とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
では、どうぞ!
「
襲い来る
「───警、こく。……『首輪』の致命的な破壊……が…………修復、不可……───」
異能が砕け散る音がしたあとに、魔導図書館の動きが止まり、首輪が破壊されたことを理解する。しかし、インデックスに
「気を付けてください!その羽の一枚一枚が聖ジョージのドラゴンの一撃と同等です!!」
上条はインデックスを守るために右手を伸ばすが、羽が右手を避けるように舞い降り、上条の頭に直撃する。
「
即座にステイル=マグヌスが部屋に降り注ぐ光の羽を、一枚残らず外に吹き飛ばす。
「少年!」
「おい!能力者!」
すぐさま近寄り呼び掛けるが、反応がない。
「神裂、すぐにそいつを病院に連れて行け!回復魔術は効きはしないぞ!」
「ッはい、分かりました!インデックスのことは任せま──ッ!?」
意識の無い上条を担ぎ、飛び抜けた身体能力で病院まで送ろうとしたその瞬間、神裂の背筋に凄まじい悪寒が走り抜ける。
「(このプレッシャーはッ!?聖人と同等…………いや、
冷や汗を流しながら愛刀の『七天七刀』を握りしめ、上条を下ろし玄関に向かって走り抜ける。
「神裂どうし──何ッ!?」
遅れてステイルが気付いたようだが、気にしてはいられない。神裂はマンションの通路から、たった一人きりで地面に立っている緑髪の少女を、注意深く見下ろす。今までの少女とは、決定的に何かが変わったことを肌で感じながら、探るように神裂は問いかける。
「貴方は何者ですか」
神裂が全神経を研ぎ澄ますのに対し、彼女は自然体で返した。
「───僕は天の鎖。神と人とを繋ぐものだよ」
その態度は余裕の現れのようでもあり、そう答えるようにあらかじめ設定されているようでもあった。その感情の読みにくさは彼女と同じように感じるが、まるで無知な子供に言い聞かせるような声音だ。
彼女と観ている視点が全く違う。その事に気付いた神裂は刀を振るうため構えをとった。
神裂火織は世界に二十人程しかいない、聖人の一人である。聖人とは魔術師が何百人と束になったとしても、まとめて相手にして無傷で勝ってしまうような埒外の存在だ。
だからこそステイルは、
「ば、馬鹿なッ!?どんな能力者だったとしても聖人相手に身体能力で渡り合える筈がない!!」
鞘付きの刀と拳を数合交わした後、神裂が大きく距離をとる。
「この気配から察するに、神降ろしの一種でしょう。ならば、爆発的な身体能力の上昇も納得できます」
冷静に分析しながらも、打ち合った衝撃の重さに警戒心をさらに上げる。
「(彼女の体のことを考え、すぐさま意識を飛ばそうと考えましたが余りに浅慮でしたか……ですが、時間はかけられない……!)」
彼女が能力者であることから、時間をかければかける程、魔術の拒否反応が出てしまう。もし、魔力が彼女の中で生成されているのだとしたら、幾ばくの猶予も無い。
「(おそらく、魔術の起点は彼女の
以前にはなかった刺青を戦闘中に見つけ、すぐに魔術的な要素を兼ね備えたものだと看破する。
「(刺青は元々、炎の灰や煤を使い体に描いていました。ならば、魔術の発動条件は炎をその身に浴びること。
……まさか、先ほどステイルが光の羽を吹き飛ばすときに使った、
神裂は自分達を攻撃するために、彼女が魔術師に利用されたと知り、奥歯を強く噛み締める。上条とインデックスの無事を祈っていた彼女を、こちら側の都合に巻き込んでしまったことを心底悔やんだ。
こちらの都合で彼女を遠ざけることになったため、屋外から彼らのことを見守ることに許可をして人払いから彼女を除外したのだ。
だが、その甘さを付け狙われた。
そんな未熟な自身に怒りを抱きながらそれでも思考を回す。
「(彼女が使われた魔術は、刺青を通してその身に何かを降ろし、指向性を与え私たちを襲わせると言うもの)」
しかし、それならば彼女の現状は余りにも不可解であった。
「(刺青は魔除けや魅力の一種として、効果は薄いながらも魔術で使われたりもしますが、世界的にポピュラーなのは回復魔術としてです。刑罰として使うことも出来ますが、条件が多く指向性は与えづらい……。
何より刺青は憑依させることよりも、加護をその身に宿す方法として魔術では使われる)」
目の前にいる少女の右手を観察する。
「(ルーン文字とも違う紋様で、どこの魔術系統なのか私でも理解することが出来ない。ですが、何よりも異質なのが右手の甲にしか刺青が見えないこと。火の粉が発動条件ならば服の中には無いはず。
あの小さな刺青だけでこれほどの力を出せるなど、どう考えても有り得ないのですが……)」
「もういいかな」
「ッ!!」
悠然と立ちながら、まるでこちらの分析が終わるのを待っていたかのように言った後、彼女に憑依した何者かは神裂に攻撃を仕掛けてくる。神裂は繰り出される拳を咄嗟に刀で受けとめ、そして衝撃を後方に受け流す。
神裂火織は聖人の力を有しているが、力に溺れずに技を磨いてきた。そのため、聖人の膂力抜きでの剣術は達人の域にある。
その彼女からすれば、真正面から向かってくる力を受け流すなど朝飯前だ。
「(いくらその身に超常の力を宿していたとしても、単調な動きならば御しやすい!)」
このまま行動パターンを把握し、聖人の力で押さえつけたところを少年のあの右手で触れる。
あの魔術の原理は未だに分からないが、異能を問答無用で打ち消すあの右手ならば彼女を救う唯一の突破口となるはずだ。
「(意識の無いあの少年には悪いですが、ステイルに体を運んで来て貰わなくては──)」
この時神裂は今まで膂力頼りの攻撃しかしなかったために、少女の体に入り込んだ存在は戦いの知識は無いものだと思っていた。彼女がそう考えたのは自然である。
「──ガハッッッ!?!?」
ミシ、ミシ、ミシィッッ!!!!と、意識の外側から横腹に向けて強い衝撃が加えれる。
神裂の体が横から掬い上げられるように吹き飛ばされ、そのままノーバウンドで五十メートル程、空間を裂くように突き進む。
その最中、空中で体勢を整えた神裂は地面に着地と同時に、人払いの魔術を広範囲に渡って使用した。
ジクジクと横腹に感じる痛みに耐えながら、先ほどの地面から出現した鎖を思い浮かべる。
神裂には少女がしていたのは地面に手を着いていることだけだったはすだ。
「(ぐっ……!まさか、戦闘の駆け引きまでしてくるとは……。あの緑の波紋は地中に埋めた武器を、置換魔術で取り出すときに起こる空間の揺らぎですか……!)」
超常の存在といっても様々なタイプがいる。天使のような人類には許容することすら出来ない、莫大なエネルギーで押し潰してくる存在や、言葉で人間を拐かし堕落させるような存在まで多岐にわたる。
だが、力を持った高次元の存在は総じてその身に宿る魔術を使い、物量で殲滅するやり方に類似していくものだ。わざわざ、遥か格下に合わせる必要はないのだから。
「(あの動きはこちらの油断を誘うためのもの。いくら隙を突けるからと言って私などに一瞬でも侮られることは、超常の存在にとって許容できない屈辱となるはずなのですが……)」
思考を回すが核心的な理由が見付けられない。しかし、三秒もしないうちに彼女の中にいる人智を超えた存在は、神裂の居るところまでやって来る。
その態度は極自然でありながらも一切の隙がなく、その立ち振舞いからは圧倒的強者特有の傲慢さは微塵も見受けられない。
「戦闘のための準備は終えたようだね」
「(ッ!人払いの結界が張り終えるまでの時間を、私に与えたのですか!)」
神裂がそのことを理解したとともに、とてつもない速さで緑髪の少女が飛んでくる。その速さは神裂が居る聖人の世界である音速の速さだ。
いつの間に武器を手にしたのか、大きくその左腕を既に振りかぶっていた。
「──チィッッ!!!!」
その速さに意表を突かれながらも、思考するよりも先に体が動き防御をする。
ガキィッッ!!!!と、鈍い音を鳴らしながらその攻撃を七天七刀で防げば、彼女達を中心に大きな衝撃波が周囲に振り撒かれた。その影響で周囲にあるビルのガラスは砕け散り、街灯はへし折られる。
神裂は愛刀である七天七刀を強く握り、相対する敵の左腕を見て眼を見開いた。
「う、腕が剣にッ!?」
「君の戦い方に合わせてみたんだ」
姿を変えて変身した他人の能力を扱うことが、彼女の超能力のはずだ。つまり、彼女自身のまま腕のみを剣に変えることは彼女の扱う能力のそれではない。
ならば、憑依した者の魔術であるのか?……いいや、それは違う。
なぜなら、もし目の前の存在がそんなことをすれば、彼女の体は既に見る影もなく壊れているはずだからだ。
現代の魔術ですら耐えられない彼女が、遥か昔の魔術や位相が異なる存在の魔術で体の構造を変えれば崩壊するのは必定。
「(どちらにせよ、彼女の安全を得るには目の前の存在を打倒するしか道はない。魔法名にかけて彼女をこちらの世界に引き戻す!)」
七天八刀の柄を掴み直した神裂は、相手を聖人クラスだと認識して自らの秘められた力の一端を解放する。世界に二十人と居ない『聖人』の力は強大であり、その気になれば音速の世界で活動することができる事実からもそれは明らかだ。
その聖人の本気が解放された。
「ハァァアアアアアッッッッ!!!!!!」
そこからは、目にも止まらぬ剣撃の嵐だった。
両腕が剣に変化したり触れた地面から、槍や斧が現れたりする変幻自在な攻撃を、七天七刀でもって防ぎ、住なし、躱し、そして叩き伏せる。
その一つ一つの衝撃で大気が震え、鋼鉄の壁に鉄球をぶつけたような凄まじい轟音が、何度も閑散とした道路に鳴り響いた。
その応酬が100を超えた辺りで神裂は後ろに下がる。
だが、それは神裂の意思で判断した後退ではない。純粋な力負けで単純に神裂は吹き飛ばされたのだ。
「(くっ……!今の応酬はまるでこちらの動きに敢えて合わしたかのような動きでした。最後の一撃からして膂力は明らかに相手のほうが上のことからもそれは明らか。
……まさか、自身の性能を測るための実験台にされた!?)」
聖人をただの腕試しにするなどどうかしている。目の前の存在は神裂同様、力だけではなく高度な戦闘技術を有している。
それも神裂を遥かに凌ぐレベルで。
「聖杯からのバックアップはないみたいだね。そもそも、聖杯の気配を全く感じられない。それなのに、僕の中にある
眉を少し下げ、儚げな雰囲気を出しながらナニかは疑問を口にする。だが、すぐに表情が変わった。
「
そんな淡白な言葉の後に、地面に手を着くと二十メートルに渡る緑の波紋が現れ、神々しい光が空間に溢れだす。その中央にいた存在は無表情で見下すようにこちらを眺めていた。
「…………そん……な…………馬鹿な…………」
聖人の神裂にはこれが
だからこそ、神裂はこの力が解き放たれば学園都市が跡形もなく消滅することを正確に弾き出した。
そして、自分が持つ手札では余りにも不足していることも。
もう攻撃までの猶予はなく聖人の速さでも間に合わない。例え、この命を捨てても被害を無くすことはできない。
迎撃不可能───
防御不可能───
回避不可能───
神裂が聖人として、魔術師として導き出した答えはそんな無慈悲なものだった。何かしようとするも何一つできない。
彼女にできたのは、七天七刀の柄を握りしめることだけだった。驚愕、義憤、畏怖といった様々な感情が胸を締め付けながら、そのどうしようもない終わりがやって来る、まさにその瞬間───
世界に襲い掛かろうとした猛威の一切が消え失せた。
「……………………は?」
神裂は今まで抱いていた感情が吹き飛び、思考が空白となった。どうして今の攻撃を止めた?何か問題が?神裂の思考が疑問で埋め尽くされていると、彼女の中にいる存在は口を開く。
「受肉した状態と言う珍しい戦闘につい夢中になってしまった。僕と打ち合える存在は珍しいからね。少しばかり羽目を外し過ぎたよ」
先ほど猛威を振るおうとした存在とは思えないほどに穏やかな声音が、逆に神裂の不安を煽る。
「それと安心してほしい。戦闘は終了するよ」
「…………その言葉を信じろと?」
神裂としては当然の警戒だ。だが、その警戒がまるで意味が無いかのようにその存在は穏やかな声音で口を開いた。
「最後の攻撃を除けば周りに被害を出さず、君一人だけを狙っていただろう?破壊することが目的ならそんな真似をわざわざすると思うかい?」
神裂は臨戦態勢をとったまま思い出す。先ほどの攻撃以外では、どの攻撃も殺意や敵意が全く感じられなかった。それどころか、どこか手を抜いていたようにも感じる。
それこそ、思い返してみれば目の前にいる存在は、人払いの結界が張り終わるのを待っていたではないか。
「……貴方ほどの存在が何故、周囲のことを気にかけるのですか?」
これほどの人間を超越した存在ならば、人間の命も人類が育んできた文化も、等しく無価値に見えるはずなのだ。
そのため破壊することに呵責はなく、私を倒すためだけに周囲を更地にすることも平然とするはずだ。それを聞いた少女の中に入り込んだ存在は、どこか飄々とした態度で答える。
「僕はあくまでこの体の性能を確かめているだけだからね。木々や人の営みを破壊したいわけではないんだよ」
「……彼女の体から出ていくつもりはないのですね」
「出ようがない。と、答えるのが正解かな」
「何ですって?それはどういうことですか?」
「彼……いや、彼女は僕と身体的特徴が似すぎたんだ。そして、彼女と僕の間に魔術のパスが出来てしまったことで、この体から離れることが出来ないのさ」
右手の刺青をこちらに見せながら彼女は言う。
「そして、これは契約の印でもある。僕が彼女の使い魔というね」
「まさか、貴方程の存在が使い魔としての契約を認めたのですか!?」
悪魔は損得で動くためそうするのも分かるが、目の前の存在はあのテレズマからして天使と似通った存在だろう。天使が人の下に付くことがないことから分かるように、余りにもこれは異常すぎる。
「うん、そうだね。彼女のことをマスターだと認めているよ。しかし、同じ体に宿った影響からか意思疎通は出来ないみたいだね」
「彼女の精神は無事であると?」
「今は眠っているけどすぐに目を覚ますはずさ。その間、僕が彼女の体でどの程度動けるのか試していたんだ」
彼女の体が未だ原形を保っていることから、手加減をして体を労っていたのは本当らしい。それが彼女のためかどうかは判断出来ないが、今すぐ命の危機ということではないことが分かり、神裂は安堵の息を吐く。
「あと、マスターと僕のことは伏せてくれると嬉しい。迎撃のために、自然を壊すような攻撃はしたくないんだ」
そう言って背を向けて、さっきまでいたアパートに帰っていく少女。その背を見送りながらそもそも先ほどの魔術を隠蔽することは、不可能だと思う神裂であった。
翌朝、天井に大穴がある部屋で目が覚めた天野倶佐利は、ゆっくりとベッドから起き上がり自分の体を見た。
俺、なんで生きてるのん?
皆にオリ主が死んだと思われていてビックリ。
意識が吹っ飛んだだけで、精神や魂は吹っ飛んでないんだけどなぁ。
──追記──
ちょっと直しました。