とある原石の神造人形(エルキドゥ) 作:海鮮茶漬け
図解を載せておきました
「うひょお!?なんと!なんと実に素晴らしいッ!!『非科学』のデータがまるで湯水のように溢れ出ている!この数分で今まで保存しておいたデータを遥かに超える膨大な量のデータを獲得できるとは、君はどこまで僕の期待に応えてくれるのかッ!?」
千里眼を用いて事のあらましを把握する木原幻生は、懐からタブレットを取り出し、未知である『非科学』のデータを取得したことでガリガリッと、針が振りきれるほど動いている計測機器を確認する。
「天野くんがまさか本当に僕の想定通りに成長してくれると思わなかったから、必要最低限の人員しか配備していないことが仇となってしまったか。
くぅー!更に人員を増やしてより精密なデータを取らねば……!」
この千載一遇の機会を幻生は嬉々として活用する。実験こそが彼の娯楽にして生き甲斐なのだ。
「いやはや、万事全て成功したとしてもここまでの質と量を兼ね備えた、素晴らしいデータを取ることができるとはさすがに思っていなかったよ。
こればかりは、想定していなかった僕の詰めの甘さを恥じ入るばかりだ……いや、ここは天野くんのポテンシャルが、僕の想像よりも遥かに高かったことを誉めるべきかな?彼女のお陰で科学とは全く別の枠組みの法則を知ることができる。それこそ、後世の人間に語り継ぐべき偉業に違いない!」
もちろん、人間としてではなく優秀な実験の素体として。科学狂いの一族が生み出した妖怪は、人道を無視したその実験にこそ生きている意味を見出だす。
「科学の発展を足踏みする枷がまた一つ取り除かれる!ああ、なんと輝かしいことか!未来は希望に満ちている!!」
科学に身を投じた人生の集大成。その最後を飾るに相応しい実験テーマに心を震わせて、若き頃の潤いが再び蘇ってくる。この場に彼だけならば沸き上がる昂りをこのまま享受し、興奮のままに実験を続けただろうが今の言葉を聞いていた者が居る。
『天野さんが犠牲となったことを祝福するような未来を、この私が許容すると本気で思っているのかしら?』
食蜂操祈。
彼女は今現在木原幻生に能力を無効化されて追われる危機的状況でありながら、幻生に対して煽るように挑発する。まるで、それが自分にとって譲れない一線だと言うかのように。
それを聞いた幻生は先程より冷静になりながらも、口角を上げて笑みを広げる。
「このままデータを取り続けビックデータとなれば、『非科学の解明』の悲願を達成する事が可能となる。そうなれば、君の
全ての異能を平等に打ち消す幻想殺しは指標にはならないが、天野くんに対して一切の効果の無い君の心理掌握は、彼女の特異性を測る上でこれ以上無い指標と成り得るだろう」
未だに食蜂を追いかけ続けるのはオリ主に対してどこまで何が通じるのか、その差異を知るためだったのだ。
求めている『リミッター解除コード』も出力を上げてより確実に多くのデータを取るため。実験のためならば遠慮といったものをこの妖怪がするわけもない。
「一体何が心理掌握をジャミングしているのか実に興味深いよ。いや、もしかすると何も存在しないのかもしれないねぇ。
仮に天野くんの身体に生体電気が流れていないのだとすれば、果たして何を動力源として活動しているのだろう?きっと『非科学』に類するものがそうに違いない。
もし、違うのだとしても全ての『非科学』を解明したのならばそれも解析できるはずさ。そのために、心理掌握の出力パターンを幾通りも試したいんだよ。『非科学』のデータを踏まえて数万も試せば自ずと解るはずだからねぇ」
コツコツッと靴を鳴らす妖怪は、
「僕も天野くんに注力したい。そろそろ、君とのこの追いかけっこも終わらせるとしようか」
全ては科学の発展のため。それが成されるならば文字通り全てを捧げる。
常人には理解のできない物の
「
『考えにくいけどもし、くさりが生命の樹を昇っているのだとしたら、いきなりケテル=ティファレトの
生命の樹を上って行くならマルクトを出発点として、イェセド、ホド、ネツァクのどれかのセフィラを昇ってティファレトまでは絶対に行かなくちゃならないからね』
どのセフィラに進むのかはその者の研鑽による実力と相性による。順番はあるが昇る道は一つだけではないのだ。
「(マルクトは
アレイスターの奴は学園都市を第二のテレマ僧院にしているから、確かに学園都市の子供は知らず知らずの内に生命の樹と関係深い。だが、天野俱佐利は能力開発を受けていない『原石』の能力者だぞ?
ただでさえ、縁遠い魔術サイドの事柄だけでなく、アレイスターの手が掛かっていない天然の能力者という点。生命の樹の取っ掛かりが果たしてあるのか……?)」
考えを巡らせれば巡らせるほどに輪郭を掴めなくなっていく因果関係。マルクトのセフィラから次のセフィラに行けるとは到底思えない。
これほど考えても分からないならば、実は世界でも有数の霊装が裏で運び込まれていただとか、天野俱佐利に流れる血脈が特別なもので神を呼び寄せたとか、そう言った全く違う理由なのではないだろうか?
土御門がそう言った思考の袋小路に入り込むその前に、インデックスが話し出す。
『やっぱり不可解なのはあの翼かも。相性は良いはずなのに水の属性の「天使の力」がイシス=アルテミスの力を放出する根本的な理由になってる。
元々存在しない翼がどうして付け加えられて要るんだろう?』
「(……
インデックスの率直な疑問に対し、土御門は幾つかの偶然があったとはいえその答えを知っている当事者の一人だった。
「ああ、あれは大天使の力の一端だぜい。お前さんは知らないかもしれないが、実は八月二八日に『
その影響で全人類規模で『外見』と『中身』が入れ代わるなんて未曾有の事態になっちまうしで、てんやわんやの事態に発展しちまったんだぜい」
『ええっ!?私そんなこと知らないんだよ!?』
「そりゃあそうだろう。世界に居るプロの魔術師達の中でも事態を把握できていたのは一握りの人間だけだろうし、俺とねーちんはウィンザー城に出頭してたからってのが大きい。
ちなみに、お前さんの姿は大柄の男に見えていたから、あのときの上やんの行動は大目に見てやれよ」
『…………』
余りにも突拍子もない事柄の数々にどうやらインデックスは言葉が出ないようだ。土御門とて
まあ、土御門としてはここからが本番であるのだが。
「いやー、さすがに突拍子も無く世界の命運を握る一人になるとは思わなかったぜい。なんせ堕ちてきたのがまさかの大天使『神の力』だからな。下手すれば人類滅亡の危機ってわけさ。
……それで、ここからの話は俺も信じていなかったんたが、天野の奴は堕ちてきた大天使の『中身』に入ったみたいでな。空いた大天使の椅子に偶然にも入っちまったらしい」
『大天使の「中身」に……?』
「実に眉唾物だろう?俺も幻覚か何かを見たせいかと思ってたんだんが、あの水翼はサーシャ=クロイツェフの身体に入った『神の力』が、海の水を巻き上げて攻撃に使っていたモンだ。実際にこの目で見たから間違いない」
インデックスからすれば信じられない情報だろうが、そこは無理矢理にでも納得してもらうしかない。当然の話だが証拠なんて何処にもないし、仮にあったとしてもそんな物を見せては更に禁書目録を取り巻く環境は厳しいものになる。
「(カバラ業界や
普段は一大宗派である『必要悪の教会』に楯突くことはないが、それ相応の理由さえできれば決死の覚悟で挑んできても不思議じゃない。
『そうか……
インデックスが弾かれたように声を上げた。そして、立て続けに土御門へ問い質すかのようにして言葉を重ねる。
『もとはる!「神の力」っていうことは大天使ガブリエルのことでいいんだよね!?』
「あ、ああ、それがどうかしたのか?」
魔術サイドでは常識とも言えることを繰り返すインデックス。土御門は日本の陰陽師であり以前読んだ聖書ですら、既に埃に被っているほどに陰陽道に傾注している。
嘗て陰陽博士と呼ばれていたことに踏まえて、能力開発を受けた影響で能力を使う度に命を落とすリスクを抱えているため、他宗派の魔術を組み込むよりかは慣れ親しんだ魔術を使う方が利に叶っていた。
魔術を発動するだけで命を賭けた博打だと言うのに、更に効果が未知数な思い付きをして不発だとしたら始末に負えない。
そう言った背景があるため他宗派の魔術を使う機会は早々無いが、イギリス清教『必要悪の教会』に所属する際に粗方の知識は頭に入れている。当然、大天使の名前や特徴も頭に叩き込んでいるのだが、それが分からない禁書目録ではないだろうに。
『
秘主義を唱える者達がタロットカードで小径に意味を見出だすまで、
『いい?各セフィラには数字の他に象徴する色や惑星なんかがあって、その他にもセフィラを守る守護天使が各セフィラには存在しているの』
その言葉を聞いて土御門は眼を見開いた。そこまで言われれば、どんなに察しの悪い人間でも理解できる。天野俱佐利がマルクトのセフィラから次のセフィラに昇ってもおかしくない理由にして、決定的な切っ掛け。
通話口の向こうに居るインデックスはそれを端的に述べたのだった。
『
◆セフィロトの樹図解◆
/ ̄ ̄\
|①王冠| ・①王冠
\__/ ケテル
/ | \
/ ̄ ̄\ | / ̄ ̄\ ・②知恵
|③理解| ー ー ー+ーーー |②知恵 | コクマー
\__/ | \__/ ・③理解
/|\ ビナー
ーー|ーー\ーーー| | |ーーー/ー ー|ー ー ・○知識
| \ \ |/ / | ダアト
\ | /
/ ̄ ̄\ \ | / / ̄ ̄\ ・④慈悲
|⑤峻厳| ー ーー+ーー ー |④慈悲 | ケセド
\__/ \ | / \__/ ・⑤峻厳
\ / ̄ ̄\ / ゲブラー
| | ⑥美 | | ・⑥美
| \__/ | ティファレト
/ \
/ ̄ ̄\ | / ̄ ̄\ ・⑦勝利
|⑧栄光| -ー +ー - |⑦勝利 | ネツァク
\__/ | \__/ ・⑧栄光
\ / ホド
/ ̄ ̄\
\ |⑨基盤 | / ・⑨基盤
\ \__/ / イェソド
|
/ ̄ ̄\
|⑩王国 | ・⑩王国
\__/ マルクト
◆補足◆
丸(見えないかもだけど)がセフィラと呼ばれるそれぞれの位階を表したものです。
◆セフィロトとクリフォトの違い◆
セフィロトは善の樹で、クリフォトは悪の樹です。
セフィロトが『高次の存在』になるための工程を記したものだとすれば、クリフォトは『虚無』に陥るものを表しています。
要するに、セフィロトが意識高い系のエリート東大生になるためのメソッドだとするなら、クリフォトは学校中退引きニートになる内容を記したものですね