とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします!
今回はなかなか重要なお話。山場はまた次回(見積りが甘すぎるぞこの作者)
P.s木原脳幹は原作で『』でしゃべるようです。最初は「」だったのですが恐らく人ではなく犬ということで変えたのでしょう。
なので、作者もそうします(原作遵守)
『指定位置に着いた。いつでも行動可能だアレイスター』
暗闇の中でとある声が発せられた。奇妙なことにそこに人影は存在しない。居るのは大型犬であるゴールデンレトリバー一匹。
その名は木原脳幹。
この犬こそがこの街で動く不穏分子を消し去る死神に他ならない。『オカルト』ではなく『科学』によって生み出された人の言葉を話す奇妙な獣は、遠くに居る『人間』へと通信を繋ぐ。
『そこならば問題はないだろう。大覇星祭というイベントがあることで交通規制が不自然にならずに済むのは僥倖ではあった』
この街を遍く支配するために作られた、肉眼では見付けられないほどに微細なサイズの監視カメラ。それを使用しているアレイスターがオリ主が引き起こしている事態を看過するわけがない。
『木原幻生が行う実験を利用して
木原脳幹としても天野俱佐利は希少な存在ではあった。世界でも有数の原石の一人であり、
学園都市が有する『恋査』も天野俱佐利の能力から着想を経て、早期に発明されることとなったことは彼としても『ロマンがある』と高く評価していた。
しかし、この街に魔術の力を持ち込み、長い歴史で作り上げたこの街の『色』を変えるというのならば、それは死神たる彼の管轄の範囲内なのだ。
『近くに幻想殺しや第三位、第七位といったそうそうたるメンバーが居るようだが、こいつを打ち出してもいいのかね?』
ドン!!ガン!!と、何かが木原脳幹の周囲へと降ってきた。それは複数のコンテナだ。おもむろにそのコンテナが開けば中からアームや装甲などが現れ、その全てが木原脳幹に装着されていく。
ミサイルやレーザー砲などの近代兵器を身に纏う姿は、科学の総本山たる学園都市らしいものだ。
だが、そのシルエットを見たものは恐らく別の感想を抱くことだろう。最新鋭の兵器群により浮かび上がるその鋭く突き出たフォルムは悪魔を連想させる。
その悪魔の鎧に書かれた名は
とある『人間』が己の死の運命を超越してでも叶えたい野望の具現である。
『私の滞空回線と現地で直接君が照準を合わせたならば、周囲に居る彼らが理解する間もなく天野俱佐利を即刻排除できる』
『彼女は
蠢動俊三。嘗て第五位の心理掌握を強奪しようとした大人達の代表者。
『デッドロック』達を追い詰め
『善悪で言えば善で好悪で言えば好ましい。……やれやれ、科学の領域を侵そうとする行動は許されざることだが、元はと言えば木原幻生が主犯であり彼女は外部から力を注入された被害者でしかないときた。
もし、これで彼女も同罪などと宣うことがあれば、物事を理性的に俯瞰できない痴呆の烙印を押されることだろう。全く、意識を奪われ都合の良い人形と変えられた少女に銃口を向けるのは私の趣味ではないのだがね』
この局面で共犯者相手に欺瞞を言う必要性は無い。これは木原脳幹の偽らざる本音であった。尻尾がいつもより垂れ下がっているように見えるのは気のせいではないだろう。
『だが、天野俱佐利は私達の障害と成り果てた。無視することはできない』
『もちろん分かっているとも。それこそ、今はまだ光が届かぬ暗闇以外で私がこれを使うことは避けたい事態だった。
このような想定していた時期や相手と異なる場面で、「私達の敵」に
それこそ私達の都合上の話でしかないが、今更自らの信条から逸脱した程度で立ち止まるならば君に協力してはいない』
その言葉は問い質すようなものではなく、確定事項を口に出す程度の意味合いしか無い。それも分かっているため木原脳幹としても思っていることを偽りなく答える。
余人には分からない、当人同士しか理解できない信頼関係が確かにそこにはあった。この街の王たる『人間』が遣わした死神が特殊な機材を使い、全ての兵器の照準をたった一人に完璧に合わせる。
そして、標的に向けられた銃口達が今まさに火を噴くまさにその寸前に、木原脳幹を送り込んだ張本人であるアレイスターがいきなりストップを掛けた。
『……おい、アレイスター。どういうつもりだ?今更、天野俱佐利の希少性を惜しく感じた訳でもあるまい。もしや、魔神などの無視できない特大な不穏分子でも現れたか?』
その突然の静止を不審がり、木原脳幹は通信の向こうに居る王に問い掛ける。必要事項とはいえ気が乗らない仕事は早急に済ましたい彼としては、ここで待ったを掛けられるのは少々苛立ちを覚える程度には不満が涌き出る。
とはいえ、この街の王である彼が無意味な指示を出す事はない。私情を全て飲み干し次の指示を待つことにした。
『アレイスター……?』
だが、応答が無い。
この局面で尻込みをするような精神性の『人間』ではないことは既に知っている。悲劇を生み出すこの街を生み出したのだから論ずるに値しない事柄だ。
ならば、アレイスターが言葉を発することができなくなる状況とはなんだ?不穏分子が現れても複数の
上条当麻の覚醒?足りない。その程度ならば次に繋げる。
一方通行の乱入?足りない。その程度ならば次に繋げる。
風斬氷華の登場?足りない。その程度ならば次に繋げる。
強力な魔術師の横槍?足りない。その程度ならば次に繋げる。
一時的にとはいえ、憎悪と復讐の上で醸成された忌むべき救済の渇望なのだとしても、それを百年燃やし続けた『人間』の歩みを止めさせるほどの異常事態に、木原脳幹は心当たりがない。
どれが頓挫しても次に繋げる複数の
電話越しから土御門の指示を聞き、月詠小萌と別れたインデックスはとあるビルの屋上へと訪れていた。
「難なく来れちゃったけどここって部外者が入れるようなところじゃないと思うんだよ」
『そこはこの土御門さんのコネってやつだぜい。俺が指示したポイントに置いておいた通行証と俺の口添えがあれば、そこに入れるようになってるんだにゃー』
通話が繋がっているのは土御門元春である。彼女としてもお隣さんでしかなかった人物であるが、実態は自らと同じ魔術結社、『
その上、学園都市でスパイをしているため普段は身分を隠していることも聞いたのだった。(実はおしゃべりなインデックス相手に、そこを隠したままだと余計なことを『必要悪の教会』の魔術師に伝え、面倒なことになりかねないという土御門の打算が裏にある)
『本来ならお前さんに俺のことを教えるのは控えたいんだが、ご存知の通り事態が事態だ。あれをどうにかするために力を借りたい』
「私としてもこれは見過ごせないから協力はもちろんするけど、なんでこんなとこに私を連れてきたの?近くの方がより観察できるのに……」
『
裏でどこかの魔術師が動いてるって情報もあるし、あの騒動の中心にお前が行くのは許可できないってわけさ。
今の天野が学園都市の外に居る魔術師のサーチに引っ掛からないのは、
魔術師が精製する魔力を関知するサーチで良かったぜよ。もし、『天使の力』もサーチに含まれていたら余裕のアウト。
まあ、とはいえアイツから魔力が放出されるようになっちまったら、お前の周囲に展開されているサーチに引っ掛かって直ぐに戦争だ。それを危惧してさっきいた場所よりも離れた、見晴らしの良い場所で解析して貰うんだにゃー』
「でも、くさりが大変な目に遭ってるのに魔術サイドの住人である禁書目録の私がこんなところで『もし、サーチに引っ掛かれば戦争の火種になるだけじゃなく、天野の人生はその時点で終わりだ』──!」
その言葉にインデックスの動きが静止する。
『学園都市側も出来る限りの体裁を保つために、「外部の魔術師による陰謀」とするはずだ。実際に学園都市でこうも大々的に魔術サイドの事象を科学サイドがするとも思えない。
あちらとしても予期せぬ事態なのは間違いないだろうし、実際に魔術サイドの現象として認識しているのも片手で数えられる程度しかいないんじゃないか?
だからこそ、学園都市としては取り敢えずの誠意として、天野を魔術結社の中でも信頼できる組織に身柄を渡し、人体解剖をして原因究明をさせることだろう。
能力開発が学園都市の足下にも及ばない「外」の世界で、天野を標本として解析したとしても能力開発で発展するどころか、終わりの見えない泥沼に沈み込んで行く結末になるだろう』
あらゆる人間が求める『超能力を身に宿す人間』だからこそドツボに嵌まりやすい。なまじ理想だからこそ追い求めるのを止められない楔になる。
しかし、能力開発で他に追随を許さない学園都市が、
未だにその夢を諦めていない人間も居るが、学園都市全体の意向としては能力の解析を主体ではなく、天野俱佐利が生み出す結果から何かを得ようとする動きにチェンジしている。
だからこそ、
もちろん、貴重な存在とはいえ学園都市の存亡と比べればどちらが重要なのかは言うまでもない。
『或いは、戦争を避けられないと割り切り、魔術サイドの技術を取得するために人体実験やホルマリン漬けにして、学園都市側の戦力になるように血肉の一滴まで利用して活用するかの二択しかないな。
どちらにせよ、天野に人権は無くなり道具として消費される未来のでき上がりだ』
「……」
土御門の言葉は冷たく鋭いが、これが一番可能性の高い未来予想図になると言外に語っていた。魔術の知識が誰よりもあるからこそ戦争を回避、或いは乗り越えるためそうする必要があるのをインデックスはすぐさま理解する。
彼女としては友人が危険な目に遭っているにも拘わらず、こうして安全地帯に居ることに対して、胸が引き裂けるほどに苦しい。どういった経緯があるにしろ魔術によって魔術と関係の無い一般人が苦しむのは、インデックスには容認できないのだ。
魔術による知識があるのならば適した場所で解析し、即座に解決しなければならないという強迫観念が彼女にはある。世界で唯一の魔導図書館たる彼女の使命感なのかもしれない。
彼女は深く息を吐いて色々な思いをリセットする。
「──分かった。ここでできることをしてみるんだよ」
『頼む』
少女の覚悟を悟り土御門も一人の魔術師として短く返答した。
「(まあ、これでサーチの方は大丈夫として、これがステイル辺りにバレたら消し炭にされそうだぜい……。
インデックスの優しさに漬け込んで行動を縛り付けるこのやり方は我ながら酷いもんだし、戦争の火種に成り得る可能性の鉄火場に連れて来てる時点であの男が容赦するはずもない、っと。
このままステイルが知らないままでいることを願うことしか土御門さんにはできませんですにゃー)」
土御門は
土御門が言ったこととしていることを知れば、リドヴィアに向けているだろう敵意よりさらに激しい怒りを向けてくるのは想像に難くない。
『途中で手にいれた双眼鏡で観察を頼む。目盛りは合わしておいたから見るだけでいいはずだ』
そう言われたインデックスは土御門が用意した双眼鏡を握る。未だにあの『
インデックスは彼女のことを知っているからこそ聞いたときは呆然とした。だからこそ、気持ちの整理を付けるべく双眼鏡で見る前に電話の向こうに居る魔術師に問い掛ける。
「……ねえ、もとはる。一応確認しておきたいんだけど、もしかして、くさりもどこかの魔術結社が送り込んだスパイだったりする?」
『禁書目録の周囲に居る人間の経歴は全て洗ってあるが、アイツが魔術結社と関わる可能性はゼロだ。学園都市に来てからも来る前も魔術とは縁遠い素人だにゃー』
実際には『必要悪の教会』のトップであるローラ=スチュアートと会っていたらしいのだが、アレイスターに聞かれている可能性があるため秘匿する。
「(アレイスターには天野の秘密は伝えていない。天野が科学サイド魔術サイドの両サイドと関り合いがあるのは、後々のアドバンテージになる。
……まあ、いざとなれば、どこかの魔術師が裏で手を回していたとかの陰謀論をでっち上げればそれで済むだろう)」
土御門がここまで天野の問題を解決しようとしているのは、科学サイドと魔術サイドの衝突を回避するためだけではなく、もしもの時の懐刀を失うわけにはいかないからという彼の都合もある。
ちなみに、同じ考えでオリ主がローラ=スチュアートをスケープゴートにしたことを土御門はまだ知らない。
『俺としてもなんでアイツがああなってるのか理解ができないが、あのまま放っておくこともできない。
だが、見れば分かる通り魔術が色濃く出ているのも確かだ。つーわけで、パパッと解析たのんだぜい。そこから先は俺が命を張る展開になるだろうからなるべく正確に頼むにゃー。
大事な妹を持つお兄ちゃんとして、まだまだ死ぬのは先にしたいんだぜい!』
最後は軽く茶化しはしたが、そこには魔導図書館である彼女に向けた信頼があった。記憶している一〇万三〇〇〇冊全てを使えば魔神にも届くとされている叡智。それを活用すれば魔術の事象の元を算出することなど造作もない。
覚悟さえ決まれば、彼女は知識という限定な項目で世界最強の一角に成り得る。
土御門のその考えは間違えていなかった。だから、分かってしまった。
普通ならばここまで離れていては見えるはずの無い遥か遠くの光景を写し出す、最早ここまでいくと気味が悪いほどの技術で作られた器具に付けられているレンズ越しの光景。
その瞳に写り込むあり得ない光景に目を限界まで大きくし、双眼鏡を細かく揺らす。その動作を実際に直接目にしてはいないが、呼吸と電話越しから微かに聞こえる音で何かを察したのか土御門が問い掛ける。
『禁書目録?どうした何か分かったのか』
反応が返ってこない。それを電波障害か何かかと一瞬彼は訝しむ。
──土御門元春は知るよしも無いがインデックスの反応は、この街の王である学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーと同種のものだ。
しかし、一〇万三〇〇〇冊の原点を有する魔導図書館の図書である彼女は、得た情報を言語化することに他の人間より慣れている。だからこそ、衝撃から復帰するのも早かった。
禁書目録たる彼女は頭をすぐさまクリアにして、知識から導き出したその言葉を紡ぐ。
「参照元はトートの書。司る属性は水と土。称号は万能の主の娘。内包要素は閉じられた瞑想的な秘教の知恵。対応する
アレイスター=クロウリー曰く、トートタロットで二番目に該当する女教皇が示すこのカードは、純粋さを象徴とする永遠の処女たるイシスの最も精神的な姿を表しており、イシスはギリシャ神話におけるアルテミスに相当する存在である」
「……………………………………………………………………………………は?」
その言葉に土御門は本当の意味で言葉を失った。それこそ、思いもしなかったところから不意討ちで打撃を食らったかのような衝撃。
理解不能。意味不明。それが彼が頭に浮かぶ言葉だった。
なんだそれは、そんな馬鹿な話があるはずがない。あれはそもそも存在しないはずのものではなかったか?いや、仮に存在していてもこの世に現れるなんてまずあり得ないだろう。
しかし、そう口にするのは一〇万三〇〇〇冊ある魔導書の原点を全て記憶するあの禁書目録。嘘を言うことはまずあり得ないし、断定した以上は誤解など絶対にあり得ない。
言葉を失う土御門に反して、彼女はその決定的な言葉を口に出す。
「
そう言えばオリ主と初めて邂逅した魔術師である、堕天使エロメイドが似合いそうなどこかの聖人が、二回目の戦闘(中身がエルキドゥ)で神降ろしだのなんだのとフラグを言っていたような……?(すっとぼけ)
◆作者の戯れ言◆
はあ……考証が本当に大変なんだよなぁとある魔術の禁書目録って作品は(実はまんざらでもない……しかし、九割は本音である)
◆補足◆
ちなみに、属性と星はイシスとアルテミスどちらに重きを置くかで変わりますので悪しからず。