とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
~数十分前~
通行量はさほど多い訳ではない場所で、その男子高校生は嘆くように言葉を絞り出す。
「借り物競争のお題が御守りだと分かったときは毎度毎度の不幸だと思ったけど、この科学の街の学園都市で御守りを持ってる人と出会えるなんて不幸中の幸いだった。……もしかして、今日の俺はラッキーなのでは?」
不幸中の幸いでラッキーと言ってしまえる男。言わずと知れた上条当麻である。ツンツン頭のこの男子高校生は
「佐天さんのおかげでビリだったけどリタイアにはならずに済んで、吹寄にヘッドバッド食らわなかったしクラスの奴らから制裁も無かったしで本当に助かったな。
……いや、お題がお題だから多目に見てくれても良くねえか?これが当たったら誰でも無理だろ……。それにしても、佐天さんは本当にどこ行ったんだ?あれだけ大事にしていたなら待ち合わせの場所を忘れることなんて無いよな……?」
先日、魔術師とやりやったばかりの彼は、翌日にはそんなことを忘れたかのようにクラスに馴染んでいた。
命懸けの戦いがあったのだから、クラスメイトに先日の大覇星祭をサボったと問い詰められ、普通ならば何かしら言い返したいと思うはずだがこの男、不幸なことに慣れすぎて「文句言われる理由が実際にあるだけマシ」という思考回路をしているのである。
自分の意志で行動し、自分でそのこと全てを黙秘するという選択を取ることを、他でもない自分で選び納得したため、彼はこうして参加賞という大してポイントにならないポイントのために、そこらじゅうを駆けずり回ったのである。
まあ、魔術師関連のことは口に出せないため、当然と言えば当然ではあるのだが。
「あっ、そういや確か会えなかった場合は、
「おいおい、地面から雷が出てらあ。根性あるなあ!」
その男はいつもの白い長ランではなく、赤ジャージを肩に掛けてその光景を遠くから見ていた。その異様極まる光景に驚くどころか何故かいきなり褒めるという、本当に訳が分からない男だ。
誰よりも根性を愛し根性を貫いて生きているその男は、此度も己の根性に従って行動する。
「いいぜ、俺も俺の根性を見せてやる!!」
そう言って空気を踏み締めながら、その男は騒動の中心へ殴り込む。
~数分後~
上条と待ち合わせをしていた佐天は少し離れた廃工場の中に居た。
「いやー、すみません。助かりました」
「次からはもっと考えてから行動しろ。暗部に関わる気がないのなら無闇に顔を突っ込むな」
何故か廃工事から出てきた佐天涙子は大覇星祭に参加している学校のものではない、市販で売られているだろうジャージを着た女性から説教を食らっていた。
「……お前、運があったから生きてるようなものだが、あのシチュエーションでこうして生きてるのが不自然だからな?」
あはははっ、と苦笑いで笑う佐天に対して、コイツ実は何も理解してないんじゃないか?と思うジャージの女性だが、ため息を一つ吐いてこの場から離れるように動く。
そもそも、彼女が佐天と行動してるのは佐天が暗部の人間の密会を聞いてしまったからである。好奇心旺盛な少女は超能力のコンプレックスが無くなったため、余計に無鉄砲になったのかもしれない。
彼女からしてみれば今までの行動は暗部組織『メンバー』として認められるための行動と言ってもよく、本来の目的のための行動はここからなのだ。そもそも彼女が佐天と関わる必要性も特に無い。
彼女からしてみれば義理を返す程度の意味合いでしかない行動だ。もう充分過ぎるほどに世話をしてやったとすら認識している。
そう考えて別れるための一歩目を踏み出した瞬間。
「さっきのドロドロした……水銀?使いの人の目的ってなんでしょうね?」
「……」
くるっとその身を翻した彼女は、佐天の登頂部に握り締めた拳をそのまま振り下ろした。
「~~~~ッッ!?!?!?」
「だから無闇矢鱈と関わるなと言ったろう!?聞いていなかったのかお前は!?……はあ……っ、なんでこんな能天気な奴のために私は……」
深いため息を吐きながらジャージ姿の彼女は喋り出す。
「私も偽りの情報で踊らされていた一人だ。詳しくは知らん。……だが、任務で不可解な点を見付けてその意図を問い質したことがある。明解な答えは得られなかったが、あのときの反応で大体は察することができる」
佐天涙子は彼女の口から出てきたその名前を聞き、驚愕することになる。
不自然なまでに人が通らない学園都市のとある路地裏。
「……暗部組織が動いているようだから一応調べてみたが、所詮は科学サイドの揉め事か。俺が動く意味は大して無い……が、アイツが今回の事に巻き込まれて使い物にならなくなると、俺にとっても他人事じゃ済まない。
それにアイツの身体は少々特殊だ。念のため残ってる魔術師が行っている策敵範囲でも調べておくか」
その時を同じくして、待ち人が来なかった上条はもう一つの情報である第一七七支部に向かおうと、うろ覚えな知識を頼りに向かって歩いていく。
そこであることに気付いた。
「そういや、あそこって白井が居たよな。いざとなれば、あいつに頼んでおけば大丈夫か」
それは間違ってはおらず、佐天が話していた顔見知りの一人のため、無事に佐天の下に御守りは届いたことだろう。……もし、本当にそうなればの話ではあるが。
上条が第一七七支部に向かって進んでいると、偶然にも視界の隅に誰か二人分の人影を見付けた。
「あれ?もしかして、あの片方って佐天さんか?おーい、佐天さん!借りてた御守り──」
「奴らの真の狙いは御坂美琴だ。奴ら学園都市第三位を利用して何かとんでもない事をする気だぞ」
その聞こえてきた言葉に上条の動きが止まる。不穏なワードと知り合いの名前が今のセリフにはあったからだ。
「え!?御坂さんが!?一体、なんでッ、どうして──」
「私も知らん。そう言ったろう。……というか、お前、御坂美琴の知り合いか何かなのか?」
「あっ……いや、そういう訳じゃ……」
上条は今少し聞いただけで今の会話の前に何を話していたのか、上条は一切何も知らない。どんな脈絡での言葉なのか何一つ理解してないが、そんな小さなことに頓着しないのがこの男である。
上条は話し合っている二人の前に躍り出た。
「……なあ、その話俺にも聞かせてもらっていいか?」
しかし、脈絡もなく現れて話を聞こうとする奴を怪しまない奴はいない。
「──なんだお前は。いきなり出てきて随分と「えっ!?上条さん!?なんでここに!?」…………お前の知り合いかよ……」
市販で売られているジャージを来た女性は、なんかもう色々と疲れたような息を吐いた。その女性はもう早く解放されたいのか突然現れた上条に対して、持っている情報をスラスラ言っていく。
「私が知っている情報は大して無い。私は偽の情報に踊らされていただけからな。まずは、これを念頭に入れておけ。
……奴らの片割れは木原幻生。学園都市の中でもかなりのマッドサイエンティストらしい。学園都市の闇にどっぷり浸かっていたようだ。まあ、実際に会ったことはないからこれ以上の情報は無いな。
そして、もう一人の方は液体のよく分からん奴を、人形に変えてこちらと話をしていた能力者。こちらも大した情報は無いがこの女だと思われる奴は、どうやら何かを木原幻生と裏で進めていたらしく、その鍵となるのがおそらく御坂美琴ということになるのだろう。
最後にさっさとこの土地から離れた方が良い、とか言っていたし、もしかすると、この学園都市全てに影響を与える何かをしようとしているかもしれん。
……とはいえ、あくまで、ここまで全て私の所感だ。証拠を出せと言われても何も出せん。信じられないというのならさっさと忘れるんだな」
「……いや、今は情報ならなんでもありがたい。ありがとう、ここからは自分の足で騒動の中心に行ってみることにするよ」
「…………」
思っていた以上にすんなり受け入れられて彼女は少し動揺する。彼女の話がデマの可能性だって当然あり得るケースだろうに、目の前の男はその突拍子もない話を頭ごなしに否定はしなかった。
お人好しの馬鹿は隣の奴だけかと思ったが、意外な発見である。
「(……まるでこの程度のことは起きてもおかしくないかのような『慣れ』を感じるが、見た感じからして暗部の匂いはしない。ただのお人好しか……?)」
まあ、なんにしても彼女からすればこれ以上馬鹿に付き合わされるのもこりごりのため、さっさとここからおさらばしたいのが本音だ。
「佐天さん御守りありがとな。俺は今から御坂の奴を探してくるからここでお別れだ。本当に助かったよ」
「い、いえ」
上条から返された御守りを受け取ると、上条はそのままどこに居るのかも分からない御坂美琴を見付けるために走っていった。そして、近くを見渡せばいつの間にかジャージ姿の女性も居なくなってる。
一人になってしまった佐天はこれから自分はどうするべきなのかを考えた。そして、導き出した解答は実にシンプルだった。
「よしっ!初春のとこに行って何か手伝おう!二人ならなんとかしてくれるはず!多分!」
「はあ……っ、はあ……っ、
相手が木原幻生のため警備員に手加減など一切しないだろうし、反って食蜂の行動の邪魔になりかねない。ここは大人らしく民間人の保護に回らせた方が余程建設的だ。
「あの姿からして御坂さんは幻生の手に落ちたってところかしら。まあ、御坂さんなら別にどうなってくれても全然構わないんだけどぉ。御坂さんが
でも、私は幻生から逃走しているまっしぐら。ただでさえ能力が御坂さんに効かないのに、状況がそれを許さない。……この八方塞がりの状況をどうにか……──!」
ふとガラス張りの壁から下を覗いてみれば、そこに見知った男子高校生が居た。一見どこにでもいる普通の男の子のようであり、食蜂操祈にとっては他と代えがたい大切な男の子。
そんな彼をこのシチュエーションで見たときの彼女の反応は実に分かりやすいものだった。
「……あらあらあらあらぁ、登場するタイミング
そう言いながらも少女の顔は、花が咲いたかのように輝いている。
それこそ、心から物語で語られるような王子様の存在を夢見つつ、いつか自分のことを迎えに来てくれるのを待っている、どこにでもいる夢見がちな恋する女の子のものだった。
そんな彼女の気持ちなど露知らず、ツンツン頭はようやく最前線の戦場に足を踏み入れる。
繋ぎの回にしてそこそこ重要な話
次回は未定。
多分、意外に割りとすぐかも(確証はない)