弱くても勝てません、強くなりましょう   作:枝豆%

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『誰がこの展開を予想できたでしょうか!!??』

 

 アナウンスが流れ、観客は当然と思いながらも少しは期待していた分落胆を隠せないでいる。

 

 

 薬師4ー成孔14

 

 圧巻のピッチングを見せた樟葉がマウンドをおり、その次の2年生ピッチャーが投げ大量失点を許し薬師高校は夏の大会を敗退した。

 

 もし全て樟葉が投げていれば……。

 

 スポーツの世界おいて結果が全てであり、他のことは必要ない。

 シンプルな勝利と敗北。それ以外は誰の目にも止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 △、!?? △

 

 

 

(なんか、ボールに回転がよく伝わる)

 

 そんなことをぼんやりと思っていた樟葉。

 球速は青道戦と比べれば遅いものの、指にくる感覚はいつもの二倍近く伝わっていた。

 

 

『三振!! 西東京のスーパー1年生樟葉誠、今日も絶好調です!!』

 

 三回まで一打も許さないピッチングが続いていた。

 完璧と言っても差し支えない。完璧主義では無いものの、こうやって記録の伸びる感覚がたまらなくなっていた。

 

 今まで、自分は真田の代わり。

 投球としてでは無く、野手としてマウンドに立っていた樟葉は。青道戦で一皮剥け、投手としての自覚を持つようになった。

 

(三振……気持ちいい)

 

 左手を開いては握りしめと感覚を確かめる。

 

 

 その勢いで四回も三人で乗り切り、ベンチに帰った。

 だが、そこから薬師は崩れ始める。

 

 贔屓抜きにして樟葉は天才だ。

 圧倒的な回転量で、浮き上がるように見え当たったとしても威力で押し込まれる重い球。

 1つしか武器がないのにも関わらず、その性能が良すぎる故に全ての障害をその一本で跳ね除ける。

 

 これで高校から投手を始めたのだ。

 天才以外に似合う言葉はないだろう。

 

 だが、それに付き合わされる方は? 

 

 毎球140後半の特殊なストレートを受ける身は? 

 気分で150代にのるストレートを投げるのを受け取る身は? 

 それを一試合続ける身は? 

 

 

 

 

「───!!!!!」

 

 

 言い方は酷だが……天才と張り合うにはそれ相応の才能が必要になる。

 

 

 

 

 

 

 

 △△。!? △

 

 

 

 

 2年のキャッチャーの手が腫れ上がっている。

 今まで振り逃げやパスボールがなかっただけ、誰も疑っていなかった。

 現にキャッチャーは守備手袋を付けていたので、異変には誰も気付かなかった。

 

 しかし考えれば普通のことだ。

 投手としてフォームが固まり始めたのが、夏大の始まる1ヶ月前くらいのこと。何度もその期間で球速が上がり、その度にストレートに磨きがかかる。

 大会中の成長率は群を抜いている。

 

 自己ベストを更新したり、150代をコースに維持させるなど格段に成長を遂げている。

 

 

 キャッチャーは結論から言えば樟葉の成長についてこられなかったのだ。

 目を慣らすことも、捕球することも。

 日々成長する樟葉に。

 

 

 取り損じ。

 それは一度や二度では痛いだけで終わるが、何度も続いた場合には話が変わってくる。

 

 準々決勝。

 シードではなかったので、1回戦から4回戦まで全て樟葉のボールを受けており。4回戦の青道戦で大きく成長を見せた樟葉。

 

 

 キャッチャーの手は、既に捕球がままならない状態へと陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 〇〇◎! 〇◎! 

 

 

 

 

 5回の守備。

 投手と捕手が代わった。

 

 捕手はそのまま交代、樟葉はセンターへと行き試合が再開される。

 3ー0とリードしていたのにも関わらず、余裕の色は消えた。

 勢いのあるチームや弱小校が勝ち上がるには、どうしても1人や2人の天才が必要になる。

 それはホームランバッターやアベレージヒッター、鉄壁の守備や精密機械のような投手。

 

 それは必ず必要になる。

 勢いだけでなんてことの無い公立校が甲子園を制覇できるか?? 

 

 断言しよう。それは不可能だ。

 

 だから焦る。

 一点でも奪えば、樟葉なら守り切れる。

 

 そう心のどこかで思っていた。

 そしてそれは確信へと。

 

 だが今ピッチャーとしてマウンドに樟葉はいない。そして故障中の真田でもない。

 2年生のバッテリーだ。

 

 いくら打って勝つチームだったとしても……。

 

 天才が投げない無名校が、成孔を抑えられる訳がなかった。

 

 一矢報いて一得点上げたが、大量の安打からの本塁打が重なり。6回コールドという結果で薬師高校の夏は幕を閉じた。

 

 

 

 △、!!? 〇

 

 

 

 

 

 

 自問を繰り返す。

 

 ──速い球を投げたのが悪かったのか……。

 ──特殊な球筋だったから悪いのか……。

 

 どうすれば勝てたのだろう。

 どうしたら良かったのだろう。

 

 分からない。

 よく父親に言われていた言葉を思い出す。

 

「勝ちはたまたま、でも負けには必ず理由がある」

 

 父親は樟葉と同じで野球人だった。

 だが怪我をしたらしく高校で野球からは身を引いたらしいのだが、樟葉にとって父はテレビで映るプロ野球選手よりも輝いて見えた。それにつられて野球を始めたと言ってもいい。

 

 その父の言葉が何故か頭から離れない。

 昔は『矛盾してないか?』とよく思っていたが、今になってよく分かる。

 本当にその通りなんだと。

 

 負けたのには自分に理由があるはず。

 他人にそれを擦り付けてはならない。

 

「お前のせいじゃない」

「運が悪かっただけだ」

「ここまで勝ちあがれたのはお前のお陰」

 

 口を揃えてそう言う。

 でも、そうじゃないだろ。

 

 負けは負けだ……。

 

 

 何度繰り返しても、自問の答えは出てこないままだった……。

 

 

 

 

 

 

 △、!? 。

 

 

 

 

 夏の大会が終わってから初めての練習。

 今回は遅れることなく、朝イチから監督の所へと樟葉が尋る。

 

 

「監督」

「なんだ?」

 

「俺にストレートを教えて下さい」

 

 夏の悔しさをバネに。

 もうあんな思いはしないでいいように。

 

「持ち味が消えるかもしれないぞ」

「それでもです」

「キャッチャーのことは気にしないでいい」

「それでもです」

「本当にいいんだな?」

「俺が、前に進むために」

 

 一か八かの大一番。

 ここで更なる昇華をするか、それとも落ちるか。

 

 雷蔵の監督としての技量が試される。

 

 

 

 

 

 〇◎!!!!!! 

 

 

 

 

 

「とりあえずフォームが固まるまではネットを使って投げろ」

 

 練習で怪我をされるのは困る。

 急成長をする樟葉についてこられるだけのキャッチャーは、今は(・・)薬師にはいない。

 

「まずはお前のストレートを投げてみろ」

 

 雷蔵に言われた通りにネットへ向かって腕を振り下ろした。

 風を切る轟音と共に、ネットが揺れる音が聞こえる。

 

「それがお前のストレートだ。それで今からお前が覚えるのが……」

 

 そう言いながら雷蔵は樟葉に次投げるストレートの持ち方と投げ方を指示する。

 体を縦回転に使い、バックスピンをかけないストレート。

 

 樟葉は投げる。

 しかし、先程のストレートに比べれば速さも制球力も格段に落ちるストレート。だが────沈む。

 

 

「これがお前が投げたがってたジャイロボールだ。ってか何一発目から形出来てんだよ、教えることねぇじゃねぇか。お前のストレートはボール一個分上だ、逆にジャイロボールは一個分下。青道戦で分かったと思うが、どれだけお前のストレートが特殊でも目が慣れてこれば打たれるもんは打たれる。青道の三番と四番は完全に読み切られていた。

 ストレートと同じ速さでボール二個分の違いがあれば……お前はもう一段階上へと進化する」

 

 

「監督、これを覚えたら俺は日本一の投手になれますか?」

 

 何日か悩んで出した答え。

 負けないためには……勝つためには。

 独りよがりかもしれない。思い上がりかもしれない。それでも……。

 

 

「俺はもう、負けたくない」

「──バカかお前」

 

「怪物1年生って言われて思い上がったのか?」

 

 

 

 

 

「いいか? お前には足りないものが山ほどある。初見だから上手くいっただけだ。ここから2種類3種類のストレートに決め球の変化球、カウントを取りに行く変化球と、お前には足りないものが山ほどある。

 ──でも、その1つ1つを身に付けたら……なれる、日本一の投手に。何せ甲子園に俺を連れてくんだろ? 日本一の投手くらいいないと箔がつかねぇだろ」

 

 一つ間を置く。

 ため息をこぼすようにして……。

 

 

「もう一度言ってやる。その全部を身につければ……成れるぜ──日本一の投手に」

 

 

 




一二年生の夏大の負けた時って現実だと、ドラマも感動する話もなくて本当にあっという間に終わる。(持論)
負ける時は呆気なく負ける(持論)

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