とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
100.彼ら彼女らの印象
某日、突然それは行われた。
以前から疑問視されていた事柄ではあったが、それを行う者は誰一人としていなかった。機密保持の側面や個人のプライバシーに抵触する怖れ、その上関係者各所に目を付けられる可能性などがあり、結果的にメリットよりもデメリットの方が大きくなるため、好奇心が幾ら刺激されようと誰も敢行することはなかったのだ。
しかし、その今までの暗黙の了解を打ち破り、
これはとあるジャーナリストが血と汗と涙を流して入手した、ドキュメンタリーである。
彼女と面識があるとある高校の教室に赴いてみた。
「えーと、先輩がどんな人かだって?」
取り敢えず目の前に居たツンツン頭の少年達がいるグループから聞いてみた。彼らは学年が違うにも関わらず彼女のことをよく知っているらしい。
「そりゃあ知っておるでー。天野先輩と言うたらこの学校の二大マドンナの片割れや。年不相応な落ち着きに庶民の生活では得ることがないだろう上品な所作を持ちつつ、一切の堅苦しさの感じさせない時たま見せるお茶目さのギャップ。
そして、あの優しい微笑みを向けられたら天野先輩に対して憧れへん奴はおらんで?くぅ~~!!天野先輩が同じ学校にいる!それだけで僕の学校生活は薔薇色や!!」
いつものは常人には理解できない趣味趣向から、その発言に同調するものはまずいないのだが、その人物が実際に何度も教室に訪れておりその振る舞いを実際に受けていたため、教室に居たクラスメイト達からは珍しく同調の声が上がった。
「その理想のお姉さん振りは男子だけじゃなく女子にまで及んでますたい。この学校でお姉様なんて呼ばれ方をしているのはあの人以外いないぜよ。
最近じゃあ男子人気よりも女子人気が多いみたいだしにゃー。思春期爆発させている男子はもう一人の雲川って先輩に憧れて。年上の凛とした振る舞いに憧れを抱く女子には、さっきから言っている天野倶佐利に憧れるってとこですたい。その筆頭がそこの吹寄だにゃー」
「え、何?天野先輩について聞きたいですって?い、いや、私はそこまで知っているわけじゃないし、そもそもまともに会話をしだしたのも最近だから、天野先輩のことを詳しく知っているわけじゃないわ。
それに噂とか信憑性の無いものは余り口に出したくないわね。別に噂すること自体は良いと思うけど、個人的に責任の取れないことは簡単に口にしたくないのよ」
そこまで聞くとインタビュアーは彼女から話を聞き出すのは無理だと悟った。そして、今しがた無責任なことを言いたくないと告げた彼女に賛同するかのように、周りの空気が落ち着いたことから、このクラスから聞けることはもう無いだろうと察する。
あとは、天野倶佐利がこの間、夜中に親しい後輩の寮に一緒に入っていったという噂があったのだが、それを聞いて回ることはこの雰囲気では不可能だと気付き撤収をした。
「って、うおおいッ!?何さらっと問題発言をしてくれてんの!?その『あなた達の考えに感服しました』とも言いたげな顔しながらその言い逃げは流石にズル──ッは!?」
「──なあ、上やん。どうやら僕の薔薇色の青春は、上やんのおかげでどうやらもーっと紅くなるみたいやなあ……?」
ある日の昼下がり彼女達はそこに集まっていた。
「え?
彼女は学園都市に七人しかいない
彼女は友人達と一緒に某ファミレスで食事をしている。
「あの方の事ですか。人様のプライバシーを探るようなことはどうかと思いますけど、気になるのは同意しますわね」
「私達も何度かお話したことはありますけど、知り合って間もないですから深くは知りませんよ?」
そう言いながらパフェを頬張る彼女達は(こちらの自費)、こちらの質問に答える様子を見せる。インタビューは順調と言えるだろう。
「にしても、こういうことをする物好きな人って佐天さん以外にもいるものなんですねぇ。まあ、
「ちょっと初春。この私がこんな街角インタビューみたいなことをするなんて思ってるの?」
「都市伝説の情報収集が趣味の人のセリフとは到底思えないですよ?佐天さん」
都市伝説の話を美琴達に教えることはもちろん、その噂に首を突っ込んでは度々事件に巻き込まれる事態へ、発展していることを知っている初春はジト目で彼女を見る。
同じくそれを知っている白井も真偽を問うように尋ねた。
「それで?本当にあなたはしないんですの?」
「もちろん、やるに決まってるじゃないですか!というか、もうしたあとです!」
「えぇ……、もう手遅れじゃない……」
呆れたように美琴がため息を吐いた。和やかに話す彼女達を見ながらも、質問にそろそろ答えてもらえなくてはこちらも困る。
「ええっと、そうね。え、えーと……じゃあ誰から言う?誰からでもいいけど」
「お姉様?如何しましたの?いつもとは違い何やら言い淀むかのようにして」
「いや、そ、そんなわけないでしょ……?」
「うーん、それじゃあ私からでいいですか?ちょっと調べたりしたので知識で言えば、ここにいる人の中でも一番でしょうし」
口をまごつかせる美琴の代わりに、そう前置きをして長い黒髪の少女は話し始める。
「天野さんが逸脱したところは能力はもちろんのことその経歴です!希少な能力者を集めていて、成績も『能力の希少価値』でランク付けされる、あの
「あー、なるほどね。確かに天野さんの能力なら常盤台よりも霧ヶ丘女学院の方が適性は高いか」
「白井さん。確か霧ヶ丘女学院って常盤台と同じくらいの名門校ですよね?」
「ええ、常盤台が汎用性に優れた一般的な能力者の開発の育成をしているのに比べ、霧ヶ丘女学院は特異で希少な再現が限りなく難しい能力者を育てるエキスパート、と言ったところですわね。
当然、その学校から推薦が来ることなんてまずあり得ませんの。それこそ、お姉様のような
「それなのに、霧ヶ丘女学院を止めて常盤台に……。あっ、もしかして常盤台からも推薦が?」
「ううん、違うらしいよ。何でも一般入試での入学だってさ。いやー、すごいよね。あれかな?自分の実力は希少さだけじゃないって証明したかったのかな?」
「適性が無い学校に行くことに加えて、今の常盤台の『派閥』という文化を生み出した立役者。ほえー、能力の希少性だけじゃなく人格も人並み外れた人なんですねー」
「霧ヶ丘女学院からすれば、学園都市でも四人しかいない
まあ、進路を決めるのは個人の自由ですの。人にはそれぞれ抱く信念や目標がありますから、外野が得意不得意で騒ぐのはナンセンスかもしれませんわね」
天野倶佐利という少女が歩んできた道のりを知り、少女達は感嘆の声を上げる。その中で御坂美琴はドリンクを飲みながら一人遠い目をする。
「(これは元は『派閥』があの人のファンクラブってのは言えないなー。佐天さんの目がどこぞの第五位みたいに輝いてるし、夢を進んで打ち砕くのも違うだろうし……)」
彼女はあの人に諭されたようなものなため、私達とは違って尊敬の気持ちが一つも二つも上の位置にあるのだろう。
……彼女が嘗て居たというファンクラブの一員にならないことを、ただ祈るばかりである。
※ちなみに、ファンクラブは解散されておらず全盛期とは言わずとも、未だに数を増やしていることを美琴はもちろん当の本人である天野も気が付いてはいない。
頭に花飾りのカチューシャをしている初春飾利が佐天の次に話し出す。
「うーん、佐天さんの次というのもこれはこれで難しいですね。能力なんかの個人情報は言えないですし、見た目も印象的過ぎて言ってしまうと迷惑になりそうなので控えた方がいいですよね」
「ですわね。本人がそのことを気にしなくても、不利益を被ってしまう可能性がある以上は言わないのが無難ですの。まあ、そうすると大して話してもいないわたくし達が言えることは格段に減りますけど。
お姉様もそうですよね?」
「え!?……あ、あー、私はちょっと関わりがあってね」
「へえー、そうだったんですね。それじゃあ、聞かせて下さいよ御坂さん!」
「うぐっ」
佐天のワクワクした瞳に気圧されながらも、彼女はポツポツと話し出した。
「私は何て言えばいいのか難しいけど、私の個人的な事情でいろいろと迷惑をかけちゃった相手なのよね。
あの人は気にするなって言ってたけど、あの馬鹿同様にいつか纏めて返す予定よ」
そのどこか覚悟の決まった表情のする美琴は前を向いていた。後ろめたい気持ちもあるのだろうが、嘗ての絶望していたときとは別人のような変わりようである。
そして、そんな彼女の隣で、ツインテールの少女から喜怒哀楽の色が抜け落ちた。
「ほう……?お姉様その
「えっ!?い、いやいや!別にそんないちいち気にするような大層な奴じゃ──」
「あ!もしかして、噂の彼氏さんですか!?」
「カレシ……?お姉様、──イッタイドウイウコトデショウカ……?」
「ひいっ!?白井さんが壊れたオモチャみたいな気持ち悪い挙動を……!?」
「ば、馬鹿!勘違いすんじゃないっての!アイツとはそんな関係じゃあ無いわよ!あの馬鹿とはべ、別に何でも──」
そこからちょっとした言い合いになったため、彼女達のインタビューは終了した。
「ああン?パクり女の事を知りたいだァ?」
こちらの質問に不機嫌そうに答えたのは白髪に赤目の人物だった。
「何でも周りの人間から見たアイツのことを知りたいらしくてな。なら、私だけじゃなくお前さんにも聞くのを勧めたじゃん。それに暇をもて余す
横でパクパクとパフェやらクレープなどの、ひたすら甘ったるい物を食べ続けている打ち止めを横目で見ると、チッと舌打ちした彼は隣にいた元研究者に視線を向ける。
(オイ、裏は取ったんだろうなァ?)
(当然よ。暗部の人間特有の臭いも信用できる人間かどうかはちゃんと調べたわ。まあ、愛穂は見る目があるしあなたに会わせるほどだから、その心配は杞憂でしかないだろうけど。
念のためにこうして狙撃の心配の無い安全な場所で、彼女と会うことにはしたから万が一も無いわ)
それを聞くと、フンッと不満気に椅子に座る
その姿を見て芳川の頬が弛む。彼の態度の理由が自分達の安全を考えての事なのか、あるいは話題に出ている少女の安全を考慮してなのか、どちらにしてもその心の機微は芳川にとって好印象であった。
そんな饒舌し難い雰囲気をものともせず、鋼の魂を持ってインタビュアーはそれぞれが抱く彼女への印象を尋ねた。
「珍獣」
「一方通行、流石に言い過ぎじゃんよ。せめて人扱いはしてやれ」
「愛穂……それあなたも大概よ?」
一方通行に続き彼女と面識がある黄泉川もこう言っていることから、かなりの変わった子供なのだと芳川は推察する。……まあ、二人の価値観を信じるという前提はあるが。
「あいつの頓珍漢で奇天烈の行動は、私もこの目で何度も見てるからなー。その側面が印象に残りやすいのは認めるしかないじゃんよ」
「会って話もしたことがない私からだと、まともにイメージできないわね。ねえ、そう言えば打ち止めは彼女と知り合いなのよね?あなたから見て彼女はどういった子なの?」
芳川が次に話を振ったのは一方通行の隣に座っている少女だった。彼女はパフェから口を離し端的に言う。
「変人って答えてみる」
「打ち止めあなたまで……」
人扱いにはなったが、それは言ってしまえば人扱いになっただけである。打ち止めの答えは一方通行の答えと大した違いはない。芳川はこめかみを手で抑えた。
そんな芳川が目に入っていないのか、打ち止めは口をへの字に曲げて不満をぶつける。
「ミサカにとってあの人は天敵なの!ってミサカはミサカは主張してみる!突発的に自分のしたいことを優先させるところや、言いたいことをズバズバ勝手に言うところなんて、まさに傍若無人そのものってミサカはミサカはあの人の迷惑さを声に大にして主張してみたり!」
プンスコといきり立つ打ち止めは怒りの感情そのままに、声を大きくした。それを見ていた保護者三人は内心で同じことを考える。
「「「(それは自己紹介か何かか?)」」」
天野倶佐利の行き付けの病院
「病院に来るのを飲食店に来るかのように、行き付けと表現されるのは困るね?まあ、何が一番困るかというと彼女の態度を見るに、そう言った気持ちで本当に来てそうな事なんだけど」
彼女と関わり合いが深いとある医者にインタビューをした。彼女についてどう思っているのだろうか。
「ふむ、彼女の行動には頭を痛めることも多いけど、実際に彼女の能力がなければここに運ばれて来た患者の何人かは亡くなっていたはずだよ?
それは、度々ここに来て様々な場合の応急措置のやり方を、学んでいたからという理由が大きいだろう。
まあ、それは彼女が事件が起こりそうな場所に、野次馬根性を出して首を突っ込んでいることと同じだから、手放しで褒めることはできないけれどね?」
病院に研修へ来ている少女N。
「彼女について詳細を語ることはできないけど、well 彼女の振る舞いくらいなら言っても構わないでしょう。
一言で言うなら彼女には遠慮と言うものがないわ。日常の何気無い時でも人命が関わった切迫した瞬間でも、関係無しに相手の領域へ踏み込んでくるのよ。それだけでも、相手を腹立たせるには充分過ぎる事でしょう。
でも、おかしな事なのだけど、結果的にはそれが相手のためになっているのだから始末に負えないわ。彼女は相手の意思を捻じ曲げて相手から恨まれても、より良い未来にしようとするのよ。相手からすればありがた迷惑以外の何物でも無いでしょうに。
私が何でそんな事をするのかを聞いたときに、彼女が何て答えたか分かる?『後輩ならこうするだろう』って言っていたわ。会ったことは無いけどおそらく彼女と同じくらいのお馬鹿さんなのでしょうね」
飴を咥えた双子の金髪ロリ。
「くさりはねぇ、わたし達の友達だよ~。よくここに遊びに来るのー!おままごととか絵本とか見てるんだーえへへっ」
ほっこりしたインタビュアーはそれを聞いてここを後にした。
「あん?俺に天野について聞きたいだ?」
彼は何故か腕立て伏せを公園の真ん中でしていた。10000回とか聞こえたがおそらく気のせいだろう。そんなインタビュアーの言葉を聞くと、腕立て伏せの姿勢から腕と背筋の力だけで倒立し、そのまま前方に空中で回転しながら地面に着地した。
「よっと!……まあ、あいつとは旧知の仲だからな。俺に分かることなら教えてやるぜ!」
では、彼女と一時期共に行動していたという話を聞いたのですが、それは本当なのでしょうか?
「ああっ、本当だぜ!いやー、あの時期は楽しかったー!初めて会ったときが会ったときだからな。ぶっちゃけて言うと二人でチーム組んで行動するなんて想像もしてなかったんだが、案外気が合ってよ!二人で悪振ってる
まあ、俺が命名した『スーパーエキセントリック爆裂ド根性ゴールデン原石コンビ』っていうチーム名が、あいつがどうも気に入らなかったみてえでよ。唯一あいつと意見が真っ二つに別れた事だな!
どっちも譲らねえから結果的に俺のこのチーム名を縮める事になったな」
ちなみに、彼女自身についてどう思っていますか?
「おう!根性ある奴だと思ってるぜ!」
……え、えーと……、そ、それ以外で彼女に思うことは……?
「根性があるかどうか!重要なのはそれだけだ!根性があれば真っ直ぐ前を向いて歩けるし、例え間違った道を行っちまってもやり直せる!
俺はあいつと会ってから下を向いているところを見たことがねえ!なら、それだけで充分だ!あいつが根性ある生き方をしているならそれでいいし、もし間違えちまったなら俺の根性で目を覚まさせてやる!それが根性ある生き方をしている男ってもんだ!!」
……。
とある学生寮の玄関前。
「はーい、どちら様で……って、またあんたか!?つーか、あんたのせいで俺はクラスメイトの奴らにあのあとボコボコにされて──って聞けよ!?」
「うん?くさりについて?何が知りたいのかな?」
ここに天野倶佐利さんが訪れたことがあるとお聞きしまして、その事についてお伺いしたいのですが。
「うん、くさりはここに何度も来てるよ?」
「あ、馬鹿……っ!」
ほほう?それでここで彼女は何をしているのですか?
「主に食事を作りに来てくれるんだよ!それがねっ、すっごく美味しいんだ!あれがほぼ毎日食べられるなんて私は幸せかも!あと、この前はお泊まりもして楽しかったなぁ。また、誘おうねとうま!」
ふむふむなるほどなるほど。同居中の銀髪美少女シスター(年下)を住まわせているにも関わらず、学校の先輩に通い妻をさせつつ家のベッドに誘う、と。
「うおおいッ!?何かとてつもなくヤバい解釈をされているだろこれ!?違う違う!これは全くもってそんな深い意味じゃないから!?」
では、あなたのベッドで彼女は寝ていないと?
「ううん、お泊まりのときはくさりと一緒に私もとうまのベッドで寝たんだよ」
「ちょっと黙っててくれませんかねインデックスさん!?」
カキカキカキっと。ふむ、まあこんなところでしょうか。
それでは上条さん夜分遅くに申し訳ありませんでした。ご協力ありがとうございます。では、私はこれで。
「あっ、ちょっと待って!今までのは全部誤解……って帰るの速っ!?ち、ちょっとお!?せめて!せめて説明だけでもさせて欲しいんだけどー!?」
そんな焦りと絶望にまみれた声が、夜の学園都市の街に響いたという。
後日。
「『集めた重要なキャラクター達の私に対する情報から、これから起こるだろうズレの予測が少しでもできればと思ったんだけど、やっぱりそんな上手くいかないよね。
私という駒が新たに加わったことで、連鎖的にいろいろな人間関係も変わってきてるだろうし、これだけじゃ余りにも情報不足かー。うーん、はてさてどうしたものか……』」
「……昼間っから何をぶつぶつやってるのよあなたは。変装している不審者として取り締まわれたいの?」
次回から待ちに待った大覇星祭だぜ!!