とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
そんなわけで110話です
学園都市のスクールバスによる送迎で、子供達が連れてこられたのは、超能力を宿すための特殊な施設であった。ここが能力者になるためのまさに第一歩目と言っても過言ではないのだ。
それぞれがこれから超能力を会得することを想像して、将来に胸を踊らせていることは元気いっぱいな顔を見れば一目瞭然だろう。
そんな中で一人だけ不自然な子供がいた。いや、正確にはその子供と老人が纏う雰囲気が余りにも異常であったと言うべきだろうか。。
「ひょっ、ひょっ、ひょっ、ひょっ」
「…………」
周囲に居た子供達のいる空間から離れた場所で向かい合う、大きな痣が頭にあるお爺さんが、実に楽しそうな独特の笑い方をしながら、死んだ眼をしている子供を見下ろしていた。
それから数分後。
能力開発の始まりを受けた少年少女達は、学園都市の街並みを観光するバスへ再び乗ることになった。その中で一人の少女だけ雰囲気が周りとは違った。
その少女が何を考えているのというと──
「(ぷっはぁっっっっ!!!!あ、危ねぇ!もう少しであのジジィの懐に連れて行かれるところだった!テンパって爺さん相手に男性恐怖症なんて言っちまったときには終わったかと思ったわ!!)」
緊張状態から解放された彼は安堵の息を人知れず付いていたのだ。あの科学者相手に弱味を見せることは、自ら断頭台へ足を進めることだと理解しているためである。
「(なんで学園都市にいる科学者の重鎮がこんな場所に居るんだよ!木原とか死神そのものだし。よりにもよってその中でも一番のイカレ科学者に目を付けられるなんて不幸過ぎる!)」
検査中に神から原石だと言われたことを思い出し、それを研究者の若い女に遠回しに言うと、やたらテンションが上がってはしゃいでいた。
それを見て、その希少性を知っている俺からすれば『どうせモルモットとしか見てないんだろうなぁ』とかしか思えなかったが、そこに現れたのがあの悪名高きマッドサイエンティスト、木原幻生。
マジで詰んだと思ったね。
ビックリし過ぎて意識が軽く飛んでた。
「(……まあ、気絶まではいかなかったからすぐにリカバリーはしたけど……言い訳がジジィ見て男性恐怖症を発症しました、なんてわざとらしいにもほどがある。いくらお嬢様でもジジィに男性恐怖症はねえだろぉ……)」
自分の発言が信じられない。あんなミス犯すなんてどうぞ殺して下さいと言ってるのと同義だ。
「(突然現れた木原幻生が俺を見掛けたと同時に、笑顔でやって来るとかマジでホラーでしかねえよ!なんで原作キャラ第一人目がお前なの!?予想できるか!!)」
まさか、学園都市生活一日目でサイコジジィに俺をロックオンされるとか難易度調整狂ってやがる……。
それにしても、最初あの場に幻生は居なかった。それなのに、どうして他の科学者よりもあのジジィがいの一番に来たんだ?あの反応からして俺が原石ってこと知らなかったはずなのに……。
……もしかして、原石の話を聞いて駆け付けてきたのか?この短い時間に……?
化け物かあのジジィ……(驚愕)
い、いや大丈夫。あの潔さから見るに大して興味持ってなかったはずだ。多分だけど削板軍覇がもう既に学園都市にいるから、原石自体大して珍しくなかったなんて場合もあるんじゃね?
削板がいつから
それで話し方は子供離れしていたかもしれないが、木原ではよくある事だからそんな注目することの程でもない。あいつら生まれながらの化け物だから、幼稚園児で大学で習う問題を感覚で解いてたりするだろうし。
そんな化け物共から見たら、俺なんかちょっとマセたガキにしか見えないはず。しかも、エルキドゥの飄々とした口調だから幻生にしてみれば物足りなかっただろうし。
それこそ、
まあ、要するに幻生が俺にちょっかいをかけてくる可能性はかなり低いってことだ。
「(……あれ?ちょっと待てよ。もし削板が学園都市に居て俺より優秀な結果を残し続けると、俺の価値って『原石』ってだけだからモルモット行きなのでは?)」
大量の汗が背中から流れる。あっ、これ俺死ぬんだぁ……。
「(い、いや!まだ俺の能力というか特典がどこまでの力があるかは分からんけど、特典っていうくらいだから並み以上の出力は出るはず!…………でも、二つの特典の融合とからしいから出力はもしかすると落ちてるのか?
そうなると最悪
いやいやいや、その程度の出力じゃホルマリン漬けじゃねえか!ヤベェよ!死ぬぅ!マジで死ぬッ!)」
その事実に気付き一種の恐慌状態になるが、ふと同時にあることに気付く。
「(……あれ?待てよそれ以前に
学園都市が実現不可能とされていた存在に、近しい能力者であると思い出す。ならば、そこから自らの価値を見出だすことも可能なのではないかと思う。
「(学園都市の理想の一つを体現できるなら命を脅かされる心配は無いんじゃないか?たとえレベルが低かったとしても夢の一つであることには間違いない。
なら、そこから安全圏を確保することもできるはずだ!研究結果なんかで科学者達を釣ることができれば…………ああいや、流石にそれだけで安心するのは馬鹿だな。いっそのこと多重能力に目が眩んでいる科学者共の隙をついて、より確実な安全圏を手に入れるべきだろ。
木原が居る以上は俺は一生実験したいモルモット上位だろうから、下手な安全圏はただの狩り場になっちまうんだから。あのマッドサイエンティスト共から逃げるには安全を何十にも重ねて、絶対に干渉できないセーフティポイントを作らないと安心なんて永遠にできない。
統括理事会なら親船か。でも、親船の影響力だけじゃかなり厳しい。ここは他の統括理事会にもちょっかいかけてみるか?)」
本来なら実現不可能だろうが原作知識からの人間性の把握や、『原石』、『多重能力』といった自身の価値に対しての、適切な売り出し方を考えれば届かない目標ではないだろう。
それなりの目処がたったところで息を吐いた。
「(あー、全くなんだよ驚かせやがって。まあ、そのお陰で身の振り方を理解できたから無駄じゃなかったけど。担当に付いた科学者を適当にいなしながら安全圏を確保するかー。
全く、木原一族と一緒にさっさと退治されてしまえ妖怪ジジィめ)」
それから、数日後。
俺の能力開発の担当が木原幻生に決まったのだった。
幻生の隠れ家に突入した俺達は、難なく幻生の隠れ家を制圧し幻生を捕らえることに成功したのだった。
「(そういや、あのジジィと出会ったのは学園都市に来て最初だったなぁ。『とある科学の超電磁砲』を見てたときは面白いキャラって思ってたけど、リアルで接するとクソだわクソ。
マジで外道でしかねえよこのジジィ。なーにが、『これだけコピーさせても人格崩壊の兆しが起こらないというのは予想外だねぇ。最低でも三回は起きてないとおかしいのに、天野くんは本当に不思議な女の子だよ』だ。
馬鹿なのか!廃人にしようとすんなよ!こちとら世にも珍しい原石なのだがッ!?
軽々しく人体実験してんじゃねえ!あーもう、これだから木原一族はよぉ……!)」
内心で不満を爆発させていると、何かに気付いた食蜂が幻生に近付き顔を掴んだ。
「ち、ちょっと、アンタ何して……」
戸惑うミコっちゃんを無視して、捕まえた幻生の顔面をいきなり掴んだみさきちが、そのまま顔を剥ぐように腕を引けばそこから現れたのは幻生とは似ても似つかない中年の男だった。
「幻生……じゃないッ!?」
そんな彼女の悲鳴と共に明かされる事実に、その場に居るものは全員驚愕する。
「(まあ、知ってたけど)」
原作通りの展開で安心しつつ、あのクソ妖怪爺の存在にとことんまで辟易する。
「(なんなら、さっさとくたばってくれないかなぁ。冗談とかじゃなく割りとマジで)」
実はオリ主の好感度最低値を現在マークしているのは幻生だったりする。
「初めましてお嬢さん。僕は学園都市で科学者をやっているんだ」
まさか、こんな逸材に巡り会えるとは、たまには研究室から出てみるものだねぇ。
「(子供に能力開発話を実施する担当の子が、いやに興奮しているものだから話を聞けば、彼女は世にも珍しい『原石』のようだねぇ。世界で五十と無い検体が目の前にあるなら、興奮するのは科学者なら当然とも言える。
そして、興奮が抑えられないのは僕としても同じこと。機具を一通り揃えて彼女のデータを録りたいよ)」
抑えきれない知的好奇心が溢れそうになるが、そのためには色々と根回しをしなければならない。学園都市の闇を生き抜いてきた妖怪はその行程を怠ると、あとでしっぺ返し来ることを経験則として理解していたのだ。
「(その根回しはするとして……彼女は原石を抜きにしても面白いねぇ。あの年齢であそこまで聡いとは思わなかったよ)」
僕の姿を見た瞬間、彼女の顔から表情が消えた。学園都市の暗部に長い間、身を置いて来た僕から言わせてもらうと、内心を気取られ無いために表情を消すのは愚策でしかない。だが、彼女はその精度が尋常ではなかった。
「(まるで、意識が飛んでしまっているかのようだねぇ)」
それから、僕が名前や超能力のことを聞いても彼女は無言を貫いた。
人間は顔や仕草さから、無意識に自分の感情が表に出てしまうものだ。隠そうとすればするほどに表に出てしまう。暗部で生き残ってきた僕はその挙動を見逃さない。
しかし、この木原幻生の眼を以てしても、彼女がどういう感情を抱いているか何一つ読み取ることが出来なかった。
「これは精神系能力者の洗脳を受けている症状に近いねぇ。僕の研究室で調べる必要があるかもしれないね」
「心配はいらないよ。僕は昔から男の人を前にしてしまうと、固まってしまうことが度々あってね。それに、知らない人には付いていくなと言われてるんだ」
「(ふむ、まさか断りと共に釘を刺してくるとは。実際に彼女は僕を見て動きを止めたから、言い分としては食い違っていない。嘘っぱちなのはまるわかりだがね。
それにしても、一瞬で表情と態度を社交的にするとはね。切り替えの早さ、そしてこれ以上黙っていると不利になると理解した判断力、さらには、この論理立てされた会話から見ても、ますます四歳児には見えないねぇ)」
一瞬でそこまで理解し判断したのは、木原幻生からしても感心の一言だった。
「(何よりも大人を前にして、平然と嘘を言っても変わらないその面の皮の厚さ。そして、個性的な口調と性格、思考回路。
うんうん、彼女は素晴らしい能力者になるだろうね。本人から名前を聞くことが出来なかったことからも、年齢にそぐわない警戒心だと言える。
科学者や研究者を邪険に扱えば能力開発においては不利でしかないけど、ここまで的確な対応ができる以上彼女が理解していないはずがないよねぇ。
彼女の場合は『原石』であるから、もしかするとそもそも能力者に憧れがないのかな?……刺激するならそこを初めにした方が良さそうだねぇ)」
目の前の子供を権力だけではなく、自ら進んで協力するようになるように知略を組み立てていく。彼からすれば子供を夢や希望という甘い密で誘い、操るなど造作もないのだ。
「(彼女にどこまで通じるかは怪しいところではあるけど、それはそれで楽しみができたと考えればいいね。
……ふむ、おそらくだけど『原石』相手だと
経過観察でどれ程の才能があるのか見極めていくしかないかな。『原石』の検体は少ないから能力の出力が低くてもデータを録る意味はあるけど、もし
まあ、高位能力者だと録れるデータが低位能力者より多くなるのは当然のこと。僕としてはその方が嬉しいから是非とも大成して欲しいものだ)」
そんな有望な子供の行く末に楽しみ抱く外道は、まるで好々爺のような笑顔を向けて彼女に声をかけて去っていく。
「呼び止めてしまって申し訳ないね。楽しい時間だったよ」
「あれほど興味深い子供と出会ったのは天野くんが最初で最後だったねぇ」
そう話すのはマッドサイエンティスト木原幻生。
彼は目的の
『ふーん、まあ、原石なんていう世界でもレアな存在なら、アンタでも興味を引くだろうけどさぁ。結局は温い表で生きてきた甘ちゃんでしょお?買い被り過ぎじゃない?』
「いやいや、彼女の能力は強力だけど彼女を彼女足らしめているのはその精神性だよ。彼女の能力開発の担当になってからは、かなりの能力者と会わせて能力をコピーさせてみたけど、彼女の精神が崩れることはついぞなかった。
どう計算してもあり得ないんだけどねぇ。人格に影響が出るなら僕が直々に調整してあげようとしていたのにとても残念だよ」
それが善意での発言ではないのは明らかだった。この科学者にとって重要なのは自らの知的好奇心を満たすことだけなのだから。
『……あーあ、可哀想に。こんなマッドサイエンティストが担当だなんてその子もついてないね』
「それは心外だよ
科学の重鎮。
その地位を確立している木原幻生が持つ伝は学園都市中にあると言ってもいい。実際に彼がもしオリ主の能力開発の担当にならなければ、オリ主が保有する能力の半分は手に入らなかっただろう。
「
その状況把握能力と判断力がなければ既に学園都市の闇に呑み込まれているだろえねぇ」
それはただの事実だった。
どこまでも子供らしくなく、大人顔負けの冷静さに『学園都市の大人は誰も信用できない』とでも言わんばかりの警戒心の強さ。
その正確なまでの観察眼は暗部の人間以上と言ってもいいだろう。
「僕が知らない間に穏健派の統括理事会の一員とコンタクトを取っていたらしいし、今の能力開発で得た情報による権力の分散も、僕を通さずに勝手にしていたんだよ。
しかも、その必要性を理論立てて僕に説明したり、他の『木原』からのスカウトを受ける、なんていう脅しもされちゃってねぇ。いやはや、随分と世渡りが上手になっちゃったものだよ。
彼女が暗部として裏で活動したことはないけど、彼女の根っこの思考回路はどっちかというと裏の人間と類似している。まあ、表の人間らしく犠牲は認められないみたいだけどねぇ」
『それほんとぉ?貰った資料からは御坂美琴以上の善人にしか見えないけどさ。もしかして、自分が能力開発したから色眼鏡で見てるんじゃないの?』
「ふむ、そこがおかしなところでね。今までのデータから見ればただのお人好しの良い子でしかないんだけど、彼女が今尚五体満足で居るには周囲を敵だと認識していないと成り立たないんだ。
御坂くんのように周囲の人間を信じるが余り、学園都市の人間にDNAマップを渡したりするようなミスは一度もしていないし、様々な要因があったにせよ、人の心の醜さや学園都市の闇を知り、疑心暗鬼を抱いている食蜂くんとはすぐに打ち解けたにも関わらず、素直な御坂くんとは少しだけ心の壁がある。
それは彼女の思考がこちらよりであることの証明だよ」
タイミングの悪さももちろんあるが、単純な相性としての不一致。彼女達を分けるのは学園都市に希望があるのかどうかという点である。
御坂美琴は『学園都市で出会った人や築いた関係性に希望がある』と思い、残りの二人は『学園都市を絶望を生み出す大人が多くいるから、大切な人間をそれから守る』という思考回路をしている。
幻生からすればどちらも甘いの一言だが、より現実的な考えをしているのは食蜂達だろう。そんな彼女達と御坂美琴の考えが合うはずもないのである。
「まあ、天野くんは持ち前の社交性と相手の人間性を読み取る観察眼で、その壁を取り除きつつあるみたいだけどね。彼女の見方はどうであれ彼女が貫いてきたスタンスは表の世界で生きていくこと。
実際に表で生きてきた彼女からすれば、同じ感性になることはできなくとも理解し共感する程度のことは朝飯前ということなのだろう」
だからこそ、誰彼構わずに助ける彼女の在り方は異常でしかなかった。
「まるで彼女は上条くんの在り方と類似しているんだけど、上条くんと会ったのはずっとあとだからねぇ。僕の育て方なら救うという考え方にはならず、間違いなく切り捨てるという思考になるはずなんだけど、どこで化学反応が起きたのか僕としても気になるところだよ」
『ふーん、なるほど。つまり、過去の資料通りのデータだけで判断するのは危ないってことね。
その言葉を聞いたその老人は実に楽しそうな笑みを浮かべて言ったのだった。
「それについては問題ないよ。それどころか僕としては御坂くんよりも面白いことになるんじゃないかと思ってるんだよねぇ」
◆裏話◆
実は能力開発の担当が幻生じゃないと、能力のコピーの数もそうですが伝が無く安全圏を確保できないため、暗部に堕ちるしかなかったりします
自覚はありませんがオリ主はかなり幻生という存在に助けられていたりしますね