とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
そして、この話から魔術要素がさらに強くなっていくのです(次回が特にヤバイことに……)
人気のいない路地裏で彼は携帯を片手に通話をしていた。その『穴場』を把握している多角スパイの彼は、その告げられた信じられない話を聞いて思わず通話相手へ言葉を投げ掛けた。
「まさか、天野の中に神が宿ってるってのか……?」
土御門の問いには驚愕が多分に含まれていた。それもそのはず、神降ろしなど魔術サイドからみれば偉業に他ならない。それを科学サイドの人間が行うなど到底信じられるものではなかった。
『ううん、正確にはそうじゃないよ。神様の力が流れ込んで来ているって感じだと思う。根本的には偶像崇拝の理論……いや、どちらかというと神イシス=アルテミスと共鳴して力の受け渡しがされてるんじゃないかな』
神様本体ではなくその力が流れ込んで来たことによる身体の変化が近いのだという。禁書目録曰く、普通ならば容量が耐えきれず内側から破裂している、とのこと。
「天野の変身能力が奴の
『私も信じられないけど納得できる部分もあるんだよ。神降ろしや憑依っていうのを魔術で行うこともあるけど、素質や才能を持ち合わせた人ならあちら側からが干渉するケースがあるの。
村娘であったジャンヌ=ダルクがある日教会で神の啓示を受けたようにね。その人のポテンシャルや運命力に引き付けられるようにして、超常の存在がコンタクトを取るなら人間が魔力を精製する必要無いんだよ。
くさりから放出される純度の高い「
つまり、天野俱佐利が何かをしているわけではなく、一方的に受け入れている側ということだ。それを人は神の祝福と言うのかもしれないが余りにもその注がれる力が強すぎた。
それこそ、意図せず周囲を破壊し尽くしてしまうほどに。
『でも、上手く力を受け止めれていないみたいなんだよ。正しく力を変換できてないって感じかも』
「正しく受け止めれていない……?」
『本当ならもっと力を有しているはずなんだけど、あの背中にある翼がその力を吸収・放出しちゃってるみたい。そもそも、イシス=アルテミスに翼は無いんだよ。神様の中で翼がある方が珍しいくらいだし』
翼で描かれるのは圧倒的に天使の方だ。ならば、あの天野の状態は神というよりも天使の方が近いということになる。
どうやら、
「……にしても、イシスとアルテミスが習合した神……か。実際に存在するものだったのか?アレイスターが適当にでっち上げた神格だと思ってたが」
『それこそ、他宗教の人間が自分の信仰する神様や神話を基準とするせいで、余所の神様に対して歪んだ認識のまま後世に伝わってしまった事例も確かにあるね。
その結果、全く新しい神様のイメージを形作ったりしてしまうこともあるんだけど、アレイスター=クロウリーは聖守護天使エイワスの召還をして、この世界とは別の世界の知識を保有していたから、
他の人間が言うのならば眉唾物だろうが、相手はあの大魔術師アレイスター=クロウリー。
聖守護天使エイワスや大悪魔コロンゾンと言った、超常の存在を幾度も召還しているために、彼が唱えた存在も妄想と切り捨てることができないのもまた事実なのだ。
だが、仮にそれが真実であったとしても、異世界から神を呼び寄せることが普通でないのは言うまでもない。
だからこそ、イギリス清教第零聖堂区『
『何かしら理由があるはず。異界の神様を呼び寄せる何か切っ掛けが』
何かしらの縁がなければ繋がることはない。『神の力』、ミーシャ=クロイツェフも『
ならば、この神と交信する方法とは果たしてなんだ?どうすれば繋がることができる?
その疑問に対して、魔術の叡智を有する彼女は即座に推論を叩き出す。
『アレイスターはトートタロットの『
つまり、イシス=アルテミスに干渉するんだからトートタロットが深く関わっているのは間違いないかも』
「とはいえ、トートタロットをこの学園都市で所持しているものか?科学信仰が蔓延り能力者が溢れるこの街だと入手するのも楽ではないと思うが」
需要と供給が安定していなければ商品が市場に並ぶことは無い。インターネットでの購入もあり得るが、
「(アイツが自前で確保している可能性は限り無く低いってことだ)」
だとすると、トートタロットを用いての呼び込み口ではないことになる。となると、外部から神降ろしするためのアジャストがされていた可能性が浮上した。
「つまり、魔術師による外部からの注入があったってことか?」
『それは難しいかも。学園都市の目を掻い潜って魔術師がくさりと接触しないといけない上に、トートタロット単品をくさりに与えたとしても、それで神降ろしの儀式が為されることはあり得ないんだよ。
その上、科学サイドの人間に魔術サイドで発明されたトートタロットを、お土産感覚で渡すような魔術サイドの人間が居るとも思えないし、くさりがトートタロットを手に入れる機会は無いと思う』
それはそうだ。トートタロット自体は占いを行うための方法の一種として、世間一般に知れ渡っているが、それを作った人間は他でもないアレイスター=クロウリーという魔術サイドの人間だ。
何かの感謝の印として手土産を渡すとしても、好き好んでそれを選ぶ魔術師はいないだろう。
「……ということは、トートタロットの絵札が関係しているにもかかわらず、物品としてトートタロットが存在していない……?」
その矛盾は推論の否定を意味していた。科学であれ魔術であれ過程と結果が成り立たなければ、世界に事象が生まれることはない。
この矛盾を解明するため泥沼の思考へと陥りそうになった土御門を引っ張り上げたのは、他でもないインデックスだった。
『なら、答えが分からないトートタロットとの繋がりの件は
イシス=アルテミスはトートタロットの中でしか登場しない神様。なら、今度はトートタロットを深掘りして、タロットが生まれることとなったそのものの起源。異なるセフィラを繋げる
トートタロットだけに思考を巡らせると答えに辿り着けないならば、トートタロットが何故魔術サイドの人間にとって馴染み深いかを考える。
それは一見ありきたりな思考に見えるが、目の前に答えに繋がる鍵が落ちているにも拘わらず、その一切を無視して素通りして周辺を探すような割り切り方だ。
神様が地上に顔を出すような異常事態で、これほど冷静に物事を考えられる人間が果たしてどれくらい存在するだろうか。
そして、遅れて土御門もインデックスの言っている意味に気付く。
タロットを使用する魔術師が多い理由は、世界最高の魔術師アレイスターが関わっているという部分ではなく、もっと他に根本的な理由があるということに。
禁書目録はタロットカードの真髄からその推論を弾き出した。
『それぞれのセフィラを繋ぐ
それは目視できるようなものではなかった。光の瞬きとしか表現できない刹那によるものだった。当然の話だが人間が反応できる速度を優に越えていた。
だから、上条は自身が右手を反射的に前へ突き出したことを、それとぶつかったあとに理解することになる。
「──が、ああああああああああああああああああああッッッッ!?!?!?」
ゴキゴキゴキゴキィッ!!と、突然手首から伝わる衝撃に上条は困惑と共に声を上げた。伝わる衝撃は並大抵のものではなく、その今まで感じたことのない威力に、右手が余所へ弾かれるまさにその寸前、
慣れ親しんだ打ち消しの感覚を理解すると共に、上条の苦悶の表情と共にこめかみから一筋の汗が流れ落ちた。
「ぐお……ッ、な、なんだ?どうして
数多の戦場を右手の特異性で切り抜けて来たからこそ、その右手の効果には一種の信頼が保証されている。触れれば一瞬で異能を粉砕する右手は今まで超能力、魔術関係なく打ち消しに成功してきた。
しかし、今の打ち消しは今までとは全く違う。
「(まさか、打ち消しの処理落ち……?莫大な力だと幻想殺しの許容量を超えることもあるってことなのか!?)」
異能ならば全て打ち消せると認識していたが、どうやらそこまで絶対的な効力を秘めているわけではないことに気付く。どうやら、今の感じからして右手がギリギリ耐えれる威力を有した攻撃が飛んできたらしい。
「ちょっと、アンタ無事なの!?」
「見た感じさっきまでと反応が違かったみてーだが、天野の攻撃が変わったせいか?」
そんな上条を按じた二人が駆け寄ってくる。
そう、削板が言うように今の攻撃は天野の攻撃によるものだ。あの攻撃は幻想殺しの打ち消しと拮抗するほどに強力なもの。もし、上条が受け損なっていれば、あの閃光が縦に真っ直ぐ学園都市を駆け抜けることになる。
大覇星祭で人口密度が高くなっていることを踏まえると、一射で数千人が消し飛ぶこともあり得るだろう。
「(……それを、可能にしたのはあの弓だ。とんでもない威力の矢を打ち出してきた)」
そう、上条は攻撃方法が理解できなかったのではない。直前まで左腕が変化した弓を引く動作は確認できていた。しかし、それが閃光となって飛んで来るとは思わなかったのだ。
弓矢というより銃弾が飛んで来たという認識の方が余程近い。
「にしても、物体じゃねえ光そのものに反応できるなんてカミジョーは根性あるな!つーか、どうやったんだ?目が眩んで飛んでくる場所なんて把握できねえーだろ?」
「さ、さあ、俺にもよく分からない」
前兆の感知。攻撃の予備動作や前兆から攻撃箇所やタイミングを把握する上条のスキルにして、本人が自覚すると逆に精度が甘くなるという無意識下で働く気配察知術。
反応速度で追い付いたのではなく予備動作から攻撃を感知したのだが、本人がそのことを理解していないため説明などできるわけがない。
「あの攻撃に加えて背中にある翼まで使い出すとなると、更に根性入れねーとな。あの雰囲気からして見掛け倒しの硝子って訳でもねえだろうしよ」
削板が視線を向けるのは天野の背中から伸びる深い紺色の翼だ。それに上条は見覚えがあった。
「ミーシャ=クロイツェフ……いや、だとしたら辻褄が合わない。ミーシャのことをそこまで知ってる訳じゃないけど、前と同じ様に天界に帰るのが目的なら自分の力を底上げするために、水が多くある場所に行くはずだ。
翼だって前見たときより大分小さくなってる。神裂と戦うときだってあの翼を使ってたんだから、あれが主な攻撃手段なのは間違いないはずなのに」
あのときと今とでは戦闘方法が全く違う。翼も四、五メートルと大きいことには大きいが、あのときの方が遥かに大きかったため違和感が拭えない。
「ガブリエルに類似した存在ってことか?いや、だとしても先輩にその力が宿るそもそもの理由が……」
「ち、ちょっと、なんか知ってるなら一人でしゃべってないで共有しなさいっての!天野さんの姿が元に戻ってるってことは私の能力とは別物ってことでいいわけ?それとも、能力を集め過ぎるとあんな姿になるってことなの?
そこんところ分かんないと、手探りで戦わなくちゃいけないんだけど!?」
「あー……いやそのだな……」
そう言われても上条に分かることの方が少ない。あれが天使の翼だと言われても困惑するだろうし、どういった経緯で何の力が作用しているのか全く理解できないでいる。上条とて魔術サイドの問題に首を突っ込んでいるからと言っても詳しいわけではないのだ。
禁書目録であるインデックスならば見当も着いただろうが、科学サイドの住人である上条当麻には皆目見当も付かないのが現状だった。
「(クソッ!魔術サイドの問題じゃあ学園都市に住んでる居る奴が理解できるわけがねえ!なんなら、魔術って物理法則とは違った法則に足を掬われる可能性まであるぞ……!)」
大本が水の力だから電熱を利用して防ぐなどの行動を取り、本当に効果があるのか上条に判断は難しい。あくまでも能力者は物理世界の演算を基に能力を発動しており、そこに理解できないデータを入力されれば素通りしてしまうリスクもあるのだ。
上条の右手は超能力、魔術関わらずまとめて消し去るが、純正の能力者である二人があれを受ければ果たしてどうなるのか全く読めない。
「(その上、あれは大天使であるミーシャが振るっていた水翼。『魔術』どころかこの世界とは別の位相にある、神様達の居る世界にあるらしい『
二人が攻撃を受ける側に回ったらそれで終わりもあり得ることを悟り、今置かれた危機的状況を上条は顔を青ざめながら認識したのだった。