いつものガンプラショップ「ゼブラゾーン」の昼下がり。
最近はほぼ毎週のようにこの店に通うタタミは、
愛機パワード・ジムを抱きしめながら、足取り軽くやって来る。
店の名前からしてガノタっぽい店長曰く、
「日本一、いや、世界一ウチほどガンプラに力を入れている店は無い」
と豪語するだけあり、ガンプラに熱の入れようは凄まじく。
かなりの頻度で行われるガンプラバトルのイベントは、大盛況。
実は今日も、ガンプラバトルのトーナメント大会があるので、
タタミはいつもの友人達と参加することにしたのだ。
今日の大会は3対3のスタンダードルール。
4人の仲間ということで、いつもなら3対3戦はスルーしていたのだが、
今日はガクが用事があるので来れないらしい。
なんでも、日頃世話になっている先輩が人手をほしがっているそうで、
その手伝いがあるので、せっかくだから3人で出場してこい、となったわけだ。
いつもの扉をくぐり、店長に挨拶してからガンプラバトルコーナーへ。
参加者がざわつく会場には、先に到着していたユリカが、
バックから取り出したアルケーガンダムを組み立てていた。
「ごめん、お待たせ、ユリカさん」
「いいえ、待ち合わせ時間10分前ですよ、タタミさん」
さぁ、あとはコウタが来れば3人揃い、エントリー可能だ。
彼は、以前作ったケルディム鶴が大層気に入ったらしく、最近はあれしか使っていない。
そういえば、ユリカもずっとアルケーを使っているし、
ガクもFAZZから変える気はないようだ。
誰の影響かは、全員がなんとなく気づいている。
他のガンプラを買っても、ずっと素組みのパワード・ジムを使い続け、
宝物のように抱きしめ続ける彼が近くにいるのだから、
感化されるなというほうがムリだ。
さて、そろそろ約束の時間になるのだが、コウタの姿が見えてこない。
お調子者ではあるが、時間にルーズな男ではない。
どうしたのかと二人が話していると、タタミの携帯電話が鳴った。
ディスプレイに表示されているのは、噂のコウタの名前。
「もしもしコウタ君? どうしたの?」
『いやわりぃわりぃ、ちょっとな・・・』
「まだ家なの?」
『あ~、実はな・・・。今日、急にイトコが来ることになってよ・・・・。
そのイトコ、まだちっちゃいコでさ、
おふくろが玩具つって俺のガンプラもっていくんだよ。
まぁ、破壊率が高くてな・・・。
なんで、急いでガンプラ隠さなきゃならねぇんだ。
すまん、エントリーの時間には間に合わん!』
という理由らしい。
漏れた音声をユリカも聞いていたらしく、仕方ないですねと軽く微笑んでくれた。
「うん、じゃあ、がんばってね。
メンバー募集してる人もまだいると思うから、心配しないで」
『おう、そっちもな。ユリカ先輩にもすまねぇって言っといてくれ。
ってうわぁ! もう来やがった!』
かなり切羽詰まっている状態らしく、プチッと切れる通話。
「じゃあ、メンバー探そっか」
「そうですね、お一人でしたら、すぐ見つかりそうですし」
3対3というルールの都合上、いわゆる野良でチームを組む人達はかなり多い。
それ専用のコーナーも設けてあり、実際そこでユリカとタタミは出会ったのだが。
とりあえず、そこでチームメンバーを募集している一人を見つけようと向かう。
そろそろエントリー締め切りの時間が迫っているので、残った人で即席チームを作り始めており。
楽しんでガンプラバトルができる人が誰かいないかと、そこに脚を踏み入れた時。
「君のガンプラは・・・、ええい、ウチの息子と釣り合わせんな。
そっちは、なにかねこの適当な仕上がりは!
もう時間が無いというのに、ロクなガンプラビルダーが居ないじゃないか!」
ヒステリックな叫びを上げる、40ちょっとのおじさん。
人のガンプラを見て、文句を言って去っていくという、なんとも失礼極まりない。
その後ろについて歩く小学生ぐらいの男の子は、
なんとなく面影が似ているので親子だろう。
どうやら、息子のチームメンバーをお父さんが探しているようなのだが、
かなり、こだわりというか、求めるレベルが高いようだ。
そのお父さんが、コーナーに入ってきたタタミとユリカを見つけ、駆け寄ってくる。
「君達、ガンプラを見せなさい。・・・うん、アルケーのコはいいね。
そっちのコは・・・、なにかね、素組みのガンプラとは情けない!
まぁいい、お嬢さんはウチの息子とチームを組みなさい。
あと一人だが・・・ええい、さっきの子でもういいか・・・」
まぁなんともごり押し。呆れるのを通り越した気持ちになるユリカ。
「あの、私はこの人とペアを組んでいますので」
「子供は大人の言うことを聞いていればいいんだ。
ほら、早く―」
「え~っと、もう、誰も残ってないよ・・・」
場を仕切ろうとするお父さんも虚しく。
さっきまで残っていた選手は、もう誰も居ない。
おそらく、この人がうっとうしいので、
さっとチームを組んだのだろう。
そんな相手の迷惑を知らぬか、地団駄を踏んでいる張本人。
タタミは、お父さんの後ろで黙って俯く子供に気づく。
その手には、ウェザリングの施された、『ザクⅠ・スナイパー』。
けれど、タタミは背中のリュックサックのほうに、ふと目が行く。
なにか、大切なものが入っていそうな、そんな直感。
しゃがみ、男の子と目線を合わせて話しかける。
「ねぇ、僕はタタミ、君の名前は?」
「えっと・・・マ、マサヒコ」
「僕達ね、一緒に出る人が来れなくなっちゃって、困ってるんだ。
よかったら、一緒にガンプラバトル、でてくれないかな?」
父親のほうではない、子供に声をかけるタタミ。
なんとなくだが、そうするべきだと思ったのだ。
「・・・・・・・・・」
マサヒコ君は、なにも言ってくれない。
ちらちらと父親に目配せをして、言葉を待っている。
どうやら、そういう立場のようだ。
「仕方が無い。君達、くれぐれも息子の脚を引っ張らないでくれよ?」
そういうわけで、少しトラブルの予感をさせながらも、
タタミとユリカは、マサヒコというチームメンバーを見つけ、エントリーを完了した。