学校帰りの寄り道といえば、青春の醍醐味である。
いちおう学生証に禁止と書いてあっても、守るものなどいるはずもない。
家の用事とやらで早く帰らなければいけないユリカ以外の3人組は、
帰り道にあるゲームショップへと足を運んでいた。
ゲームショップといっても、最近はゲームだけでは食べていけず、
ホビーやCD、中古買取も行う店がほとんどだ。
その中にガンプラもはいっており、
行き着けのプラモ屋には申し訳ないけれど、今日はここで買い物だ。
タタミは新品ホビー棚を物色し、お目当てのガンプラを見つけた。
「あった! これだよ!」
一年戦争MSV群の中にあった、緑色の無骨なガンプラ。
ビームサーベルを2本先端にとりつけたスピアを突くその機体。
「『ジム・ストライカー』かよ」
「またジムか、好きだな?」
「うん! ユリカさんの持ってきた雑誌に載ってて、
すごくカッコよかったんだ!」
ひしっ、とまたしても箱を抱きしめるタタミ。
ガンプラデビュー2個目は、コレに決定らしい。
せっかくだし、俺達もなにかとガクとコウタも棚を眺める。
ゲームショップだけあり、それほど在庫量は無いのだが、
中古ショップの利点は、買取したガンプラが安く売っている事。
いわゆる積どくモデラーの資金繰りのおこぼれだが、
中学生のサイフにはとても嬉しい限りだ。
まぁ、タバコの臭いなどには注意、
初心者にはあまりオススメしないと、ガクがタタミに注意を促している。
へぇ~、と興味津々にコーナーを見回っていると、ショーケースが視界に入り。
そこには、組み立てられ、綺麗に彩色の施されたガンプラの数々。
プラモショップのように誰かのガンプラが展示してあると思いきや、
ガンプラの足元に、値札がついていた。
あれ? と首をかしげるタタミの横、それに気付いたコウタは渋い顔をして。
「あ~、ガンプラの完成品売りか・・・」
頭をポリポリとかきながら、あまり気乗りしなさそうなコウタ。
説明はしといたほうがいいよな、と口を開く。
「自分の作ったガンプラに、値段をつけて売るヤツがいんだよ」
「そうなんだ・・・、でも、イチマンエンとか、すごいね?」
「けっ、大抵そんな価値もないヤツばっかだけどな。
けど、自分ではガンプラ作らねぇってヤツが、買ったりすんだよ。
買うヤツがいるからさ、いらないガンプラ買取にだすんじゃなくて、
売るためだけにガンプラ作るヤツが出てきたりな、正直理解できねぇ・・・」
と、その横に立っていたガクも、そうだな、と同意し。
「特にガンプラバトルは出来の良さが性能になる。
対戦に勝つために、ガンプラを買う者も少なくは無い」
「自分で作ったガンプラじゃないのに、ガンプラバトルするの?」
「対戦ゲームのよくないところだ。
勝つことが目的になって、過程を楽しむ事が失われる。
ただ勝利だけなら、CPUでも相手にしていればいいだろうに・・・」
そういう手合いには、いい思い出はないとガクも苦い顔。
二人の言葉を聞いてから、もう一度ショーケースの中のガンプラを見る。
よく出来ていると思う、値札の横にガンプラバトルでの高いステータスが表記されている。
でも、なぜだろう、プラモショップで自慢気に並ぶガンプラとは明らかに違う。
これらには、オーラというか、情が感じられ無い。
ギュッと、ジム・ストライカーのパッケージを抱きしめるタタミ。
少し、コウタとガクに感化されたかもしれない。
ガンプラを好きという気持ちは、こういうのではいけないんだと、そう思えた。
「―っていう事が、あったんだ」
『作ったガンプラの売り買い、ですか・・・』
時刻は夜の8時。
自室のパソコンに取り付けたカメラとマイクに向け、
今日のゲームショップでの出来事を、ビデオチャット越しのユリカに話すタタミ。
ディスプレイの中のユリカは、複雑な顔を浮かべている。
「まだ僕は、ガンプラもガンダムも始めたばかりだから、
あんまりよくわからないけど、ユリカさんはどう思う?」
ガンプラバトルは、ガンプラを作った者が戦えるという暗黙のルールがある。
ガンプラビルダーの大半が、売り買いに関しては良くは思っていないだろう。
そもそも、市販のキットを改造したものの売り買いは、法律的にも黒に近い行為のはずだ。
いや、法律どうこうで語るつもりは無いので、これは心象的な不満。
『私は良いとは言いませんが、全部を否定する事もしたくはないですね』
「そうなの?」
ちょっと意外だなと、タタミの感想。
ん~、と少し考えるそぶりを見せるユリカ。
『ガンダムのファン全員が、ガンダムの作品全てを知っているわけではないように、
ガンプラを好む全員が、改造や塗装をするわけではないわけですから。
少なくとも需要があるのは事実です。
まぁ、作る事が楽しいのに、と言いたい気持ちもありますし、
私としても出来れば認めたくはない事ではありますけどね』
「それもそっか」
ユリカのいう事ももっともだ。
自分が納得できない事全てを悪だというのは簡単だ。
けど、それではいつか、思考が硬化してしまうだろう。
「ガンダムって、本当にいっぱいあるもんね」
『そうですね、十人十色の楽しみ方があります。
だから、よほど歪んだモノでない限りは、否定するのは良くないと思います』
「・・・難しいね」
『そうですね』
ガンダムの世界は、膨大すぎるから。
だから、いろんな見方があるのは、仕方がないかもしれない。
そんな話をしている間に、タタミの手の中に新たなガンプラが誕生した。
RGM-79ジム・ストライカー。
コトッと、カメラに前に、生まれたばかりのソレを置き、ユリカに見せる。
『これも少し前のキットですが、やはりいい仕上がりですね。
惜しむらくは、素組みでの彩色の少なさでしょうか』
「シールを使う量が多いのがちょっと気になるけど。
この”うぇらぶるあーまー”っていうのが、すごくカッコイイよね!
僕のパワード・ジムと、いろいろなところが似てるし」
『それはそうですよ。ジム・ストライカーとパワード・ジムは、
元は”ジム改”というMSをベースに改造された設定ですから』
「へぇ~、じゃあ、パワードとストライカーは兄弟なんだ」
『ガンプラの生産時期もかなり近いので、
ポリキャップの互換性が高いはずです』
「という事は・・・、あ、ほんとだ! 手足は全部一緒なんだ!」
ガンプラの楽しみ方の一つ、自由な組み換え。
玩具として、ガンプラを楽しむ一番簡単な遊びだろう。
ふと、手足だけではなく、その武装の互換にも気がついたタタミは。
ジム・ストライカーのメインウェポンである、
ツイン・ビーム・スピアをパワード・ジムへと持たせ、構えさせる。
普通よりも腕の長いパワード・ジムに、長大な武器は驚くほどマッチしていた。
「よーし! 今度のガンプラバトルは、この装備で行こう!」
『頑張って下さいね、私はちょっといけそうにないのが、残念です』
今週末は用事があるらしいユリカ。
それは残念とタタミは思うが、彼女とは月末の2on2大会に出場する約束をしてある。
それまでに、ユリカの足を引っ張らぬよ、特訓をしておこう。
新たな装備を手に入れたパワード・ジムに、タタミはよろしくと微笑みかけた。