とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

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9話です。


9.竜の殺息

「彼女の知識もあり、すでに首輪の位置は特定しています」

 

 そう言って神裂は、寝ているインデックスの小さな口を開けた。覗いて見ると、奥に数字の4に近い形をしている、禍々しく光るものがあることが分かった。

 

「これに君が触れることで首輪は解かれるが、何かしらの防衛機能が働くだろう。覚悟はいいかい?」

 

「ああ、ここにいる時点で、とっくにできてる」

 

 そう意気込み拳を強く握る上条当麻。その背中には、これから自身に降りかかるであろう可能性への恐怖はなく、ただ目の前の少女を救うためだけに、全ての意識を向けていた。

 

「とうま……」

 

「安心しろって。俺達が絶対に助けてやる」

 

「……うん。分かった」

 

 不安そうなインデックスを見て元気付ける上条当麻。身を任せるインデックスに、上条の右手の指が彼女の口の中に入る。数センチメートル進んだところで奥にある数字に触れた。その次の瞬間、

 

 バキンッ!!と何かが壊れる音とともに、上条が大きく後ろに吹き飛ばされる。そして、目の色が変わった魔導図書館(インデックス)が動き出した。

 

───警告───

 

 魔術を使えないはずのインデックスが言葉を紡ぎ、魔術の陣を空中に描いた。その陣の隙間から何かしらの魔術が発動するのか、光が一点に集まっていく。

 インデックスの変わり果てた姿を見ながら、上条はこの光景に至る前の出来事を一つ一つ思い出し、そして誓いを立てる。

 

「(神様。この世界がアンタの作った奇跡(システム)の通りに動いてるってんなら───)」

 

 

 

「───まずは、その幻想をぶち殺す!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 築何十年の木造アパートの一室に、上条当麻とステイル・マグヌス、神裂火織の()()が首輪を破壊するために集まっている。あの三人ならば原作通りに、インデックスを首輪から解き放つことができるだろう。

 ───上条の死とともに。

 

「(これも、世界の修正力ってやつなのかね)」

 

 そんな中、俺は一人アパートの外に立っていた。何故ここに立っているのかというと、一昨日インデックス達三人と別れる際に、ステイルにこう言われたのだ。

 

「君は彼女の首輪を破壊するときに、その場に立ち入らないでくれ」

 

「……どうしてだい?」

 

「君達は知らないかもしれないが、魔術と科学は不可侵の関係なんだよ。やつはこの街で何も能力を持たない人間と認識されていて、何より彼女の首輪を破壊するために必要だが、君はそうじゃない。回り回って戦争の引き金になる可能性がある以上は、不用意に関わらせるべきじゃないのさ」

 

 ステイルはそう言って俺を今回のことから遠ざけた。ステイルの判断は間違えていない。実際に、シェリー・クロムウェルは学園都市と魔術サイドが近づいたことで、彼女は大事な親友を一人失っているのだから。

 そして、上条当麻が魔術と関わり過ぎたせいで、第三次世界大戦が起きてしまったのも又事実。俺が介入すれば悪化してしまい、原作からどんどん遠ざかってしまうだろう。

 俺としては原作崩壊せずに名場面が見ることができる、最高の条件が整ったはずだ。

 

 

 

 はずなのだが。

 

「(モヤモヤするんだよなあ)」

 

 これはキャラクター達に関わりすぎた弊害だろう。俺は上条やみさきち、みこっちゃんと言った、あの面々が少しでも幸せになってほしいと思う。

 会話をして触れあったため、キャラクター達のことを以前よりも好きになったのだ。そのことが間違っているとは思わない。

 だって、とあるの物語が好きだったのだ。その登場人物達と会えて話が出来たら、もっと好きになるのは当たり前だろう?

 

「(分かってる。今原作が崩壊すればきっと上条は生きれないし、コロンゾンの糞野郎が世界を滅ぼしちまうんだ)」

 

 上条は常に死ぬか生きるかの戦場を越えてきた。少しでも何かが狂えば、命を落としていた場面が何度もある。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()上条はとっくの昔に死んでいたかもしれない。

 これは、ifの話だが全くないとは言い切れない。上条がインデックスを絶対に守るべき存在として認識していなければ、上条の命はどこかで終わっていた可能性があるのだ。これは行き過ぎた妄想として普通は切り捨てるだろうが、右手の特異性よりも精神の強さで生き抜いてきた上条にとって、その違いは致命的なのだ。

 

「(上条を助けるために今の上条を殺す、か……。打算で命を天秤にかけるとか最低の考え方だな。やってることがアレイスターとまるで同じだ)」

 

 内心でそう毒を吐く。だが、今の俺には実はそこまでの拒否感はない。

 それは、俺はこの世界に産まれて、生きてると実感したことが一度もないのだ。エルキドゥの体になってから自分自身の人格を表に出せたことはなく、常にエルキドゥや体を変えたキャラクターの、言動を介してしか会話をすることができないからだ。

 

 (これじゃあ、まるでロールプレイだよな)

 

 その上、体は能力で好きなように変えることができてしまう。俺はこの体をゲームのアバターのように感じていた。だから、キャラクター達を弄ったりして遊ぶのは、愉悦の心もあったが何よりも、生活に変化がほしかったのだ。

 上条達を友人とは呼ばないのは、彼らのことをどこか生きた人間だと思えないからだ。原作知識と時間割り(カリキュラム)のせいで、キャラクター達は原作通りの反応をする。そのため、決まったアルゴリズムで動くAIに見えてしまっているのだ。そのせいか、生死の価値観も生前と比べるとどこかズレてきている。それこそ、最初に恐れていた木原一族も、今では大した興味がなくなっていた。

 

「(そうだ、この状態を言い表す言葉があったな。確か───シミュレーテッド・リアリティ)」

 

 実際のシミュレーテッドリアリティとは、おそらく違うと思うが。神の特典で何不自由することなく生活ができて、見事に知ってる場面に出くわし、出会った人達をもしかしたら本人以上に知っている。

 何か変化を求めても原作を大幅に外れては、世界が滅亡するかもしれないからそれもできない。だが、キャラクターをキャラクターとして愛することはできた。そう思われることは彼らにとっては業腹ものだろうが、俺の唯一の楽しみだった。

 そんなことを思っていると、俺の部屋から一条の光線が、夜空に向かって天高く貫いていく。そこで俺は悟った。

 

「(今の上条とこれでさよならか……)」

 

 この世界で人の生死の認識が、緩くなっているのにも関わらず、感傷に浸れるだけまだましなのかもしれない。どこかで上条のここで記憶が失っても、今の上条と記憶を失った上条は何も変わらないと思っているのだろう。

 なぜなら俺は知っているんだ。今の上条と原作の上条は、大してその在り方が変わっていないことを。

 知らぬ間に沈んでいく気持ちを払うかのように、青白い光が俺を照らす。その光は俺を断罪する清浄な光のようにも───

 

「おや?この光は……」(うん?この青白い光ってどっかで……)

 

 そして、俺のすぐ真上に、青白い光を出す羽が舞い落ちる。

 

 

 ───竜の殺息(ドラゴンブレス)の副産物である()()()が。

 

 

 (は?)

 

 今さら気付いても、もはや何もすることは出来ない。一歩も動くことすら俺には出来ず、ひらひらと光の羽は導かれるように、俺の頭に目掛けて落ちてきた。

 

「ぐっ……!」(ちょっ!ちょと待っ──あばぁ!?)

 

 そうして、俺の意識は散り散りに吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 真エーテルというものを知ってるだろうか?

 FGOユーザーでも詳しいことはよく知らない、あの真エーテルである。真エーテルとは神代の魔力の名称であり、それ以降の時代の人間では毒にしかならないエネルギーである(らしい)。

 あのアーサー王ですら身に宿せば、死んでしまうほどのものだ。

 『すまない』で有名なジークフリートのバルムンクには、その真エーテルが内蔵されている。

 つまり、ジークフリートの活躍した5世紀から6世紀では、真エーテルはまだ存在していたのだ。そして、聖ゲオルギウスの活躍した時代は、さらに神代に近い約3世紀の時代だ。

 さて、その竜だが当然神話を生きた生物である。ならば、その体には神代のエネルギーが、蓄積していても不思議ではないだろう。

 そして、そのブレスに微量だとしても真エーテルが含まれてあったとしても、あり得ないとは言えないのだ。

 もし、神代の兵器に真エーテルが宿ればどうなるか。彼女はおもむろに立ち上がり、言葉を発する。

 

 

 

 

()()()()()。今ここに起動した」

 

 

 

 

 誰一人いない科学の街の一画で、神の兵器が動き出す。

 

 

 




上条当麻とオリ主にとって分岐点の話でした。

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