とある原石の神造人形(エルキドゥ)   作:海鮮茶漬け

119 / 149
あと数話で今月分終わりです


117.Phase5.1→Phase5.2

「ひょっ、ひょっ、ひょっ、さあ、大方の説明はこんなところだよ。現時点で天野くんが絶対能力者(レベル6)に至ることはほぼ間違いないと言ってもいい。

 数値で評価できないところが難しくはあるけど、御坂くんのように一定ラインを越えると精神が変容することもないはずさ。目視で計算した到達率の上昇も想定の一.八倍といったところだろう。

 君の役目は天野くんの精神を誘導し、窓の無いビルを破壊するように悪意を向けることだね」

 

『……それしか方法が無い訳だからやるけど、そもそも美琴ちゃんほどの憎悪が天野ちゃんにあるのかな?何気に天野ちゃんって学園都市の闇との関わりってそんなに無くない?

 窓の無いビルを破壊したいって思わせることができるか怪しいと思うんだけど』

 

「それについては大丈夫だろう。彼女と関わりが深い一方通行(アクセラレータ)くんが参加していた絶対能力者進化(レベル6シフト)計画の全容も天野くんは知っているし、それこそ直近でぶつけた黒夜くん主催による『暗闇の五月計画』の被験者達の集団、『同窓会』も彼女の心身共に傷となって無事に刻み込まれたことだろう。

 学園都市の悪意を当事者となることで、より強く意識する前段階は既に済ませてある。あとは、君の手腕によるところが大きいね。期待しているよ」

 

『私からみれば自分の名前を勝手に利用されただけなんだから、美琴ちゃんとは違って気にすること無いと思うけどね。それが天野ちゃんにとってはそんな風に割り切れないってことか。

 こんなに周りに気を使って不都合にならないように立ち回ってるのに、それでも自分を責め続けるなんて随分と温い世界に居たみたいだねー。力が有って期待され続けるとこんな潔癖症になっちゃうんだとしたら、それはそれで不憫だけどさ』

 

 天野倶佐利(くさり)は学園都市の悪意をほぼ完璧に跳ね返してきた。それも、他者に影響が向かないように細心の注意を払ってきたことを考えれば驚嘆に値するだろう。

 普通の子供が物心が付く前にこれだけ精神が確立しており、大人達の欺瞞や誘惑などの手練手管を見事に躱し続けたのだから、彼女のしたことは称賛されることはあれど非難されることなどあるわけがない。

 だが、それを彼女自身がそれを認めない。一方通行のこと然り、『暗闇の五月計画』のこと然り、多重能力(デュアルスキル)の能力発現研究所の長期に渡る運営然りと、彼女が関わることすらできなかった事柄も、全て自分のせいだと感じているようだ。

 

「(倶佐利ちゃんならこの程度の感情の揺れは本来一人で消化できる。それは過去のことからみても間違いない。この程度で感情的に行動するならもっと昔に何か致命的な失敗をしているはず。

 でも、私が介入するのはガードが弛くなった深層心理。そして、ダメ押しでお爺ちゃんが倶佐利ちゃんの心を揺さぶったことで、隙が大きくなっている。チャンスは今この瞬間しかないか……)」

 

 善意で扇動しても駄目。悪意を振りかざしても無意味。損得で誘い込んでも拒絶する。そんな鉄壁の牙城を崩せる可能性が生まれたのだ。彼女を狙う科学者からすれば喉から手が出る程に羨ましい状況なのだろう。

 まあ、警策からしてみればどうでもいいことだが。

 

「僕は念のために心理掌握のリミッター解除コードを手に入れるよ。天野くんの様子から無用の長物になりかねないけど、天野くんの適性や能力を算出できない以上は保険として必要だろうしね」

 

『了解。私も指定の場所に移動するんで』

 

 そう言うと幻生の端末の通話機能が切れた。彼はそれを見ながら呟く。

 

「このまま行けば絶対能力者(レベル6)に天野くんは(じき)に到達するだろう。だけど、天野くんがそんな順当な結果を果たして出してくれるかな?

 期待しているよ天野くん。是非とも僕に心が震えるほどの何かを見せてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強力な電気によって発生した、電磁パルスの音が鳴り響く中で、肩にジャージをかけた少年は突如乱入してきた少女に問い掛ける。

 

「オイオイ、それじゃあ何か?あの角生やしてんのが天野の奴なのか?」

 

「多分……だけどね。他の妹達(シスターズ)である可能性もなくはないけど、強度(レベル)でならコピーした天野さんの方が高いし、何より私達がいた建物周辺にも居なかったみたいだから、可能性でいえば天野さんが一番高いわ。

 ……それはそうとアンタって大覇星祭で選手宣誓してた超能力者(レベル5)よね?なんでここに居んの?」

 

 学園都市で七人しかいない超能力者が、偶然居合わせるという珍しい事態となったが、今の状況において言えばそんな二人よりもさらに異質な存在がいる。

 御坂美琴の姿をしていながらも異形としか形容できない姿へとなっている少女。この場はそんな彼女を中心として形成しているのだ。

 

「にしても、敵に操られるなんて随分と根性が無くなっちまいやがったみたいだな。

 よしッ!(かつ)て相棒だった(よし)みでいっちょ盛大に根性注入してやるか!」

 

 そのさらっと出てきたとんでもない言葉を聞いた二人は、同時に削板の方へ驚愕の顔を向けた。

 

「えぇっ!?削板が先輩の相棒!?なんだそれ聞いたこと無いぞ!?」

 

 御坂も声には出さなかったが、あの一人で行動するのが好きそうな捉え所の無い少女に、相棒と呼べる誰かがいることが驚きだった。

 

「ん?知らねえのか?俺と天野は一年くらい前に『ド根性原石コンビ』ってチーム名のタッグを組んでたんだ。困ってる奴助けたり悪の組織をブッ飛ばしたりして、巷じゃそれなりに名を馳せたものだ!」

 

「「え、えぇ……」」

 

 あんまりなネーミングセンスにドン引きしている後輩二人。彼女のことを知っている二人からすれば、そんなチーム名を恥ずかしげもなく名乗り行動するなど到底思えなかったのだ。

 若気の至りというやつなのだろうか?と、それぞれショックを少なからず受けていると、彼は懐かしむように続きを話す。

 

「いやー、本当は『ド根性爆裂スーパーアルティメット最強原石コンビ』って名乗りたかったんだが、天野がやたらと拒否してなー。本当に見た目に反して控え目な奴だぜ」

 

「「なるほど貴様が原因か」」

 

 どうやら嬉々として名乗っていたわけではなく、妥協してしぶしぶ受け入れたようだ。飄々として常に自分のペースで動いているような人間を諦めさせるとは流石は超能力者と言うべきか。

 そんな我が道を行く根性馬鹿の辞書には、デリカシーという言葉はどこにも記述されていなかった。

 

「アイツに俺以外の男が側に居たとこ見たことなかったんだが、もしかして天野が言っていた面白い後輩ってカミジョーのことか?お前もしかしてアイツと付き合ってんの?」

 

「「ぶふうッ!?」」

 

 とんでもない発言に二人は吹き出した。初対面でいきなりなんてことを聞いてくるのか。

 

「先輩にはいろいろとお世話になってるけどそんな関係じゃないって!」

 

「そ、そうよ!あの人からすればコイツなんてどんだけ頑張っても弟分が限界のはずよ。女の子の扱いすらまともにできないデリカシーゼロ助が、よりにもよって彼氏なんて百万年早いっての!」

 

「…………あの、御坂さん?あなたにはオブラートに包むという優しさはないのかね?いくら事実であってもそれを言葉にするのはどうかと上条さんは思いますことよ?」

 

 そんな会話をしながらも三人は異形の姿となった天野倶佐利(くさり)の攻撃を防いでいく。超能力者の参入はそれだけでパワーバランスを容易に覆すのだ。

 

「(とはいえ、そこに居る野郎共とは違って逸らしたりするのが限界ね……。まあ、電撃を打ち消したり叩き落としたりする奴らを気にするだけ無駄か)」

 

 横目で電撃を捌く彼らを見ながら御坂はため息を吐いた。

 

「(それにしても、自信無くすわね……。まさか、天野さんの力が私以上に増加するなんて事態考えたこともなかったわ。

 まあ、私の力はその出力が長所じゃなくてその汎用性にこそある。出力が負けていても電気の扱いなら充分に渡り合えるんだろうけど……このまま何も無いなんてことはきっと無い)」

 

 木原幻生。

 今回の黒幕の正体を知っている彼女からしてみれば、ただ力を増すだけなんてことは無いだろう。おそらく、まだ何かしら状況が悪化する可能性を秘めている可能性がある。

 

「(幻生の最後に見た言動と黒い雷から、本来は私に向けてのアクションだったはず。それなのに、こうなったってことはなんらかの原因で天野さんにエネルギーが流れたってとこかしら?

 それに、私がここ来るまでなんの妨害もなかったところをみると、私はもう幻生の眼中に入って無い可能性があるわね……。

 だとすると、私にしようとしていた何かを天野さんで代用しようとしている……?

 …………幻生の狙いがなんなのか知らないから全部推測でしかないからなんとも言えないか。やっぱり、この騒動を止めるには大本の幻生を止めるしかないって訳ね)」

 

 おそらく、聞いた話の内容からして二人は飛び入り参加の可能性が高い。そんな詳細を知らない人間にこのような難解な状況を預けるには気が引けた。

 しかし、現状を打破するには今の人数の偏りは維持していいものではないのもまた事実。

 

「(やっぱり、いくら厚顔無恥であろうとも、二人に頼んで私が食蜂の助けに向かうことが最善か……)」

 

 そして、思考の途中で飛んできた電撃を上条が右手で打ち消す。

 

「本当におもしれーな。その右手」

 

「ああ、できればコイツで触れて先輩が元に戻るか試したいんだけど……──って、なんだッ!?」

 

 上条と御坂がそれぞれ問題を解決するための方法を提案しようとしたその矢先。相対する天野倶佐利に異変が起こった。

 

 ビキビキッという異音と共に、彼女の額に生えた角が捻れ曲がる。重なりあうようにして伸びた角同士の中央に黒い目玉のようなものが浮かび上がった。

 

「な……何よ、あれ……?」

 

 異形の姿がより禍々しいものに変化していく。自分の姿が基になっているのだから御坂としては背筋が凍るものだ。

 

「オイ、なんか変わったぞ?なんだありゃ?」

 

「……注がれてる力の影響だとは思うけど、詳しい話を理解できてないから俺からはなんともいえない。食蜂の話じゃ俺が側にいるだけでいくらか阻害できるって話だったけど、本当にそうなのか分から「ッ!!ヤバい来るわよ!!」……へ?」

 

 ビュオッ!!と、突然空気を裂く音がした。それがどういう理由で起きたものなのか上条はすぐに理解することになる。

 

「そ、削板ッッ!!!!」

 

 弾き飛ばされた削板が鉄筋コンクリートで構築された建物に直撃する。並の人間ならばこれで物言わぬ肉塊になっている。しかし、彼は突き抜けた天才の一人。

 ドガッ!と、建物の天井を突き破り元の位置まで一足で戻ってきた。

 

「ふぅー、油断した情けねー」

 

「お、お前、あれを受けて無事とかどんだけ…………!」

 

 言葉の途中で上条の視界に赤いものが映る。それは人間の内側に流れているのが正常で、外界で見てはならないものだった。

 

「……こりゃあ、根性入れねーとマズイぞ」

 

 額から血を流した削板は、先ほどよりも敵の力量が大幅に増加したことをその身で認識しながら、内心で一人呟く。

 

「(全く見えなかった)」

 

 先ほどまで安定してこちらに傾いていたパワーバランスが、明確に崩れてしまったことを、その事実と共に彼は察した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは深層意識の奥深く。

 意識が無い状態の夢と現が曖昧な状態。微睡みの中にいる状態と言えば分かりやすいだろうか。その個々人で構築される他者が入り込む余地が無いはずの場所に、何故か第三者の思考が割って入る。

 

『ネーネー、この街で起こってることを見逃していいのかな?この街がしてきたことがどんなのか、この学園都市で生きていればあなたも当然幾つか知って──』

 

『うん、分かってる。あのビルを壊すんでしょ。だってあのビルがあるからクローンのあの子達があんな目にあってるんだから。あのビルさえなければこれ以上変な実験だって……』

 

『……ん、んん?(どういうこと?あなたは美琴ちゃんじゃなくて倶佐利ちゃんでしょ?なんで美琴ちゃんみたいなこと……)』

 

『私があのビルを壊して悲劇を無くさなきゃ。だから、今は力を集めるんでしょ?』

 

『(もしかして、ミサカネットワークを経由して同じエネルギーが注入されたから、美琴ちゃんと倶佐利ちゃんで意識が同期しちゃったってこと……?

 いくらなんでも、深層心理まで美琴ちゃんになってるなんて予想外過ぎるけど、結果としては美琴ちゃんの方が思考を誘導しやすいから私としては好都合なのも事実)』

 

 そこまで考え、警策(こうざく)の胸にチクリと(とげ)が刺さった。

 

『(……でも、流石に心が痛みはするよね。倶佐利ちゃんの能力の情報はあらかじめ幻生から送られてる。資料によると言動はコピー元のものだけど意識は間違いなく倶佐利ちゃんであることが確認されてた。

 つまり、深層心理まで影響があるはずは絶対に無いってこと。このことから考えられることとして…………もう、倶佐利ちゃんの自我は無い可能性が高い)』

 

 ただの記憶喪失ならばまだ可能性はあっただろう。記憶喪失の人間がエピソード記憶を失い、記憶の断片から自我を構成してしまうことで精神が違う人間として確立してしまうケースはある。

 しかし、今回は勘違いや思い込みではなく、御坂美琴の記憶から意識まで全てが同期してしまったが故の精神の変換。

 妹達(シスターズ)学習装置(テスタメント)で精神が同じように固定されるものと同じく、自然に以前の自分へと戻ることはまず無い。

 

『(学園都市をまとめて吹き飛ばす以上は倶佐利ちゃんも当然死ぬことになるけど、……死ぬ前に自我が全く別人のものにされるなんてそれこそ生命の冒涜でしかない。

 死ぬ間近だからこそ尊厳は失っちゃいけないはずなのに…………分かってはいたけど、私の地獄行きは確定みたいだね)』

 

 意図したことではない上に計画したのも自分ではないが、こうして自我を変えられた彼女を手駒として扱う以上は、自分は無関係などというほど恥知らずではなかった。

 しかし、どれだけ外道に墜ちようとも為すべきことは変わることはない。

 

『うん、そうだね。力を溜めさえすればあんなビルすぐに壊せるよ』




オリ主が死んだ!この人でなし!

◆裏話◆
原作よりも絶対能力者への到達率が早いために、上条が右手を使う暇がありませんでした
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。