進撃の狩人 作:こんがり芋
リアにとって狩猟対象であったのはモンスターだ。
二足歩行の猫である「アイルー」のように、人の姿では無いものの人類に味方する種もいた。
時には同じ人間でも、密猟のような違法行為を行った犯罪者を捕縛する任務へ同行することもあったが、リアたちハンターが武器を振るう相手は、決まってモンスターであった。
だからこそ、
そもそも、ここが巨人の住みかであることをハンターが知る術はない。ましてや
故に、リアには彼ら巨人が、この町の住人なのではないか? という思考も棄てきれないでいた。
別の町から来た侵略者であることは間違いない。けれど敵ではなく、モンスターのような人。という予想の方が強かった。 理由は明確。家のサイズが違いすぎるからだ。
少なくとも、あれらの巨人がこの町を滅ぼした侵略者なのだと断定して良いだろうと結論付ける。
腰巻きすら無いけ原始的な格好であるというのは疑問ではあるが、人間にしかみえない。人同士で争う。というのをリアにとっては理解できないが、敵には思えなかった。
それも無理はない。普段相手にしているのはモンスター。つまり一目見れば敵と把握できる動物である。
けれど、目の前にいるのは巨大な人。意志疎通が出来るだろうと思っていたのだ。
けれどハンターとして培ってきた勘が警告する。もっと恐ろしいモノではないか? と。
そもそも、この町にいた住人の生き残りだと思われては会話は厳しいだろう。今まで誰とも遭遇しなかったことが、その推測をより確実な予想へと導く。
そうして、恐ろしい結論に至った。
巨人が人を補食したのではないか?
人食い。
かつて人がモンスターを殺す術を持っておらず彼らから隠れて生活していた頃は、厳しい冬を乗り越えるために行っていた地域もあったらしい。
という噂をリアは聞いたことがあるが、今の時代にいるとは思ってもいなかった。
今でもハンターや村人たちが、モンスターに殺されてしまったという事件は多くある。
しかし、人が人を殺して食べた。等という話をリアは聞いたことがない。
それどころか、モンスターに襲われる可能性がある時代に生きる以上、人と人が集団で争うことは滅多に起きない。町単位であれば尚更あり得ない。
そんなことをしては、強者の餌になるだけだ。
だからあの巨人は、人ではない。モンスターだ。
「
自分を鼓舞するために、自然と口に出していた。
あれは人族ではない。と自身に言い聞かせてモンスターを見つめる。
これは人殺しではない。新種のモンスターハントだ。
──そうよ。町の無念も晴らせる上に調査記録にも名前が残るなんて名誉じゃない!
何故なら彼女は
……最も、未知のモンスターの方が燃えてしまうのが狩人であるが。
そうときまれば。と巨人の行動を息を殺して観察する。
──矢が通りやすい部位は何処だろう?
普段の狩猟であれば、観察せずとも、知識や経験としてモンスター毎の弱い部位を知っているので苦労しないが。問題は未知のモンスターと遭遇した時だ。
「破壊された家もアイツらが壊したんだよね……」
その図体通りの破壊力を持っているのことは容易に想像できた。しかもそんな巨人が何体もいる。
──同士討ちは期待できないもんねぇ……
縄張り争いがあるのは弱肉強食な自然であれば常である。特に新大陸では、何度も観測していた。
しかしそれは、別個体である場合だ。ここには巨人しかいない。
ちらりと見えた小型も含めたら、100にも越えそうな数を一人で相手にしなければならない。
もし地上に周囲に降りたら、囲まれるのは必然だろう。けれど下には相棒がいる。逃げる手段は確保したかった。
『こけし玉』や『もどり玉』を使って避難しようにも、彼らの攻撃を行うタイミングを理解しなければ、使う前にダメージを食らってしまう。
最も、戻る拠点が無い以上もどり玉は使えない。その上、巨人に鼻があるかも不明なのだ。こけし玉を使っても無意味な可能性さえある。
そうでなくとも、並の飛竜よりも図体が大きい巨人の攻撃では一撃で気絶してしまい、アイルー送りされる可能性もある。
はたまた、人間の見た目であってもブレスを吐くかもしれない。それなのに、此方の物理攻撃は背丈が高すぎて足にしか届かない。
見れば見る程に厄介そうな相手だ。
(……ニンゲン?)
思考を巡らしながらふと思い出したのは、アレが人に限りなく近い見た目である。ということだ。
もしかすると、弱点も人と同じかもしれないということに気がついた。
──なら、初撃で狙うのは背中。それも関節か、
ハンターにとっての敵は当然モンスターだ。彼らから身を守る為には人間についての知識も必要である。何処の部位を守れば、攻撃を受けてもより生存率が上がるのか。死なないのか。
狙うのは屋根からも狙える10メートル越えの巨人だ。その中でも、30M程離れたところを徘徊する一番近くにいた巨人に狙うことに決めた。
初撃は様子見も兼ねている。けれど、奇襲はそう出来ないので可能な限り強力な一撃を叩き込みたかった。
弓矢が大量にあっても、「ビン」の無駄遣いは出来ないからだ。
それでも、強力な「強撃ビン」に決めたのは奇襲が行えるからだ。無意識からの攻撃。無防備な敵への攻撃。どちらもそう簡単には成功できない。それが行えるのならば実行すべきなのは明白だ。
未知の敵であっても、普段のやることは変わらない。
長年連れ添い、幾度となく強化してきた黒光りの荒々しい弓矢を背中から取り出した。
2つに折れていた弓矢の全貌が露になる。
上下には鋭い角。それ単体でも多くの生き物を狩り取れる強度も備えている。
上下2つの角を支えに張られた太い弦で幾度となく引いても、傷ひとつ入らないのがその証拠だった。
その弦へ矢を通す。
矢缶から取り出したこの弓矢も一般的な物それとは大きく違う。
矢じりも羽も巨大なのだ。分厚く硬い龍の鱗を貫けるように造られたものなので当然だった。
ロックが解除された矢じりには、予めセットしていた強撃ビンが塗られた。
そのまま狙いを定め引き絞ると、矢の周囲が発光し初めた。
──狙いを正確に。外さずに……。
弓兵として最大の攻撃。それは弓矢となる前、大自然で猛威を振るったモンスターの力を極限まで解放した一撃。
強力な一撃であるが、解放してから撃つまでは今にも飛び出しそうな矢を抑え続けなければならない。
その力を抑え込むのは、歴戦のハンターであっても至難の技であった。
それでも、頭部に矢先が合うように狙いを定める。
そして、解放した。
ハンターの手から解き放たれた一本の矢は、勢いよく飛んでいく。
その矢は巨人の後頭部深くへ突き刺さった。
強力な龍の一部や、希少な鉱石で鍛えた弓矢を用い、G級にも匹敵する狩人が放つのが彼らの弓だ。当然、常人のものとは段違いの威力がある。
しかも彼女の弓は、長年調査してきたとある古龍の一部を用い「角王弓ゲイルホーン」と呼ばれる究極の一品であった。
更には、火薬を積めたビンから塗られた強撃ビン。止めが、竜の力を解放した一撃。鬼に金棒では足りないほどの威力がある。
だからこそ、であろう。
剥き出しとなっている筋肉を貫いた矢が、爆破した。
その後に、首の大半は四散し周囲に弾け飛び、頭部は天高く舞い上がったのは。
吹き飛んだ頭部は離れた家屋に墜落した。
そうして巨人は、攻撃さえ気がつくこともなく生命を刈り取られるだけではなく、無惨な最期を知ることなくこの世を去った。
経験したことの無い爆破音に周囲にいた巨人たちも突然の奇襲に狼狽する。
けれど、狩人の行動は素早かった。
二矢目を構えていたのだ。
巨人にとっては、たった数十メートルの距離であっえも遥か遠くからであった未知の攻撃に困惑するしかない。
その間に、竜の力を溜め込んだ一矢を再び解き放った。
その第二射目は、巨人の僧帽筋──うなじよりも少し下──を貫いた。
当然のように頭部は吹き飛んだ。
同じ方角からの攻撃
同じ方角へ吹き飛ばされた巨人の頭部
敵が近くにいる。
巨人は漸く狩人の存在を認識した。そして発見したのは、たった一人であったことに驚愕した。
少なくとも、リアにはそう見えた。
しかし、一番衝撃を受けているのは、
──もう終わりなの?
表皮抜け。まるで手応えを感じなかったのに終わってしまった。侵略者である筈の巨人が、あっけなく倒れたという事実に狩人は困惑したのだ。
「図体だけは大きいのに、これでは
──まさかまさかの、ビンの無駄遣いだったんじゃないかしら……
脅威度を格下げしたリアは、向かってくる巨人たちを無視し、淡々と作業する。
一体の強さがアオアシラより弱くても、総数は「ジャギィ」以上だ。かなり厄介なことにはちがいない。
弓矢につけていたビンを取り外して鞄にしまう。そのままビンへと取り替える。そして、
瞬く間に弦を引き、巨人の頭部へと構えた。
対して巨人は、漸く強者の位置を視認していた。
当然それを理解しあのは、10メートル越えだけなので、たったの3頭のみであった。
前方に2体。残りが後方だった。
のそのそとしか歩いてなかった巨人は強者へ向かい走り出した。
どうやら人よりも早く走れるらしい。その上、奇妙なフォームで向かってくる。近づかれたら、かなりめんどうなのは間違いない。
それでもビンを替えて良いと判断し、近接時に効果が上がる「接撃ビン」へと切り替えた。
最初に、眼球に狙いを絞ってから撃つ。
射たれた巨人は抉られた右目を抑え、呻き声をあげた。
別の巨人にも同じ部位に当たるよう撃つ。
けれど、それてしまい、頬を抉るだけであった。
しかし射ることを辞めない。
狙いを絞って撃つ。
狙いを絞って撃つ。
かなり接近した後方の巨人にも撃った。
目、腕、足……そして頭部。
向かってきた3頭の巨人は、狩人をその場から動かすことすらないまま地面に倒れたのだった。
「驚いて損したわね」
倒れた巨人を一瞥してから弓を解体しようとしたその時、倒れていた巨人は蒸気のような煙を上げながら立ち上がろうとしていた。
そして狩人が目撃したのは蘇った目であっだ。
「うそ……。再生した!?」
のろりのろりと2頭の巨人が立ち上がったのだ。討ち取ったと思っていた巨人の大半が息を吹き帰していた。
切り取った飛竜の尻尾。砕いた角竜の角は月日が経てば再生する。
生命力に満ち溢れた個体が多く存在することはハンターギルドでも把握しているが、損傷した部位が
けれどもここにいた。
「……っ。甘く見すぎた」
ビンを再装填する時間さえ惜しかった。
油断した。と毒づいたものの、何も解決はしない。
何度も弓を引いて、巨人を幾度となく射った。
時間が立つほどに小型も増えてきたので、休める暇がなかった。
手足を貫いて地面に転がっている矢。
巨人に避けられ、建物を破壊しかけている矢。
幾度も矢で射たれ、そのまま突き刺さっているのに未だに息を引き取らない巨人。
増えることはあっても、ほとんど数が減らない巨人。
そうしていく内に巨人の弱点が首の裏辺りでは無いかと算段をつけることができた。
──このままでは不味い。
囲まれてしまうのも時間の問題だろうとは予想できた。
武器を手に持ったまま、飛び降りた。
そしてリアは叫ぶ。
「仕事の時間よ!」
「グァッ!?」
予想しなかった叫び声に反応してか慌てていた。
──巨人に襲われそうになってるってのに相変わらず呑気ね
それは陽気というよりも慣れであった。近くにいてもリアが脅威を倒すから危機意識があっても狼狽しなかった。
リアが側にいる。という安心感があるからこそ、だらけていたという事実に、リア自身が気づいていない。
屋根から飛び降りたリアは走りながら弓を分解し、係留してあった小屋に向かう。
脇に差していた双剣の片割れを使って係留していたロープを切断する。
「行くよ!」
「クエーッ!」
叫び声と持ち手を引っ張る。
返事をすると共に、勢いよく走り出した。
後ろに荷物も無いので、その速度は馬よりも早かった。
当然、巨人は追い付けない。
疲弊しているとはいえ、脚力では巨人を凌駕していた。
しかし、走り続けているだけでは意味がない。
「ふっ!」
もう一度手綱を強く引くと、空を走り出した。
その鳥の多くは飛ぶことを放棄した種族だ。僅かばかりの時間と高さだけは飛翔できる。
けれど、ごく稀に飛ぶことを覚えている稀少種が存在していた。
種族名を「チョコボ」。見た目から「白チョコボ」とよばれている伝説のチョコボ……なのだがリアは当然知らない。
チョコボが、
そんな白チョコボが、空高く舞い上がってしまえれば敵は存在しない。
ましてや、制空権を脅かすドラゴンもいないので、チョコボが天の覇者であった。
その光景に巨人たちは、棒立ちになるか、残ってる手を支えにして、天を見上げるばかりであった。
やがて白チョコボは壁の上に降り立った。
そうしてリアは、狩猟区域から安全地帯へ離脱した。
【悲報】 原作キャラはモブ巨人だけ
【朗報】 一話よりも文字数多
◆ちょっと某アニメリスペクト。監督。来年映画ありますか?
◆相棒は白チョコボ
◆壁内に行ける手段としても白チョコボはかなり有能でした
◆チョコボ、カワイイ
◆上位ハンターリアちゃん、ポンコツ疑惑
※6/17 武器描写を追加。
弓矢は「角王弓ゲイルホーン」です