試合が始まるちょっと前だった。
先日タタミと友人関係を築いたアフロ、デブ、メガネのオタク3人組もこの大会に来ており。
「YOYO! タタミクンじゃないかYO!」
「き、君も参加していたんだな? これは強敵なんだな」
「あいかわらずのパワード・ジムですか、とても一途な事です」
最初に比べてずいぶん好意的な態度である。
これもタタミの持つ不思議な魅力のなせる業というべきか。
隣のユリカは会ったことが無いので少し萎縮してしまっている。
「WHAT! これはまたキュートなガールフレンドだNE!」
「うん、僕の友達のユリカさん」
「は、初めまして・・・」
この大会は3人で1チームのルール。
タタミは誰と組んだのだろうと、メガネが二人の後ろに居るマサヒコに気がつき。
「・・・タタミ君、まさか、あの子と組んだのですか?」
「うん、マサヒコ君」
「・・・この子の父親、一緒じゃありませんでしたか?」
今は、あのお父さんはトイレに行っている。
その旨を伝えると、デブとアフロが囁き声で。
「悪いことは言わないんだな。あの父親と関わるとロクな事がないんだな。
あのコのガンプラ、小学生とは思えない造りなんだな」
「う~ん、凄く上手だと思うけど・・・?」
「あのガンプラ作ったの、あのお父さんなんだYO。
自分の作ったガンプラを子供に使わせて、いろいろ仕切ってるんだNE。
親父ガンプラでヒステリー起こす面倒なのって、有名なんだYO!」
「やはり、そういう方でしたか・・・」
まぁ、なんとなく予想はしていましたがとユリカの溜息。
実はさっきも、作戦に関して事細かくこっちに要求してきていたりと、
さすがのユリカも、ストレスになりはじめていた。
とはいえ、いまさらチームを変える事はできないが。
「そういうことだったんだ。
ありがとう、教えてくれて」
オタク3人に、笑顔で感謝を伝えるタタミ。
あの父親を前にしても、タタミは少しも笑顔を崩さなかった。
何か考えがあるのだろうか?
3人組が去っていき、まだあの父親は戻ってこない。
悪い話を聞いても、タタミはさっきまでと何も雰囲気を変えずに。
「ね、マサヒコ君。ガンプラ、好き?」
「・・・・・・」
「僕は初心者だけど、大好きなんだ。一緒にがんばろうね!」
「・・・うん」
やる気を見せるタタミとは正反対に、どこか気乗りしない様子のマサヒコ。
ユリカにはわからない何かが、タタミに感じれているのだろうか?
それから程なくして、試合が始まった。
『ザク1・スナイパー』。名前の通りスナイピング『狙撃』に特化したザクのバリエーションだ。
マサヒコが使うのは、ガンダムUCに登場したカークス機のカラーリング。
ザクスナイパー自体はHGUCでキット化されているのだが、
彼の使うガンプラは、オリジナルのそれとかなりの違いを見せていた。
「あのザクスナイパー、RGをフレームにしてますね。
RGザクⅡとHGUCザクスナイパーを組み合わせて、
塗装もエアブラシにウェザリング、ドライブラシ、ウォッシング。
小学生の技術では無いというのは頷けます」
ザクスナイパーの外見から分析したユリカは、
先ほどのオタク達の言うとおり、あれは自分で作ったガンプラではないと言う。
今は筐体の中で、試合開始のマッチングテストを行っている最中。
この会話はマサヒコには届いていない、タタミとユリカの直接通信だ。
「武器はあの大きなライフルだけみたいだね。
狙撃以外はなにもいらないっていう、極端なガンプラなんだ」
「スナイピング能力は全ガンプラでもトップクラスです。
反面、接近戦でできることは何もありません。
私とタタミさんで前衛をし、狙撃しやすい状況を作っていきましょう」
「あのお父さんの言ってた作戦しかないよね」
というより、スナイパーをチームに入れた場合、戦術は一つしか取れないとも言える。
そして、その勝敗はスナイパーの能力に依存するわけだ。
そのキーマンへの回線を開き。
「じゃあマサヒコ君、僕とユリカさんで敵をひきつけるから、
敵をスナイプしてね」
「・・・うん」
試合前だというのにいまいち元気が無い。
こんな調子でアタッカーを任せることに、不安を感じるユリカ。
予想通り、第一回戦の内容は、お世辞にも良いものとは言えなかった。
林に身を隠してのスナイプは、ガンプラのスペックに問題は無い。
またマサヒコも狙撃経験は豊富なようで、その狙いは正確だったのだが。
いかんせん、スナイプタイミングが独りよがりすぎたのが原因か。
接近戦をしている最中にビームが発射されるならば、まだ良いほう。
当たらないことに自暴自棄になって、
ガムシャラな連射をされた時は、味方にあたりそうになり肝を冷やした。
ユリカの活躍でなんとか第一回戦は勝利を収めたが、
感情を制御できないことに申し訳なさそうなマサヒコに、
息子の活躍がまったく無く、二人の支援が悪いと説教してくるお父さん。
なるほど、確かにこの親子、迷惑以外の何物でもない。
ユリカも辟易気味な顔を浮かべ、かなりモチベーションが下がっているようだ。
1回戦の無様な様子に、マサヒコのやる気もほとんど無くなってしまっている。
続く2回戦へ向けて待機する場所、さすがにここまでお父さんはやってこないが。
これは、2回戦の勝敗は見えているなとため息をつくユリカの横で、タタミは。
「ねぇ、マサヒコ君、ちょっと聞いていい?」
「・・・何?」
「これは僕の予想なんだけど、
そのカバンの中、君のガンプラが入ってるよね?」
「・・・・・・・・・」
ズバリ、だったようだ。
違うとも否定せず、俯むき黙ってしまうマサヒコ。
「見せてくれない? 君のガンプラ」
さっきみたいに黙ったまま、けど、どこか嬉しそうな笑顔を湛え、
リュックから出したのは、白を基調としたスマートなガンダムタイプのガンプラ。
「わぁ、カッコイイね。これってなんていうガンダムなの?」
「・・・お兄ちゃん、知らないの?
これ、ガンダムエックスって言うんだよ」
初めて、言葉らしい言葉をしゃべってくれた気がする。
一度口を開いたら、もう止まらなかった。
今まで我慢していたものが溢れだすように、マサヒコは語り始める。
「このガンダムエックスはね、サテライトキャノンっていう、
すごいビームが撃てる武器があるんだ!
月のマイクロウェーブ送信基地からのエネルギーを使うんだよ!
でもね、月が出てないとその武器は使えないから、
僕のエックスは、ディバイダーもつけてるんだ!
お年玉でエックスとエックス・ディバイダーを買って、
フル装備のエックス作ったの!」
「でぃばいだー、って、この盾?」
「うん! ここを開くと、ほらっ!」
「わぁ、いっぱいビーム砲がでてきた!
それと、ブースターもついてるんだね?」
「そうだよ! このディバイダーは、
ガンダムエックスをすごいパワーアップさせるんだ!
アニメでも凄い活躍をしてね―」
これが、マサヒコの本当の顔。
そして、この子の愛するガンプラが、このガンダムエックス。
パワード・ジムに入れ込むタタミと同じ、いやそれ以上の嬉しそうな顔。
一通りマサヒコが語り終えた時には、さっきまでの暗い顔は完全に消えうせていた。
そういう事だったのか、タタミが考えていたことが少し理解できたユリカ。
「ねぇマサヒコ君、次の試合は、このガンダムエックスを使わない?」
「・・・けど、お父さんが、試合の時は、このガンプラを使えって・・・」
また沈み込んでしまうマサヒコ。
けど、本当はエックスを使いたいのが良くわかる。
だってこの子は、手の中の愛機を、リュックに戻さない。
「君の作ったガンプラ、使ってあげないと可哀想だよ。
ほら、そのガンプラも、マサヒコ君と戦いたいって言ってるんじゃないかな?」
「・・・お兄ちゃん、ガンプラが何を言ってるかわかるの?」
「僕には、そのガンプラが何を言ってるかわからないけど。
マサヒコ君には、聞こえてるよね?」
そう、ザクスナイパーで満足に戦えるはずがなかったのだ。
マサヒコの本当のパートナーは、あのガンプラではない。
「・・・うん! じゃあ、次はエックスを使うね!」
彼には、エックスの声が聞こえているのだから。