた。

 

『今日のステージは、静岡バンダイホビーセンター近辺。

 小高い山と、連なる工場が特徴です。

 空中での機動性が低いタタミさんのパワード・ジムは、

 工場群を盾にしつつ、とにかく生き残る事を優先してください』

「うん、初めてだから、無理はしない、というかたぶんできないけど・・・」

『構いません。敵は、私が倒します』

 

ドンッ! ユリカのアルケーが、弾かれたように加速する。

アルケーには飛行能力があるが、タタミのパワード・ジムにはない。

自由落下に身を任せ、山林に開かれた道路に着地。

膝のショックアブソーバーが、グジュンッと心地よい反発をしてくれるのが感じられた。

戦闘開始、まずは敵の姿を視認することが大事。

ガンプラバトルは初めてだが、それなりにテレビゲームはこなしているタタミは、

対戦ゲームのセオリーに習い、レーダーに視線を向ける。

赤い光点の敵は2機、1機は地上、

もう1機は空を飛んでいるが、お互いつかず離れずの支援距離。

対して青い光点のタタミとユリカの距離は離れ、

2on2の開始ポジションとしては若干のミスと思われる。

それを好機とみたか、単機で接近する、ユリカのアルケーへと向かう敵2機。

 

『敵を確認しました、”ギャプラン・フライルー”、”ブレイズ・ザクファントム”

 ギャプランは高機動の可変機、ザクはミサイルを含め、死角の無い汎用型です』

「うん!」

 

初心者のためにわざわざ判りやすく説明してくれるユリカに感謝しつつ、

道路を走行し、敵との距離を一定に保つタタミ。

 

『最初に空を飛ぶギャプランを落とします。

 タタミさんはザクへ向けてバズーカを、当てなくてもいいから撃ってください』

 

まずは同じ空中戦をこなすギャプランから落とす。

残る一機は地上と空中から挟み撃ちできれば、かなり有利になる算段だ。

 

「わかった!」

 

だがそれは敵も条件は同じ、ユリカを落とし、残るタタミを上下から撃ち壊せば試合終了。

その意味では、距離を離したままのタタミ側は不利ではあるが。

それは、ガンプラビルダーとしての実力が同じであれば、の話だ。

アルケーがギャプランの射程範囲に入るなり、敵からの遠隔射撃。

 

『まずは先制、いかせてもらうぜ!』

 

放たれた大出力のビームが空を奔り、アルケーを襲う。

工作技術がかなり高いのか、必中レベルの狙撃弾。

並大抵のガンプラビルダーなら直撃していたろう。

だが、アルケーにはかすりもしなかった。

よくも避けた、だがまだ距離はある、第二射とギャプランがもう一度狙いを定めた瞬間だった。

恐ろしいまでの速度で、敵との距離を詰めるアルケー。

 

『はやっ!?』

『一撃で落とせなかったのが、貴方のミスです!』

 

次弾のチャージの隙など与えない。

ダダンッと連射された赤いビームの弾は、正確にギャプランの砲門を撃ち貫き。

変形時の射撃兵装を失った敵は、慌ててMS形態へ変形、

ビームサーベルを構えようとするも、その時点ですでに、

ギャプランの上半身と下半身は泣き別れ、独楽のように回転し、爆散。

初弾からわずか3秒、アルケーの脚から伸びる光の刃は、

あまりにもあっさりと、敵の1機を切り落していた。

残った敵の1機もマヌケではない、撃墜した後は誰も油断しがちだ。

そこを狙って、ザクファントムはビームライフルを構えるも。

 

「させない!」

 

そういうセオリーはタタミも承知、事前に狙いをつけていたバズーカ。

砲身から放たれた弾は孤を描き、ザクの足元へと着弾し爆ぜる。

アルケーを狙うよりも生存を優先したザクは、バーニアを吹かしビルの陰へと撤退。

バズーカを撃ったほうのタタミは、あれ? と首をかしげた。

 

「あれ、直撃狙ったのに?」

『バズーカの砲身にゲート跡が残っているせいですね。

 遠距離では若干のズレが大きくなってしまいますから』

 

このあたりに工作精度が表れるのがガンプラバトルらしい。

片方はほぼ完璧なガンプラ精度、片方はまっさらの素組み。

そんなチームではあるが、2対1なら負ける要素は少ない。

残ったザクには、ゲームシステムとして全体能力1ランクアップが与えられるが。

観衆のほとんどは、この勝敗の決着はついたと判断した。

パワード・ジムはともかく、あのアルケーは圧倒的だ。

次の試合もあるので、手早く終わらせよう。

ユリカがそう思い、ペダルを踏み込もうとすると・・・。

 

「なにあの娘、女の癖に男に混じってプラモとか、ダッサッ!」

 

スピーカーではない、筐体の外から、女の肉声が聞こえてきた。

 

 

 

 

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