俺じゃ世界を救えない   作:ロジの裏

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第三話 男の過ち

 役立たず、無能。冒険者達のそんな言葉を聞きながらも、キャロルは特に反応することもなく、ただ椅子に座っていた。

 

 時計を確認すると、まだ依頼が掲示板に貼り出されるまで少し時間があった。

 

 普段は上級冒険者であるアニスやシャルナが側にいるせいで、キャロルに手を出せない冒険者達だが、今日はなぜか彼女達が周りにいないのを確認すると、あからさまにキャロルに聞こえるように声を出して嗤っていた。

 

 キャロルは嘲笑を隠しもせずこちらに向ける冒険者達を見て、早く時間になってくれと思わずにはいられなかった。が、そう思った矢先、依頼書の束を抱えたティアが、事務所から出てきた。それからティアは掲示板の前まで行き、冒険者達に言った。

 

「冒険者の皆さん、おはようございます。これから本日の依頼書を貼り出します」

 

 それまでキャロルに蔑んだ目を向けていた冒険者達、特に男性の冒険者達は、ティアの存在に気がつくと、その目の色をキャロルに向けていたものとは真逆のそれに変えて、ティアを見た。

 

「ティアさん!待ってました〜!」

「あいも変わらず、今日も美しい……」

「結婚してくれねぇかなぁ……」

 

 女性冒険者達は、そんな鼻の下を伸ばす男性冒険者達を呆れたような、冷めた目で見つめていた。

 

 しかし依頼書が貼り出されはじめると、軽口を叩いていた冒険者達も再び目の色を変え、我先にと掲示板に殺到する。その目は紛れもなく、己の獲物を絶対に逃がすまいとする狩人のそれであった。そうして貼り出されていく依頼書の内容を確認し、仲間達と相談している。

 

 依頼書は早い者勝ちであるため、冒険者達は既にキャロルにかまけている余裕などなかった。まだギルドの中だというのに、そこにはまぎれもなく一つの戦場が広がっていた。

 

 キャロルはそんな白熱する冒険者達を見て、思わず再び時計を見た。やはりまだ依頼を貼り出す時間には少しばかり早い。ティアさんはそこら辺のところはしっかりしてるのに、珍しいなとキャロルは思った。

 

 ティアは依頼書を我先にと奪い合う冒険者達を見ながら、いつもと変わらない、どこか貼り付けたような美しい微笑みを浮かべていた。

 

 欲しかった依頼書を手にできた者は、ホクホクとした表情で受付で依頼の受注手続きを行なっている。反面、望んだ依頼書を手にできなかった者は、渋々といった感じで余り物の依頼書を手に受付に並ぶ。

 

 いくらか時間が経ち、掲示板から冒険者達が去った後に残されている依頼書はわずかだった。しかもその依頼書のどれもが、下級冒険者でもやりたがらないような安い報酬の、雑用まがいの依頼ばかりであった。

 

 しかしキャロルは掲示板がそんな状態になってからようやく椅子から立ち上がり、依頼書の内容を確認しはじめた。そうしてしばらく依頼書を眺め、ようやく一枚の依頼書を手にとって受付に並ぼうとしたときだった。

 

「おいおい役立たず君、今日は一体何の依頼を受けるんだ?気になるからちょっと見せてくれよ」

 

 中級冒険者と思われる男が突然キャロルの手から依頼書を奪い取り、内容に目を通す。そうして依頼の内容を確認すると、思わず吹き出して周囲の冒険者達に依頼書を見せつけた。

 

「おい見ろよ!この依頼、報酬がたった銅貨3枚だってよぉ〜。依頼内容は……?ック、フフ……、ドブさらいって!お前、こんな依頼、一段の冒険者だって受けねぇよ!依頼者は……、ックフ、スラム街の貧乏人じゃねぇかよ!ハハハ!万年下級冒険者の役立たずにはお似合いの仕事だなぁ!」

 

 それを聞いた冒険者達はゲラゲラと汚い声でキャロルを嗤った。しかしスラム街という言葉に反応した何人かは、逆にその冒険者をどこか嫌悪感の滲んだ目で睨みつけていた。

 

「まぁ、俺達が魔物と戦っている間、ドブさらい、頑張ってくれよなぁ〜」

 

 そう言って冒険者はキャロルの足元に依頼書を放ると、笑いながら仲間達と共にギルドを出ていった。

 

 キャロルは足元の依頼書を拾い、埃を払うと何事もなかったかのように受付へと歩いていく。ティアは、そんなキャロルを無表情で見つめていた。

 

「ティアさん、この依頼を受注したいんですけど」

「はい、かしこまりました。依頼内容を確認いたします。……はい、ではここに、署名をお願いします」

 

 そうしてキャロルはいつもの手続きを終え、ティアに軽く頭を下げてからギルドを出ようとした。そんなキャロルにティアは、一瞬どこか考えるようにしてから声をかけた。

 

「……キャロルさん、昨日受けられた依頼の達成が確認できておりますので、よろしければ報酬をお渡しいたしますが、いかがなさいますか?」

 

 そういえばそうだった。疲れですっかりそのことを忘れていたキャロルは、踵を返して再びティアの元へと向かう。しかし朝から報酬の受け渡しを、それもティアさんから言いだしてくるのは珍しいなとキャロルは思った。

 

 ティアがというより、そもそも朝から報酬の受け渡しを行うこと自体が珍しいことだった。

 

 朝は基本的に依頼の受注手続きで受付が混み合うし、そんなときに一人一人に報酬の受け渡しをしていたらひどく時間がかかってしまう。

 

 そのため冒険者の方から言い出さない限り、基本的には冒険者がまばらに帰ってくる夕方あたりに声をかけるのが普通だった。

 

 冒険者側も、ただでさえ混み合う朝にさらに時間を取られるのは嫌であったし、朝から余計な荷物を増やしたくないという思いもあった。故に、普段は朝に報酬の受け渡しはしないのだ。

 

 だが今は、ギルド内にキャロル以外の冒険者は誰もいなかった。

 

 依頼書が誰もやらないような余り物だけになるまで待っていたせいか結構な時間が経ち、他の冒険者達は皆既にギルドを出ていたのだ。また、他のギルド職員達は、朝のピークを終えて事務所の中へと戻っていた。つまり今、キャロルはティアと二人きりだった。

 

 だから自分に声をかけたのかとキャロルは納得したが、先ほどのティアの声が、どこか抑えきれないものを無理矢理抑えたような、そんな声だったのが気になった。

 

 まあそれは他の者が聞いたなら、いつもと変わらぬだろうと言う程度の、違和感に過ぎぬものではあったのだが。

 

「すいませんティアさん。ありがとうございます」

「いえ、お気になさらず。……はい、こちらが報酬の銅貨5枚です。確認をお願いします」

 

 そうしてティアから銅貨5枚を受け取ったキャロルは、それを財布に入れてポーチにしまった。

 

 ティアに再び軽く頭を下げ、今度こそギルドを出ようとするキャロルを、ティアはまたしても引き止めた。今度のティアの声音は、先ほどのように気のせいではなく、誰が聞いても心からの喜色が滲んだものであるとわかるものだった。

 

「待って、キャロル君」

 

 キャロル君。ティアは普段受付嬢として働いているときには呼ばないその呼び方で、キャロルに言った。

 

 そういえば、最近ティアさんとの時間を作れていなかったな。キャロルはそう思いながら振り返ると、小走りでわざわざ近づいてきたティアに、正面から抱きしめられた。

 

「ん〜……。久しぶりにキャロル君と二人っきりになれたね……」

 

 ティアはキャロルのふわふわの、ところどころ跳ねた毛に顔を埋め、深呼吸を繰り返している。

 

 普段は休日が重なった時に会ってはいるのだが、最近は忙しくてなかなかその時間がとれていなかった。そんなときは、こうしてたまたま二人きりになったときに、ティアは我慢できずに思いを発散するのであった。

 

 そうしてしばらく顔を埋めていたティアだったが、ゆっくりと顔を上げたティアの表情を見上げたキャロルは、思わずヒィッと声をあげそうになった。ティアが、喜色満面からうってかわって無表情になっていたからである。

 

「……いつもの匂いじゃない。とても……、えぇ、とても嫌な匂いがするわ、キャロル」

 

 ティアがキャロルを呼び捨てにするときは、決まって不機嫌な時と、説教をする時であった。キャロルはなぜティアが不機嫌なのかがわからず、その原因を探ろうとティアの言葉を必死に言葉を反芻する。

 

 嫌な匂い?たしかに昨日はドブさらいをして汚れたが、念入りに体を洗ったから匂いはもうしないはずだ。……多分。いやしかしこういうのは本人は平気と思っていても、周りの人間からしたら臭ったりするものなのだろうか。そうキャロルが自身の体臭に不安を抱きはじめたあたりで、ティアはその無表情をキャロルに向けて言った。

 

「キャロル君、今朝、誰かと会った?」

 

 少し落ち着いたのか、呼び方がキャロル君に戻っているのを確認してホッとするキャロル。

 

「あ、はい。今朝はロニアと一緒にいましたよ」

「そう、あの子と一緒に……。なぜ、朝からあの子と一緒に居たのかしら」

「あ、それがですね、聞いてくださいよティアさん!」

 

 キャロルは結局なぜティアの機嫌が悪いのかわからなかったが、少しでも機嫌が良くなるようにとティアに今朝のロニアとの出来事を伝えた。

 

 話しているうちにだんだんとキャロルを抱きしめる力が強くなる。ギシギシと体が軋む音が聞こえた。おかしいな、俺の体はギルドの扉のようにまだここまで軋むほどガタはきていないはずなのだが。しかしそのうちそんなことも考えられないくらい力が強くなって、キャロルは痛みで自分が何を話しているのかもよくわからなくなっていた。

 

「……あのガキ」

 

 そんなキャロルは、ティアが深淵から湧き出したような悍ましい怒りのこもった声音でそう言ったことにはもちろん気がつかなかった。

 

「ティアざ……、ぐる、じ……」

 

 キャロルが本格的にやばいと感じ始めた頃、不意にティアはキャロルを抱きしめる腕から力を抜いた。ティアに天啓が舞い降りたのだ。メスガキにマーキングをされたのならば、自分で上書きしてやればいい。そう閃いたティアの体は思わず弛緩したのであった。

 

「ぐぅっ!?」

 

 キャロルは助かったと思い、安堵から体から力を抜いた次の瞬間、ギュ〜っと万力のような力でティアに抱きしめられる。不意打ちのそれに、キャロルは本日二度目の潰れたカエルのような声をあげた。

 

 キャロルの顔がティアの大きな胸に埋まり、むせ返るような濃厚なティアの甘い香りに包まれて、キャロルの頭はフラフラとしていた。もっとも、フラフラとしている原因の第一位は、ティアが今にもキャロルの体をへし折る勢いで抱きしめていることであったのだが。

 

 最近何かと抱きしめられているが、大概碌な目に合わないとキャロルは思わざるを得なかった。

 

 ティアはしばらくそうしてキャロルに自身の匂いを刻みつけたあと、グッタリとしたキャロルの体から力を抜いて、再びキャロルの髪に顔を埋めて深呼吸した。

 

 キャロルは若干朦朧としながらも、自身の匂いを嗅ぎ終わったティアの顔を見上げる。ティアはもう無表情ではなく、むしろどこか満足げな、何かを成し遂げた者のような清々しい顔をしていた。キャロルはそれを見て、なぜかはわからないがティアの機嫌が良くなったことを理解し、ホッとしてティアに体を預けた。

 

「……もう、ティアさん、一体どうしたんですか?」

「……いえ、何でもない。何でもないのよ、えぇ、本当に」

 

 そう言うティアを、キャロルは上目遣いで不思議そうに見つめていた。ゼェゼェと息を荒くし、頬を上気させたキャロルを見て、どこか蠱惑的なその様子にティアは愛が爆発して再び思い切り抱きしめたくなる衝動に駆られたが、流石にキャロルの身がもたないと思い、断腸の思いでその衝動を抑えつけた。もっともキャロルのそれは、ティアを誘惑しようとしたのではなく、単に肉体の疲労からくるものであったのだが。

 

 それに、そろそろ自分も仕事に戻らなければならない。ティアはそう思い、 名残惜しいが、いつもキャロルと別れるときにする儀式を行うことにした。ティアは優しげな、それでいてどこか喜色の混ざった声音で言う。

 

「キャロル君、私を抱きしめて?」

 

 その言葉を聞いて、キャロルはこの時間が終わることを理解した。キャロルはそっとティアの背中に手を回しーー傷のある部分に手を当てると、ギュッと力を入れて抱きしめた。意趣返しで全力で力を込めたが、プルプルと震えるキャロルを見て、ティアは少しくすぐったそうに笑うだけだった。

 

 それからティアは、ひとつひとつ刻みつけるようにキャロルに言った。

 

「私をこんな風にしたんだから、私の元から離れるなんて、絶対に、許さないからね?」

 

 その言葉が、キャロルに呪いのように纏わりつく。いや、実際にそれは呪いだった。しかしキャロルは決して逃れられないそれを、自身の両手を広げ、すべてを受け入れていた。キャロルはティアの目を見つめて微笑む。

 

「……はい、ティアさん。僕は、永遠に、あなたと共にあります」

 

 キャロルはティアをーー自身のせいで栄光の未来を奪われた女性を見つめながら、同じく刻みつけるようにそう言った。

 

 それを聞いたティアは歓喜に満ち溢れ、愛おしそうにキャロルを抱きしめる腕にギュッと力を込める。今度のそれは優しく、それでいて燃え上がらんばかりの熱をキャロルに感じさせていたが、ティアのその体温を感じてもなお、どこか冷めたように冷静な自分がいることをキャロルは理解していた。

 

 しばらく抱き合い、やがて満足したティアは、それでも名残惜しそうにゆっくりとキャロルから離れる。しかし離れると、途端にいつもの事務的な、誰にでも向ける美しい微笑を浮かべてキャロルに言った。

 

「それでは、私は仕事に戻ります。キャロルさん、本日もご依頼の方、よろしくお願いします」

「はい、一生懸命務めさせていただきます」

 

 そう言うと、二人は背を向けて歩きだした。

 

 二つの歪な歯車が、綺麗に噛み合い今日も回っている。

 

 

 

 キャロルは仕事に行く前に、木造の、随分と古びた印象を受ける店へと立ち寄った。

 

「いらっしゃ……、なんだてめぇか……」

「普通に傷つくからやめてくんない?その反応」

 

 客がキャロルだと気づき、さもがっかりそうに肩を落としたのは、白髪混じりの橙色の髪を後ろで短くまとめ、髪の色と同じ橙色の長い髭を携えた小柄な男性だった。もう200歳をとうに超えた高齢であるにもかかわらず、その肉体は衰えるどころか活き活きとしている。

 

 ゴーガン=マイトスミス。キャロルはこのドワーフの鍛冶職人に用があって来たのだ。

 

「なんだ、お前もう投げナイフ全部使っちまったのか」

「違う違う。今日の要件は武器とか防具とか、そういうのとは関係がないことなんだ」

 

 ゴーガンは首をかしげる。武器と防具、そして魔道具以外でこの店で扱っているものはない。ゴーガンにはキャロルの要件がわからなかった。

 

 そんなゴーガンを見て、キャロルは目を逸らし、声を段々すぼめながら言った。

 

「あー、その……。ドアの修理とかって、やってくれたりとかしない……?」

「ドアの修理だぁ……?」

 

 キャロルの要件を聞いて、ゴーガンが思わず聞き返したのも無理はなかった。ゴーガンはひとつ短いため息をつき、そして呆れた声で言った。

 

「お前、ここが何の店だか知ってるか?」

「武器防具屋兼鍛冶屋だろう?」

「おうそうだ。よくわかってるじゃねぇか。……なんでそこにドアの修理を頼みにくんだよ……」

「そういうの出来そうな知り合い、ゴーガンのじいさんくらいしか俺いないし……」

 

 どこか落ち込むように言うキャロルを見て、ゴーガンは大きなため息をついて、しかしどこか仕方がないといった様子で言った。

 

「……今日、お前の家の近くに寄る用事があるから、ついでに見といてやるよ……」

「マジでか!?助かるよ!ありがとうじいさん!」

「まぁ、お前はお得意さんだし、色々世話になってるしな……。それにしても、お前の家は確かにボロかったが、とうとう扉まで壊れちまったか……」

「いや、壊されたんだよ」

「は?」

 

 扉が壊されたと聞いて、ゴーガンは思わず目を丸くした。

 

「あそこら辺に住んでるの、お前みたいな貧乏人ばっかだろう?物取りが入るとは思えんが……」

「いや、それがさぁ聞いてくれよ……」

 

 キャロルはゴーガンに、我が家の扉が壊れた経緯を説明した。

 

「あぁー……、あの嬢ちゃんならまぁ、やりそうだわなぁ……」

 

 ゴーガンは頭の中に、なにを考えているのかわからない金髪の少女を思い浮かべた。

 

「ってかお前、家に何人も女を連れ込みすぎだろう」

「しょうがねぇだろ、呼んでもいないのに勝手に来るんだから」

 

 そう、休日になると知り合いの女性の誰かが。場合によっては複数人が、必ずと言っていいほどやって来るのだ。しかもなぜか仲が異常に悪いから、間に入って仲裁する俺は大いに心臓に負担をかけることになる。なんで普段は仲のいいティアさんとシャルナさんがあんなに険悪になるのか、さっぱりわからない。

 

「そんなんじゃ、騎士の嬢ちゃんにどやされるんじゃねぇのか?」

「あー……。そういえば、明日はジルが来る日だっけか……」

 

 ゴーガンのその言葉を聞いて、キャロルはおせっかい焼きの、騎士となってから武勇伝の留まることを知らぬ、幼馴染の女性を思い浮かべる。

 

 今はマシになった方だが、昔キャロルがシャルナの家に住んでいた頃は本当にひどかった。押しかけて来るたびにシャルナと険悪な雰囲気になって、気苦労が絶えなかったことをこの胃がよく覚えている。

 

 まぁマシになったといっても、それは単にキャロルが一人暮らしを始め、ジルとシャルナが常に鉢合わせることがなくなったというだけであったが。今でも家で別の女性とかち合う度に、両者とも敵対モードになるので根本的には何も解決していなかった。

 

 しかもキャロルの知り合いの女性達は、たとえ相手が騎士団の大隊長を務める人物だろうが決して引かない猛者しかいないのである。その胆力を少しでいいから分けてもらいたかった。いや、というよりもいい加減仲良くしてもらいたかった。

 

 そんなこんなでその後、ゴーガンと軽い世間話を終えたキャロルは、そろそろ仕事に行くかと店を出ようとしたところで、そういえばとふと気になったことをゴーガンに尋ねた。

 

「ところで俺の家の近くに寄るって、あんなところになんの用事があるんだ?」

「あぁ、なんでも、家の屋根が壊れて雨漏りしてるらしくてな……。ちょっと見てくれないかって頼まれたんだ」

「俺とほぼ要件一緒じゃねぇか」

 

 そんなやりとりを終え、キャロルは気のいいドワーフの店を後にし、今日の依頼の現場へと向かった。

 

 

 

 ティアは事務所で経理の仕事をしていた。そんなティアに、隣に座り書類の整理をしていた、地味な印象を受ける同僚の女性が話しかける。

 

「ティア〜。疲れた〜……」

「まだはじまったばかりでしょう?仕事は沢山あるんだから、頑張りなさいな」

「うへぇ〜……」

 

 そんな同僚のどうでもいい世間話に付き合いつつ、適当に相槌を打っていたティアであったが、次の言葉を聞くと、一瞬であるがピタリと作業の手を止めた。

 

「最近魔物の動きが妙に活発になってるし、怖いよね〜……。あ、そうそう、ティア聞いた?例の魔物、最近また目撃されたらしいよ?しかもこの近くで」

 

 例の魔物。その言葉が、嫌にティアの耳に残った。

 

「ーー英雄伝説に出てくる、仮面の魔神にそっくりな魔物が」

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